正直に言おう。私はリアルの服に、まったく興味がない。
着ているのはほぼユニクロ。春夏はTシャツ、秋冬はパーカー。色もデザインもこだわりゼロ。
服を選ぶ基準は「着心地」と「洗濯が楽かどうか」、それだけだ。
「今年のトレンド」なんて言葉は私の辞書にないし、それ以前に、服を買いに行くような時間があるのなら『リネージュ』の攻城戦に参加していた。
そんな私が、バーチャルの世界では衣装を買い漁っている……。
長年オンラインRPGで戦い続けてきたコアゲーマーが、VRChatというバーチャル空間で「可愛くなりたい」という本能に目覚めた結果、気づいたら衣装の購入に20万円以上を使っていた。今回はそんな話をしたいと思います。

※この記事はVRChatの魅力を知ってもらいたい、VRChat×ピクシブと電ファミ編集部のタイアップ企画です。なお、作中の体験や見解はライター個人のものに基づいています
目覚めた「可愛くなりたい」本能
VRChatを始めたのは、ちょっとしたきっかけだった。
別のバーチャル空間サービスであるclusterで遊び始めたのだが、友人に誘われた流れでVRChatにも遊びに行くようになった。それが2021年くらいの頃だ。
実は、VRChatを初めてプレイしたのはその時ではない。2018年くらいに初代HTC VIVEを購入したとき、VRユーザーの間でVRChatが話題になっていた。せっかくVR機器を買ったのだから話題のVRChatもプレイしてみよう──そんな軽い気持ちで起動したのが最初だった。
だが、意気揚々と起動して出会ったのは英語圏のユーザーで、コミュニケーションが上手く取れなかった。しかも、私に見せつけられたのは巨大な害虫のアバター(苦笑)。強烈な洗礼を浴びた筆者はすぐにログアウトした。
SNSで流れてくるVRChatのスクリーンショットには、アニメ調のアバターが触れあっている楽しそうな様子が映っていた。しかしあの体験と、この光景が、どうしても結びつかなかった。
「この世界に自分が足を踏み入れることは2度とないだろう」──そう思っていた。
だが、私は戻ってきたのだ、私自身がそのアニメ調のアバターを纏って。
最初のアバターはVRoid Studioで自作した。3Dモデリングの経験なんてなかったが、VRoid Studioはスライダーを動かすだけでそれなりのキャラクターが作れる。プリセットでいくつかのパーツや服は用意されているし、服のテクスチャや髪型なども販売されている。それらを組み合わせて、このバーチャルな世界に飛び込んだ。

バーチャル空間で自分の写し身を動かすこと自体は、初めての体験ではなかった。『ファンタシースターオンライン』や『リネージュ』といったオンラインRPGに長く傾倒してきた筆者にとって、自分だけのキャラクターをバーチャルな世界で動かす楽しさは、すでに知っているつもりだった。
しかしVRChatは、その「つもり」を根底から覆した。
鏡の前に立つ。自分のアバターが映る。動かすと、そのアバターが動く。当たり前のことなのだけれど──腕を上げると、画面の中の自分が腕を上げる。首を傾けると、画面の中の自分が首を傾ける。それが、紛れもなく「自分」だった。
その瞬間「もっと可愛くなりたい」という気持ちが、本能のように湧き上がってきた。
長年ゲームの中でキャラクターを動かしてきた。でも、これはそれとはまったく違う何かだった。
服なんてどうでもいい、見た目なんて気にしない。そう思って何十年も生きてきた人間の中に、「外見をもっと良くしたい」という欲求がこんなにはっきり存在していたことに、自分自身で驚いた。
バーチャル衣装の着せ替えにハマる
「もっと可愛くなりたい」欲が発動してしまった私は、すぐに衣装を探し始めた。
そこで活用したのが「BOOTH」だ。
VRChatを知らない方のために説明すると、BOOTHはピクシブ株式会社が運営するクリエイターズマーケットだ。
イラスト集や同人誌だけでなく、3Dモデルのアバターや衣装が大量に出品されており、VRChat向けアイテムに限っても取り扱いは19万点以上。VRChat向けの3Dアバターや衣装は、このBOOTHが事実上のメインマーケットになっている。
その規模は圧倒的だ。人気アバターの対応衣装だけで数千点以上が出品されている。価格帯は衣装1着あたり1,000円〜2,000円程度のものが多く、リアルの服と比べれば安い。
しかも、不定期にセールを行うショップもある。
「1,500円くらいならいける」、「セールのうちに買わなければ」。そう思って買い続けた結果が、20万円である。
人気の衣装やアバターが発売されると、SNSのタイムラインには話題が溢れ、リポストキャンペーンには数百から千以上の反応が集まる。
販売直後には購入者の自撮り写真が一斉に投稿される。クリエイターが作り、ユーザーが買い、SNSで広がる──それは1つの大きなコミュニティだ。
そして私は、そのコミュニティにどっぷりとハマったひとりである。
買って、着せて、鏡の前に立つたまらない瞬間
VRChatの衣装購入と着替えるBOOTHでの買い物体験は、リアルのショッピングとは少し違う。
まず、基本的に試着ができない。商品ページにある画像やサンプル動画を見て「これ、自分のアバターに似合うかな」と想像するしかない。リアルの通販に近いと言えば近いが、ここからが独特だ。
購入した衣装のデータをダウンロードし、本来であればゲームの開発に使うUnityというツールを使って自分のアバターに着せる。以前はちょっとした手間が必要だったが、今は有志による便利なツールの開発により、ほぼボタン1つで着替えられる。
アクセサリーの組み合わせや、テクスチャを変更してオリジナルの色にカスタマイズするなどすればさらに時間はかかるが、シンプルに購入した服を着せるだけという意味では、5分ほどでできる。その手軽さも、服を購入するユーザーが増えている要素の1つだろう。
そうして衣装を着せ終えたアバターをVRChatにアップロードし、VRChat内の仮想空間(ワールド)に入り、鏡の前に立つ。
──この瞬間が、たまらない。
画面の中の自分が、さっきまでとは別人のように映る。腕を動かす。振り返る。ポーズを取ってみる。「可愛い」と思える自分がそこにいる。リアルでは絶対に着ない服を、バーチャルでは堂々と着ている自分がいる。
この感覚は、体験した人にしかわからないかもしれない。
可愛いカジュアル服を買い、制服系を買い、ドレスを買い。いろいろ試すうちに、自分の手が伸びる先にはっきりとした傾向があることに気づいた。露出が多めのボディラインが出るデザインに傾向が寄っていった。
気づいたら、購入履歴に占めるセクシーな衣装の割合がどんどん増えていった。
これは大きな「自己発見」だった。リアルの自分は、そういう服を着たいと思ったことすらないし、着れるとも思ったことがない。でも、バーチャルの身体を通じて衣装を選んでいくと、自分の中にある「好き」という感情がはっきりと浮かび上がってきた。
バーチャルの身体は、自分の内面を映す鏡なのかもしれない。




