【インタビュー】『428』イシイジロウの、TVドラマをゲームに変える新挑戦。「謎解きLIVE」最新回の本格ミステリ史における文脈とは?【今週土曜:NHK19時】

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 最初はささいな調査依頼や旅行だった……しかし殺人事件は唐突に起き、その場に居合わせた「名探偵」は巻き込まれていく。深まる事件の謎の中で、悩みに悩む名探偵。でも、なにかに気づいたところで、彼はにんまり。そして、くるりと視聴者の方を振り向いて聞く――「さて、あなたは真相が分かりましたか?」
 そんな典型でお馴染み、「本格ミステリ」のTVドラマで、なんとゲームクリエイターが原作者を務めるという。

 その番組は、3日後の7月8日(土)にNHKで19時から放送される「謎解きLIVE」の第6弾。データ放送を活かした視聴者との双方向の連携を試みる番組で、2013年の初回放送から従来のミステリドラマの枠にとどまらない様々な工夫を続けてきた。
 それに原作者として挑むクリエイターは、イシイジロウ氏『428 〜封鎖された渋谷で〜』『TRICK×LOGIC』などの謎解き要素の強いゲームを手がけてきた定評の高い人気作家だ。
 そこで今回の取材では、そんなイシイジロウ氏と、取材に同席した同番組プロデューサー・神部恭久氏に、これまで本職の本格ミステリ作家で制作してきた「謎解きLIVE」が、なぜゲームクリエイターを抜擢したのかを聞くことにした。

 ……という内容ではあるのだが、今回の電ファミの記事は、少しイレギュラーである!
 最初にお詫びしておくと聞き手(※筆者である)が、イシイ氏がこの番組で試みている「犯人当て」に特殊な立場から少し詳しかったこともあり、取材中に色々と補足的に説明を入れた結果、なんだか鼎談のようになってしまったのだ。
 原稿の段階で削ろうかとも思ったが、日本のサブカルチャー史に強い影響を及ぼしながらも表で知られてこなかったテーマであるのと、何よりそれへのイシイ氏の言及が非常に鋭く、ゲームクリエイターである氏がこの番組に挑む意義を示すものでもあることから、あえて残してみる(!)ことになった。
 果たして、ゲームクリエイターが「本格ミステリ」の、それもテレビドラマに挑む意義やいかに? イシイ氏の構想を聞いた。

聞き手・文/稲葉ほたて
カメラマン/佐々木秀二


神部恭久氏(写真左)とイシイジロウ氏(写真右)

――実は今日の取材、電ファミでは珍しいものでして……取材を受けるイシイジロウさんの側から「ぜひ電ファミに取材して欲しい」と依頼があったんです。一体、どういうことなのだろうか、と。

イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
 今度、僕が原作者になった「謎解きLIVE」【※1】というミステリ番組を放送するんですよ。
 これは「犯人当て」という形式の遊びをTVでやるもので、僕にとっては見慣れたものです。自分のゲームで言えば、『TRICK×LOGIC』がそうだし、TV番組で言えば「安楽椅子探偵ON STAGE」(以下、「安楽椅子探偵」)という名作シリーズも見てました。ただ、この「犯人当て」【※2】を知らない方も多いんですよ。
 しかも、実はこの「犯人当て」の源流を探ると、京都大学推理小説研究会(以下、京大推理研)【※3】という大学サークルに行き当たる。その話も皆さんに知っていただかなければと思ったんです。

※1 謎解きLIVE
2013年にNHK BSプレミアムにて放送を開始。データ放送を駆使した視聴者参加型のミステリードラマ。視聴者は、放送中に開示される追加情報を加味しながら謎解きに参加する。今作「CATSと蘇ったモリアーティ」はNHK BSプレミアムにて、7月8日午後7時から事件編が、同日9時35分ごろから解決編がそれぞれ放送される予定。

