いま、ポーランドのゲーム業界がアツいらしい──
そう聞いて、ピンとくる日本のゲーマーの方はどれほどいるだろうか。
確かに、今やポーランド人のアイデンティティとも呼べる存在となったCD PROJEKT REDと彼らの送り出す『ウィッチャー』シリーズ、そして『サイバーパンク2077』は、言わずと知れた超有名作だ。
だが、じつはポーランド産の名作はそれだけではない。
たとえば、日本でもヒットしたリメイク版『SILENT HILL 2』や『Cronos: The New Dawn』を開発したBloober Teamは同国のクラクフに拠点を置くスタジオだ。
さらに2026年9月に発売されたばかりの『The Blood of Dawnwalker』を開発したRebel Wolves、そして2027年2月発売予定の『トゥームレイダー:レガシー・オブ・アトランティス』をCrystal Dynamicsと共同開発するFlying Wild Hogはワルシャワに拠点を置くスタジオ。
そしてインディーの世界でも、『This War of Mine』や『フロストパンク』などの開発や『Moonlighter』『Children of Morta』の販売を手掛ける11 bit studiosがワルシャワ発という層の厚さだ。
はたして、これらの作品はどのような環境で生み出され、ヒットしていったのか?
それを確かめるため、筆者は単身ワルシャワへと降り立った──

……というわけではなく、じつはこのたび電ファミではポーランド・ポズナンで開催されるゲーム開発者向けの会議「Game Industry Conference(GIC)」の主催する現地視察団に参加させていただいた。
日本のゲーム業界関係者向けに用意されたプログラムで、要はポーランドから「うちのゲーム業界を見においでよ」と招待していただいた形だ。
今回の視察では、ポーランドの国を挙げてのゲーム業界への取り組みの模様や現地の開発シーンの盛り上がりを紹介していただいた。
さらにRebel Wolves、GOG、Flying Wild Hog、11 bit studiosという名だたるスタジオ・企業を訪問して彼らのビジョンを直接聞くという貴重な機会にも恵まれた。
本稿では、そんな「ポーランドゲーム業界見聞録」を参加者向けに行われたプレゼンと、現地にて開催されたゲームイベント「Poznań Game Arena 2026」および授賞式「CEEGA 2026」の模様を合わせてお届けしていく。

取材・文/海ソーマ
拡大を続けるポーランドのゲーム業界。ワルシャワは「ゲームに強い都市」を目指していく
さて、冒頭でもお伝えしたとおりだが、近年ポーランドではゲーム業界が盛り上がりを見せているという。数々の名作がこの国から生まれているのは前述の通りだが、視察団向けのプレゼンにて改めて現地の状況を説明していただいた。
まず参加者を迎えてくれたのは、ワルシャワ市経済開発局の局長・Grzegorz Kaczorowski氏。会場はワルシャワ市が運営する起業家・中小事業者を支援する施設だ。

経済開発局の活動は多岐にわたり、起業家支援もそのひとつであるとのこと。今回はとくにゲーム業界への支援について紹介してくれた。
市では2年ほど前に、クリエイティブ産業に関する経済開発政策を策定。その中で、ゲーム開発をクリエイティブ産業の柱として明確に位置づけた。「ゲーム開発に強い都市になる」というのが市の宣言だ。
そして、ワルシャワのゲーム開発は順調であるとのこと。同市はポーランド国内でトップ、さらにヨーロッパでもトップクラスのゲーム開発拠点であり、従事者数でもおそらくヨーロッパで随一だという。
そんなワルシャワ市が今後さらに成長していくために必要なのは「認知度」であるとのこと。ワルシャワがこれほどゲーム開発に強いことを知る人はまだ多くない。
Grzegorz氏は、ポーランドでは数々のトップクラスのゲームが作られており、その多くは「ワルシャワ産」であると語った。おそらく、それを直接確かめて知ってほしいというのも今回の視察を開催した目的でもあるのだろう。
続いて、同局で投資家向けの誘致を担当するMarcin Jaworowicz氏が、ワルシャワという都市を紹介する。

まず、そもそもポーランドとはどのような国なのか。
ポーランドはヨーロッパの中心に位置し、世界の注目が東ヨーロッパへと移りつつある中で重要性を増している国だ。現在、ワルシャワから30分ほどの場所に新たな大規模空港を建設中で、この地域の新たな物流ハブになる見込みとのこと。

人口は約3800万人ほどで、EU基金の最大の受給国。経済は約25年にわたって成長を続けている。
いっぽうで1人あたりGDPはEU平均の81%。まだ成長の余地があるということだ。世界でも有数の経済国に数えられ、今年はG20の会合にもゲスト国として招待されたという。
そのポーランドの中心にあるのがワルシャワである。人口約180万人で、周辺を合わせた都市圏では約300万人が住んでいる。中心地というだけあって、多くの産業で国内の約50%がワルシャワに集中しているそう。
財務、法務、IT、会計や研究開発、AIなど、高い教育水準を必要とする知識集約型の業務が中心だ。国全体ではこの分野で約50万人が働き、GDPの約6%を占めるとのこと。ワルシャワはとにかくビジネスに強いということがアピールされた。

