2016年10月28日、ニコニコ公式にて「【シブサワ・コウ生出演】『歴史シミュレーションゲームの日』記念特番」が放送された。
この番組は、10月26日の「歴史シミュレーションゲームの日」を記念したモノ。
「歴史シミュレーションゲームの日」とは、『信長の野望』シリーズや『三國志』シリーズなどを手がけてきたコーエーテクモゲームス ゼネラルプロデューサー、シブサワ・コウ氏が、35年前に第1作となる歴史シミュレーションゲーム『川中島の合戦』を発売した日であることから、「一般社団法人 日本記念日協会」により正式に制定された記念日である。
ここでは、放送された番組の中から、シブサワ・コウ氏とカドカワ取締役・浜村弘一氏によるトークセッションを抜粋してお届け(MCは歴史アイドルの小日向えりさん)。
シブサワ・コウ氏だけが明かせる開発エピソードや、長年「シブサワ・コウ」作品をプレイしてきた浜村氏ならではのアツい”歴史シミュレーションゲーム愛”など、貴重なトークが盛りだくさんの放送となった。
小日向:
皆さん、こんばんは。好きな陣形は「車懸りの陣」! 歴女の小日向えりです。本日は番組のMCを務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
それでは早速ですが、ご紹介いたしましょう。ゲームファンにとっても、歴史ファンにとっても、神のような存在ですね。ミスター「歴史シミュレーションゲーム」! コーエーテクモゲームス ゼネラルプロデューサーのシブサワ・コウさんです。
シブサワ:
皆さん、こんばんは。シブサワ・コウです。おかげさまで35周年を迎えることができて、本当にうれしいです。これも本当に、ゲームファンの皆さま方のおかげだということで、本当に感謝をしています。どうもありがとうございます。
小日向:
おめでとうございます! シブサワ・コウさんは、もうご紹介がいらないと思うんですけれども、改めて自己紹介をしていただけますか。
シブサワ:
はい。コーエーテクモゲームスのゼネラルプロデューサーを務めております。代表作は『信長の野望』『三國志』、それから『決戦』『ウイニングポスト』などなど。最近は『仁王』に力を入れているところです。
小日向:
こういう生放送に出られたことって、あるんですか?
シブサワ:
この間、東京ゲームショウのときに、自社ブースのステージイベントで “『仁王』のボスを倒す”っていう役目を授かったんです。チャレンジ5回めでそのボスを倒した後に、ちょっとした放送があって、そこで出ました。その生放送では一言二言話したくらいなので、このような本格的な生番組に出るっていうのは、初めてです。
小日向:
そうなんですね。皆さん、今日はコメントもできますので、この貴重な機会に、ぜひ質問したいことなどを思い切ってコメントしてみてはいかがでしょうか。
ところで、番組開始前にはいろいろな曲が流れていましたけど?
シブサワ:
ゲームのBGMですね。どれも大好きな曲ですが、中でもやっぱり私は『信長の野望』のスタート時の「ちゃーんちゃちゃちゃちゃちゃーん♪」っていう曲が、自分としては思い出深いです。
あの曲、菅野よう子さんが作曲してくださって。彼女も今じゃ大作曲家、大編曲家になられていますけどね。でもその当時は、まだ早稲田大学の学生さんだったんです。
小日向:
学生さんの頃に? すごいですね。
シブサワ:
その頃からすごい実力のメロディーメーカーで、素晴らしいイメージが沸くような曲をお書きになってくださって。非常に私は好きです。
小日向:
そうなんですね。そんな思い出が詰まった曲をかけながら、番組を進めさせていただきますが、ここでスペシャルゲストをお呼びしてトークしていきたいと思います。
ゲームファンにはお馴染みの方、元『週刊ファミ通』編集長“浜村通信”こと浜村弘一さんです。どうぞ、こちらへお越しください。あ! 花束を持ってご登場です。
浜村:
歴史シミュレーションゲーム35周年、おめでとうございます。
シブサワ:
えーっ!? サプライズー!! リハのときなかった(笑)!
小日向:
すごーい!
浜村:
驚かせようと思って。おめでとうございます。
シブサワ:
ありがとうございます! うわぁ、嬉しいなぁ。すごくキレイですよね。
浜村:
この白い花は、シブサワ・コウさんのイメージです。発表会のときに白のスーツを着てらっしゃるじゃないですか。それをイメージしています。
シブサワ:
すごいキレイ。本当にありがとうございます。
小日向:
シブサワ・コウさんをイメージして花束を持って来ていただいた浜村弘一さん、視聴者の皆さんにはもうご紹介はいらないかとは思いますが、念のため改めて自己紹介をお願いいたします。
浜村:
カドカワのファミ通の浜村でございます。ずっとゲームをやっております。
小日向:
シブサワさんと浜村さんは、昔からのお友だちなんですか?
