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「ヒットしたら岡本吉起さんに報告しに行こうかな」稲船敬二、初のスマホゲームはレベルファイブらしさと自分らしさが溢れているRPG【『ドラゴン&コロニーズ』リリース直前インタビュー】

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 2019年6月、レベルファイブの子会社でゲーム開発スタジオのLEVEL5 comceptより、スマートフォン向けゲームアプリ『ドラゴン&コロニーズ』(以下、『ドラコロ』)がリリースされる。

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 LEVEL5 comceptは、レベルファイブの代表取締役社長/CEO日野晃博【※】とcomceptのCEO稲船敬二氏が手を組み、2017年に設立されたスタジオで、この『ドラコロ』はLEVEL5 comcept初の開発タイトルとなる。

※日野晃博
LEVEL5 comcept CEO。1998年10月にレベルファイブを設立し、「妖怪ウォッチ」「イナズマイレブン」シリーズなどの作品で企画原案、シナリオ制作、プロデューサーを務め、次々とヒット作を生み出す。

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稲船氏が2010年に突如カプコンの退社を決めたニュースは当時話題を呼んだ。退社後は同年12月に株式会社comceptを設立し、日野氏とともにLEVEL5 comceptを立ち上げ、現在に至る。

 稲船氏といえば、これまではゲームクリエイターとして『ロックマン』『鬼武者』など数々のヒット作を生み出し、カプコンを支えてきたひとり。

 コンシューマーゲームで多くの伝説を残した稲船氏の経験が、スマホゲームである『ドラコロ』にどう生かされているのかは、注目すべきところだろう。

 電ファミ編集部では、『ドラコロ』がリリースされるこのタイミングで稲船氏へのインタビューを実施。『ドラコロ』に込めた想いや日野氏との出会い、今のゲーム業界について思うことを伺った。

『ドラゴン&コロニーズ』とは

 

 「ハコロニー」と呼ばれるキューブ状の世界に施設やキャラクターを配置して王国をつくっていく。資源をやりくりして王国を発展させながら、他国と戦っていくことが目的。

 

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 ほかのハコロニー(他国)と合体することでバトルフィールドが生まれ、戦いが始まる。対戦ルールはリアルタイムストラテジーに近く、相手の防衛拠点を先に破壊したプレイヤーが勝利となる。

 施設やキャラクターの種類や配置によって戦況が変わっていくことが特徴。近くのプレイヤーやオンラインでほかのプレイヤーと戦えるPvP要素も実装予定。

 

『ドラゴン&コロニーズ』
・対応OS:Android/iOS
・価格:アプリ本体無料、課金要素あり
・ジャンル:ガチャンコバトルRPG
・開発/運営:LEVEL5 comcept
・サービス開始日:2019年6月予定

取材・文・編集/ムニエル
取材・編集・撮影/なかJ


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稲船敬二氏

『ドラコロ』はレベルファイブらしさも兼ね備えた、自分の集大成的作品に仕上がった

──稲船さん自身、アプリゲーム開発の全体に携わるのは初めてだそうですね。

稲船敬二氏(以下、稲船氏):
 そう、初めてです。コンシューマーとは勝手が違いますよね。
 スマホアプリらしさを残しつつ、でもゲームらしさも残す必要がある。コンシューマーのようにガッツリとゲームをさせてしまうと、今度はアプリとしての良さがなくなったりもして。

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『ドラゴン&コロニーズ』戦闘シーン

──コンシューマー畑出身の稲船さんにとっては、そのさじ加減が難しかった、と。

稲船氏:
 ゲーム作りをする上で、難しいチャレンジでしたね。僕みたいな「“コンシューマーから来た人間”が、なかなかアプリでヒットを出せない」というのは、そこがネックになるからでしょう。

──『ドラコロ』は、そのネックを克服できましたか?

稲船氏:
 そうですね。『ドラコロ』では、“見たことがある要素”と“見たことがない要素”が共存するような作品に仕上げることで、うまくいったかなと思っています。

──と、言いますと?

