2018年もっとも高い評価を受けているインディーゲーム『Celeste』は何がすごいのか? Nintendo Switch版の発売を機にその理由を探る

 4月20日に発売され、レビュー集積サイト『Metacrtic』にて2018年最高の評価を獲得した『God of War』。だが同作が発売される以前まで、平均レビュースコア1位の座にいたインディーゲームをご存知だろうか?
 そのタイトルの名は、2018年1月25日にリリースされたMatt Make Games開発による『Celeste』。

(画像はCeleste公式サイトより)

 記事執筆時点では、Xbox One版が『God of War』と同じく平均レビュースコア94点、Nintendo Switch版が92点、PS4版が91点、PC版が88点を記録。Xbox One版はレビュー数が少ないという点もあるが、それ以外のバージョンのスコアは平均して高い。

 レビュー数30以上のNintendo Switch版に関しては、『ベヨネッタ2』やPS4版『ワンダと巨像』『モンスターハンター:ワールド』を抑えて2018年ランキングの3位(2位はXbox One版)に輝いている。

 日本での知名度はまだまだと言える『Celeste』だが、5月10日にNintendo Switch向けにニンテンドーeショップにて発売となり、ついに上陸を果たした。
 『Celeste』は、なぜここまで世界中で高い評価を受けているのか? 筆者のプレイングとメディアの評価を通じて、いったいなにがすばらしいのかを探ってみたい。

文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn


 本作はとてもオーソドックスな2Dジャンプアクションゲームだ。基本操作はジャンプとダッシュ、壁掴みだけというごくごくシンプルな内容。
 ストーリー展開や世界観にしてもそうで、ゲームの冒頭では主人公マデレンがある理由で「セレステ・マウンテン」と呼ばれる山に登り始めることぐらいしか描写されておらず、導入もとても簡素なものとなっている。

ゲームの導入部では老婆と出会うが、特に凝った世界観設定などが語られるわけでもない。
(画像はCeleste公式サイトから)

 プレイを始めれば2DドットやBGMが確かに素晴らしいことはわかるが、これが『God of War』が発売されるまでもっとも高い評価を受けていたタイトルかと言われると、ゲームをしばらく進めるまでは首をかしげることになるかもしれない。
 事実、その後プレイを続けても、複雑な世界観やプロットが待ち受けているわけではない。

 では『Celeste』はなにがすごいのか。ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランの名曲『Knockin’ on Heaven’s Door』が3つのコードだけで成り立っている点を「シンプルさは時にパワフルなものだ」と評し、それを『Celeste』の評価にも落とし込んだWe Got This Coveredの詩的なレビューはしっくりとくる。だが、少し観念的過ぎるかもしれない。

(画像はCeleste公式サイトから)

──『Celeste』はマスターピースであり、『Super Meat Boy』以来ベストでありタフな2Dプラットフォーム
●IGN

──『Celeste』は私が望んでいた『Super Meat Boy』の続編だ
●God is a Geek

 ゲームプレイに関してかなりのレビューで引用、言及されているのは、2Dアクションゲームの名作『Super Meat Boy』の名だ。ゲーム部分の骨組みはこのたとえで説明できているのではないだろうか。

 つまり『Celeste』は、スキルや反射神経、あるいはプレイヤーの屍を積み上げた経験の上で攻略していく、「覚えゲー」「死にゲー」のカテゴリに属するゲームということである。

2010年にリリースされ高評価を得た2Dアクションゲーム『Super Meat Boy』
(画像はSuper Meat Boy Forever公式サイトから)

 しかし以下のレビューを見れば、それが理不尽さの表現ではないことはわかる。

──2649。私が『Celeste』のストーリーをクリアするまでに死んだ回数です──私はこの7、8時間程度のゲームプレイの中で極端な多さとも言えるこの数字に誇りを持っています
●Twinfinite

──私は975回死んだが、ひとつとしてアンフェアな死はなく、ほとんどの死は新しい発見をもたらしてくれた
●GameSpot

 ほぼ全てのレビューで難度の高さと共に評されるのはレベルデザインの優秀さやリトライの早さ、コンティニューポイントの数。難しさと親切さが共存した設計は高く評価されている。

