Epic Gamesは、日本時間5月14日に行われたストリーミングイベント「Summer Game Fest 2020」にて、次世代ゲームエンジン「Unreal Engine 5」(以下、UE5)を発表した。
イベント内では、PlayStation 5で実際に動作するリアルタイムデモ「Lumen in the Land of Nanite」が公開され、新エンジンと次世代機による新たなグラフィックの地平を確認できる。UE5は2021年初頭にプレビューとして利用可能となり、2021年後半のフルリリースを目指す。次世代コンソール、現世代コンソール、PC、Mac、iOS、Androidをサポートする予定だ。
トレイラーの冒頭では、エンジンの大きな特徴としてふたつの新技術「Lumen」と「Nanite」が挙げられている。動画でも分かるとおり大きなグラフィックのアップグレードが見込めるが、両者に共通しているのは、工数の削減である。
「Nanite」は数十億ポリゴンの映画レベルの品質を持つもの、あるいは3DCGソフトZBrushやフォトグラメトリスキャン、CADデータなどのあらゆるアートアセットがそのまま機能する技術だ。
これまではZBrushで製作した詳細なモデルから法線マップ(ノーマルマップ)を製作し、少ないポリゴン数のモデルで詳細な見た目を再現する作業や、カメラからの距離で3Dモデルの見た目を変更するLOD(レベルオブディテール)の設定など、生のモデルを実際のゲームで使うには複数の工程が必要だった。Naniteはその工程を大幅に削減し、品質の損失も無いのだという。
もうひとつの「Lumen」は光源処理に関する技術だ。シーン全体の光源をこれまで以上に自然に処理する、いわゆる“グローバルイルミネーションソリューション”と説明されている。光源からの光の反射や拡散の計算をレイトレーシング向けの特別なハードウェア無しに計算。シーンやライトの変更に対して即座に反応するという。
トレイラーではリアルタイムで太陽の位置を変えたり、懐中電灯の光や天井が崩れた際に差す光などを反映し、シーンの光量が動的に変化している様子を確認できる。Lumenの解説の冒頭ではLumenをオフにした場合も紹介されており、Lumenをオフにした場合は光が当たる部分だけが光り、他の部分は真っ暗となっている。
照り返しなどの計算を行うLumenを適用することで、洞窟の上から日光が差し込んでいるシーンがより自然なものへと変貌しているのだ。
この技術もやはり工数の削減を可能としており、シーン内の明るさをあらかじめ計算するライトマップの保存やライトマップUVの作成が必要なくなるという。エディターの中で光源を動かせば、それが実際にゲームとしての見た目となる。
トレイラーではこのほかにも、キャラクターとオブジェクトの自然な干渉やアニメーションの処理、シーンによって変化する音響、布や剛体などの物理エンジンの挙動などが紹介されている。
さらに目を引くのが最後のパートの飛行シーンだ。海外メディアPCGamerによれば「NVIDIA GeForce RTX 2070 Super」を搭載したゲーミングPCでもこのデモは「かなり良いパフォーマンス」で動作するだろうとEpicは回答している。しかし、広大なマップをシームレスに描画するにはロードとストリーミングには高速なNVMe SSDが不可欠になる。
Epic GamesのCEOであるティム・スウィーニー氏はPlayStation 5のSSDアーキテクチャを絶賛しており、PCを遙かにしのいでいると語っている。次世代のグラフィックには高速なグラフィックボードだけでなく、高速なSSDの存在が必要不可欠な存在となりそうだ。
海外メディアIGNによると、このデモは本来3月に行われるはずだった「Game Developers Conference」(ゲーム開発者会議)で実際にプレイ可能な技術デモとして紹介される予定のものだったという。ゲームとしてリリースされる予定は無いが、実際に遊ぶ事ができるものだったようだ。トレイラーの中でも、一瞬三角ボタンが表示されているシーンを確認できる。
気になるのはUE5を利用したゲームが一体いつ遊べるかという点だ。もっとも早い段階でUE5に対応する可能性が高いのが『フォートナイト』だ。執筆時点ではUnreal Engine 4(以下、UE4)で開発されている本作は次世代コンソールのローンチタイトルとなり、2021年中期にはUE4からUE5へ移行する予定だという。
Epic GamesによればUE4との互換性も確保されており、現在UE4で次世代機向けに開発されているゲームも「UE5が準備できた段階で移行できる」としている。
例え同じエンジンであっても内部バージョンが違うだけで挙動が変わりうまく移行できないケースは多々あるが、世代をまたいでも移行できるのが本当であれば、デベロッパーにとっては大きな意味があるといえるだろう。『Fortnite』のUE4からUE5への移行がひとつの実例となるはずだ。
なお、ロイヤリティについても大幅にデベロッパーに寄り添ったものへの変更が発表されている。100万ドル(約1億円)の粗収入に達するまではロイヤリティフリーの利用が可能で、この新しいライセンス条項は2020年1月にまで翻って適用される。
最後に、2013年に公開されたPlayStation 4でのUE4のデモ動画を紹介したい。暗い城内に差し込む光や、天井が崩れて岩が落ちてくるシーンなど、UE5のデモに似たようなシーンも登場している。しかし、今見るとやはりグラフィックはやはり見劣りする。7年の月日はゲームのグラフィックを大きく変えるのに十分な時間だったようである。
2020年に入り、次世代ゲーミングの足音が少しずつ聞こえてきた。ゲームの新しい可能性にユーザーの期待は高まるばかりだ。
ライター/古嶋 誉幸