11月1日から11月4日にかけて、『モンスターハンターワイルズ』(以下、『ワイルズ』)のオープンベータテスト(OBT)が全世界で実施され、大きな反響を呼んだ。(PSプラス加入者のみ10月29日から先行プレイ)
ゲーム序盤のストーリーや新モンスター「ドシャグマ」の討伐クエストが体験できたほか、複数機種にまたがったオンラインマルチプレイが可能だったことでも話題になったOBT。プレイヤーによるプレイやフィードバックを受けて開発陣は何を感じ、発売までにどういった調整を行うのだろうか。
『モンハンワイルズ』を心待ちにする誰もが抱く疑問について、なんと電ファミ編集部では『ワイルズ』開発陣に直接インタビューする機会を得た。今回取材に応じていただいたのは、いずれも長年に渡って『モンハン』シリーズの開発に携わる重要メンバーである、辻本良三プロデューサー(辻は一点しんにょう)、藤岡要エグゼクティブディレクター、徳田優也ディレクター。
OBTの結果や反響を踏まえた上での今後の調整方針はもちろん、『ワイルズ』が目指したシームレスなゲーム体験と「自然の二面性」を描き出すという目的意識、シリーズを通した世界観への掘り下げに関する言及など、きわめて興味深い内容を聞くことができた。
なかでも、武器に関して「操虫棍、ランス、スラッシュアックス、片手剣」の4種が名指しされ、「手触りの面も含めて」調整されると明言されたことは、既存のプレイヤーにとっても非常に大きな意味を持つだろう。
なお、弊誌では本インタビューと同日に行われたメディア向けプレビューの内容をまとめたレポートや、先行プレイ動画も公開しているので、興味のある方はぜひこちらの記事もチェックしてほしい。
〇インタビュイープロフィール
『モンスターハンターワイルズ』プロデューサー
辻本良三氏(辻は一点しんにょう)『モンスターハンターワイルズ』エグゼクティブディレクター藤岡要氏
『モンスターハンターワイルズ』ディレクター
徳田優也氏
※インタビューは他メディアとの合同で行われました。
SNSで大きな反響を呼んだキャラクターメイク。“盾を構えた時の顔”は「想定外」のため、今は調整の真っ最中
──10月29日から11月4日にかけて実施されたオープンベータテスト(OBT)は全世界で配信され、大盛況となりました。キャラクターメイクの自由度が非常に高く、SNSなどで注目を集めていましたが、ああいった反響は実施前から予想されていましたか?
藤岡氏:
『ワールド』の頃から、みなさんがさまざまな表現をされている様子を僕たちも「面白いな」と思いながら見ていました。表現にすごくこだわってキャラクターを作られた方がゲームを遊んでも、しっかり満足してもらえるよう、『ワールド』でいただいた意見も反映させながら、さらに一歩踏み込む形で取り組みました。
おなじ「かわいい」でも、人それぞれで様々な「かわいい」がありますし、細かい部分でも自分なりの表現ができて満足が得られれば、それがしっかり没入感に繋がっていきます。なので、キャラメイクの表現にはかなり注力していましたし、そこもかなり遊びこんでもらえた印象でした。
みなさん、面白いことを楽しんでされてたのがかなり印象的で、すごく手応えを感じられたテストでしたね。
──一方で、OBTでは「せっかく可愛いキャラを作っても、盾を構えると顔の印象が変わってしまう」という話題も、SNSなどで面白おかしく語られていました。こういった特定動作中のビジュアル表現は、今後どうなりますか?
