ソフトウェア開発者のcncc ゴメス氏(以下、ゴメス氏)は7月25日、自身が開発する音声読み上げソフトウェア『SofTalk(ソフトーク)』において、組み込み用規則音声合成エンジン『AquesTalk(アクエストーク)』への対応を中止することを発表した。
『SofTalk』は、テキストを入力することで任意のキャラクターボイスでその音声を読み上げ、音声ファイルとして出力することができる人気のフリーソフトウェアだ。
SofTalkをご利用の皆様へのお知らせ
— cncc ゴメス (@cncc_gomes) July 23, 2022
AquesTalkへの対応を中止しました。https://t.co/X8W5aI6Wxp
本ソフトは2000年代後半から、ニコニコ動画やYouTubeなどの動画制作において広く利用されてきた。とくに有名なのは「東方Project」の二次創作キャラクター、ゆっくり霊夢やゆっくり魔理沙の発する声、通称「ゆっくりボイス」としての利用だろう。
本ソフトにおける上記のボイスは、AQUEST社が開発する音声合成ミドルウェア『AquesTalk』シリーズを利用することで出力できる仕組みとなっている。しかし今回の発表によって本ソフトは『AquesTalk』への対応を中止することとなったため、以降の『SofTalk』では「ゆっくりボイス」は使えなくなることになる。
この発表にいたった経緯についてゴメス氏は、『SofTalk』に同梱する『AquesTalk』のライセンス料に関する扱いが7年ほど前に移行した新ライセンスより変わり、以前に比べて冷遇されていると感じたことなどから、AQUEST社との話い合いの場を設けようとしたが、うまく折り合いがつかなかったためとしている。
日頃よりご愛顧いただき誠にありがとうございます。
SofTalkは、長年AquesTalkに対応してまいりましたが、勝手ながら
AquesTalkへの対応を中止させていただくこととしました。SofTalkのようにAquesTalkを同梱している場合、利用者がAquesTalkの機能を使わずに、
OpenJTalkを商用利用する場合でも、AquesTalkのライセンス料を支払わなければなりません。AQUEST社たってのお願いで7年ほど前に新ライセンスに移行しましたが、旧ライセンスに比べて
冷遇されている状況を思うと、趣味であるはずのプログラミングを苦痛に感じるようになりました。AQUEST社とは一度話し合いの場が設けられることになりましたが、もっとおしゃれな店がいいと
相手方に言われたときに温度差を感じ、会うことを断念しました。AquesTalkを使った開発を初めた頃はとても楽しく、良い経験になりました。
AQUEST社には大変お世話になりましたが、この度袂を分かつこととしました。SofTalkからAquesTalkを取ったら何が残るのだと言われそうですが、
フリーウェアから自由を取ったら本当に何も残らなくなります。
いつかSofTalkを有料にするときが来たとしても、それは作者である私自身の意志で行いたいのです。
なお、今回の件によってYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトで「ゆっくりボイス」を使った動画が作られなくなるのかといえば、実際のところ、そういった影響はほとんどないと考えられる。
というのも、昨今の「ゆっくりボイス」動画の制作においては、『AquesTalk』を利用する動画制作用ソフト『ゆっくりMovieMaker4』が主流となっているほか、読み上げ用途においても『棒読みちゃん』といった『AquesTalk』を利用するソフトが複数存在しているためだ。
かつて『SofTalk』は、ゆっくり霊夢の声を作るためにいち早く利用され、その知名度を大きく上げた。そのため「ゆっくりボイス」イコール『SofTalk』として認識されている方も多いかもしれないが、本件によって「ゆっくりボイス」を使った制作そのものができなくなるわけではないことには注意したい。
ゴメス氏は今後について「今回を機にSofTalkの市場価値は下がるのかもしれませんが、少なくとも私は悩みから開放されます。いつかプログラミングが楽しいと思えるようになったら、本格的に開発を再開したいと思います。」と答えている。