育成RPG『ポケットモンスター』こと『ポケモン』は、2026年2月27日をもって生誕30周年を迎えた。
『赤・緑』から始まった『ポケモン』シリーズは、スピンオフ作品なども挟みつつも記事執筆時点で9つのシリーズ(俗にいう“世代”)が展開されている。それだけのシリーズが出ているということはもちろん、登場するポケモンや「わざ」「どうぐ」の数も膨大だ。
2026年現在、ポケモンは1000匹以上、わざは900種類以上、どうぐは200種類以上がそれぞれ存在している。ここにポケモンたちの「とくせい」(300種類以上)も加わる。
これだけ膨大なデータと“組み合わせ”の量を目の当たりにすると、どうしても気になってしまうのが、「ポケモンバトル」の中身だ。記事執筆時点で18種存在するタイプと、それぞれのタイプ相性。そこに個性的なわざの挙動や、シリーズごとに登場するユニークなバトルシステムまで。
組み合わせを考えるだけで、気が遠くなるようだ。これら大量の要素などが追加された結果、現在の『ポケモン』におけるバトルシステムはどうなったのか?
その答えはズバリ「複雑化!」したというものだった。
さらに恐ろしいことには、『ポケモン』というタイトルは、続編でも前作や前々作に登場したポケモン、わざ、どうぐなどがほぼそのまま引き継がれるのが一種のお約束になっている。
つまり新作を作れば作るほど、データが雪だるま式に膨れ上がっていくのだ。ちなみに新作を作るたび、新たなポケモンやわざなども含め、大体200種類以上ものデータが追加されるという。
そんな膨大なデータを抱えながらも、『ポケモン』シリーズの象徴的な遊びであるポケモンバトルを魅力的で楽しいものにするべく、クリエイターがどのような取り組みをおこなっているのか。
本稿では、CEDEC2026にて、株式会社ゲームフリークの研究開発部兼「ポケモンバトルチーム」所属プログラマーの宗像快氏、小幡敏宏氏の2名が語った、「ポケモン勝負の進化を支える、バトルシステムの基板設計と運用事例」について、レポートしていく。
20年に渡って前作を拡張する形で作られていたバトルシステムが『サン・ムーン』をきっかけとして全面的な再構築にいたった流れなど、非常に興味深いお話を聞くことができたので、ぜひ最後までお読みいただきたい。
そもそもなぜ「バトル専門チーム」が必要になったのか? A.データが膨大すぎたから
本講演では、まずポケモンのバトルシステムの紹介がおこなわれた。開発の現場において、ポケモンのバトルシステムとは「バトルにおける事象を決定するシステム」を指すものなのだとか。
「プレイヤーが何をする?(入力)」と「入力に対して何が起きる?(出力)」の中間に位置する存在である。
バトルシステムの定義が紹介されたところで、そもそもなぜ「バトルシステム専任のチーム」が組まれたのか? へと話題が移った。結論から言えば、データ量の肥大化とシステムの複雑化が、限界を迎えてしまったのが原因だ。
そんな専門チーム発足のきっかけは、2016年発売の『ポケットモンスター サン・ムーン』(ニンテンドー3DS)であるという。
前述したように現在の『ポケモン』シリーズには1000種類以上のポケモン、900種類以上のわざ、200種類以上のどうぐ、そして300種類以上のとくせいという非常に多くの設定データが存在している。『ポケモン』はデジタルゲームなので、当然ながらそれらをプログラムコード上で扱うことになる。
しかも「とくせい」については、ポケモンの一体「ギャラドス」の「いかく」、「ピカチュウ」の「せいでんき」を例に出すように、プレイヤーの操作を介さず、条件が揃うと自動的に発動する仕組みになっている。
また「せいでんき」で「まひ」の状態異常を付与されたポケモンが、手持ちのどうぐ(「クラボのみ」)を自動的に使い、「まひ」を治すといった“連鎖”が発生することもある。
さらに2013年発売の『ポケットモンスター X・Y』(ニンテンドー3DS)で初登場したポケモン「ゲッコウガ」の隠れとくせい「へんげんじざい」のように、わざに応じて自らのタイプを変える(「アクロバット」ならひこうタイプなど)というパラメータの動的処理が行われるケースもある。
これらの要素が絡み合うことから、現在における『ポケモン』のバトルシステムは非常に入り組んだものになっている。
初代『ポケットモンスター 赤・緑』の時はここまで複雑なシステムではなく、もっとシンプルなものだった。
だが続く『ポケットモンスター 金・銀』(1999年 ゲームボーイ/ゲームボーイカラー)から数多くの新要素などが足され、バトルシステムは拡張に次ぐ拡張を重ねていった。制作に当たっても、既存のシステムを拡張させていく手法が取られたという。
その手法が限界に達したのが『ポケットモンスター サン・ムーン』だった。同作で追加された新ルール「バトルロイヤル」【※】で、従来の拡張型の枠組みでは多様なルールへのオーダーに応じにくく、今後の新しい仕様の追加も大変なことになる課題が見えたとのことだ。
プログラムコード上で用いている関数、ファイルそのものなどの巨大化も保守性と拡張性における問題となった。