藤岡氏:
ぶっちゃけて言うと、「盾を構えた時の顔」については想定外の仕込みになってしまった部分もありますので、そういった部分も見直しをします。どうしても開発中は見きれない部分があり、今回のテストでさまざまな方に触ってもらったことで見えてくる部分もあったので、もう一歩進んだ形で調整しようということで今取り組んでいる最中です。
辻本氏:
盾を構えた時にカメラをキャラクターの顔に向けるってプレイは、普通に遊んでいるとなかなかする機会がなく、気付き難い所がありました。我々も「ああ、こんな顔してたんだ。ちゃんと調整しよう」と思いました。
それも含めて、OBTから比べてかなり広い部分に手を入れようとしていますので、製品版ではみなさんの想像以上に変わっていると思っています。
──あと、一言だけ答えていただきたいんですが……今回、何がとは言わないんですけど、揺れますよね。
藤岡氏:
揺れ……ますね。
──ありがとうございます。本当にありがとうございます。
オープンベータの結果を受けておこなわれる調整は広範にわたる。武器面では特に「操虫棍、ランス、スラッシュアックス、片手剣」で、手触りも含めた向上を目指す
──OBTの手応えはどうでしたか?たとえば、新機能であるクロスプレイなどに関してもテストがおこなわれましたが、その感想などがあればお聞きしたいです。
辻本氏:
OBTではクロスプレイだけでなく、ネットワークを介しておこなっていた様々な機能について技術的な検証をしました。大きなトラブルもなく終了できてよかったですし、あの時期にテストできたことにも大きな意味がありました。
また、テスト全体を通して、日本だけでなくグローバルですごく大きな反響をいただいたという感触を得ています。そのなかでも様々なご意見をいただいてますし、想定通りに伝わった部分もあれば想定と違う感触のものもあります。しっかりと情報を集めて改善すべき部分は改善していこう、という話をチーム内でしているところです。
藤岡氏:
今回のOBTはいままでの『モンスターハンター』のテストや体験版と異なり、自由に遊べるクエストと序盤のストーリー、二種類を用意してどちらも体験していただく形式をとりました。
これは序盤の導入の仕方であったり、本作の世界観にどう入っていってもらえるかをチェックしたかったからです。本作はキャラメイクから物語を通じてモンスターに到達するまでの流れが、シームレスにどんどん展開していきます。その流れをいかにスムーズに進められるか、というのはかなり注力して作ったので、みなさんにもスムーズに楽しんでいただけたようで安心しました。
本作はストーリーを一気に遊んでもらえるように考えて作っていますので、この作りを調整しきったうえで製品版をみなさんにお届けできればと思っています。
──ベータテストの結果を受けて「広い範囲で手を入れる」とのことですが、11月頭におこなわれたベータテストから発売日である2025年2月28日まで、調整に費やせる期間は限られていると思います。開発が現在どういう段階にあるのかと、予定している調整内容について聞かせてください。
辻本氏:
仰る通り、『ワイルズ』発売まであまり日がありませんので、開発の状況はかなり終盤です。ですが、ベータテストを受けて「ここは修正しておいた方がいいな」と思ったところには手を入れたいですし、自分たちの意図通りの遊び方になってない所に関しては、逆に長所を伸ばすように変えた方がいい部分などもあります。
多くの方が気にされている武器回りもふくめて、具体的にどのような調整が入るのかというのは、ベータテスト後に寄せられたみなさんの意見を踏まえて、製品版でどうなるか、後日まとめてみなさんにお伝えをできる場や、タイミングを作ろうと思っています。
──武器については、ベータテストを踏まえてどういった変更が予定されていますか?
徳田氏:
もともとベータテスト以前から「製品版ではこう調整しよう」と考えていた部分も多々ありますし、ベータテストの結果を受けて手を入れていく部分もあり、一概に「ここがベータテストの影響だ」と言うことは難しいのですが……。武器については、武器の個性が我々の意図通りに出るよう、しっかり個性を伸ばしていく調整をいれていきます。
また、「武器格差」と呼ばれる数値面でのバランスについても、エンドコンテンツも見据えた状態で大きく調整を入れていきます。ベータテストでは不具合も散見されましたので、そういったところにも手を入れ、より遊びやすい状態を目指していけると思っています。
特に操虫棍、ランス、スラッシュアックス、片手剣。このあたりは手触りの面も含めて向上させ、製品版とベータテストではかなり違いが出るような調整を入れていきます。
──コンシューマ版のベータテスト期間中、テスト初期にはなかった「パフォーマンスモード」が実装されました。この実装は想定通りのタイミングだったんでしょうか?
