ハリウッドの実写映画では、アメコミを代表するヒーローたちが連合チームを結成し、スマホアプリの世界では、アニメやコミックの人気キャラクターが登場するコラボイベントが、どのゲームでも当たり前のように行われている。現代のエンターテインメントにおいて、異なる作品世界のキャラクターが集結する「クロスオーバー」は、もはや定番の手法と言えるだろう。
このクロスオーバーの手法を25年以上に渡って続けてきたのが、シミュレーションRPGの『スーパーロボット大戦』(以下、『スパロボ』)シリーズだ。第1作の発売から26年を経てタイトル数も80作を超えた、この『スパロボ』シリーズは、まさにその先駆けとも言える作品だろう。
といっても『スパロボ』シリーズのクロスオーバーは、最近流行のマーケティング重視によるコラボとは、本質的に異なっている。
原作となるロボットアニメのストーリーや設定はもちろんのこと、制作スタッフや出演声優の小ネタまで熟知した上で、原作のストーリーを再現しつつ、そこから「夢の顔合わせ」によるオリジナル展開へと発展させていく。原作を知るファンは、複数作の共通点を巧みに絡み合わせる手際に感嘆し、原作を知らない人でもそのアニメを思わず見てみたくなる。これこそが『スパロボ』のクロスオーバーだ。
そんな『スパロボ』シリーズ最新作『スーパーロボット大戦V』が、が2017年2月にPS4/PS Vitaで発売されている。それを語るにあたり、今回はTYPE-MOONの奈須きのこ氏に、シリーズの顔役である寺田貴信氏と話していただいた。
奈須氏は、ビジュアルノベル『Fate/stay night』のシナリオを執筆した人物。古今東西の歴史・伝説上の英雄たちが「サーヴァント」として現代の日本に召喚されて、マスターである魔術師とともに聖杯戦争を戦うという、『スパロボ』にも相通じるクロスオーバー要素を持つ名作だ。その後もシリーズは人気を博し、今や累計900万ダウンロードを突破する高い人気を獲得しているスマホアプリ『Fate/Grand Order』では、ついに登場するサーヴァントの数が150騎以上にのぼり、そのスケールも圧倒的になった。
そんな奈須氏が、実は『スパロボ』シリーズの大ファンだという。今回の対談は、奈須氏の『スパロボ』に対する「愛」が随所にほとばしる、熱気あふれるものとなっている。シリーズに参戦したロボットアニメから、オリジナルのメカやキャラクターまで、マニアックな固有名詞が次々と飛び出してくる“濃さ”は、この顔合わせならではと言えるだろう。
対談では、日本のキャラクターコンテンツが、これからどこへ向かうべきなのか。そして、それはどう「ゲームで」表現されるべきかなどが、熱く語り合われた。『スパロボ』のクロスオーバーに匹敵するような、最強のマッチメイクをお届けしたい。
奈須きのこと『スパロボ』の出会い
――読者には奈須さんが『スーパーロボット大戦』シリーズ【※】のファンだと知らない人も多いと思うんです。ちなみに、奈須さんはロボットアニメは、どのくらいお好きなのですか。例えば、好きな作品の名前を挙げていただけると、読者にもわかるんじゃないかなと。
※『スーパーロボット大戦』シリーズ
1991年に第1作が発売された、シミュレーションRPGシリーズ。ゲームボーイで発売された第1作は、擬人化されたロボットたちが敵に制御されたロボットたちを説得しつつ戦うという、現在とはやや異なる内容だった。同年にファミコンで発売された『第2次スーパーロボット大戦』以降、パイロットがロボットを操縦し、原作を再現したストーリーがクロスオーバーして進行する、現在みられるようなフォーマットとなった。
奈須きのこ氏(以下、奈須氏):