浜村:
友だちというよりは、ずっとファンですけどね。
小日向:
古いお付き合いでいらっしゃるんですね?
シブサワ:
浜村さんは、最初は『LOGiN(ログイン)』の編集部ですから、アスキーさんに入られたんですよね?
浜村:
そうですね。
シブサワ:
でも、その前からゲームフリークというか、コアゲームユーザーだったという話を伺ってます。
浜村:
そうなんですよ。学生のときからずっとゲームをやってます。『信長の野望』はもう、サルのようにやりましたね。
シブサワ:
サルのように(笑)。
浜村:
ずーっとやってましたね。
シブサワ:
ありがたいです。
浜村:
起きて、ゲームやって、寝て、起きて、ゲームやって、って時代がありましたね。
シブサワ:
そのときは、まだ学生さん?
浜村:
大学の5年生ぐらいですね。
シブサワ:
5年生!? あぁ、たくさん勉強しちゃったわけですね(笑)。
浜村:
当時は引きこもりでしたね、ゲームのせいで(笑)。
シブサワ:
それから大学を出て、アスキーさんに入られて、いきなりログイン編集部に入って、と。それ以来、ずーっとゲーム一筋って感じですか?
浜村:
そうですね。一番最初はライターで、『コンプティーク』とかもやってました。その後に『ログイン』をやって、『ファミ通』の創刊からずーっと今までゲームをやってます。
シブサワ:
私ね、覚えてるんですよ。『ログイン』の取材をシブサワ・コウで受けたことがありまして。そのときに「(シブサワ・コウは)顔を出しちゃいけない」っていう(メディア対応だった)ので、サングラスをしてたんですよ。
浜村:
あぁ、確かそうでしたねぇ。
シブサワ:
えぇ、サングラスをしてた。で、そのサングラスをしていたシブサワ・コウのイメージを、ある麻雀大会のときでさえも貫いたんですよね。いまムチャクチャなことをいっているんですけど(笑)、とにかく「シブサワ・コウは顔を出しちゃいけない」っていうことで、サングラスしていましたね。
浜村:
(そういう逸話が)イロイロとありましたよね〜。
あ、そういえば、この赤いヤツ(シミュレーションウォーゲーム『川中島の合戦』のカセットテープ)とか、よく残っていましたね?
シブサワ:
『川中島の合戦』ね。あとでお話したいと思っていたんですけど、これが第1作目なんですね。1981年の10月26日に発売。
浜村:
これ、テープ版ですよね。さっきスタッフの方に伺ったら、まだ動くらしいですね。データが生きてるってことですよね。
シブサワ:
そうです、生きてます。
浜村:
磁気テープ、おそるべし。
小日向:
のちのち、この『川中島の合戦』についてもお話を伺いたいんですけども、今日はこのお二人に来ていただいて、いろいろとお話が盛り上がっていきそうですね。
では、まず歴史シミュレーションゲームの日について、お話をうかがいます。これは、どういった記念日なんでしょうか?
シブサワ:
ちょうどこの『川中島の合戦』を発売したのが1981年10月26日で、この35年経ったということを記念しまして、一般社団法人の日本記念日協会に正式に「歴史シミュレーションの日」として認定がされました。
今回は、そのことを皆さま方にご報告をしたいと思います。
まだパソコン黎明期に『川中島の合戦』が発売された
小日向:
いま、ご紹介ありましたように、『シミュレーションウォーゲーム 川中島の合戦』から今に至るまでブランドが35周年ということで、それをお祝いしての「歴史シミュレーションゲームの日」ということなんですけれども、『川中島の合戦』について、もう少しお話をうかがってもよろしいですか?
35年前というと、まだファミコンもないような時代ですよね?
シブサワ:
はい、そうですね。
小日向:
その頃のゲーム業界って、どんな感じだったんでしょうか?