徳田氏:
そうですね。まず基本の状態を定めないと、パフォーマンスやフレームレートを優先したモードは作れません。ですから、グラフィック優先・解像度優先のものをまず作ってから、テストのタイミングでフレームレート優先のものを入れさせていただきました。
正直、テストのタイミングでは描画の不具合や不都合も残っていて、毛や髪の毛の表現にジャギのようなものが出るなど、想定とは違う画像や画質になってしまったところがあり心苦しいんですが、リリースの状態ではフレームレートを含めてさらに改善していきますので、ご期待いただければと思います。
──OBTのオンラインマルチプレイでは、プレイヤーが「ロビー」に集まる形式でした。これは製品版でも継続され、過去作のような「集会場」は無くなるという理解でよろしいでしょうか。
徳田氏:
はい。ロビー構造に関しては、OBTから製品版でさらに機能を追加し、より使い勝手のよい形にはしていくものの、大枠としては最大100人が集まり、そのなかから同じフィールドにいる16人が表示されるという形を達成していきます。
集会場そのものはありませんが、友達と同じロビーに入ることは当然できますし、「プライベートロビー」という、IDを共有した仲間だけが入ることのできるロビーも存在します。やろうと思えばその仲間だけで100人のロビーを構築することもできます。100人が入れて、うち16人が表示されると考えると、『ワールド』の時よりもある種パワーアップしている部分もあると思います。
同じサークルのメンバーにだけ伝わるサークルチャットのようなコミュニケーションツールも用意していますし、今後ロビーについては更なる追加機能も検討していますので、今後の情報発信もチェックしていただければと思います。
欧米圏ではなぜか「操虫棍」を選んだユーザーが多かった? ベータテストで人気だった武器や初心者向けの武器に関する、開発陣の見解を聞いてみた
──本作『ワイルズ』では冒頭に主人公の扱う武器が大剣になっています。武器の種類も多いシリーズだけに「初心者向けの武器はどれなのか」はユーザーのあいだでもときおり話題になる印象ですが、本作では大剣が初心者向けの武器としてデザインされているんでしょうか。
藤岡氏:
確かにイベントのなかでは象徴的な武器として描いていますが、『モンスターハンター』シリーズにおいて、一概にどれが初心者向けの武器と言えるか、というのは難しい部分だと考えています。
手触りが軽快であれば初心者向けの武器かといえば、その分攻撃力が低くなってうまく立ち回らなければいけない側面もあり、どの武器にも必ずメリットとデメリットが存在します。ですから、「これが初心者向けです」と伝えるよりは、アルマの「どういう武器が好きですか?」という質問のような形で、なるべく自分の特性に合ったものへと誘導してジャンル分けをさせてもらってますね。
一方で、重くてもオールマイティに使える大剣というのは、『モンスターハンター』シリーズにおいて必ずその武器から調整を始めていく武器でもあります。長く調整されている分、『モンスターハンター』のゲームデザインにかなりマッチした武器になっています。そうは言いつつも、やはり「重い武器は苦手」という方もいるので、今回は質問しながら好きな武器を選んでもらう表現にしました。
──ベータテストにおいて、人気だった武器などがあれば教えてください。
藤岡氏:
やっぱり、太刀ですかね。
徳田氏:
個人的に面白かったのは、質問形式でどの武器が好きかを聞いていった結果、アメリカとヨーロッパでは操虫棍を選ぶ方が多かったんですよね。これは日本やアジアとはちょっと違う傾向で、なにかひきつけるものがあったんだと思うんですが、まだ分析しきれていません。
──海外ユーザーにはボウガンを使う方も多いような印象がありますが、どうですか?