好きな作品は、『勇者ライディーン』【※1】です。毎回冒頭で、2人の敵幹部が「今週のオレの推しはコレだ!」ってロボットを戦わせて、勝ったほうが今回のライディーンの敵になるという斬新な展開【※2】で、開始3分で超面白い(笑)。それはともかく、ちょっとオカルトの要素も入っていたので、いずれ伝奇物を書くようになる人間としては、何か惹かれるものがあったんでしょうね。
※1 勇者ライディーン
1975〜1976年に放送されたTVアニメ。1万2000年前にムー帝国を襲った妖魔帝国が復活。主人公・ひびき洸(あきら)はムー帝国が生み出したライディーンに乗り込み、これに立ち向かう。後に『機動戦士ガンダム』を手がけることになる富野喜幸(現・由悠季)氏が、初めてロボットアニメのチーフ・ディレクター(前半のみ)を務めた作品である。
※2
監督が富野氏から長浜忠夫氏に交代したシリーズ後半より、妖魔帝国の新幹部として、豪雷巨烈と激怒巨烈の兄弟が登場。番組の冒頭で互いの巨烈獣を戦わせて、勝利した側がライディーンに勝負を挑むという展開が繰り広げられた。物語の終盤では兄弟の巨烈獣を合体させた、合体巨烈獣も登場する。
でも、自分は放送当時、初代『ガンダム』を見られなかったんですよ。子どもの頃はアニメを見せてもらえなかったので。なので、劇場で『機動戦士ガンダム III めぐりあい宇宙編』【※3】を見た時、現実感を失いました。映画が終わった後も、いつまでも劇場に残っていたい、と思ったほどに。でも、じつは『伝説巨神イデオン』【※4】は、『スパロボ』でしか知らないんです。
※3 機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編
1982年に公開された映画で、劇場版第3作に当たる。劇場版三部作は、テレビアニメの初代シリーズを再編集して制作されたもので、本作は31話から43話(最終話)を下敷きにしている。アニメ映画としては大ヒットを収め、同年の興行収入では、アニメ部門の一位を記録している。
※4 伝説巨神イデオン
『ガンダム』に続いて、富野喜幸(現・由悠季)氏が総監督を務めるロボットアニメ。『ガンダム』の放送終了直後である1980年にテレビアニメ版が放送された。放送当時は商業的な不興により半ば打ち切りを余儀なくされたが、アニメ業界にはその影響を公言する者も多く、現在に至るまで熱狂的なファンが多い。
寺田貴信氏(以下、寺田氏):
そうなんですか!?
奈須氏:
それを先輩のゲームクリエイターに言ったら、「お前はいちばんスゴい富野監督を見ていない」って怒られました(笑)。
結局16歳を過ぎてから、相棒の武内(崇)【※1】に「今度ガイナックスの人たちがNHKでアニメをやるんだ。これを見なければ絶交だ!」って言われて。それで『ふしぎの海のナディア』【※2】を見たら、「アニメ面白れ〜!」ってなったんです。
※1 武内崇
1973年生まれのイラストレーター、同人作家。中学時代からの友人である奈須きのこ氏らと共に、2000年に同人サークルである「TYPE-MOON」を立ち上げ、『月姫』のキャラクターデザインを担当。のちに大ヒットとなる『Fate/stay night』シリーズを始めとするキャラクターデザインも担当している。「TYPE-MOON」を法人化したゲーム制作会社「ノーツ」の代表を務めている。
もともと小説家を目指してはいたのですが、あの頃にガイナックス作品に出会わなければ、こっちの世界には入っていなかったかもしれないですね。その後、武内から「ゲームを作らないか」と誘われて、それは文字の世界からゲームの世界に浮気をするということだから、それならゲームの世界に骨を埋めるぐらいの気概じゃないと自分はやらないって。当時はカッコつけてたんですねぇ……結局、こっちに骨を埋める事になりましたが。今は毎日が楽しいです!
――なるほど。シリーズにハマったのは、どの作品からですか?
