『サイバーパンク2077』だけで「リンゴ輸出業」超えの売上!? 数字で見るポーランド産ゲームの強み
次に、ポーランドが「ソフト・パワーの手段」としてゲームをどう活用しているかを語ってくれたのは、ポーランド発のインディーゲームスタジオ「11 bit studios」で東アジア担当のエキスパートPRマネージャーを務めるDamian Jaśkowski氏。

冒頭、Damian氏は「ポーランドでもっとも世界に知られている企業ブランドは?」と質問する。答えはもちろん『ウィッチャー』そして『サイバーパンク2077』のCD PROJEKT REDだ。
ポーランドと聞いて世界の人が思い浮かべるのは、キュリー夫人、ショパン、そしてCD PROJEKT REDの3本柱。それがポーランドのアイデンティティだと氏はジョーク交じりに語る。
2021年のデータでも、同国のゲームの売上は書籍・映像・音楽を上回っている。日本にアニメやマンガ、韓国にK-POPやKドラマがあるように、ポーランドにとってはゲームがそれにあたるのだという。ゲームはもはやポーランドを代表するコンテンツになりつつあるというわけだ。

その規模を示す例として挙げられたのがリンゴ。Damian氏はかつて北京のポーランド大使館の文化部門に勤めており、ポーランド産リンゴのプロモーションもよく行っていたそう。じつはポーランドはEU最大のリンゴ生産国であり、輸出国としても屈指の存在なのだそう。
リンゴ産業全体で約15万人が働き、そのうち輸出に直接関わるのは30〜40%となる約4万5000〜6万人。2023年の輸出額は18億ズウォティ(約71億8600万円)を超える。
いっぽう、『サイバーパンク2077』の売上はDLCもあわせて30億ズウォティ(約119億7600万円)。当時のCD PROJEKT REDの従業員は約1000人。1社だけで、約5万人規模の産業の1.5倍以上の売上を生み出したことになる。これぞポーリッシュドリーム……というか、やはり圧倒的すぎるぞ、CD PROJEKT RED。
ここから、ポーランドのゲーム産業を数字で見ていく。最大の拠点は、やはりワルシャワだ。先ほどのプレゼンでもあった通り、同市のゲーム業界従事者は6343人で、ロンドンの5930人を上回る。
さらに、ワルシャワ1都市とルーマニア1国を比べても、ワルシャワのほうが従事者が多い。日本人には馴染みがないかもしれないが、ルーマニアもブカレストにUbisoftやElectronic Artsなどの大手企業が拠点を置いているなど、ソフトウェア・IT産業が盛んな国だ。
それでもスタジオ数はワルシャワ307社に対してルーマニア206社、売上はワルシャワのほうがほぼ倍だという。「ヨーロッパでゲームの話をするなら、ワルシャワです」というのがDamian氏の談。
ちなみに欧州の国別の従事者数では、1位がイギリス、2位・3位がフランスとポーランドになっている(出典は2023年のデータ)。
そしてポーランド全体でのゲーム業界従事者は約1万4000人。これはゲーム専業・ゲーム中心の企業のみの数字で、ローカライズ会社などゲーム以外も扱う企業は含まない。
2025年7月時点での国別の期待作のウィッシュリスト数では、アメリカ、カナダ、日本、スウェーデン、ドイツ、イギリスに次いでポーランドが7位となっている。
ポーランドのゲーム業界、そしてポーランド産のゲームは着実に存在感を増してきているということだ。そういえば、筆者も『ウィッチャー3』の新作拡張パック『追憶の調べ』のストアページが公開された際には迷わずウィッシュリスト登録していた。
重要なのは、ポーランドのゲームスタジオの売上の約97%が国外からのものだということ。ポーランドは人口規模(約3800万人)からして巨大なゲーム市場ではなく、国内だけで売っていては成り立たない。
主要市場はアメリカと中国。次いで日本、ドイツ、イギリス、フランス、カナダ、韓国などだ。ただし欧州外の市場については各社のノウハウが乏しく、良いパートナーがいないとうまくいかないとのこと。こちらは今後の課題といえる。
ミリオンセラーも年々増えている。前述のプレゼンにて紹介されたワルシャワ発のタイトルにくわえて、『House Flipper』『Ancestors Legacy』『Layers of Fear』などが100万本を突破。このリストは年を経るごとにどんどん増えているとのこと。
AAAタイトルだけでなく、1930年代のカートゥーン風の『MOUSE:やとわれの探偵』のような中・小規模作品も100万本を突破している。というか、これもポーランド産だったのか……。
そして、海外展開を後押ししているのが、官民の連携だ。インディー開発を支援するNPOであるポーランド・インディーゲーム財団(Indie Games Poland Foundation)は資金を持たず、組織運営を担当。資金面は文化・国家遺産省、クリエイティブ産業研究所、外務省、各国のポーランド文化センター、大使館などが支えている。
ポーランドの開発者が参加するイベントは、アメリカならPAX West、PAX East、GDC、TwitchCon、Comic-Con、IGN Expo、中国ならWePlay、ChinaJoy、G-Fusion、BilibiliWorldなどで、欧州ならgamescom、Paris Games Weekなどだ。
そして日本では、ポーランド企業開発庁(PARP)とともに東京ゲームショウ2026に参加した。それから韓国のG-Starには今年展示を出し、来年はさらに本格的な参加を目指しているとのこと。