徳田氏:
そうですね。『ワールド』も含めてですが、海外のプレイヤーにはシューター系のゲームで遊んでいる方も多く、ボウガンを最初に選ばれる方も多い傾向はあります。
メディア向けとしては非常に珍しい“6時間超”の先行プレイ。その狙いは「シームレスなゲーム体験と没入感」を感じてもらうこと
──今回のプレビューツアーはメディア向けに6時間以上という長時間のプレイ時間を用意する、非常に珍しい形式です。率直に言って、開発者の押し出したい部分を見逃すかもしれないという怖さがあります。よければ、お三方に今回のバージョンで注目して欲しいポイントを教えていただけますか。
藤岡氏:
さきほども少し触れましたが、本作は物語がシームレスに展開していきます。キャラクターたちがおこなう様々な会話のなかにプレイヤーの操作するハンターも加わり、話を進める一員となるわけです。その上で、プレイヤーが自分の作ったキャラクターに感情移入をして、世界観やストーリーを楽しんでもらえるか、という部分はかなり気にしています。
ゲームを遊ぶ際になにを主眼にするかはプレイヤーのみなさんの自由ですが、やはり物語や世界観がその主眼のひとつになることはあると思っています。
遊びながら様々なことを覚えてゲームを進めて行く、というのはひとつの大きな柱になるはずで、その部分をどう感じてもらえるかというのはずっと気にしています。僕たちが今回描きたいと思っているお話をどう捉えられるのかというのも、やっぱり気になっています。
徳田氏:
僕はお話も含めた部分で、『ワイルズ』の新しい世界というか、人間も含めた生態系にハンターが入っていって、その世界の謎やモンスターとの関係性を築いていく──という部分を描きたいと思っています。
モンハンの遊びはしっかりと維持しながらも、新たに昇華した部分というのを感じていただきたいですし、新しい満足感や楽しさというものを提供できているかどうかをすごく気にしていますので、そのあたりに気付いていただけたら、発信してもらえるとすごく嬉しいです。
辻本氏:
まだ調整が入るとはいえ、今回はすごく製品版に近いバージョンで遊んでいただいています。序盤からゲームの流れを体験できるので、シームレスなゲーム体験と没入感を一番に感じていただきたいなと思っています。
この“シームレスなゲーム体験”には非常にこだわっていますので、ゲーム自体も没入して、ずっと続けてプレイできるような形を感じてもらえると思います。遊んでいて「辞め時が分からない」という風になってもらえるというのが、ひとつの目標でもあります。
今回は5~6時間という短い時間ですが、そこを感じ取っていただけると嬉しいなと思います。
──取材の前にプレイさせていただき、カットシーンの豊かさに驚きました。過去作と比べて、カットシーンの長さというのはどのぐらい長くなっていますか?
藤岡氏:
制作しながらの感覚としては、管理しなくてはいけないトータルの物量自体は過去作からそれほど変わってないと思います。ただ『ワールド』の時は尺が全部でどの程度あるか、という長さを気にしながら作っていました。でも、今回は最終的に「尺管理を気にしてられねえ!」ってなったんです。
『ワイルズ』には様々なキャラクターが登場しますし、自分も含めて喋りながら、舞台の説明やお話の重要な部分を伝えたり誘導したりをする都合上、どうしても会話劇が増えています。その会話をただぼーっと見ていてもつまらないので同時に物事を描こうとすると、どうしても1本1本の尺は伸びてくると思います。
それでも退屈に感じることのないよう、いらない間や冗長な表現があればカットして、コンパクトにはしているんですが……どうなんでしょうね。最後までプレイしたらどのぐらいになるんだろう?
辻本氏:
十分だと思いますよ。
徳田氏:
カットシーンの前後をイベント会話で繋いでいってますから、演出的な時間自体は伸びてるところはあると思います。
辻本氏:
これまでのようにストーリーデモならストーリーデモ、とくっきり分かるようにするのではなく、そこもシームレスに流れていくので、その分を長く感じてもらっているのは、僕としてはむしろプラスな感じられ方だと思います。
藤岡氏:
そうですね。移動しながら会話することもありますから。
徳田氏:
もちろん会話だけでなく、カメラで様々なものを見たり、キャラクターの関係性を描いたり、手を変え品を変え、飽きない形で世界の情報にアクセスできるような形を目指しています。
──シームレスなゲーム体験は、時に「ソロで遊ぶもの」としてプレイヤーに認識されることもあるかと思いますが、『モンハン』シリーズの大きな魅力であるマルチプレイとシームレスなゲーム体験の両立についてはどのように考えていますか?
