鬼才漫画家・藤本タツキ氏の143ページにわたる長編読切『ルックバック』が公開直後より話題沸騰。表裏一体の生と死を描いてきた作家が放つ、重い現実を想像力で軽やかに受け止め進む鮮烈な筆致に同業者からも熱いエールの数々

 集英社が運営する「少年ジャンプ+」は7月19日(月)、『チェンソーマン』『ファイアパンチ』などの代表作で知られる漫画家・藤本タツキ氏による読切作品『ルックバック』を公開した。「漫画を描く」営為でフィクションと現実をつなぐ鮮烈な筆致と、氏の個人史とも重なるセルフオマージュに富んだ内容でSNSを中心に大きな話題を集め、同業者からも絶賛の声が多数寄せられている。

 『ルックバック』は、「時代を抉(えぐ)る 新時代青春読切」と銘打たれた143ページにわたる長編作。学生新聞でクラスの仲間に人気の4コマ漫画を連載する小学4年の少女・藤野が、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと担任から告げられたのをきっかけに物語は進んでいく。

(画像はTwitterより)

 京本の圧倒的な画力にコンプレックスを抱きライバル心を燃やすも、健闘およばず描き手としての人生を諦めかける藤野。そんな彼女が卒業証書を渡すよう頼まれ京本の自宅を訪れたことから2人は出会い、互いの連載をリスペクトし合っていた事実が判明。

 瞬く間に意気投合し、「藤野キョウ」の合同名義で活動を開始する藤野と京本。出版社の賞に続けて入選しデビューの道が開くも、美大への進学を望むようになった京本が去り2人はいつしか疎遠に。後半では夢を叶えた京本に訪れる悲劇的な事件を軸に驚愕の展開が待ち構えている。

 その全容はぜひ自身の目で見届けていただきたいが、本作の核となっているのは2019年7月18日に起きた京都アニメーションへの放火事件だ。直接の言及は周到に避けられているものの、本作の公開日が事件発生から2年後の翌日である点や作中で事件を起こした人物の言動を鑑みても明らかな示唆が含まれているのは否定できない。いわば藤本氏による鎮魂の作とも言えよう。

 これまでファンタジー的な世界観を背景に、生と死が隣り合わせの日常を描くことの多かった藤本氏だが、本作では現実を想起させるディテールの数々が執拗なまでに散りばめられている。

 学校、コンビニ、出版社、京本が通う山形の美術大学(氏が在籍していた東北芸術工科大学がモチーフ)とさまざまに姿を変えながら、事あるごとに私たちの生きる世界と地続きであるが繰り返し強調される。冒頭の舞台である農村も、氏がかつて過ごした秋田の原風景がモデルになっていると推測が可能だ。

 一方で、フィクションならではの飛躍したギミックも用意されている。現実とフィクションの間をつなぐのは「漫画を描く」という作家にとって当たり前な日常の営為。生活に組み込まれたルーティンを通じて描かれる鮮やかで切ない心の機微と、通読して初めて明らかとなる隠されたメッセージに胸を締めつけられた方も多いはず。

 「時代を抉る」のコピーに恥じない衝撃作の登場に、公開直後からSNSは本作の話題で騒然。当日の夜に至ってもその勢いは健在で、Twitterでは本稿執筆時点でもなおトレンド入りを続けている。その影響は広く同業者にまで波及し、さまざまな漫画家からの反響が熱い感想とともに寄せられた。

 『ルックバック』は、「少年ジャンプ+」にて無料公開中。なお、同じく「少年ジャンプ+」で第2部の連載を予定している『チェンソーマン』はアニメ版の制作も6月に発表されたばかり。放送時期は明かされていないが、『呪術廻戦』や『進撃の巨人 The Final Season』など数々の人気作を手がけるスタジオ「MAPPA」によるアニメ化とあり、藤本氏の活躍に今後も目を離せない日々が続きそうだ。

 また、『ルックバック』には藤本氏の過去作に登場したシーンや背景といったオマージュも多数盛り込まれている。この機会に“振り返って”探してみるのもよいだろう。

ライター/dashimaru

ライター
フリーランスの翻訳者を経て、2021年より編集アシスタントとして加入。京都の町屋で猫と暮らす。
Twitter:@dashimaruJP
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