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遺伝子操作猫を交尾させまくって最強の猫を作るゲーム『Mewgenics』は、下品で、冒涜的で、しかし確かに“神業”が宿っていた。猫好きにぶん殴られそうな所業だが、面白すぎてやめられない

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すべての猫は、“より強い猫”を求めるための踏み台でしかない。そんな地獄でも、猫たちは確かに生きている

この組み合わせの妙は、猫の装備品やスキルといった、たんなる戦闘メカニクスの範疇にとどまらない。ボスを倒すなり、道中で倒れるなりすると、画面が転換し、切断された一軒家に戻る。一息つけるか? いや、ここもまた、圧倒的に洗練されたランダム性が支配する異空間にほかならない。

なぜか。交配するのだ。なぜか。さきほど冒険をして強くなった猫には「引退」マークがつき、もう二度とは使えない、だから新しい猫がいるのだ。

どの猫がどの猫といい感じなのか、そしてほんとうに交尾するのか、交配したとして子猫は両親のよい形質を受け継ぐのか。そうしたことが一切不明なまま、猫たちは冒険から持ち帰った餌をむさぼり食い、あちこちで交尾をし、うんちをする。

これらのことを予測、評価、操作するための種々の科学的ツールは、あなたの家の近所に棲む奇妙な仲間たちに、冒険によって得たコインや、いらない猫それじたいを与えることで解放されていく。

最強のサラブレッド猫をつくるための凄絶な交配場であるあなたの家は地獄にほかならないが、しかし風刺と皮肉と諧謔に満ちている。本作の猫はただ、ネズミどもを殺戮するためだけに生まれてくる戦闘機械ではない。一匹一匹が、それぞれに固有なグラフィックと鳴き声をもった、特別な存在なのだ、おじいさんがそうだったように。

180名をこえる声優やカメオがそれぞれに鳴き声を演じている、部位ごとに描き分けられたグラフィックのヴァリアントの、ゲームバランスを考える必要のなくなった野放図なランダム性による瀆神的な身体部位の、破滅的な組み合わせの結果の総量は、そのあまりの膨大さのために、筆者は数える気にもならない。そのくせ、毛の色、体つき、鳴き声などは、両親の特徴をしっかり受け継いでいる。

プレイ中の筆者のひとりごと。

「きみ、目はお父さんに似ているね、口はお母さんかな。ところで、その、つまり、ご両親がきみをつくるときの彼らの交尾は、何というか、そう、ヘリコプターみたいだったよ。ああ旦那さん、どうも。気になっていたんだけど、きみの奥さんのプッシーには、生まれつきベアリングでも組み込まれているのかね。だとしたら言ってもらわないと、ぼくはポリティカリーにコレクトできないな。

ところで彼女、こないだ、あんたの見てないうちに不倫してたよ。

あれ、この子、ステータスは強いのに、なかなか交尾しないな……あっ、よくみたらこの子、名前タグのそばに、虹色の旗がついてるじゃないか……こりゃ失敬……先程のはポリティカリーにインコレクトなスペキュレイションでありました。キャンセルしないでください」

などと笑っていると、それじたいがサウンドトラックになっているラジオの男性が、とてもしぶくていい声で語る。

「99.9ライヴス・FM! つぎの曲は、『ブラック・プッシー』。うーむ。この曲名をこんなにしっかり発音できることが、ぼくはもう、たまらない。そう、つまり、こんなふうに……『ブラァァ・ク・プスィー……』。
それではお聞きください。」

ちなみに、英単語の「プッシー」Pussy は、子猫という意味のほかに、女性器、という意味をもつ。
ついでだから聞いていただこう。

『Mewgenics』レビュー・評価・感想:遺伝子操作猫を交尾させまくって最強の猫を作るゲーム_009

なんといっても、これは交配である。ステイタス値にとどまらない、望ましかったり、望ましくなかったりする両親の、家系的な遺伝形質も引き継がれる。英語でいうミューテイション、医学用語で奇形である。

たとえば、頭が鉄のように堅くなる奇形を父から、砲丸のような筋肉をもつ腕の奇形を母からもらうことによって、子猫の体力値にプラス1が加算され、通常攻撃にプラス1マスのノックバック効果が付与される。