シブサワ:
1980年、81年っていうのは、パソコンがちょうど黎明期でして、生まれて初めて世の中に各社がパソコンを出した時期でした。
東芝さんやNECさん、富士通さんや、日立さん……もう日本の一流の家電メーカーが競って新しいパソコンを、毎年毎年出していた。そういう時代の一番始まりが、1980年、81年でした。
それで私も最初は「MZ-80C」っていうシャープさんのパソコンを、私の家内から誕生日のプレゼントで買ってもらって。それでプログラムがとっても楽しくて、プログラムを作って、どんどん遊びの方に傾斜して行って。
それで、元々、自分が歴史好きだったのもあって、「歴史のゲームを作りたいな」というので作ったのが、この『川中島の合戦』です。
シブサワ:
その当時の写真が出てますけれど、右側が「MZ-80C」ですね。
小日向:
プレゼントしていただいたという。
シブサワ:
そうですね、あれ26万8,000円もするんですよね。この写真の一番左は、私が大学生のときに東芝からレコードを3枚出したんですけれども、そのときのレコードのジャケットです。白いジャケットを着ている5人の男性の、右から2人目のかわいい坊やが私です(笑)。
浜村:
おいくつだったんですか?
シブサワ:
このときは19歳です。
小日向:
音楽活動もされてたんですね。
シブサワ:
真ん中はコーエーでゲームを最初に作ったときの、1981年当時の私です。
小日向:
写真、とてもお若いですね。
シブサワ:
元々こういう顔じゃなかったんですよ。ああいう時代もあったんです。
小日向:
今もとてもイケメンですけれども。
ココで実際『川中島の合戦』を見れたりするんですかね? どんな感じのゲームか。
シブサワ:
そうですね、これから皆さまにご覧いただけると思います。
シブサワ:
出てきました!
浜村:
うわ! 懐かしい〜。懐かしいけれど、今でも絵柄的にポップな感じがしますね。
シブサワ:
そうですね、かえって地形を出したりするよりもサイバー的な表現で、なんかシュールな感じがしますね(笑)。
一同:
(笑)。
シブサワ:
ブルーが本体でして、赤は護衛ですね。本体と護衛は動けないんです。その周りに歩兵や騎馬、あるいは弓だとか、それから槍部隊がいて。で、動く方向を決めて、それで敵にぶつかると戦いが始まるという、そういうゲームです。
浜村:
敵が見えないんですよね?
シブサワ:
敵は見えないです。索敵しないと見えないです。
浜村:
索敵して見つかった瞬間に「おおっ!」ってなるんですよね。
シブサワ:
そうですね。どちらかというと、普通の将棋じゃない、昔あった「行軍将棋」のようなモノに、かなり大きな合戦場を設定したという意味合いで、自分が索敵しながら敵と戦っていくという。
小日向:
「将棋っぽいですね」っていうコメントとか、「すべてはココから始まったのか」なんてコメントが来ております。
シブサワ:
これ、移動するときに、X軸何百メートル、Y軸何百メートルとか入力するんです。今じゃお笑いの入力方法ですね。
浜村:
でも、ドキドキしましたよねぇ。ポンと動かすと、敵がドン! といるかもしれないので。
小日向:
35年前というと「ファミ通」もまだ創刊前ですよね。
浜村:
してないですね。
小日向:
浜村さんはプレイされてらっしゃいましたか?
浜村:
やりましたよ。索敵しながら、敵がどこにいるかを予測しながら動かしていくのが、けっこう楽しかったですよ。
シブサワ:
見えないところの楽しさ、みたいのがね。
浜村:
見えない敵を探って「この辺じゃねえか?」といった感じで当てていく。で、当たったときの楽しさとか!
小日向:
いろいろ想像力を働かせながら。
浜村:
逆に、これくらいのグラフィックのほうが、想像力が働いて、頭の中で合戦が巻き起こってるんですよね。
小日向:
プレイヤーは上杉軍、武田軍???
浜村:
武田ですね。
シブサワ:
武田信玄をプレイヤーは操作するんです。で、敵軍である上杉謙信軍がどんどん攻めてくる。それに対して戦っていくというシチュエーションになっています。
実際の「川中島の合戦」は5回戦っているんですけれども、そういった“何回も戦う”という実際の合戦のイメージで、そして自分の駒を自由な動かし方で何回でも楽しめるという意味合いで、「川中島の合戦」をゲームに選んだ―—そういう記憶があります。
小日向:
「関ヶ原の合戦」とか「桶狭間の合戦」がある中で、何度も戦い合っているっていうことで「川中島の合戦」を選ばれたんですね。
歴史シミュレーションゲームは戦だけじゃない~政治を持ち込んだ『信長の野望』
小日向:
さて、いくつかのトークテーマがありますので、お二人でトークセッションしていただければと思います。次は歴史シミュレーションゲーム三部作『信長の野望』『三國志』『蒼き狼と白き牝鹿』について。
浜村:
あー……『信長』のこのパッケージを見ると、切なくなりますよ。
一同:
(笑)。
浜村:
学生の頃はお金もなくて、コレばっかりやってました。
小日向:
学生の頃というと、大学生ですか?