 実際に『Celeste』のレベルデザインはすさまじく、困難な壁となってプレイヤーの前に立ちはだかるものの、適切な解法を段階的に感じさせる妙のお陰で、理不尽と感じることはないのである。

(画像はCeleste公式サイトから)

 しかし一方で、『Celeste』がここまでの評価を得たのは、そのストーリーテリングと題材の取り方 にもある。

 本作に描かれる主人公マデレンは、幼そうな見た目に相反して成人した女性だ。彼女は現実社会に生きづらさを感じる等身大のキャラクターとして描かれ、精神的な不安定さに常に苛まれている。

 現代社会にて起こりうる、うつ病や不安障害、パニック障害という精神面の問題に対して真っ直ぐに目を向けている点は、ほぼすべてのレビューでポジティブな評価につながっている。

──それは優れたプラットフォーマーでありながら、同時にうつと不安に取り組む方法に関する魅力的な瞑想でもある
●The Sydney Morning Herald

──精神疾患への深い洞察をゲームに落とし込むことに成功し、高い評価を受けた『Hellblade』を例に置きつつ、「精神疾患の世界への窓として両作品とも比類のないものだ」と論評を始めているサイトもある
●Press Start Australia

 レビューでも挙げられている『Hellblade: Senua’s Sacrifice』【※】と『Celeste』が短いスパンで発売されたこと、両タイトルともに高い評価を受けたという事実は、ビデオゲームで扱う題材の時代性と変化を強く示唆するものではある。

 だが、両ゲームとも題材とゲームプレイの間に表現としての乖離がないということを、より特筆すべきだろう。

※『Hellblade: Senua’s Sacrifice』……Ninja Theoryが2017年8月にリリースしたアクション・アドベンチャーゲーム。ケルト民族の女戦士セヌアが主人公の作品。恋人を失ったショックなどでセヌアが精神的に追い詰められていく様が、幻覚や幻聴といったものを通じて描かれている。
(画像はHellblade公式サイト | GDC Screenshotから)

 『Celeste』に関して言えば、プレイヤーが困難なステージをクリアしていくため試行錯誤と努力を続けていくプレイングと、マデレンが自己の精神を成長させ弱点を克服していく展開がリンクする。その2つの要素が重なり合うゲームデザインの妙こそが、『Celeste』の評価を跳ね上げた要因と言える。

──うつや不安、自己嫌悪などの治療においては、急激で大きな変化は期待できない。段階的なプロセスが一歩一歩前進していくなかで、あなたが克服した全ての「パズル」には価値があるものだ。
 つまずきがあるかもしれないが、その中で得た知識は少しずつあなたをゴールに進めていく。たとえ難解な『Celeste』のパズルを突破するのに30~40回の挑戦が必要だとしても、続けていれば難度は下がり、自身もついていく。そして最初にそれを突破したときの気分は非常に素晴らしいものだ

●International Business Times

──これは非常に難しいゲームです。あなたは何度も何度も失敗するでしょう。しかし自分自身について最も学べる瞬間──あなたがダウンしてしまったとき──その自分を自分自身の力で立ち直らせるのが人生です。
 世界はとても辛い場所ですが、『Celeste』は私に人生を諦めるのはまだ早いことを思い出させてくれました。そしてもしかしたら、あなたが世界に替えの効かない素敵な存在であることを気づかせてくれるかもしれません
●God is a Geek

 もし人生が充実していて、社会との軋轢も人間関係の苦しみも、孤独も感じる暇もないほど祝福に満ちた日々を過ごしているのなら、『Celeste』はきっとあなたに何も語りかけないだろう。
 ただ、世界のどこかにポツンと置かれたような感覚や、倦怠や疲れ、日々の無意味さをどこかに感じているなら、マデレンといっしょに数えきれないほど多くの小さな失敗と、ほんの少しの大きな成功体験を繰り返しながら、セレステ・マウンテンの山頂を目指してみるのは悪くない。

 同作はNintendo Switch版のほか、Steamitch.ioにてPC版が、また海外ではPS4Xbox One版がリリース中。いずれも日本語に対応しているので、気になったプレイヤーはチェックしてみてほしい。 

(画像はCeleste公式サイトから)

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著者
Nobuhiko Nakanishi
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
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