※2 犯人当て
犯人を推理する知的遊戯。基本的には「問題編」と「解答編」の2部構成となっており、読者は問題編を踏まえて、犯人が誰なのかを推理する。なお犯人当てそのものは、京大推理研が生み出したものではなく、様々な前例がある。

※3 京都大学推理小説研究会
京都大学にある推理小説のサークル。会員同士で「犯人当て」を行う伝統があり、それが新本格ブームに大きく影響を与えた。綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸、麻耶雄嵩など、数多くの有名作家を輩出している。

――な……なるほど。えっと……。

イシイ氏:
 そこから輩出された作家たちが、80年代に新本格ブーム【※1】を巻き起こし、その一人であった我孫子武丸さんという作家が『かまいたちの夜』【※2】という本格ミステリのゲームを、僕のいたチュンソフトでアドベンチャーゲームの世界に持ち込んだ。それだけじゃないです。他にも沢山の影響を京大推理研は、ノベルゲームのみならず、日本のサブカルチャーに与えたんです。そして、その系譜の進化の中に、この番組も位置づけられるんじゃないかと思うんです。
 でも、そんなことは、今や知る人ぞ知る話でしょう。それを今日は語ろうかと思いまして……って、どうしたんですか?

――ちょっと……これ、言うべきか迷ったのですが、僕(※インタビュアー)は大学時代に、その京大推理研に所属してまして……結構その歴史観は正しいと思いますし、色々と知っていることもあるのですが……困ったな。どうしましょうか(苦笑)。

一同:
 え!? そうなの。

イシイ氏:
 じゃあ、もうええやないですか。今日は徹底的に濃ゆいトークをしましょう(笑)。
 いやあ、電ファミさんはいいなあ。好き放題に話しても、ちゃんと載せてくれるもんなあ。しかも、三宅陽一郎さんのゲームAIの記事みたいなマニアックな内容が、あんなに沢山の人に読まれるんでしょ。イマドキ、こんなメディアないっすよ!

※1 新本格ブーム
1980年代から90年代にかけてデビューした若手ミステリ作家らを中心にした、本格ミステリ作品群が巻き起こしたムーブメント。京都大学推理小説研究会は、その中で大きな役割を果たした。その始まりとしては、同研究会出身者・綾辻行人氏のデビュー(1987年)が一つの目安とされている。

※2 かまいたちの夜
1994年にチュンソフトより、スーパーファミコン用として発売されたサウンドノベル第2弾。密室となった雪山のペンションで展開される殺人事件の謎を解く。我孫子武丸氏は外部スタッフとしてシナリオを担当。第1弾の『弟切草』(チュンソフト・1992)が基本的にホラーテイストのノベルであったのに対し、我孫子氏の手によって本格ミステリが導入され、これが人気を博し、大ヒットを収めた。リメイクや移植も数多くなされ、近年では2017年に『かまいたちの夜 輪廻彩声』がPlayStation Vita用ソフトとして発売されている。

そもそも「謎解きLIVE」って何!?

――ま……まあ(笑)、ちょっとお待ち下さい。とりあえず「謎解きLIVE」がどんなものかを、読者の皆さんに説明しましょう。実際、TVを見ない読者も多いと思いますし、僕も昨今のミステリからはとんと離れていて、多くの読者と立場は同じです。まずはプロデューサーの神部さんにお聞きしてもいいでしょうか?

神部恭久氏(以下、神部氏):
 わかりました。手短に説明しますね。
 一言で言えば、TVでミステリの番組を放映して、リアルタイムに視聴者に「犯人当て」をしてもらう企画です。
 その際、一つ特徴として、「今まさに事件が起こっていて、それを目撃しながら一緒に視聴者と番組側の出演者が解いていく」というスタイルで放映しています。

――昔から、謎解き要素を強く取り入れたテレビドラマはありますよね。例えば、西日本の本格ミステリファンは知ってる人も多いと思いますが、かつて綾辻行人さん【※1】や有栖川有栖さん【※2】という人気ミステリ作家が携わった「安楽椅子探偵」【※3】という、有名な「犯人当て」の番組がありました。この番組は、さらにストーリー演出のレベルで生放送感を出して、「臨場感」や「双方向性」を強化した……という感じですか?