徳田氏:
ストーリーを遊んでいるときには、ひとりで見ていただかないといけない部分というのはありますので、そこはそれぞれの端末で演出を見ていただき、進行状況を揃えていただく必要はあります。
一方で、「リンクパーティ」という機能を使えば、同じ進行状態であればパーティメンバーが個別に演出を見た上で、片方が先行してクエストに入ったとしても、自分もクエストを受けられる状態になれば後から一緒にクエストに入っていって、ともにクリアフラグを満たすことができます。
OBTでもそうでしたが、ストーリーを見ていただくターンだけでなく、ある程度自由に遊べるターンをしっかり設けていますので、演出などは個別に楽しんでいただきつつ、リンクパーティ機能も活用してクエストやモンスター、素材などを目指して一緒に遊んでいただけると思います。
序盤はストーリーが多めですが、ゲームが進行するにしたがって、モードの違いとでも言うような、遊び口の違う部分にも触れていただけるようになりますし、そのようにして両立させているつもりです。
目標としていたのは「自然の脅威と豊かさのコントラスト」。細部までこだわったアニメーションと演出で「自然の二面性」を克明に描き出す
──『ワイルズ』は『モンスターハンターライズ』と同じゲームエンジンを使っているとお聞きしましたが、一見した限りではそうとは思えないほどの違いがあります。『ワイルズ』を作るうえで、過去シリーズと差別化して「こういったビジュアルを目指そう」みたいな方針などはあったのでしょうか。
藤岡氏:
今作は「自然の二面性」、自然の脅威と豊かさをコントラストを持って表現しようというのを初期から目標にしていました。そこに、人間や自分自身がどう絡んでいくのかを表現することで、いままで以上に『モンハン』の世界の豊かさや大事にしている部分が伝えられるのではないかと。
そのためには、お話だけで伝えようとしてもなかなか上手くいきませんので、鬱蒼としている部分はより鬱蒼とした色味、豊かな時にはよりカラフルな色味が出るように調整して、二面性が印象的になるように、トータルでモンスターハンターの世界として印象的に感じてもらえるように意識しています。
今作では「荒廃期、異常気象、豊穣期」というサイクルが存在し、それぞれでどんどんと自然の表情も変化していきます。トータルで見ればいつもの『モンハン』の世界だと感じてもらえると思いますが、個別に見ていくとかなりコントラストの効いた絵になっていると思いますので、そういった表現ができるように注力しています。
辻本氏:
たとえば、「緋の森」は特に二面性というものが強く表現されていますので、ぜひプレイの際にはそういう部分でも注目していただけたらと思います。
──『ワイルズ』のクオリティの高さ、作り込みの凄さには本当に驚いています。ピッケルで鉱石を掘った時にパラパラと結晶が落ちていくアニメーションなど「こんなところまで作り込んでるの!?」という感動がありました。開発チームとして、アニメーションや描写を頑張った場所や見てほしいポイントがあれば教えてください。
藤岡氏:
本当に、どれだけ作ったか……(笑)。
ちょっとしたことでもデザイナーがかなり凝った作りをしてくれるものですから、「こっちももうちょっと出来ひんの」みたいなのを提案してみたりして、細かい表現まで作り込みましたね。
どのぐらいあるかな。ゲーム内で採取できるものでも、その都度細かい表情が違うとかは、多分遊べば遊ぶほど出てくるんじゃないかと思います。環境生物にも細かい表現をたくさんしていますので、変なところで擬態していたり、あるいは食虫植物のように鳥を捕まえる様子だったり。「この環境ってこんなにダイナミックなんだ」というスケール感を感じてもらえるんじゃないでしょうか。
わざわざ探して見ようとすると大変かもしれませんが、遊んでいるときにたまたま目にして嬉しさを感じられるようなものもかなり仕込んでいます。モンスターの動きを追いかけている時、環境生物をじっと見ているとき、あるいはプレイヤーの何気ない行動のなかにも、そういったものは見つけられると思います。