稲船氏:
 新しいけれど、説明がいらない──そんなゲームです。ゲームには“新しさ”が必要になりますが、新しすぎると説明が多くなりがちになってしまって、プレイヤーは疲れますよね。特にスマホゲームのプレイヤーは。

 だから、「どこかでやったことある!」と感じてもらってプレイの敷居が下がるような要素を、意図的に盛り込んでいるんです。

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『ドラゴン&コロニーズ』ハコロニークラフト画面

 たとえば、タワーディフェンスの要素や『マインクラフト』のようなクラフト系の要素、農場シミュレーションの収穫要素などなど、ですね。

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キャラクターデザインは、「変にマニアックに寄せたりはせずに。小さい子からコアゲーマーまで、万人に受け入れられるようなかたちをイメージしてデザインしました。」と稲船氏は語る。
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稲船氏は『ドラコロ』の良さとして、「他のコンテンツとコラボしやすいこと」を挙げている。コラボ先のキャラクターを出せるだけでなく、ハコロニーの面にコラボ先の建物を置いてみたりするなど、コラボ先の世界観までつくることができると言う。

──開発自体は、レベルファイブとの共同なのでしょうか?

稲船氏:
 レベルファイブからは、いろんな協力をしてもらっていますが、開発自体はLEVEL5 comceptのみで進めました。協力しているパートナーさんも、こちら主導で選んだりと、自分たちの力でやらせてもらいましたね。

──かなり自由に開発できた、と。

稲船氏:
 ええ。すごく信頼してくれて作らせてもらいました。
 とはいえ、ほったらかされたわけでもなく、日野さんのアドバイスで良くなった部分も多々ありましたし。
 良い距離感でいられて、連携が上手くいったので、ここまでのものが出来上がったんだと思います。

 じつは企画書も、開発初期から“ほぼ変更なし”でここまで来ることができたんです。「こんなゲームだったらきっと面白い」と思った企画書通り、しっかり作れています。

──企画書通りにいくなんて、なかなか難しそうですね。

稲船氏:
 たいてい、企画書を100%とした場合、90%で完成できたなら、けっこう優秀です。半分もいかないゲームが多々あるわけですよ。「最初の企画書から、だいぶ変わったよね」みたいに言われるゲームが。

──となると、『ドラコロ』は100%のゲームといったところでしょうか。

稲船氏:
 もしかすると110%、120%かもしれない。日野さんのアドバイスなどでより良くなっている部分もあるので。これはなかなかできることではないです。

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──当初、『ドラコロ』は2018年リリース予定でしたが、2019年6月になりました。時期が変更になった理由とは?

稲船氏:
 じつは2018年末の時点で、ほぼ出来上がっていましたが、日野さんと相談して「社内でβテストをやろう」ということになって、そこで出てきた不満点、改良点を半年かけてリファインしていました。

──つまり、クオリティアップのためだったんですね。

稲船氏:
 そうなります。クオリティアップのために時間をもらえたことが、すごくありがたかった。
 なかなかその決断をする経営者もいないですよ。「ここまでゲームが出来ているなら、あと2ヵ月で出そうよ」なんて考えになりがちじゃないですか。

──そこが、レベルファイブらしさなのかも?

稲船氏:
 そうそう。レベルファイブはさすがというか、やはりゲーム作りに関してのこだわりや真剣味がすごくある。

 「時間をかけてゲームを開発させる」という判断を下すのは、経営者として難しいところでしょうが、日野さんの場合は経営者としてだけでなくゲーマーとしての顔も出してくれるので、嬉しい(笑)。

──日野さんからは、「βテストをやろう」ということ以外に、何かリクエストはありましたか? 「作品の雰囲気をレベルファイブに寄せてくれ」とか。

稲船氏:
 逆に「レベルファイブは考えないで」と言われました。「作りたいものを作って」という感じです。でも結果的に、どこか「レベルファイブらしさ」も備えたゲームになったのかな、と思います。

 一方で、『ロックマンエクゼ』っぽさがちょっと感じられたりもするんですよね。

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稲船氏がカプコン在職中に手掛けた『ロックマン』の派生シリーズ。初作は2001年3月に発売されたゲームボーイアドバンス向けソフト『バトルネットワーク ロックマンエグゼ』。本家『ロックマン』とは異なる世界観、キャラクター、バトルシステムなどを採用している。
(画像は『ロックマン エグゼシリーズ』公式サイトより)

──稲船さんらしい、という部分もあるんですね!

