今年も7月22日から、ゲーム開発者向けカンファレンス『CEDEC2026』が開催されている。
毎年ゲーム開発における様々な知見が学べる本イベントだが、今回は開発者だけなく、我々ゲームライターや一般ゲーマーにとっても大変学びのあるセッションを紹介したい。
セッションタイトルは「ゲームディレクター研究会 ~現役クリエイティブディレクターによるゲーム分析ライブセッション~」だ。
その内容はズバリ、「現役のゲームディレクターはゲームのどこを見ているのか?」といもの。登壇者は塩川 洋介氏、松永 純氏、川勝 徹氏、生田 恭理氏、宮田 大介氏の四名。いずれも日本が誇る大作ゲームに関わってきたベテランクリエイターたちだ。
そして今回扱うタイトルは、インディーのアクションパズルゲーム『Öoo』。ジャンプができないイモムシのキャラクターを操作しながら、爆弾というシンプルで奥深いギミックを多様な方法で活用し進んでいく、いわゆる「知識アンロック型」のパズルゲームだ。
簡単なゲーム内容は、トレーラーをみるとピンとくるかもしれない。
ちなみに、セッションの性質上終盤のネタバレもある点にはご了承いただきたい。
それぞれのディレクターは本作をどのように見ているのか?セッションの中で語られた内容を一部紹介していきたい。
松永氏による分析
まず最初に語られたのは、松永氏による本作の「シチュエーション」についてだ。松永氏曰く、本作の優れた点は冒頭のシークエンス、すなわち「鳥に食べられる」という導入にあるという。
冒頭のシークエンスの流れはこうだ。
主人公の芋虫が自室で目覚め……
外へと出ていく(移動チュートリアル)。
その先で果物を見つけるが……
鳥に食べられ、体内からゲームスタート。口は閉まっていて引き返せない。
ゲーム開始からここまで僅か5分にも満たないシークエンスだが、ゲームの目的(体内からの脱出)とその後のゲームプレイの流れ(下へと潜り、戻ってくる)を言葉に頼らずプレイヤーに示唆する、非常に優れたものだと松永氏は語る。
また、鳥の体内という舞台設定も秀逸だと松永氏。
最終的にはまた口から出るという展開はこの時点で明かされず、各ステージのグラデーションも相まって、プレイヤーは常に「EDではどこが出口になるのか」ということを念頭に置くことになる。この「プレイヤーにその後を予想させる」仕掛けが非常に優れているのだという。
川勝氏による分析
一方川勝氏は、本作の凄さを「ワンギミックをとことん使い回す」という点で分析する。
本作には「ジャンプ」というアクションが無く、基本的にプレイヤーが行うのは左右の移動と「最大2個まで置ける爆弾の設置・起爆」に限られる。
このシンプルなギミックを時間によってとことん深化させていく点が、川勝氏の特に気に入っている点らしい。
アクションパズルゲームの場合、ステージが進み難度が高くなっていくにつれて、ディレクターはどうしてもアクションの難度やギミックの追加でレベルデザインを調整しようと考えてしまう。
しかし本作はそうではなく、あくまで問題のカギはプレイヤーの「気付き」に委ねられており、なおかつそのどれもが理不尽さを感じさせない「納得感のある答え」になっているという(爆風でハエを動かす解法などは顕著な例だ)。
生田氏の分析
生田氏もまた、本作のゲームデザインについて近い分析を行っている。彼が特に注目したのは、「ステージを戻ることについての学習」だ。
本作は先ほど松永氏が分析したように、基本的には下へ下へと進んでいく一方通行のデザインとなっている。
そのため、ある程度の高さを落下した後は引き返すことが出来ない。これはジャンプが出来ないという制約を強調するほかに、鳥の体内という設定上の理由付けとも噛み合った非常に巧い設計なのだが、ここからが凄いところ。
生田氏曰く、このゲームの優れた点は「そうしてプレイヤーに学習させたルールをさらに自分で裏切る」という点にある。
そう、「2個目の爆弾」の要素である。ジャンプ一回分の高さを追加するアクションによって、今までプレイヤーの頭の中に意図的に植え付けた「戻れない」という概念が反転、今度は積極的に「戻る」という発想を促すのだ。
プレイヤーが何を考え、どう学習するかを先回りしたミスリード……この巧みなゲームデザインが非常に優れていると生田氏は語る。
塩川氏による分析
最後に塩川氏の分析だ。塩川氏はもう少し引いた視点から、本作が本質的には「リアル脱出ゲーム」と同じだと語る。
密室(ステージ)を探索する中でヒント(解法)を記憶・連想し、与えられたルールの上で問題を解いていく流れは、この2つどちらにも共通することだと塩川氏は言う。
また、本質的には脱出ゲームと同じ構造の本作が売れた理由には、まずノンバーバル(非言語的)であること、謎解きの複雑さではなくアクションの気持ちよさに訴えたこと、そして主人公であるイモムシのデザインが可愛らしいことなどを挙げ、ニッチな脱出ゲームの要素を上手くポップなパズルゲームに変換したことこそがヒットにつながったと分析している。
以上、ゲームの専門家たちがどのように本作を見ているかについて、多少でもお伝えできていれば幸いだ。
ゲームデザインの構造を詳細に観察すること、そして本質的に共通する他の娯楽などは、これからゲームを考察、批評するときのヒントにもなるかもしれない。
また、今回のセッションはあくまで出張版。「ゲームディレクター研究会」では月に一度、ベテランゲームディレクターを招いての勉強会を開催しているとのことなので、よりゲーム作りに詳しくなりたいという方はそちらの方にもぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。