そして気になるのが、やはりゲーム開発。ワルシャワには300社以上のゲーム企業があり、6300人以上が働いているという。
従事者の数でいえばヨーロッパ最大のゲーム開発拠点で、同様にビジネスの強さで知られるロンドンよりも多いという。市側も驚いた結果だったそうだ。
ミリオンセラーのタイトルも増えており、下記の画像の通りワルシャワ発の100万本超えタイトルは18本以上となかなかの盛況ぶり。
CD PROJEKT REDの『ウィッチャー3』や11 bit studiosの『フロストパンク』などはもちろん、People Can Flyが開発しスクウェア・エニックスが販売するCo-opシューター『OUTRIDERS』やPresident Studioによる「殺人現場清掃シム」という変わり種の高評価作品『Crime Scene Cleaner』もワルシャワから生まれた作品だ。
さらに直近でも2026年9月に発売された新作RPG『The Blood of Dawnwalker』が100万本以上を売り上げた。本作の開発元であるRebel Wolvesもワルシャワに拠点を置くスタジオだ。ちなみに今回の視察では彼らを訪問することができたので、その模様は記事の後半でお届けする。
こうして見ると、「ゲーム開発の拠点」というアピールも決して誇張ではないことがうかがえる。そのほか、市としてのゲーム産業支援の取り組みも紹介された。
「Student Games Festival」は今年で2回目となる若手クリエイター向けのフェスティバルで、市はパートナーとして支援している。
ポズナンのゲーム業界カンファレンス「GIC(Game Industry Conference)」にもブースを出展するなど、市として関わりを強めているところだ。
さらに今年はアメリカ・シアトルで開催されたPAX Westにも初めてワルシャワとして参加し、ポーランドのナショナルブースを支援した。現地では、ポーランドのゲーム業界が主催者やシアトル側からとても重視されていることに驚いたという。今後もイベントへの参加を増やしていきたいとのこと。
ゲーム以外の面でも、ワルシャワのビジネス環境の良さや教育と人材の層の厚さ、さらには自然と交通網の発達を両立した住みやすさなども同市の魅力として紹介された。
実際、筆者も現地滞在中に目にした光景として街中の木々の多さや車だけでなく自転車やトラム(路面電車)が行き交う街中の光景が強く印象に残っている。
さらに住民の80%以上が住んでいる地域を安全だと感じているほか、公立の幼稚園や学校の授業料も無償。そしてヴィーガン・ベジタリアン向けレストランの充実度は世界トップ10、人口あたりの公共図書館の数は世界1位なのだとか。
まさに住んでよし、働いてよしの至れり尽くせりな街である。なんだかワルシャワに住みたくなってきたぞ……ご飯もおいしいし。

公的支援も充実。国を挙げてゲーム開発をサポート
続いて登壇したのは、ポーランド文化・国家遺産省が設立した公的機関、クリエイティブ産業研究所(Creative Industries Institute)の取り組みを紹介するAdam Konowrocki氏。

同機関はポーランドのクリエイティブ産業の発展をサポートしており、公的な支援と、クリエイティブビジネスの現場のニーズをつなぐのが役割だという。
なかでもゲーム開発はもっとも重要な分野のひとつと位置づけられている。今回は彼らの活動における3つの柱について紹介された。
ひとつめは公的資金による支援。市場原理や投資家の役割を置き換えるつもりはないが、プロトタイプを作ったり技術を試したりする初期段階では支援が必要だという。プレイアブルなプロトタイプを見せられる段階まで成長させるのが狙いだ。
ゲーム開発会社向けの支援は4つの分野で用意されている。
プロトタイプ制作:人件費など、プロトタイプ制作に必要な費用を支援
アクセシビリティ:障がいのある人もプレイできるようにするための改修
ローカライズ:他言語への翻訳など、海外市場に向けた準備
プロフェッショナル化:ゲーム業界で働く人のスキルや能力の育成
このようなサポートにより、開発者がゲームを制作し市場に届けるための「土台作り」を支援しているというわけだ。
ふたつめは国際的なプロモーション。資金面での支援は全体像の一部にすぎず、ポーランドの活発なゲームコミュニティを海外のオーディエンスに見せることが重要だという。
彼らはPAX East、PAX West、gamescom、WePlayなど各国の大型イベントで、ポーランドのブースや業界代表団を組織してきた。取材段階(2026年10月)では上海で開催されるWePlayへの代表団派遣を準備中だ。
彼らはポーランドのゲーム業界の国際的な認知を目標としており、そのためのアピールや業界でのネットワーキングを目的とした取り組みを行っているということだ。
そして、みっつめはゲーム開発者のコミュニティづくり。開発者同士が知り合い、協業できる場を提供している。とくに重要なイベントとして挙げられたのが、中・東欧のゲームを表彰する「CEEGA(Central and Eastern European Game Awards)」。
こちらはポズナンにてPGAおよびGICに合わせて開催される授賞式で、16か国の国際審査員がアート、オーディオ、ナラティブ、テクノロジーなどの部門で賞を贈る。この地域のゲーム開発会社にとってもっとも重要なイベントだとのことだ。
1000を超えるスタジオの作品が集まり、最も優れたゲームには「Best Game」賞が贈られる。ちなみに今回の取材ではその授賞式の模様も現地で確かめることができたので、後ほど紹介させていただく。
もうひとつの取り組みが「Polish Video Game Days」。こちらは10月から12月にかけて、ポーランドのゲーム産業の重要性を伝える企画を展開するものだ。前のプレゼンで紹介された「Student Games Festival」もその一部で、彼らが出資している。
同国のゲーム業界の歴史を紹介する展示や、イマーシブ体験などを用意しているという。ほかにもカンファレンスやゲームフェスティバルに参加し、学生が自分たちの活動を発表する場を設けるなど、ポーランドの文化遺産としてのゲームを称える取り組みを行っている。
このような取り組みが、先ほど紹介されたような数々の100万本超えタイトルという成果にもつながっているのだろう。「国を挙げてのゲーム産業支援」という、同国の「本気ぶり」が垣間見えるプレゼンとなった。