※1 綾辻行人
1960年生まれ。日本の小説家・推理作家。京都大学教育学部在学中、京都大学推理小説研究会に所属していた。叙述トリックを得意とする。京都大学在学中、『十角館の殺人』(1987年)でデビュー。

※2 有栖川有栖
1959年生まれ。日本の作家、推理作家。同志社大学法学部法律学科卒。2003年『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞を、2008年『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞(小説部門)を受賞。「新本格」を代表する作家の一人。

※3 安楽椅子探偵
安楽椅子探偵ON STAGE。ABC朝日放送系列で放映された、視聴者参加型の本格ミステリドラマシリーズ。1999年に第1作が放送され、以来2017年1月までに、計8作まで制作・放映された。原作はすべて、作家の綾辻行人と有栖川有栖が共同執筆で書き下ろしている。

神部氏:
 他局ですが、「安楽椅子探偵」は視聴者参加型番組としては大先輩です。
 この番組を始めるときも、ああいう先行番組が持っていた「お祭り感」を大事にしたいと考えました。そこで、視聴者が事件発生を目撃するというライブ演出の要素を入れて最初の放送を行ったのが、2013年です。

初回の放映は「英国式ウイークエンド殺人事件」。このときの出演者は、みな外国人。実在する二泊三日のミステリ旅行のイベントに、推理クラブ「キャッツ」のメンバーが参加したところ、事件に巻き込まれたという体裁で、番組が放映された。「ただ、外国人だと、名前も覚えにくくて没入しづらいんですね……そこで日本向けのオリジナル脚本での番組を考えることになりました」(神部氏)

――実際に放送して、蓋を開けてみたらどうでしたか?

神部氏:
 視聴者は、しっかり「お祭り」してくれました。

 最初の放送は2013年だったので、Twitterが既に普及していた時期です。Twitterに、友達と一緒に謎解きしたことや、メモや写真がアップされました。それを見て、今度は僕たちもどんどん番組を改善していきました。最初はデータ放送で投票するだけでしたが、プレミアムメンバー限定で投稿を受け付けるようにしたり、番組HPで見られるようにしたり……そういう凝った工夫を試行錯誤しながら、今に至っています。

――本格ミステリ小説って、問題編と解決編の間のページに「お前、この謎解けるの?」と読者を挑発する「読者への挑戦状」を挿むような文化もあって、ある意味で古来よりある「参加型エンターテイメント」です。それがインターネット時代ならではのTVドラマのあり方を模索したときに、NHKが“再発見”して、しかも上手くTwitter時代にハマったということですね。

なぜゲームクリエイターが原作者に指名されたのか?

――ただ、不思議なのは今回、NHKがイシイジロウさんに原作を依頼したことです。これまで原作を手がけた作家陣を拝見すると、まさに京大推理研OBである『貴族探偵』の麻耶雄嵩さん【※1】や、『かまいたちの夜』シナリオの我孫子武丸さん【※2】、『Another』の綾辻行人さん、大山誠一郎さん【※3】のような、実力派が手がけてます。そこに、なぜ突然ゲームクリエイターが登場してくるのかな……と。

※1 麻耶雄嵩……1969年生まれ。日本の小説家、推理作家。京都大学工学部在学中、京都大学推理小説研究会に所属していた。独特の世界観でカルト的な人気を誇る。2011年に『隻眼の少女』で第64回日本推理作家協会賞、第11回本格ミステリ大賞をダブルで受賞。2017年4月にフジテレビ系でテレビドラマ化された『貴族探偵』の原作を手がけたことでも有名。画像は『貴族探偵』(集英社・2013)。
(画像はAmazonより)