浜村:
うん。この頃の『信長の野望』って、武将がほとんど登場していないじゃないですか。で、自分の中で脳内変換して――「この大名を討ち取ったのは柴田だ!」とか、「ここを攻めたのは秀吉だ!」とか、自分で勝手に考えながらやってましたね。楽しかった。
シブサワ:
『川中島の合戦』を作ってから『信長の野望』に至る間、いろんなゲーム『ノルマンディー上陸作戦』とか『地底探検』だとかを作っていたんですけれども、『川中島の合戦』を出した後、お客様から「すごく面白かったけど、こういう風にしてほしい」とか、「今度は織田信長を出してほしい」「家康を出してほしい」とか、いろんなご要望をいただきました。そんな中、2つめの戦国時代のゲームを作りたいな、という気持ちがありました。
当時、司馬遼太郎さんの小説を何回も読み返していて、戦国時代で一番活躍したのは、本能寺で非業の最期を迎えるけれども、信長だったんじゃないかな? と思いまして。で、やっぱり信長に焦点を当てたゲームを作ってみたいなという気持ちが湧き起こりました。
そして信長を焦点にするなら、戦いだけじゃなくて内政や外交、人事などのモロモロの要素を全部含めた形で、トータルなマネージメントゲーム的なシミュレーションのゲームを作ってみたいな、ということで『信長の野望』を作ったんです。
小日向:
『川中島の合戦』の2作目、ということになるんですか?
シブサワ:
戦国時代のゲームとしては2作目ですね。『川中島の合戦』は、本当に「川中島の戦い」だけを表現したのですが、『信長の野望』の場合“戦い”は1つのゲームの要素で、それ以外に人事や国の統一、内政や外交やそれから相場の要素もあるんです。
浜村:
米相場とかありましたよね。意外と「民の忠誠心」を上げたら、みんなけっこう強くなったりして。割と重要でしたよね。
小日向:
浜村さんも熱中してプレイされたんですね?
浜村:
熱中しました。起きてはゲームをやり、寝てはまたゲームの夢を見、……っていう生活でした。
一同:
(笑)。
浜村:
そういう生活をしてました。ボクは大学の5年目はコレで過ごしました。
シブサワ:
5年ね。たくさんたくさん勉強なさって、素晴らしいことです(笑)。
一同:
(笑)。
浜村:
“ゲーム引きこもり”の第1号ぐらいだったんじゃないですかね。
壮大な世界観への挑戦『三國志』
小日向:
ほかの『三國志』や『蒼き狼と白き牝鹿』はいかがでしょうか。
シブサワ:
懐かしいですね。
浜村:
計略がね、楽しかったです。
小日向:
こちらはどういうきっかけで?
シブサワ:
元々「三国志」の出会いは小学生の頃、少年少女版の三国志のような本を図書館で読んだのが初めてだったんです。その後、横山光輝さんの三国志の漫画、それからNHKで人形劇。それから吉川英治さんの三国志もあったし……。
そのほかにも三国志に関係するいろんな歴史書があったので、三国志の時代に非常に注目していて、『信長の野望』の次に来るゲームとして「三国志を作ってみたいな」という気持ちがあって。
小日向:
すごいカラフルでポップで、なんかかわいらしいですね、このゲーム画面を見ていると。
シブサワ:
三国志の時代って、曹操や劉備や孫権をはじめ、活躍した英雄英傑がたくさんいますよね。そんな彼らの人間ドラマも表現できたらいいなっていう意図で、イベントやシナリオをたくさん用意した記憶があります。
浜村:
ボクも“武将好き”だったんでね、何やるにしても―—そう、編集部のスタッフでさえも―—武将に例えていましたね。朝までやってるんだけど、全然原稿がヘボい人には「お前は許褚か」みたいな(笑)。いい原稿を書くんだけど、すぐ帰っちゃう人を「お前、郭嘉みたいだな」みたいな(笑)。そういうツッコミをやってましたねぇ。
一同:
(笑)。
浜村:
お酒を飲むと「編集部のアイツは、武将に例えるとパラメータはいくつ?」といった話題で盛り上がったりして。
小日向:
(笑)。三国志ファンのほとんどが、登竜門として最初に三国志に触れたきっかけが、シミュレーションゲーム『三國志』ですもんね。
浜村:
みんなコレやってますよ。ゲーム業界の人も経験している人、けっこう多いですもんね。レベルファイブの日野晃博さんとか、ポケモンの石原恒和さんとか。『信長』や『三國志』を経験してゲームを始めた、みたいな人が多いですよね。
シブサワ:
ありがたいですね。