──『ワイルズ』をプレイしていて、「モンスターの死体が腐敗する」要素や「小型モンスターを倒して放置しておくと骨になる」などの描写を見て非常に驚きました。このような、世界をリッチに描く演出は随所に散りばめられているのでしょうか。
徳田氏:
これまでの『モンハン』はクエスト単位でデータをリセットしていましたが、今回はここもシームレスに、ずっと環境が遷移していくということに挑戦したいという思いがありました
。また、骨塚というものの成り立ちを考えると、死体の処理の際にそのまま消えていくのではなく、一部がそういった骨塚になってそこから素材を取る方が自然なのではないかという思いは昔からありました。
今回のゲームでは、技術的な進歩と目指したいところがタイミングよく合わさって表現することが出来ました。「自分が関与しなくても場合によってはそういったことが発生する」。それこそがナラティブであり、世界に深みを与える要素になるのではないかと考えています。
実利的にもプレイヤー的にも、「さっきモンスターが暴れていたからもしかしたら骨塚ができてるかも」みたいなことを思いながら遊んでいただけたら、楽しんでもらえるポイントになるのではないでしょうか。
──こういった要素の利用はゲームプレイにおいて進行上必須になってくるのでしょうか。
辻本氏:
必ずそれをやらないとゲームが進まないとか、そういうことはありません。
徳田氏:
あくまでプラスアルファ、プラスオンですね。骨の話で言っても、過去作と同じような場所が固定された骨塚というものも用意していますので、そういうところで最低限は入手していただくことができます。その上で、さらにプラスオンで発生する骨みたいなものも、楽しみながら入手していただけたらと思います。
──もともと『モンハン』は環境や生態系を強く意識したタイトルですが、今作『ワイルズ』ではそういった環境面の表現もかなり実現できているという実感が、チーム内にあるということでしょうか。
藤岡氏:
そうですね。『ワールド』で取り組んだアニメーションや表現の延長線上で、しっかりと技術が乗ってきているという良い実感はありますね。アニメーションひとつ取っても、色んな表情がシームレスに出るような作りにデザイナーが取り組める環境が構築できているのは間違いないと思います。
徳田氏:
モーションで言うと、エモートや採取などこれまで止まった状態でしかできなかったことが、歩きながらやセクレトに乗りながらすることができるようになっています。今回はセクレトに乗りながら遊ぶことがすごく多くなりますので、同じ行動であっても乗った状態でもやりたいよね、みたいなところは結構頑張って、技術制御からやってくれましたね。
藤岡氏:
プレイしていて気付いた方もいるとは思うんですが、テントのなかでオトモとじゃれ合ってる時、「かまう」というボタンを押すとどんどん内容が展開していくんです。ちょっとしたことですが、テントのなかでも楽しんでもらえると、我々開発チームの取り組みについても発見していただけると思います。
世界観や設定については開発者の間でも「僕たちが関わってる間に色んなものを整理した方がいい」と話題になっていた。過去作と繋がる描写にも期待大
──今回の作品では、過去作との繋がりを匂わせるような要素が見受けられます。また、登場人物のアルマは考古学に長けているという設定がなされており、『モンハン』という大きな枠組み、世界観設定を掘り下げるような気概を感じているのですが、『ワイルズ』は『モンハン』の世界の繋がりを描いていく足がかりになるのでしょうか。
藤岡氏:
徳田とはよく「僕たちが関わってる間に色んなものを整理した方がいいよ」という話をしています(笑)。「できるタイミングでしっかりやっておきたい」というところで、ちょっとずつではありますが、自分たちがディテールを持って作れる部分、作りたいと思っている部分など、様々な部分に手を入れられたらなと思っています。
徳田氏:
その意気込みでやったのは間違いないですね。設定も含めて一度掘り起こしていますし。しっかりとやっていきたいです。
