謎めいた『スパロボ』の制作過程に迫る!
――では、そろそろ『スパロボ』の制作過程に迫っていきたいと思います。新作を作る際は、まず何から始めるのでしょうか?
寺田氏:
参戦作品を決めることです。「こういう作品が出ます」というのが決まらないと、シナリオが書けないんですよ。
――参戦作品が決まったら、その次は?
寺田氏:
『スパロボ』の場合、味方側にものすごいメンバーが揃っているので、それと戦うオリジナルのラスボスをどうするかが問題なんです。
だからまず、今回の参戦作品の中でいちばんスケールの大きな物語はどれか? という話をするんです。たとえば超銀河帝国と戦った後に、そこらへんのオッサンと戦えますか、ってことですよ(笑)。まぁ、それもアリかもしれないですけど、その場合はそこに至る流れが納得できるだけの伏線を、張り巡らさないといけないですから。
奈須氏:
最初にボスを決めて、着地点を決めてからシナリオに取りかかるわけですね。
寺田氏:
「あとでラスボスを考えよう」は基本、ないですね。ゲームなので、ボスをどうするかは大事なので。
奈須氏:
自分はもう、霊帝というかケイサル・エフェス【※】が出てきた時点で参りました。
※ケイサル・エフェス
『スパロボ』シリーズに登場する星間国家、ゼ・バルマリィ帝国の真の支配者で、霊帝と呼ばれる。『第3次スーパーロボット大戦α 終焉の銀河へ』のラスボスとして登場する。その声はアニメシンガーの草分けで、『スパロボ』シリーズにも縁の深い水木一郎氏が担当している。
寺田氏:
えっ!? そうなんですか?
奈須氏:
あそこでまさか、水木一郎さん【※】を持ってくるとは! と驚きました。ヤツの攻撃やセリフがまた、本当に格好良かったんですよ。『α』シリーズの最後にふさわしい、すごいクライマックスを見せてもらって。ラスト前の展開と敵が、その作品にふさわしい壮大さを持っていると、永遠に心に残るんです。
※水木一郎
1948年生まれの歌手。「アニキ」の通称で親しまれ、「アニソンの帝王」の異名をもつ。代表曲の『マジンガーZ』の主題歌をはじめとして、数多くの楽曲の歌唱をこなす。声優やナレーター、作詞作曲業を務めることもある。
ラスボスには毎回悩んでいる
寺田氏:
ありがとうございます。でもラスボスに関しては、全部が成功したとは思っていないし、むしろ個人的には失敗したほうが多いと思っているぐらいなんです。
「根源の悪とは何だ?」というのを僕らも考えているんですけど、「全てを作った神です」というのは、『勇者特急マイトガイン』【※】という先達に、究極の手を使われてしまって。アレは本当にスゴいですから。あの時代にアレを見てしまったがゆえに、僕らはあそこまでの境地にはたどり着けないですね。
今はシナリオを書くことはあまりないんですが、思いついたラスボス案を書き留めたりはしています。いいボスを思いつくことができれば、「この作品は上手くいきそうだ」と思いますし、オチをどうしようかなぁと迷っている作品は、やっぱり迷走しますね。
※勇者特急マイトガイン
1993〜1994年に放送されたTVアニメで、『勇者』シリーズの1作。主人公の旋風寺舞人(せんぷうじまいと)が勇者ロボ・マイトガインに乗り込み、悪と戦う。本作の最終回で、旋風寺舞人と対峙した悪の黒幕ブラックノワールは、自らを「三次元人」と称し、舞人たちは「二次元世界」のゲームのコマでしかないと語るという、メタフィクション的な展開を迎える。劇中ではその意味を深く掘り下げることはないが、最終回のエンディングでは、結婚式を挙げた舞人とヒロインの姿を描いた「セル画」が登場する。
奈須氏:
そうですね、テーマとボスは表裏一体ですから。自分の場合は、ボスがキッチリとテーマを生かし切って、物語の結論を出せるものじゃないと、そもそも書き始められない。「このボスならこのテーマが書ける」と固まった時点で、自分の中でようやくゴーサインが出るというところでしょうか。
寺田氏:
「いいラスボスの作り方」って本が出たら、ほしいですよね(笑)。
奈須氏:
それをマニュアル化しちゃうのは良くないですよ。我々のおまんまの食い上げになりますから(笑)。でも『スパロボ』はシリーズを重ねていますから、ボスのレパートリーを考えるのは大変でしょうね。
寺田氏:
1回考えてポシャったのは、オリジナル主人公がラスボスだ、というものなんです。「プレイヤーが育てた主人公のレベルが、ラスボスの強さに直結するんだ!」と言ったら、スタッフに「それ、プレイヤーさんが怒りますよ」と返されて。映像作品や小説ならアリでしょうけど、ゲームでそれをやると、まぁ『スパロボ』なら怒られますよね。