会場ではスタジオやタイトルごとの個別のブースではなく「ポーランドブース」として複数のタイトルを出展し、メディアやパートナーを招いている。また「ポーリッシュ・パーティー」と呼ばれる交流会もよく開催しており、ポーランド産のビールやソーセージを片手に、展示会場よりもゆっくりと開発者と話せる場になっているという。
余談だが、今回の取材で参加したGICでも参加者の交流を目的としたパーティーや食事会が連日開催されていた。ポーランドの方々はけっこうホスピタリティにあふれた気風なのかもしれない。
そして、公的機関と企業では目的が違うように思えるが、じつはほぼ同じだとDamian氏は語る。
企業が求めるのは売上、ブランドの認知度、持続的な成長。そして公的機関が求めるのは国のイメージ向上、国としての認知度、経済発展だ。
企業は自分たちのゲームを売り、作り手として認知されたい。国は「ポーランドは良いゲームを作る」と知ってほしい。やり方や細部は違っても、目指すゴールは同じ方向にあるというわけだ。
しかしそのためには、まず「良いゲーム」がなければ始まらない。いくらプロモーションにお金をかけても、ちゃんと良いゲームを送り出せなければこれらの計画は機能しない。そのために国を挙げての支援を行っているということだろう。
いっぽう、ポーランドのゲーム業界は人材不足でもある。アメリカやイギリスからも人材を求めており、11 bit studiosには日本出身のスタッフもいるそう。国のブランドが強くなり、ゲーム開発の拠点として認知されれば、人材獲得にもつながる。そういった狙いもあるというわけだ。
そしてポーランドでは、ゲームを文化(カルチャー)として捉えている。文化・国家遺産省やクリエイティブ産業研究所が関わっているのもそのためだ。
本や映画と同じように、良いゲームもあれば悪いゲームもある。名作文学も世間的に駄作とされる小説も同じ「本」であるように、娯楽に徹したゲームもあれば芸術作品といえるゲームもある。美術館などと協力して芸術的なゲームを紹介する取り組みも行っているそうだ。
例として、『This War of Mine』のチューリッヒデザイン美術館、ニューヨーク近代美術館、ロンドン帝国戦争博物館での展示や、ロンドン・デザイン・ミュージアムの「Beazley Designs of the Year 2016」へのノミネートなどが紹介された。
時としてゲームはエンタメ以上の意味を持つことを世界に向けて紹介したいというわけだ。
そしてポーランドでは、ゲームの社会的な役割も重視している。2020年、『This War of Mine』が高校の補助教材リストに加えられた。映画や本などのリストから授業で扱うものを選べる仕組みで、ゲームが加わったのは『This War of Mine』が初めて。現在はほかのゲームもリストに入っているという。
チャリティーにも積極的で、『This War of Mine』ではアムネスティ・インターナショナル、War Childなどさまざまな人道支援団体を支持してきた。
ほかにも「Games Against War」という、複数のゲームが参加する反戦チャリティーイベントなども行われている。これらの活動からは、彼らの「ゲームを社会的に意義のあるものとして広めたい」という思いがうかがえる。
彼らは上記のような活動や、オンライン上でのキャンペーン、今回のような視察ツアーで各国の関係者をポーランドに招くことで、同国のゲームを世界に広める取り組みを行っているのだ。
逆にポーランド企業を海外へ連れていくこともある。11月のWePlayではポーランド企業が出展するとともに、中国企業を回る視察も予定しているとのこと。
市場レポートも作成しており、中国市場を対象とした「開発者向けガイド」は中国のSNSで数百万回再生されるほど話題になったとのこと。ポーランドが「中国をもっともよく理解している国」と呼ばれたこともあったそうだ。現在は韓国の関係者とともに、韓国市場についてのレポートも準備中。今後はほかの国にも広げたいという。
ただ、アジアのような遠い市場については、ポーランドの開発者のノウハウはまだ乏しい。だからこそ橋渡しが必要なのだという。
ユーザー向けの取り組みとしては、2019年に上海で『ウィッチャー』『フロストパンク』『My Brother Rabbit』『Ancestors Legacy』などの楽曲を演奏するゲーム音楽のコンサートを開催した。
これは、ポーランドのゲームをひとつにしてオーディエンスに届けるために異なる組織が手を取り合った結果だとのこと。

そして、ポーランドのゲームの歴史をたどる展示「Digital Dreamers」も開催。1980年代以前から現在まで、ポーランドがゲーム大国になるまでの道のりを紹介するものだ。
本展示は1000平方メートル規模でも開催が可能。こちらは会場に合わせてカスタマイズが可能で、韓国のG-Starでも展示されるとのことだ。

パネル展示のほか、専用ウェブサイトも開設されており、オンラインでもポーランド産ゲームの歴史を学ぶことができる。初期のポーランドのゲーム開発者へのインタビュー映像も用意しており、会場によっては実際にゲームを遊ぶこともできるとのこと。
成長を続けるポーランド産ゲームの躍進ぶりが垣間見えたプレゼンに胸が高鳴る視察団一行。これからは、いよいよ実際にワルシャワのゲームスタジオを訪問していく。