──一方で、OBTや今日のプレビューでは本作の音声としていわゆる「モンハン語」を選ぶことができませんでした。これは、製品版でも存在しないのでしょうか。
藤岡氏:
製品版にモンハン語のオプション選択があるかないか、という意味だと「ない」です。ただあの世界に存在していないのかというと、描写としては残しています。
何気ないNPCの会話とかのなかに、モンハン語という音を入れるようにはしています。あくまでも自分たちが体験しているのはローカライズされた言葉なんだ、というニュアンスで作っていますので、世界観からモンハン語を無くしているということではないです。
辻本氏:
あくまでも、ボイス選択としては入れてないということです。
罠や閃光玉を駆使して助けてくれるサポートハンターに、乗っているだけで目的地まで連れて行ってくれるセクレト。どんどん便利になるモンハンが、それでも大事にしている「生活感」と「生き物感」
──『ワイルズ』では「サポートハンター」と呼ばれる、一緒に戦ってくれるNPCが存在します。このNPCの強さや性能について聞かせてください。
徳田氏:
サポートハンターに関しては、一般的なハンターさんたち4人で遊んだ時と比べると時間効率は落ちる、という形を目指しています。ですが、「ちょっと気が付くハンター」とでも言いますか。罠を張ってくれたり、閃光玉を撃ってくれたり、いわゆるサポート力の高い人たちで構成されているようなイメージですね。一緒に遊んでいて気持ちよくプレイしてもらえるような強さの調整を目指しています。
ほかにも、プレイスタイルによってたとえば「傷は自分で破壊したい」とか「サポートハンターにはモンスターに乗ってほしくない」みたいな部分に関しては、オプションから設定することができるようになってますので、プレイヤーの皆さんの遊びやすい形で体験していただけたらと思います。
ちなみに、サポートハンターが力尽きても、ミッション失敗のカウントは進みませんのでご安心ください。
辻本氏:
プレイしていただくと分かると思うんですが、サポートハンターはかなり序盤から使えるようになっています。これは、初めて『モンハン』をプレイされた方のなかには「いきなりマルチプレイには行きにくい」という方もいたので、そういった方々でも序盤からサポートハンターを呼ぶことでマルチ体験をしていただけるようにしています。
──気兼ねなくマルチでのプレイ感覚が得られるのは、初心者にも久々の復帰勢にも喜ばれそうですね。
辻本氏:
そうですね。まずは感覚を味わってもらうというのがすごく大事なことだと思いますから。
──本作で登場するセクレトは非常に便利で、昔から遊んでいるプレイヤーとしては「ここまで便利で本当にいいのだろうか?」と思ってしまう部分もあります。本作やセクレトに限らず『モンハン』はシリーズを重ねるごとにどんどんと便利になっている側面もありますが、それぞれの作品で「どこまで利便性をよくするのか」という判断に関する難しさというのはあるんでしょうか。
藤岡氏:
便利にすると言っても「お肉を食べるのはやりたいよね」とか「武器は使ったら研がないとね」など、そこに生活している感じの世界観は残したいと思っていますね。何気ないことなんですが、そういうのはゲームデザインとしても表現としても残したいです。
セクレトも便利なんですが、僕らがこだわっているのは「生き物と触れ合ってる」という感覚です。オトモもそうなんですが、生き物とコミュニケーションを取っているという感じをどのぐらい描けるのか。そこがまどろっこしくならないようにもしたいですが、一方で利便性を追求しすぎて機械のようなものと触れあっている、という見え方をするのも嫌なんです。
とにかく、セクレトは「生き物を作るつもりでやろう」ということで取り組んでもらいましたね。
徳田氏:
セクレトに関しては、ほかのゲームのマウントにおける操作とはちょっと違う癖を入れてるんです。
僕らとしては「セクレトが匂いを嗅いで、目的の場所まで連れて行ってくれる」とか「放置してるとなんとなくハンターが望んでいそうな場所をセクレトが考えてウロウロしてくれる」みたいな、あくまで生き物として、NPCとしてのセクレトを表現するという操作をデフォルトにしています。