稲船氏:
 なので『ドラコロ』は、“レベルファイブらしさ”と“僕らしさ”の両方を持っていて、自分の集大成になったかなと思っています。

『逆転裁判』『レイトン教授』のコラボ企画で、日野氏と急接近

──稲船さんと日野さんが実際にうまくやっているのか、気になっていた人も多いと思うので、雰囲気を伺えて良かったです(笑)。

稲船氏:
 確かに、僕の現状をわりと心配してくれる業界の方もいて(笑)。ただ、本当にうまくやっています。
 もともと日野さんはクリエイター仲間の中では特別視しているくらい、気が合うと思っている人なので。

──その日野さんとの最初の出会いとは?

稲船氏:
 カプコンに在籍していた頃のことです。ある日、社長と一緒に日野さんと会うことになったのが初めての機会でした。

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 ただ、そのときの僕は「こんなことをやっている人なんだー」程度の認識でした。

──そこで急接近したわけではないんですね。

稲船氏:
 ですね。その後はしばらく時間が経って、日野さん側から「『逆転裁判』とコラボしたい」という提案をいただいたんです。

──『レイトン教授VS逆転裁判』のことですね???

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レベルファイブの『レイトン教授』とカプコンの『逆転裁判』がコラボレーションしたニンテンドー3DS向けタイトル。両シリーズのキャラクターが登場し、『レイトン教授』のナゾトキパートと『逆転裁判』おなじみの裁判パートが楽しめる。発売は2012年11月29日。
(画像は【PV】『レイトン教授VS逆転裁判』PV2 – YouTubeより)

稲船氏:
 当時は、突然だったこともありお断りするつもりで、レベルファイブのある福岡へ行ったんです。

 そこで日野さんと話していたら、だんだん「この人、面白いな」と感じ始めて……一緒に飲みに行って、話をしていくうちに「この人のピュアさはすごい」と惹きこまれて。
 それで、気が付いたらコラボも「やっぱりやります」と(笑)。

 その後からは、すごくストレートに日野さんを見ることができて、すごく好きな「ゲームクリエイター、経営者」となりました。

──そういった関係があったからこそ、LEVEL5 comceptの設立が実現したということなんですね。

稲船氏:
 まさにそう。
 日野さんは、レベルファイブをひとりでここまで大きくしてきたので、ある種ワンマン的な印象を持つ人もいるかもしれない。
 でも、実際の日野さんは、そんなイメージとは違いますね。彼のパーソナリティは、全然違うところにあると思います。

──どんな印象をお持ちですか?

稲船氏:
 自分の思っていることを隠さない人。ゲームに対してのこだわりなど、変に空気を読んで言うべき場面で黙っている、なんてことはしない。ダメなときはダメと言うし。
 そこは僕も似ているところがあって、だから共感できるというか。

「1位を獲ろう!」から始まった

──日野さんと出会った稲船さんは2017年、LEVEL5 comceptを立ち上げましたが、コンシューマーゲームを企画する話にはならなかったのですか?

稲船氏:
 「稲船さん、コンシューマーを作りたいかもしれないけど、最初はアプリでどうですか?」と日野さんに言われました。

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──稲船さんの中でコンシューマーに対する未練などは?

稲船氏:
 意外に思われるかもしれないけれど、僕も「最初はスマホゲームを作りたい」という考えでした。極端に言えば「コンシューマーのヒットはもう出したので、スマホゲームのヒットを出したい」と思っていましたし。
 なので、むしろアプリをやらせてもらえるのはありがたい限りで。

──『ドラコロ』の開発が始まったきっかけとは?