奈須氏:
自分がハマったのは、スーパーファミコンに移植されてからですね。『第4次スーパーロボット大戦』(以下、『第4次』)【※】が、ものすごく面白くて。
それまではクロスオーバーものは各々の世界のキャラクターを“ユニットとして使っているだけ”だと思っていたんですよ。ところが『第4次』をプレイしてみたら各々の『作品世界』を成立させながら、それらを統合して新しい「ロボット世界」を作っていた。それだけでなく、オリジナルの主人公が4人も用意されていて、この世界にあなたの分身がいるんですよという前提がしっかりと設定されていたんです。
寺田氏:
オリジナルの主人公が最初に登場したのが、『第4次』なんですよ。発売後のアンケートで、「アムロに自分の名前を呼ばれてすごく嬉しいです」といった感想をたくさん頂いて。
奈須氏:
あっ、そうなんですね。それでちょっと遊んでみたら、自分でも信じられないぐらい熱中してしまって。
そこからシリーズを追いかけ続けるようになりました。当時は『マジンガーZ』【※1】どころか、『機動戦士ガンダムZZ』【※2】すら古いという状況だったんですが、その古いフォーマットの作品を、今の技術で最新のものとして見せるんだという気概が、とても嬉しかったんです。
※1 マジンガーZ
漫画家・永井豪氏による漫画作品、及びロボットアニメ。テレビアニメ版は、1972年から74年にかけて放映された。悪の科学者 Dr.ヘルから地球を守るため、主人公の兜甲児は、祖父の遺したスーパーロボット・マジンガーZに乗り込み、悪と戦っていく。人型ロボットを人間が操縦するタイプの「巨大ロボットアニメ」の起源とされる作品であり、放映当時のヒットはもちろん、後世にも多大な影響を及ぼした。2018年1月には新作映画の公開が決定している。
※2 機動戦士ガンダムZZ
『ガンダム』シリーズの3作目。監督は富野由悠季氏で、1986年から87年にかけて放映された。前作の『機動戦士Zガンダム』の続編にあたり、第一次ネオ・ジオン抗争をめぐる物語にフォーカスが当てられた。
『スパロボ』は当初、メジャーなタイトルではないという自覚があった
――では、このままスパロボの誕生秘話に入っていきましょう。『スパロボ』が誕生した1991年の当時、『マジンガーZ』や『ゲッターロボ』【※】といった作品は、既に過去のものという雰囲気があったんですね。そういう中で、ロボットやキャラクターが共演する作品を開発することには、何か目算があったのですか?
※ゲッターロボ
漫画家・永井豪氏と石川賢氏による漫画作品、及びロボットアニメ。テレビアニメ版は、1974年から75年にかけて放映された。『マジンガーZ』と『仮面ライダー』のヒットを受け、「ロボット」と「変身」の混交を東映のプロデューサーが提案したことが企画の発端となり、史上初の「合体変形ロボット」が誕生した。
寺田氏:
それがぜんぜんなくて。スタートした時は「そんなもの売れないよ」と言われましたね。
――そうだったんですか。
寺田氏:
当時のバンプレストは、新しいキャラクターを追いかけるのが中心でしたから。なので、4作目ぐらいまでは常に、終了の危機がありました。『第4次』で終わる予定だったはずが「次もやれ」と言われて、そこから改めてシリーズが始まった感じですね。
だから、『第4次』には「これで最後だからやっちゃえ!」という勢いで入れちゃったものが多いんですよ。オリジナル主人公とか、カラオケモード【※】とか。
※カラオケモード
『スパロボ』シリーズのオプションのひとつ。ゲーム中の戦闘シーンの映像の上に歌詞が表示され、ゲームに収録された原作の楽曲の多くをカラオケで歌えるようになっていた。『第4次』で初めて採用されて人気を博し、『スーパーロボット大戦α外伝』まで収録されていたが、現在同モードは廃止されている。
奈須氏:
カラオケモード、好きでした(笑)。1ステージクリアしたらお茶を煎れるがてらカラオケモードを流して口ずさんでいましたとも。オリジナルの主人公機にも歌があるのが嬉しかった。
寺田氏:
僕は当時から、「カラオケボックスに行けばええやん」と言っていたんですけど(笑)。
そんな感じだったので最初の頃は、メジャーなタイトルではないという自覚がありました。「昔のロボットアニメを今扱ってどうするの?」と言われても、「だって好きだからしょうがない」みたいな感じで。要は自分たちのやりたいことをやると。わかってくれる人がきっといるはずだ、というスタンスでしたね。それで続けてきた結果が、今に至るわけです。
――「ロボットアニメ好き」の想いのままに、好きなものを詰め込んだ作品だったんですね。では、新旧のスーパーロボットが共演するという突き抜けた発想も、その延長線上にあったのですか?