これを受け、2019年発売の『ポケットモンスター ソード・シールド』(Nintendo Switch)では、バトルシステムの基盤に関する全面的な再構築が実施された。
複雑化の極みにあったポケモンバトルを再構築! キモになったのは、バトルシステムの“構造化”だった
再構築に当たって定義されたのは「構造化」「拡張性」「柔軟性」「保守性」の4つの要件である。講演では「構造化」「拡張性」の2つに焦点を当てる形で語られた。
構造化においては「Section」(セクション)という考え方が用いられた。セクションとはわざ、とくせいといった個別の仕様を含まず「何をどの順番で計算するか」という処理の流れのみを定義した単位である。
攻撃力を例に出すと「天気」【※】のように、特定のわざの威力を1.5倍にするといった、データ調整のための特別な計算ルールを持たせない。あくまでも“攻撃力を出すための計算をする”セクションにする感じだ。
※天気……天候とも。バトル中にポケモンのわざの効果、威力が変わるなどの影響を及ぼすシステム。天気そのものを変えられるわざもある。『ポケットモンスター 金・銀』に一部のわざ限定の仕組みとして導入され、続く『ポケットモンスター ルビー・サファイア』にて独立したシステムとして導入。
セクションは階層構造を持ち、攻撃力に防御力、ダメージ算出をまとめて「ダメージ計算セクション」とし、そこに体力(HP)の減少処理を加えた「ダメージ付与セクション」を置くなど、再利用可能な単位へと積み上げながら全体構造の見通しの良さを担保していった。
ここに「わざ」「とくせい」「どうぐ」などの新作のたびに増え続ける要素を直接加えてしまうと、保守性が急激に悪化する。そこでチームが導入したのが「Event」(イベント)と「EventHandler」(イベントハンドラー)という仕組みである。
各セクションは計算の要所でイベントを発生(発火)させる。それに「天気」「とくせい」「どうぐ」などのイベントハンドラーが反応し、出された結果に補正を加える……というものだ。
これによって個別仕様の実装はセクション本体から切り離され、既存のプログラムコードに手を加える必要もなく、新しい仕様を追加できるようになった。
また、特定のタイトルに登場しない仕様はイベントハンドラーを登録しなければ自然に除外されるため、『ポケットモンスター X・Y』の「メガシンカ」、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(Nintendo Switch)の「テラスタル」のようなタイトルごとの独自要素も同じ仕組みで分離・実装でき、開発効率と品質の安定化にも貢献しているようだ。
イベントハンドラーには、任意のセクションを呼び出す機能も持たせている。「せいでんき」であれば、リアクション用のイベントに反応して状態異常付与のセクションを呼び出して麻痺を発生させる。
そして、それに反応した「クラボのみ」のイベントハンドラーが麻痺の治療を実施するという具合に、「割り込み」と「連鎖」の挙動を再帰的に絡み合わせることで実現させている。
リアルタイムバトルを採用した『Z-A』と、従来のターン制バトルが、実は同じシステムで動いている
このように「構造化」「拡張性」が確立されれば、残る2つの「柔軟性」「保守性」も自然に満たされるのだという。
その設計効果を裏付ける実例として、リアルタイム形式のバトルシステムを採用した『Pokémon LEGENDS Z-A』(Nintendo Switch/Switch 2)も紹介された。実は同作のバトルシステム、内部では『ポケモン』シリーズお馴染みのターン制バトルシステムと全く同じ構造の処理が走っているそうだ。
講演ではほかに『Pokémon LEGENDS Z-A』のわざの仕組みにおいて、前述したイベントとイベントハンドラーの仕組みが拡張性に寄与していることも紹介されている。
『ポケモン』シリーズのバトルでプレイヤーのすることと言えば、基本的にコマンドを選んでターンでの行動を決め、あとはその結果を見守るというRPGのジャンルにおいては伝統的とも言えるものだ。
しかし、その裏では30年分蓄積された膨大なデータが存在し、専任チームによって組み上げられた構造の元で複雑な処理が走っている。その根底には『ポケモン』シリーズの展開をこれからも滞りなく続け、発展させていくために、という考え方も込められているのかも知れない。

本講演は、そんな『ポケモン』シリーズのバトルシステムの見え方が変わるであろう非常に興味深い内容になっていた。
講演で語られたバトルシステムの構造化という観点から、『Pokémon LEGENDS Z-A』や『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』など、現在遊べる『ポケモン』シリーズを改めて遊び直してみるのも一興だ。
2027年には、『ポケモン』シリーズ最新作となる『ウインド・ウェーブ』の発売も予定されている。現行作品のバトルシステムを通して、最新作のバトルに思いを馳せてみるのもいいかもしれない。
