※2 我孫子武丸
1962年生まれ。日本の小説家、推理作家。京都大学文学部哲学科を中退しており、学生時代は京都大学推理小説研究会に所属していた。代表作である「速水三兄妹」シリーズや、サウンドノベルゲーム『かまいたちの夜』のシナリオを手がけたことで有名。

※3 大山誠一郎
1971年生まれ。日本の推理作家、翻訳家。京都大学推理小説研究会に所属していた。デビュー作は『アルファベット・パズラーズ』(2004年)。

イシイ氏:
 これ、番組の内容に関わるので、どこまで言えるんだろうなあ(苦笑)。
 でも一言で言うと、僕はこれまでのシリーズが「謎解きゲーム風のドラマ」だったのに対して、「ドラマ風の謎解きゲーム」に変えてみたんです。この枠組みの中で「ゲーム性」を実現するようなやり方があると思って、そのアイディアを神部さんに話したんですよ。

 まあ「ゲーム性とは何か」というのは難しい話だし、結局は映像メディアでなので、双方向性と言っても、限られた範囲でしか実現していないです。でも、デジタルゲームだって、僕は基本的には映像メディアだと思っています。その中で「ゲームらしさ」の感覚を生み出すノウハウはあって、僕は今回の番組にそれをどんどん投入しています。
 でも、これ以上は言えない(笑)。

神部氏:
 せっかくインタビューしていただいているのに、こんな感じですみません(苦笑)。

「謎解きLIVE」の「イベント性」が高かった一方で、「重たい」部分をどうにかしたかったのはあります。なにせ「問題編」と「解決編」を二夜連続、90分ずつ放送するわけで、前回は一夜限りのパッケージで放送する作りに変えました。ところが時間を短くした分、多くの人が見られるようになったけど、謎解き要素が弱くなってしまった。考える時間も少なくなり、視聴者との双方向性も弱くなる。それでゲームクリエイターであるイシイさんに相談した結果が、今回の番組に繋がっています(神部氏)

 ただ、イシイさんは以前の「謎解きLIVE」で、原作担当だった我孫子武丸さんとの繋がりでゲスト解答者として出演していて、その印象がとても鮮烈だったんです。普段はNHKの長時間コンテンツなんて見ないような「ゲーム好き」の視聴者も沢山訪れたのも、新鮮な驚きでした。だから僕の中では、イシイさんに相談に行くのは自然な流れだったのですが……言えるのは、このくらいかな?

イシイジロウが番組で見せた「メタ」の推理の鮮烈

――なるほど……ちょっと残念ですが、「ネタバレになる」と言われてしまうと、本格ミステリファンは引き下がらざるをえないですね(笑)。でも、ちょっと興味深いのですが、イシイさんのどういう部分が鮮烈だったんでしょうか?

神部氏:
 イシイさんは、番組内で「メタ視点」での推理を始めてしまったんです。

 僕らとしては、作中に仕掛けた謎を作中のロジックで考えてもらい、「誰が犯人なのか?」の意見を言い合いながら、出演者の見解が割れるのを狙っているんです。ところが、イシイさんは「作者からすれば、このキャラにこういう行動をさせたのは、犯人の動機として盛り上がるからでしょ」みたいな「読み」を働かせて、どんどん出演者に絡んでいく。

 その路線に行くと「番組としてマニアックすぎるよ!」という困惑もあったのですが、そもそも本来の意図を超えて、別のレベルで推理を働かせるわけだから、番組の根幹を突き崩す行動でもある。ハッキリ言って終了後に「今後この番組はどうなっていくのか……」と考えたくらいです。

――パンドラの箱を空けてしまったんですね。確かに、邪道と言えば邪道なんですけど、すれたミステリ読みが、そういう読み方をすることはあります。2時間ドラマの配役で犯人を当てるような発想の、洗練されたものですね。「叙述トリック」【※】の見抜き方なんて典型で、過去と現在を謎に往復している不自然な構成の目次を見て、「あ、どうせ○○を誤認させるヤツね。はいはい」みたいなのはあります(笑)。