稲船氏:
 日野さんが「1位を獲ろう!」と言ったところから始まりましたね。

──スマホゲームの頂点に立つ! ……相当高いハードルですね。

稲船氏:
 「もう1回言ってください」と耳を疑いますよね(笑)。普通の経営者だったら「10位、20位を目指そう」になると思いますけど。
 『ドラコロ』の開発が始まった2017年は、たとえば『モンスト』は月100億円以上も稼いでいるわけです。

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2013年10月よりミクシィから配信中のスマートフォン向けアプリ。指でモンスターを弾いて敵を攻撃していくアクションRPG。日本や台湾を中心にヒットし、2019年4月には世界累計の利用者数5000万人、国内利用者数4200万人をそれぞれ突破した。

──当時の『モンスト』は、まさに全盛期。

稲船氏:
 そんな中で1位を獲るのは簡単なことではないですし、『ドラコロ』がこれからリリースされて実際はどうなるかわかりません。でも、それを目指してやってきたつもりです。

──『モンスト』といえば、同じカプコンで活躍された岡本吉起さん【※】が手掛けられたタイトルですね。

※岡本吉起
ゲームプロデューサー。元カプコン取締役。カプコンに在職中は『ストリートファイターII』や『バイオハザード』など、多くのヒット作開発に携わる。ミクシィが提供するスマートフォン向けアプリ『モンスターストライク』の企画立案にも関わる。

稲船氏:
 すごいなと思いますね。
 僕はずっと岡本さんの元でやってきて、色々なところを見てきていますが、今でも良い意味で“彼のパワー”を感じさせてもらっています。しかも、そのパワーが桁違いじゃないですか。

 正直、僕は「ここまで行く」と思っていなかった。まったく見当違いだったので、「申し訳ないな」と思っています。

──岡本さんに、『ドラコロ』のリリースを報告されました?

稲船氏:
 いえ。岡本さんに『ドラコロ』を遊んでもらって「超えられた」と言ってもらえるものになったら嬉しいなと思っていて、そのときには日野さんと一緒に岡本さんに会いに行こうと思っています。

──稲船さんにとって、岡本さんはどのような存在ですか?

稲船氏:
 良い意味で“ライバル”だと思える存在です。出会えて良かったと思っています。それがあるから、いま頑張れているんだと思います。

──あの頃のカプコンのクリエイターは、濃い人が多かった印象があります。

稲船氏:
 そうですよね。そんな彼らと一緒にやっていて面白かったです。「すごいな」と思う瞬間が常にありましたから。

 しかも、プロデューサーとかディレクターとして名前が出ていないメンバーも、すごい人が本当に山ほどいるんですよ。

──まさにスーパースターの集まり。

稲船氏:
 でもね、岡本さんに関しては、実力だけでなく運もすごかったと思う。独立してあれほどの実績を残せる人はそんなにいないですよ。岡本さんの生き様はドラマになりそう(笑)。

尖ったゲームクリエイターは、これから生まれるのか?

──稲船さんや岡本さんのような、スーパースター的なクリエイターがどんどん出てきてほしいな、とメディアとしては感じています。

稲船氏:
 可能性はないわけじゃないけれど、時代が今と昔とで違うので、難しいかもしれません。
 どこの会社も、個性的すぎる人は簡単には採用しないでしょうから。

──上場企業はコンプライアンスの問題もありますしね。

稲船氏:
 そうそう。今の時代だとね。
 でも、そういった人が、実はすごい実力を持っていたりすることもあったりするんですよね。

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──「尖った人のほうが、面白いものを作れる」といった感じでしょうか。

稲船氏:
 我々みたいな人間がゲーム業界に入れたのは、まだ人事の基準が確立されていなかった時代ですからね。学力だけではなく、根性があるかどうか、だったりもあったので……。

──もしかしたら、インディーのような個人でやるほうが面白いクリエイターが生まれるのかも?

稲船氏:
 インディーなら、どんな人でもやれますからね。
 でも、企業でも、考え方しだいだと思うんですよね。

──考え方しだい、とは?