もしほかのゲームのマウントのような操作をしたい場合は、これもオプションで選択していただければと思うんですが、僕らの意図としては生き物としてのセクレトを表現したいというものです。
──サポートハンターやセクレトといったゲーム内の挙動を含めて、オプション設定の豊富さにとても驚きました。こういったアクセシビリティ的な「プレイヤーごとの好みにあった調整ができるように」という部分にも力をいれたんでしょうか。
徳田氏:
すごくたくさんのユーザー層の方が遊んでくださっているタイトルですし、リビング環境でもデスクトップ環境でも、それぞれの環境でしっかりと『モンハン』を楽しんでいただける形にしたいです。というところで、オプションやアクセシビリティは『ワールド』以上に充実させた形にはしています。
ベータテストを踏まえて、製品版で変更された部分については「ちゃんとお伝えする場を作りたい」。発売を目前に控え、開発者から読者へのメッセージ
──最後に、発売を楽しみにされている読者の方へメッセージをお願いします。
徳田氏:
『ワイルズ』は今まで以上にパワーアップした生態系、人間を含めた生態系を描くことに挑戦しています。それ以外にもアクションなどあらゆる面がパワーアップした『モンスターハンター』になっている自信がありますので、ぜひ遊んでいただきたいです。
藤岡氏:
今回僕はアートディレクターという立場で参加させていただきました。デザイナーのひとりひとりが細かい表現まで本当にこだわって、最後まで突き詰めてくれた結果としてこの世界観、今回の舞台が作られています。
何気ない表現が事細かく描かれ、それがこの世界の下支えとなって様々なストーリーを生んでいるので、そういったところをじっくりと見てゆっくり遊んでもらえたら嬉しいです。本当にちょっとした表現のなかに発見のあるゲームになっていると思うので、そういうのが好きな方を含めて、みなさんにぜひ楽しみにしていただけたらと思います。
辻本氏:
このインタビューは12月に公開されるということで、2025年2月の発売までまだ数か月あります。その間、もちろん楽しみに待っていていただきたいんですが、発売までにお伝えしなくてはいけないこととか、まだお見せしていない部分については随時情報を出していきますので、ぜひそちらも注目してください。
また、OBTを踏まえて製品版で変更された部分については、さきほども言った通りちゃんとお伝えする場を作りたいと思っていますので、ぜひそちらの方もしっかり見ていただいて、情報を得ていただけたらと思います。
スタッフが本当に頑張って終盤の開発を進めているところです。なんとしても良い形で発売日を迎えられるよう頑張りますので、みなさんもう少々お待ちください。(了)
シームレスな形で脅威と恩恵、自然の二面性を描こうという取り組み。セクレトやサポートハンター、豊富なオプション設定によってより多くの人が遊びやすい形にしようという気遣い。その上で、シリーズの世界観を掘り下げていくという既存のプレイヤーへの目配せも忘れない。
インタビュー内で徳田氏も言及していた通り、「あらゆる面でパワーアップ」した『モンハン』を世に送り出そうという開発陣の熱意が、読者の皆様にも伝わっていれば幸いである。
また、大盛況に終わったOBTを踏まえ、製品版で変更された部分をユーザーに「お伝えする場」が用意される、という辻本プロデューサーの言葉は非常に興味深い。どのような場が用意され、どのような情報が公開されていくのか。弊誌でも、続報については積極的に報じていくつもりだ。
謎多き“禁足地”へと赴き、住民やモンスターたちとの邂逅を果たすアクションゲーム『モンスターハンターワイルズ』は2025年2月28日よりPC(Steam)、PS5、Xbox Series X│Sに向けて発売予定。弊誌ではほかにも、本インタビューと同日におこなわれたメディア向けプレビューツアーの体験レポートや先行プレイ映像、カプコンスタジオの見学会レポートを公開しているので、ぜひこちらもチェックしてみてほしい。