※叙述トリック
文章上の仕掛けや先入観を利用することで、読者のミスリードを誘う手法。

神部氏:
 大変に困りますよね。そういうことをされたので、もうイシイさんに責任を取ってもらうことにしたわけです(笑)。もちろん、それが凄く新鮮で、面白かったんですけどね。

イシイ氏:
 でも、僕は凄くビビって、出演してましたけどね。堀井雄二さん【※】みたいな有名人でもないのに、のこのこ出て行って、公開の場で失敗したら恥ずかしいし。

 ただ、放映後に我孫子先生から、「イシイさんはミステリ作家のような読み方で解いてないです」と言われました。
 というのも、ミステリ作家はまず「誰が殺したのか?」を中心に謎を組み立てて、そのロジックだけが重要なわけです。でも、僕からすれば、殺される動機がある人間が殺される展開になるよう伏線を張らなくちゃ、エンターテイメントとしてキャラが立たないわけで、そこから逆算して「作家なら、この人を殺した犯人としてストーリー的に面白いのは、この人だと判断するでしょ」という推理は成り立つんやないの、と思っちゃうわけです。

※堀井雄二
1954年兵庫県洲本市生まれ。アーマープロジェクト代表取締役。「ドラゴンクエスト」シリーズの生みの親で知られるゲームデザイナー。学生時代からフリーライターとして活動し、その後、アニメカルチャー誌「OUT」の読者コーナーなどを担当。『ポートピア連続殺人事件』などを手がけるかたわら、週刊少年ジャンプのゲーム紹介ページを担い、その後も「ドラゴンクエスト」シリーズ、「いただきストリート」シリーズなどゲームデザイナー業を中心として活躍中。

――まあ、コアなミステリ好きは「ルールが分かってないだけだろ!」と怒りそうですが、そもそもイシイさんはチュンソフトで『428 〜封鎖された渋谷で〜』(以下、『428』)などのサウンドノベル【※】で、あらゆるパターンの物語を選択肢で選んでいくシナリオのゲームに関わっていた人ですよね。こういう思考の働かせ方こそが、むしろ自然なんでしょうね。

※サウンドノベル
チュンソフト(当時)が生み出したゲームジャンルの一種。類似するテキストタイプのアドベンチャーゲームが、テキストとグラフィックで画面を構成することで書籍との差別化を獲得しようとしているのに対し、サウンドノベルは、ビジュアルエフェクトや効果音などの演出を伴ったテキストを読ませることが第一義にある。ノベル中の選択肢によって、結末はおろか設定までが左右されることも多くあり、このスタイルの始祖であるホラーテイストの『弟切草』(チュンソフト・1992)、ミステリーテイストの第2弾『かまいたちの夜』(チュンソフト・1994)が相性のよさを証明したことで、チュンソフト以外からのフォロワーにおいてもそれらのテイストのものが一般的となった。

イシイ氏:
 でも、ゲームクリエイターとしても、そういう振る舞いをするのが一番視聴者を楽しませられる気がしたんですよ。番組内でこの解き方をすれば、あえて作家のミスリード【※】に乗ってあげて、しっかり迷う姿を見せながらも、正解にたどり着く……なんて芸当もやりやすいじゃないですか。「犯人当て」を“魅せる”エンターテイメントと考えたとき、視聴者だって、この方が楽しい気がするんですよ。

※ミスリード
ここでは「読者が誤った解釈をするよう作者が意図的に誘導する」というミステリの手法を指す。

――イシイさんは、「ゲームクリエイター人狼会」【※】などで、お客さんを呼んで公開の舞台で人狼を行う「魅せる人狼」を最近、積極的に手がけられていますよね。そう考えると、イシイさんらしい発想ですね。