稲船氏:
 サラリーマン化させない、ということだと思います。企業が大きくなると、仕方がないところもあると思いますけどね。
 ある程度の地位やある程度の報酬がもらえると、「このぐらいあったら良いか」と考えてしまう人が絶対出てくるんですよ。

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──稲船さんは前々から「ゲームクリエイターのサラリーマン化が問題だ」とおっしゃっていますね。

稲船氏:
 それが、やはり業界をダメにするかなと思います。常に「攻めの姿勢を忘れちゃダメ」という意識が、サラリーマン化を防ぐ唯一の方法なんですよ。

──となると、LEVEL5 comceptはサラリーマン化していない企業ということです?

稲船氏:
 そうですね。
 日野さん自身も、サラリーマン化を嫌っていると思います。攻めていないレベルファイブ、見たことがないし、 日野さんが守りの姿勢に入る想像ができない。絶対に守らない人だと思います(笑)。
 だからこそ僕も協力したい。僕も攻め続けていければなと。

もうすぐリリースの『ドラコロ』。早く息子に自慢したい!

──攻めの稲船さん&日野さんが立ち上げたLEVEL5 comcept。その第一弾タイトルのリリースまで、あと少しです。

稲船氏:
 早く自分の子どもに遊んでもらって、自慢したいな。
 僕が『ロックマンエグゼ』を作ったときの「ヒットさせよう!」というモチベーションって、うちの息子に「一番面白い!」と言わせたい、ということだったんです。
 当時の息子は小学3年生で、ターゲット層としてもばっちりだったんです。

──身近に訴求したいペルソナがいたんですね。

稲船氏:
 息子が他のゲームそっちのけで遊んでくれる作品を作ろうと思って作っていました(笑)。
 まんまと彼は『エグゼ』にハマって「『エグゼ』最高!」と言ってくれましたよ(笑)。そんな息子も今は23歳になりました。

──まさに今、息子さんはスマホのヘビーユーザー?

稲船氏:
 そう。となると、今度は「お父さん、このアプリ面白いね。今一番はまってるよ」と言ってくれればいいな、と思っています(笑)。(了)

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 稲船氏がカプコンを去ってから9年が経とうとしているが、ムクリエイターとしての情熱は今現在も変わらず、常にゲーム開発の前線に立ち続ける姿がそこにあった。

 そして、その姿勢を今もなお貫ける環境にいられた理由に、日野氏およびレベルファイブとの出会いと理解があったからこそであることは、言うまでもないだろう。

 『ドラコロ』は、日野氏の「1位を獲ろう」という発言から始まった稲船氏渾身の自信作。

 電ファミ編集部は、インタビュー取材と合わせて『ドラコロ』を試遊することができたが、新しいのに親しみやすいゲーム性、ハコロニー上に世界を構築していく自由度の高さなど、ほかのスマホゲームにはない独自性がふんだんに盛り込まれていると感じることができた。

 『ドラコロ』の展開も含めて、稲船氏の今後に注目したい。

(C)LEVEL-5 Inc.

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 1998年に設立し、2018年で20周年を迎えたヒットメーカー・レベルファイブの社長・日野晃博さんをゲストにお迎え。
 「大好きなアニメやマンガがゲームになると、どうして原作とは似て非なるものになるのだろう」──そんな気持ちのモヤモヤを子どもの頃から抱いていた日野さんが、ついにその霧の解消に乗り出したのです。

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取材・文・編集
ムニエル
大学時代はフリーライターとしてスマートフォンゲーム、インディーゲーム、eスポーツ関連の記事を執筆。週刊誌の編集も経験する。DTMを嗜み、特にゲームBGMとクラシックを愛する。
取材・編集
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「電撃セガサターン」、「電撃PS2」、「電撃オンライン」、「電撃レイヤーズ」、「iモードで遊ぼう!」、「mobileASCII」、「デンゲキバズーカ!!」と数々の媒体を渡り歩いて来た40代ファミコン世代の編集者。好きなハードは「ファミコンバージョンのゲームボーイミクロ」。
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