むろん、望ましくない奇形もある。足の関節がさかさまに生まれてきた猫は脚力マイナス1、みたいに。

また、精神方面の異常として、サヴァン症候群は知性プラス12だが他の能力値をすべてマイナス1、ADHDは脚力プラス5だがその猫にターンがまわってきてから五秒以内に操作しないとAIがターンの行動を自動操作、といったふうだ。

しかしまた、そうした奇形をわざと誘発することも、より強い子をつくるための戦略である。
なんというか、これは猫のことだが、ハプスブルグ家のひとびとに、永遠の安らかな眠りあれ。

『Mewgenics』レビュー・評価・感想:遺伝子操作猫を交尾させまくって最強の猫を作るゲーム_010

邪魔になった猫は処分……ではなく、ご近所さんにお裾分け。倫理観はどこにもない。そんなもの、猫の餌にもなりはしない

さて、きびしい決断だが、猫を捨てなければならない。
殖えすぎたのだ。餌ばかり食う。

いや、捨てるのではない。あなたはそんな無慈悲な親ではない。動物愛護の観点から、ご近所さんたちに、もらっていただくのだ。

ご近所さんたちはそれぞれに、「引退」した猫、五歳以上の猫、奇形の猫、子猫、死んだ猫、等々を求めている。なぜ彼らがそんな……ええ……条件つき、をもらいたがるのかは、よくわからない。

猫をもらっていただくことがあまりにたびたびなので、ご近所さんたちの家とわが家とは、はじめから猫配送専用のパイプで接続されている。筆者は、そのパイプにもう二百匹くらいはぶち込んだ、のではなく、大切にもらっていただいた。

彼らはその引き換えに、わが家を増築してくれたり、猫たちがくつろげる家具を配送してくれたり、やりがいのあるサイドクエストをくれたりするので、わたしはますます化け猫どもを、無慈悲にパイプにぶち込んだ。

彼らがいったい何をされている方々なのかは、よくわからない。
確かなのは、いつ、どこの家をたずねても、あげた猫が一匹も見当たらないことだけだ。

『Mewgenics』レビュー・評価・感想:遺伝子操作猫を交尾させまくって最強の猫を作るゲーム_011

馬を交配して名馬をつくりレースに勝つ『ダービースタリオン』においては、それが現実にも道徳的に行われている(爆笑)という理由から、倫理的な主題は閑却されていた。

鬼によって始祖を殺され、末代まで短命の呪いをかけられた一族が、子孫を交配して鬼にかなうだけの強い子をつくり、復讐を果たすという筋書の『俺の屍を越えてゆけ』は、婚姻相手を人間ではなく神にすることで、CEROによる倫理審査をぎりぎりのところでパスした。

では、『Mewgenics』の倫理観は、どうか。
申し訳ない。
上述のとおりである。

そうして交配をかさね、ほとんど怪物に変じた猫たちを冒険にやると、すばらしいサウンドトラックが迎えてくれる。ステージごとにテーマが決まっていて、雑魚戦のときにはインスト(楽器)のみ。ボスが登場するなり、ボーカルが入ってもりあがる。みんな大すきな演出だ。

そのジャンルはジャズ、ブルース、ロカビリー、ブルーグラス、カントリー、サーフロック、ガレージロックなどなど、意図的に Cheesy である。

※……Cheesy というのはスラングで、意味が取りづらいのだけれど、「何にでもマヨネーズかけたらうまい」にも似ている。「何にでもチーズ(ブルースノートやペンタトニックスケール)をかけたらうまい」ことを逆手にとっている音楽なわけだが、これが「猫なら何だってかわいいに決まっている」みたいなことと、よく対応している。

そしてあなたは軽快な音楽につられ、操作を誤り、破滅的なシナジーを試す。どうもよくわからない敵の能力を、じっさいに触って試してみる。結果、手塩にかけて育て上げた奇形の怪物……じゃなかった、猫が、爆散する。

そこは墓場のステージで、その様子を見ていたばかでかい幽霊ネズミが、けらけらと笑う。

そのとき、ステージの音楽としてずっと流れていたスウィング・ジャズにあわせて、どこからともなく、ボーカルがこんな曲を歌いだす。

拙訳である。

 「ほねのこねこ」
(うた リディキュロン)