※ゲームクリエイター人狼会……イシイジロウ氏が主催する、人狼ゲーム好きのゲームクリエイターの集い。イシイ氏が「人狼TLPT」という、人狼ゲームとアドリブの演劇が融合した“魅せる人狼”の舞台を観劇し、感銘を受けたことで発足。
(画像は【人狼】ゲームクリエイターvs人狼TLPT 2/7より)

イシイ氏:
 それに、この番組は「安楽椅子探偵」のような従来のミステリ番組より「ゲーム的」なんですよ。
 多くの本格ミステリは「犯人当て」という謎がただ一箇所だけ、しかも問題編の全体に細かく細かくヒントが散りばめられているじゃないですか。「安楽椅子探偵」も基本的にはそうで、この一点集中的に謎が存在する形式は、確かに「本格ミステリ」的な謎解きと相性はいいと思います。
 でも、逆に「ゲーム的な謎解き」の発想とは、必ずしも相性は良くない。というか、本格ミステリの推理は、ゲームクリエイターの視点では、人間がプレイするには「長すぎ」なんですよ。

 ところが、この番組は最後の犯人当てまでの中間地点に、いくつもマイルストーンが置かれています。そして、それを選択肢のなから選んで、少しずつ進めていく。選択肢があるのも重要で、つまりは思考の範囲が無限ではないんです。ゲームデザインの発想が応用しやすいんです。

では、テレビゲームとテレビドラマの違いとは?

――だんだん本題に入ってきたので、ここで少しテレビや小説のようなメディアと、ゲームというメディアの差がどこにあるのかを掘り下げていきたいです。イシイさんにも、神部さんにもお伺いしたいところです。

神部氏:
 そういう意味では、今回のシナリオ作りの話が面白いかもしれないですよ。我々テレビマンは、本当に頭を抱えたんですから。

 これを見て欲しいのですが、なんとイシイさんがトリック監修として連れてきた、ブレーンのゲーム作家の方は、全てのキャラクターのタイムテーブルについて、いきなりExcel表を作ってしまったんです。

――これ、いきなり見せられたら、面食らいますね(笑)。

神部氏:
 それを僕たちは四苦八苦しながら、Wordで書かれたシナリオに落とし込みました(笑)。
 そして、まさにゲームとテレビの違いとは――このExcelとWordの違いではないでしょうか。僕たち、テレビの世界、あるいは映画や小説の世界で生きている人間は、物語を「一本の線」で考えるんです。そして、最初のシーンはこう入って、次のシーンはこうして……と、メリハリやトーンを調整しながらストーリーを構成していきます。「謎解きLIVE」でも、これまでのミステリ作家さんは、さすがにテキストで提出しています。イシイさんたちは、本当に異質な発想で生きているのだなと思いました。

イシイ氏:
 Wordで書かれるような文章は、言わば「一次元」のメディアなんです。そして、ほとんどのゲームも、一つの物語を歩んでいくだけの一次元のものです。でも、それが『かまいたちの夜』のように分岐していくと、リニアな線がどんどん選択肢で分岐して、平面上の樹形図として広がりを見せていくイメージになりますね。いわば一次元から「二次元」になっていくわけですよ。

 その自由度を把握できるかは、ゲームクリエイターと小説家を分けるポイントだと思います。そして、その肝をいかに映像作品に入れるかが、今回の課題でした。しかも今回のトリック監修は、伊東幸一郎という『428』と『TRICK×LOGIC』【※】のシナリオディレクターですからね。何かあると、「はい、ここで矛盾があります」とシビアに直しを入れてくるわけですよ(笑)。

※TRICK×LOGIC
2010年にチュンソフト(当時)より発売された、プレイステーション用の推理ノベルゲームシリーズの総称。綾辻行人、有栖川有栖、我孫子武丸、竹本健治、大山誠一郎、麻耶雄嵩、黒田研二ら計7名の作家がシナリオを手がけた。同作は、綾辻行人と有栖川有栖の共同執筆によるTVシリーズ「安楽椅子探偵」から着想を得ている。