寺田氏:
もともと「コンパチヒーローシリーズ」【※】という、仮面ライダーとガンダムとウルトラマンが共演するシリーズがありまして。それぞれのキャラクターがまわしを締めて相撲で対決するとか、そういうノリのゲームでした。
※コンパチヒーローシリーズ
ウルトラマン、ガンダム、仮面ライダーなど、さまざまなヒーローキャラクターが作品の枠を越えて共演するゲームシリーズ。1990年に発売されたファミコン用ソフト『SDバトル大相撲 平成ヒーロー場所』を第1作として、2003年にかけて多彩なゲームジャンルで展開された。また、2012年からは「新コンパチヒーローシリーズ」として、新たなタイトルがリリースされている。
仮面ライダーは1号、2号、V3と登場してきましたし、ウルトラマンはウルトラ兄弟じゃないですか。僕らはそういうものを当たり前に見て育ってきたので、偉大な先輩方を見習って、それをスーパーロボットに置き換えてみよう、という発想だったんです。
『Fate』シリーズ【※】もそうだし、『アベンジャーズ』もそうですけど、英雄たちが集結する物語というのは、それこそ『西遊記』や『水滸伝』の頃からあるものですよね。人類は昔からずっと好きなんですよ、この手のお話が。
奈須氏:
『スパロボ』が本当にスゴいところは、マネージメント能力だと思うんです。
それぞれがスター級の作品なので、ゲームの中で版権キャラクターが死亡してしまったり、酷い目に遭わせたりすることは基本的にできない。でも50時間以上に及ぶ長い物語で、メインキャラクターを1人も脱落させずに最後まで持っていく。この縛りの中で面白いシナリオを構築するのは至難の技だと思います。それを1回きりで終わらせず、シリーズとして続いて、毎回「こうきたか!」と唸らせてくれるのは、本当にスゴい事なんです。
寺田氏:
ありがとうございます。
奈須氏:
『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)【※1】で、自社作品のスピンオフではあるけれどもKADOKAWAさん扱いの『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』【※2】とコラボした時に、確認事項がすごくたくさんあって。自社作品でこれだけ大変だということは、他所様の版権を扱う時はとんでもないことになるぞ、と。
※1 Fate/Grand Order
2015年よりサービスを開始した、iOS/Android用RPG。主人公が3騎のサーヴァントを率いて戦うターン制コマンドバトルの戦略性と、100万字を超える圧倒的ボリュームのメインストーリーを堪能できる。2017年5月時点で累計900万ダウンロードを突破し、中国や台湾でもサービスが行われているほか、北米での英語版の配信も予定されている。
それを考えると、『スパロボ』に登場するヒーローたちはそれぞれの世界の看板を背負っているスター級です。本当に制約が多いでしょう。それら綺羅星(きらぼし)の如き主人公を一つの作品にまとめ上げるというのは、並外れたマネージメント能力がないとできない。ゲーム制作はもとより、並外れた外交力がないと成立しない作品です。
――スパロボは、「どうやって権利者に交渉しているんだ?」というのを謎に思っている人は多いと思います。
寺田氏:
でも僕らは、原作者の方々が心血を注いで作られたものを、互いの接点を見つけて接着しているだけなので。『Fate』みたいに膨大な世界観を、イチから構築しているわけではないですから。
もちろん原作ものなので制限は多いですが、産みの苦しみというのは、完全オリジナルのゲームとは比べものにならないですね。マジンガーZもガンダムも、僕らが考えたものではないので。既に存在しているキャラクターの力をお借りして、盛り上がっていく話を作るだけなので、どちらかというと接着剤でプラモデルをどうくっつけるか、みたいな感じですね。
原作ものでアレンジが効かないというのは、長所でもあり短所でもあります。自分がもし『Fate』のような作品を作れと言われたら、英霊の元になった人たちの、歴史上の設定に縛られてしまう可能性があると思うんです。でも『FGO』だと、「なんでこの人は頭がライオン【※】なの?」っていうのがあるじゃないですか(笑)。
奈須氏:
そこは自由ですから(笑)。
寺田氏:
それだけ自由な発想で作られているオリジナル作品の『Fate』を、『スパロボ』と並べて語るなんて、おこがましすぎて何も言えないですよ。
奈須氏:
各作品のスターを預かる『スパロボ』と、自社ラインが許す限りで好きにできる『Fate』シリーズでは、近いようでいて、やっていることは違うでしょうね。
自分は『第4次』からハマって、特にハマったのが『スパロボα』シリーズ【※1】なんです。『FGO』が始まってからはなかなか時間が取れなくなって、最新作の『スーパーロボット大戦V』【※2】はまだプレイできていないんですけど。
『α』シリーズ完結編の『第3次スーパーロボット大戦α 終焉の銀河へ』では、スター級のキャラクターを揃えた上で、彼らが全員で倒すに値する強敵、倒すに値するステージをどんどん用意していって、ここまでやったらこの先はないな、これで完全に『スパロボ』は終わるんだろうなと、誰もが思ったはずなんです。でもその後、しっかりと『スパロボZ』シリーズ【※3】などに続いていくんですけど。あの「今やることを全力でやればいいんだ、その後のことはなんとかなるさ」という心意気は、今、『FGO』にも引き継がれております(笑)。