保井俊之氏「ゲームを創る力を上げるには」
続いて保井氏と、らむらむ氏の講演内容の要点をまとめたものを見ていこう。
『ゴッドイーター』【※1】や『フリーダムウォーズ』【※2】のコンテンツディレクションなどを手掛けた保井俊之氏は、過去にソニー・コンピュータエンタテインメントが行っていたゲームクリエイター発掘プロジェクト「ゲームやろうぜ!」をきっかけに業界に身を置くこととなったひとり。
ゲーム制作と並行し、“テンネン”という名前でボカロPとしても活動を続ける保井氏が、ゲームを作る力を上げるために提案したのは、ずばり“ボカロPVを作ってニコニコ動画に投稿すること”と“ゲームを作ってRPGアツマールに投稿すること”だった。
※1 ゴッドイーター
2010年2月4日バンダイナムコゲームス(当時)のナムコレーベルによって発売されたPlayStation Portable用アクションゲーム。および、そのシリーズ名を指す。ゲーム、小説、アニメ、アプリ、ラジオなどの媒体で展開されている。人類の天敵「アラガミ」を相手に、人類の最後の切り札「ゴッドイーター」として戦う。4人チームで巨大な敵を狩るゲームシステムが特徴。
※2 フリーダムウォーズ
正式タイトルは『FREEDOM WARS フリーダムウォーズ』。保井俊之氏がディレクションを務めたPlayStation Vita用3Dアクションゲーム。制作開発はシフト、ディンプス、SCEジャパンスタジオの3社協業で、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアから2014年に発売された。敵を倒すという対象の「排除」だけでなく、捕らわれた市民を敵の手から救出するという「奪還」の要素のあるシステムが特徴。
なぜ動画を作るべきなのか
保井氏は、ゲームは、絵や音、キャッチコピーなどで一瞬にして伝わる“インパクト”と、ストーリーやゲームシステム、ゲームサイクルなど、時間をかけてプレイすることで伝わる“コンテンツ”で構成されていると示し、ゲーム制作はもちろん、動画制作でもこれについて学ぶことができるとアドバイス。
加えて、ゲームをディレクションするとき、絵や音、動画に関するスタッフへの指示出しには迅速かつ的確な応答が求められるため、制作工程を網羅して理解できていることが重要と、みずからの経験則を述べた。
また、動画を作る過程で、自分の中にあるコンセプトを先鋭化できるメリットもあると語った。
とにかくたくさん作る
ゲームはとにかくたくさん企画し、きちんと最後まで完成させることが重要。保井氏が携わったPSP用ソフト『ピポサルアカデミ~ア』【※】はミニゲーム集で、1年という開発期間内に100以上ものミニゲームの企画を練り、実際に50種類製品版に収録されたという。
氏にとってはこれが非常に勉強になり、のちのちのゲーム制作にも活かせるノウハウを築き上げた経験となっている。また、“ひとつの遊びを深く掘り下げるより、ふたつの遊びを組み合わせたほうがおもしろくなる”という、実体験での発見が語られた。
なお、50種類のミニゲームを収録する際には、横並びにするのではなく、ゲーム上の設定である“学校”になぞらえて時間割のように組み立て、ビンゴゲームを仕組んだという。
このビンゴゲームをクリアすると1年から2年に上がり、それを積み重ねて6年までランクアップしていけるというゲームサイクルも考案。保井氏はこうした『ピポサル』制作で、“遊び”が“掛け算”でどんどんおもしろくなっていくことを理解できたと述べた。
余談だが、「ピポサル」シリーズの続編を出すにあたり、「つぎは100種類ね」とディレクターに言われ、そのとおりの数作ったこともいい思い出だと語った。
フィードバックを得て分析する
動画やゲームを作ったら、公に発表して、見ず知らずの人から意見やコメントをもらう。そして自問自答をし、問題を解決するサイクルを作るのが大事だと保井氏。第三者からさまざまな反応を受けるなかで、クリエイターとしての自分のモチベーションを高めるために、今後の長期的な制作活動の計画を立てるといいという。
「人の意見はどのくらい聞くべきか?」という参加者からの質問に対し、保井氏は「精神衛生上悪くない範囲で。なぜなら、自分の健康は自分で保たないといけないから」と回答。
そのなかで、「言われて痛かったところや、ズレを感じたところを大事に考えるべき」、「イエスかノーかではなく、もらった意見全体の9割の傾向を見て、自分の創作に役立てる意見を拾う。何もかも聞きすぎてはダメだ」という、実感の籠もったアドバイスを披露していた。
ムダな経験なんてひとつもない
モテたくてバンドを組んだり、演劇や同人文芸をやっていた学生時代をふり返り、当時はまったくモテなかったが、10年経ったいま、それらの経験がゲーム制作で大いに役立っていると保井氏は語る。
「初めて作って、恥ずかしくて人に見せたくないような創作物も、自分がやり続けてきた証や戒めとして公開するべき。やったことは絶対にムダにならない。
ヘタでも、模倣でもいい。自分なりの方法論を見つけることが大事。慣れないことも3ヵ月でほぼ身について、半年でひととおり見えて、1年でまあまあできるようになるもの。2年目ぐらいからは、いよいよ本来の才能が発揮できるはず。