神部氏:
 もう本当に大変で……(笑)、僕たちドラマ業界は、基本的に同時進行を細かいところまで矛盾なく構築するのが苦手なんですよ。

――ミステリ作家でも、必ずしもタイムテーブルを作っていないことは多いと思いますね。でも、この作り方は、確かに堅牢な謎解きを可能にしますが、ミステリとしての面白さを決して保証するものではないような……。

神部氏:
 そうなんです。
 矛盾がないことに拘っても、コンテンツとしての魅力がなくなる可能性はある。それは、まるで全然違うプロトコル【※】のソフトウェアを結びつけるような、大変な作業でした。

※プロトコル
本来の意味は「規定」、「議定書」など。ここではデータ通信における規約や手順など、コンピューター用ソフトの通信フォーマットを念頭に話している。

――これって、チュンソフトの「街」【※】や『428』のような一部の傑作を除いて、実はザッピングを採用したゲームに、意外と名作が聞こえてこない問題とも関係していないでしょうか。確かに、可能性の問題として「二次元」のストーリー分岐をいくらでも想定できるけれども、人間の感情というのは結局、目の前の体験に対してリニアに一次元で起伏していくもので、それを全ての分岐に対して提供するのは難しいのでは……と思ってしまいます。

※街
1998年に発売された、チュンソフトのサウンドノベル第3弾。当初セガタサーン用として『サウンドノベル 街』という名で発売され、のちにプレイステーション(『街 ~運命の交差点~』・1999)やPSP(『街 ~運命の交差点~ 特別篇』・2006)などにも移植されている。前述の『428 ~封鎖された渋谷で~』などと同様、物語をザッピングしながら進めるが、『428』以上に主人公8人のそれぞれの物語が独立したものとなっていた。

イシイ氏:
 なるほど。
 具体的な作り方を言うと、『428』なんかは、まずは一次元の時間軸の中で主観のうねりのようなものを想定しながら、一つの物語を作っていきました。それで、まず最初にある程度、メインの面白さを保証してしまいます。

――面白さが保証済みのメインルートを、先に作ってしまうんですね。

イシイ氏:
 その上で、今度は起こっている出来事をバラバラに分解して、ひたすらに分岐可能性の中で面白さを考えていくんですよ。
 ただ、そのときに二重の発想をクリエイターは要求されるんですね。それは、この世界がプログラミングで動いているように捉えることだと言ってもいいかもしれない。ゲームクリエイターなら、この言葉の意味は分かると思います。その分岐の中でカメラを置いて面白いかどうかを考えつつ、今度はあらゆる分岐の外側に視点を置いて、複数の分岐の中でプログラムが矛盾なく作動しているかも同時に把握する。僕たちは、ひたすらそれを検証していきました。

――そこまで行くと、確かに通常のドラマ作りの発想とは違うように思います。では端的に言うと、イシイさんはゲームと映像の違いはどういう点にあるとお考えなのでしょうか?

イシイ氏:
 その違いは――時間軸を往復して移動できるかだと思いますね。
 ノベルゲームが分かりやすいですが、ゲームではユーザーが時間軸の中を往復して、複数の可能性を実際に体験する実装ができるんです。つまり重要なのは、時間軸がリニアかシーケンシャルか、一次元か多次元か、です。そして、そのような物語は単なる文章では決して記述されず、プログラムの力を使うことによってのみ記述可能なのだと思っています。

 逆に言えば、違いはそれだけかもしれないですよ。例えば、「ゲーム実況」はゲームを録画によって映像化したものですが、アクションゲームですらも、それで十分に「ゲーム性」って楽しめますからね。サッカーの試合を見ているだけでも、面白さが結構伝わってしまうのと同じことだと思います。

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