奈須氏:
プレイ時間が30時間を超えちゃうと、変化球は許されないでしょうね……。今のゲーム環境だと20時間でも厳しいかなぁ。ゲームに使える時間がどんどんと減ってきているので。
寺田氏:
ロボットアニメの場合、ラスボスをどう倒すか、倒す前にどんなやり取りをするか、みたいなところで十分に成立しますけど、ゲームはそれを自分でやっちゃうので、難しいですよね。アクションゲームなら、自分で操作して倒すという部分もあるとは思いますけど。
かといって、原作キャラクターを喰ってしまうような、強すぎるラスボスを出すのもやり方によっては不評になりますし……。
奈須氏:
『スパロボ』はそこが難しいですよね。個人的には、版権キャラ40ユニット全てを向こうに回しても全滅させるような超チートボスでいいじゃん、と思うんですけど。作り手としてはここまでやりたいんだけど、それをやるとユーザーさんが怒るから抑えておく、という絶妙なバランス感覚が、『スパロボ』の大切なところなんだと思います。
『スパロボ』とは、ユーザーの「夢」の具現化である
――敵側の制作プロセスについては見えてきた気がするのですが、逆に「味方側」はどうなのでしょうか。大変そうに見えるのですが。
寺田氏:
敵と違って味方側の顔ぶれは、自分たちだけで調整できないんです。今この作品が人気なので参戦させましょう、という意向もありますし。
奈須氏:
「次の『スパロボ』では、ユーザーさんはきっとこの作品を求めている」というのをチョイスする枠は、だいたい何枠ぐらいあるんですか?
寺田氏:
それも時代によって違いますね。昔はわりとシンプルに決められたんですけど、今はアンケートを採った結果、人気が高いので参戦させましょうという作品や、今度新作の展開があるので参戦させましょうという作品もあるので、そういった意向を全部調整して、初めて参戦作品が決まります。
――外部の意向も大きいのですね。そこはプロデューサーの腕の見せ所かもしれないですが、参戦作品を好きに選べないのは、クリエイターとして大変な部分も多いのではないでしょうか。
寺田氏:
基本、ロボットアニメで自分が嫌いな作品というのはないんです。ただ、僕も一応シナリオを書くので、一回でいいからライターの都合だけで参戦作品を決めてみたいですね。シナリオを書くのが比較的ラクになりますし。
奈須氏:
確かに、趣味全開でいけますからね。怖いけど、きっと楽しい(笑)。
寺田氏:
『超時空世紀オーガス』【※】という作品があるんですけど、これは究極の世界混在型のアニメなんです。物語の舞台にいろんな世界が転移してきて、パッチワークになっているので。
※超時空世紀オーガス
1983〜1984年に放送されたTVアニメで、『超時空要塞マクロス』に続く『超時空』シリーズ第2作。主人公・桂木桂(かつらぎけい)が作動させた時空振動弾によって、地球は多元世界が混在する「混乱時空」となってしまう。20年後の地球に飛ばされた桂は、時空修復の鍵を握る「特異点」として、各陣営が彼を奪い合う争奪戦に巻き込まれていく。
放送当時も衝撃的で、これはいつか『スパロボ』で使いたいと思っていたんですけど、究極の手法の一つでもあるので。というわけで『Z』シリーズでは、『オーガス』の設定を使わせていただいて多元世界の話をやりました【※1】。銀河の彼方にいる人たちを地球圏に呼び込むとか、『コードギアス 反逆のルルーシュ』【※2】のシンジュクゲットーで『装甲騎兵ボトムズ』【※3】のAT乗りがバトリングしているとか、そういった話をまとめるのにすごく悩んで「『オーガス』の設定を借りよう」って。
※1
『スパロボZ』シリーズ1作目の『スーパーロボット大戦Z』より、『超時空世紀オーガス』が参戦。時空振動弾によって生じた多元世界は、『スパロボZ』シリーズの世界観の根幹になっている。
※2 コードギアス 反逆のルルーシュ
2006〜2007年に放送されたTVアニメ。神聖ブリタニア帝国に占領された日本は「エリア11」と呼ばれ日本人は「イレヴン」と蔑まされてゲットーに押し込められている、という世界設定で、謎の少女C.C.から絶対遵守の力「ギアス」を与えられたルルーシュ・ランペルージが、母の死の真相を探りブリタニア皇帝である父への復讐を遂げるため、神聖ブリタニア帝国への反逆を開始する物語。
※3 装甲騎兵ボトムズ
1983〜1984に放送されたTVアニメ。そのハードボイルドな語り口とミリタリー描写によって、「リアルロボットアニメの最高峰」との呼び声も高い。ちなみに「バトリング」とは、AT同士で行われる賭けバトルのこと。