「続けることで、あれもこれもできてきたと実感が湧くはず。それが自分に対する報酬です」と講演を締めくくった。
「ゲーム制作においてアガる瞬間とは」らむらむ氏の場合
保井氏よりも参加者に近い立場でゲーム制作に携わる、らむらむ氏。
ここからは、氏が手掛けたアクションRPG『悠遠物語 ~空の大陸とアイテム屋さん~』を軸に据えた講演のまとめをお届けしよう。
らむらむ氏が考えるアガる瞬間とは
そもそもお題の“アガる”という言葉はどういう状況を指すのか? らむらむ氏はこれを、“テンションがアガる瞬間”と捉えて分析。ガチャを回して超激レアを引き当てたり、強いボスを倒したりすると、「やったぞ!」というポジティブな感情があふれる状況というのがわかりやすいと解説。
また、ストーリーで感動して胸がいっぱいになるのもアガる瞬間のひとつ。
一方、ホラーゲームをプレイしたときに受ける恐怖やストレスは、“恐怖から逃れたときの安堵感”や、“怖いもの見たさの好奇心から得られる快感”を呼び起こすものだという心理現象から考えると、これらもアガる瞬間として同じように捉えることができるという。
『悠遠物語』の企画書を紐解いて
らむらむ氏が、ひとりで制作したフリーゲーム、『悠遠物語 ~空の大陸とアイテム屋さん~』は、主人公の少女が仲間とともにダンジョンでアイテムを入手しながら成長し、空に浮かぶ大陸を目指すファンタジー世界を舞台としたアクションRPGだ。
『悠遠物語』は、2012年に開催された第4回WOLF RPGエディターコンテスト(通称、ウディコン)【※】にて、総合グランプリに輝いた。
“楽しいアイテム集め”というコンセプトありきで制作された本作は、ダンジョン探索や魔物との戦闘、魔法習得や装備によるキャラクター強化など、すべてにおけるアガる瞬間がアイテム集めに集約するような設計がされている。
また前述のように、自分のゲームのコンセプトやおもしろさについて、ひと言で言えることが重要とのこと。
なぜなら、それはゲーム制作の道筋になるうえに、さらに磨きをかけることも可能になるからだ。そして、作品をアピールする際にも活用できるメリットもある。
らむらむ氏いわく、「ひと言で言えない場合は、一度でいいので考えてみてください。はっきりと言える場合は、ゲームの方向性がしっかりしているということなので、そのコンセプトを大切にしてください」と語った。
※WOLF RPGエディターコンテスト
SmokingWOLF氏が2007年から公開している『WOLF RPGエディター』(通称は「ウディタ」)というフリーソフトを用いて制作されたゲームの面白さを競うコンテスト。同氏が主催・運営を務める。2009年に第1回が開催され、2017現在は第9回まで行われている。基本的に未発表かつオリジナルのゲームが応募対象で、審査には誰でも参加することができる。
10分に1回はアガる瞬間を設ける
らむらむ氏はまた、RPGのように長時間プレイするゲームではプレイヤーを飽きさせないため、10分が経過するうちに最低1ヵ所はアガるポイントを作る構成が重要だと提言。このため、ストーリーの流れをグラフにして可視化したり、アガるポイントを箇条書きにまとめるテクニックを披露した。
なお、いかにプレイヤーを夢中にさせるかについては、とくにゲーム序盤において重要になる。もし10分より長くアガるポイントがないとわかったら、何か仕掛けを入れるなどしてテコ入れをするとよいとアドバイスを添えた。
一旦落としてアゲる“ギャップ作戦”
“アガる”という言葉自体は解説できても、実際には人の好みは千差万別で一筋縄ではいかず、どういう手段を使えばいいのか簡単には解説できない。
けれど、多くの人を納得させる手段はあるとらむらむ氏。氏はそれを“ギャップ作戦”と呼び、物事のいい部分を引き出すために、少しだけ悪い感情を利用することだと語った。
つまり、前述のホラーゲームの原理や、ツンツンした美少女がデレたときのように、感情がクールダウンするポイントを設けてからアゲると、じわじわとアガったときよりも強い喜びを感じる。
プレイヤーをうまく欲求不満にし、かつ、キモとなる要素に価値を持たせることで感情をうまく誘導し、ゲームのおもしろさにつなげていくことが必要なのだ。
らむらむ氏が『悠遠物語』の制作にかけた期間は2年半だったということだが、この講演を参考に、ゲーム制作の長い道のりの近道を見つけてもらえればと、参加者にエールを送っていた。
勉強会の参加者は、先達でもある登壇者3人によるゲーム制作の生きたノウハウを聞くことができ、大いに共感し、刺激を受けた模様。それぞれの講義のあとの質疑応答も活発に行われていた。
ゲーム制作は楽しく、奥が深い。誰のために作るのか、何のために作るのか。ゲーム制作に興味がある人、制作中でいままさに悩んでいる人、ステップアップを図りたい人など、自作ゲーム制作者に、ぜひつぎの機会への参加をおすすめしたい。
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