(ほねこ ほねこ ほねのこねこ
 ほねこ ほねこ ほねのこねこ
 ほねこ ほねこ ほねのこ)

 ま夜なかの墓場にて
 くものかげにはお月さま
 冷たくてじっとりしたふるえが
 あたしのせなかをはいのぼる

 墓石にねそべる黒猫
 つらぬくひとみはまっ黄色
 あたしはずうっと
 見られていたのだ

 フラッフィーここに眠る
 トラックにひかれた
 くさっておいぼれて
 死んだ
 
 やすらかにおやすみウィスカー
 きみはとってもいい子だった
 コヨーテがやってきて
 きみの頭をかみちぎるまではね

(ほねこ ほねこ ほねのこねこ
 ほねこ ほねこ ほねのこねこ
 ほねこ ほねこ ほねのこ)

 すべて四つ足のたましいたちが
 かげのなかでおどってる
 がいこつたちが
 あの世のうたをうたってる
 
 死のくさったにおいがする
 すっぱいイワシの息のにおいだ
 なんだかとってもフィッシー(あやしい)な
 ことがはじまるぞ
 
 きょうどう墓地がよんでいる
 したいはみんな生きていたのだ

 大すきだったあの子のことを
 きみはわすれてはならない

 なぜなら骨すて場のなかで
 その子は死んではいなかった
(そうそう 死んではいなかった!)
 
 その子はいつもいつまでも
 きみにとりつくだろう
 ひどいにおいのゴロゴロを
 きみはきくだろう

 くさっていくきみの子猫は
 あんまりかわいくない
 だって彼女の毛皮をなでると
 ぐにゃぐにゃだもの!
(なでろ なでろ ぐにゃぐにゃの毛皮をなでろ!)
 
(ほねこ ほねこ ほねのこねこ
 ほねこ ほねこ ほねのこねこ
 ほねこ ほねこ ほねのこ)

 ミャーオ!

私事だが、筆者は八つのころ、ミィという名の猫を飼っていた。
近所の誰かに毒を盛られて死んだ。
検死解剖医がそう言ったから、まちがいない。
おおかた、どこか、してはいけないところで、糞でもしていたのだろう。

開発者のEdmund McMillanは、ガッピーという猫を飼っていた。
自身の出世作、『The Blinding of Isaac』に登場させるほどの、溺愛ぶりだった。

しかしあの作品において、ガッピーは生きた姿では現れない。
主人公アイザックがそれぞれ使用するアイテムの、切り離された頭、胴体、尾っぽ、目玉、毛玉としてのみ現れる。

それぞれの部位にそれぞれの効果があったが、そのうち三つをおなじ周回で獲得すると、「ガッピー」アイテムセットの効果で、主人公アイザックは、それ自身に変身できた。
変身してガッピーとなったアイザックは、幽霊のように浮遊し、死体らしく、蠅をまき散らして攻撃できた。

すごく強かった。

ところで、現実のガッピーは死んだそうだ。
どうしてかは、筆者は知らない。
しかし、まあ、これは、たかが猫のことだ。

『Mewgenics』レビュー・評価・感想:遺伝子操作猫を交尾させまくって最強の猫を作るゲーム_012

黒い諧謔の毒素におかされた、痙攣的な笑いがはじまる。ゲームシステムが要求する交配の結果として出現する、個性豊かな、遺伝子異常、あるいは後天的外傷による、不具たっぷりの猫たちをつぎつぎと冒険に出す。圧倒的なゲームバランスと意外性をもつタクティクス・ゲームに、すべてを忘れて熱中する。

それは面白すぎて目を離すことができない、豪華絢爛なる無明地獄の狂宴だ。
筆者のプレイタイムはいま、三十時間を越えているが、セーブデータのスロットに表示される全体進捗度は、いまだ30パーセントに満たない。

猫が好きだった内田百閒がプレイしたら、苦手な飛行機に乗ってでも、この作家を刺し殺しに行っただろう。

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ライター
1991年大阪府生まれ、文筆家。 Website : https://github.com/rollstone1/fujitashohei/wiki
Twitter:@rollstone
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest

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