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「締め切り過ぎても100エンディングが書き終わらない……!!」小高和剛がネタバレ込みで語る、驚愕の600万文字に込められた『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』開発への”狂った”想い

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※このインタビュー記事には『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』に含まれる大きな仕掛けや、「真相解明ルート」をはじめとした本編のネタバレが含まれます。

“極限”×”絶望”のADVゲーム『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』(以下、『ハンドラ』)は、小高氏が手がけた中でももっとも”狂った”ゲームなのかもしれない……。

『ハンドラ』とは、「最終防衛学園」に集められた15名の学生たちが100日間の戦争に挑む新作ADVだ。100日間×100ルートという狂気的なボリュームで展開される濃密なストーリーは、Steamレビューにて「非常に好評」のステータスを獲得し、海外レビューサイトmetacriticでは平均スコア86/100を記録するなど、国内外ともに高い評価を得ている。

本作は全編の配信が可能ということで、各種配信サイトなどでのプレイも盛り上がっており、既にプレイ時間が100時間を超えるプレイヤーも続出している。いっぽう、あまりのルートの多さに「同じゲームを遊んでいるプレイヤー同士なのに、他ルートのネタバレが怖くて内容の話ができない」という状況も発生しているそうだ。

各ルートには専用の演出や大量のボイスが用意されており、1ルートだけでも通常のADV作品として成立しそうなクオリティなのに、それが100ルートも存在するという『ハンドラ』。シナリオ担当を始め、各キャラクターを担当した声優陣も、生半可な覚悟で挑むことはできなかったに違いない。

そこで今回は『ハンドラ』のディレクション&シナリオ担当の小高和剛氏、主人公の澄野拓海役の木村太飛氏、霧藤希・柏宮カルア役の黒沢ともよ氏の3名にお集まりいただき、このゲームの”狂った”エピソードや圧倒的ボリュームの本作の音声収録での苦労話、小高氏のゲーム開発における哲学などについて、発売後のネタバレ情報も解禁しつつ語っていただいた。

『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』小高和剛氏、澄野拓海役・木村太飛氏、霧藤希役・黒沢ともよ氏によるネタバレ解禁鼎談_001
▲木村太飛氏(左)、小高和剛氏(中央)、黒沢ともよ氏(右)

小高和剛氏は『ダンガンロンパ』シリーズの原作シナリオを始め、数々の名作ゲームのシナリオを担当。各作品は舞台化やアニメ化など、国内外から高い評価を受けている。そのほかにもマンガ原作、小説執筆など活動は多岐にわたり、2017年にはトゥーキョーゲームスを設立し、代表を務める。4月24日に発売された最新作『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』では、共同シナリオ&共同ディレクションとして『極限脱出』シリーズなどで知られる打越鋼太郎氏とタッグを組み、100エンディングという狂気の物量を世に送り出した。

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▲Steam:ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生より

『ハンドラ』の主人公・澄野拓海役を演じるのは、2023年にデビューしたばかりの木村太飛氏。木村氏はベテランから新人まで応募があった『ハンドラ』のオーディションにて見事澄野役を勝ち取り、『ハンドラ』にて初めての主人公役を務めることとなった。

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▲澄野拓海(左)、柏宮カルア(右)

柏宮カルア霧藤希役を務めた黒沢ともよ氏は小高氏がストーリー原案を務めるアニメ『アクダマドライブ』の主人公の「一般人」役を演じた経験も。さらに『ハンドラ』主人公役の木村太飛氏とはアニメ『スキップとローファー』で共演したことがある。

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▲霧藤希(左)

今回の鼎談では、『ハンドラ』の中核を担った3人にネタバレを気にせず本編や裏話について語り合っていただいた。気になるボリュームに関する話や本作での挑戦、開発者としての想いなど、熱く語っていただいた様子をお届けする。

聞き手/豊田恵吾
編集/逆道
カメラマン/佐々木秀二

※この記事には『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』のストーリーの核心に関わるネタバレが含まれています。


テキスト数は驚異の600万文字? 文庫本60冊分の台本が声優陣を襲う

──『ハンドラ』は余りにも膨大なボリュームのゲームですが、これは小高さんとしても過去最大のボリュームだったのでしょうか。

小高氏:
そうですね。1番最初に測ったときは500万文字だったんですけど、そこから伸びちゃって……600万文字ぐらいですかね。小説の文庫本にしたら60冊くらいでしょうか?「翻訳がきついから減らしてください」って言われて一度減らしたんですが、そのあとに筆が乗って……最後はもっと増えましたね(笑)

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木村氏:
減らす想定だったのに!(笑)。いや、確かに脚本をいただいたときは、「こ、こんなにあるの!?」とは思いましたけど。

──いただいた脚本の量がすごかったと。

黒沢氏:
このご時世だから、デジタルで台本いただいたんでよかったですけど、これが五年前だったらダンボールコースだったので……。

木村氏:
確かに紙だったらヤバかったですね。

小高氏:
台本には「抜き台本」と「通し台本」っていうのがあって、「抜き台本」は自分のセリフだけで、「通し台本」には全キャラクターのセリフが書いてあるんです。「通し台本」を読めばシナリオはわかるし、どういうシチュエーションでこのセリフ言ってるのかなってわかるけど、両方用意すると分量がめちゃめちゃ多くなっちゃうんですよね。本当に紙だったらやばいことになってた。

黒沢氏:
本当にあの時代じゃなくてよかった…。

──おふたりは演じる中で「いまどこのルートにいるんだろう?」っていう状況もあったと思うんですが、その辺りの混乱はどう乗り越えて演技をされたんですか?

木村氏:
セリフの最初に「この選択肢が終わったあと」みたいな注記が書いてあったんですよね。

黒沢氏:
そうそう。そこから、誰が死んでるか誰が生きているかを確認してました。

──現在のシーンがどんな状況なのか、セリフだけではわからないですもんね。

木村氏:
俺、いまどういう状況なのか絶対わかんなくなると思って、台本の1ページ目の頭にシーンの状況を書いてました。

黒沢氏:
えらい! 私、毎回聞いてました(笑)。「これは誰が生きてて、誰が死んでますか?」と、「ここが揉めてますか? 揉めてませんか?」のふたつをよく聞きましたね。

木村氏:
あ、そうそう! キャラクター同士で秘密を打ち明けている、打ち明けていないといったことは大事でしたよね。

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▲プレイヤーの選択によって100通りに分岐するストーリー

──なるほど。演じるときのキャラクター同士の関係値が毎回違うわけですね。

木村氏:
キャラクターが相手をめっちゃキモがってるときとかありますもんね。

黒沢氏:
キャラクター同士にすごい距離があるときと、逆にすごい距離が近いときもあるんですよね。それから、私の場合は返事ひとつだけとかの短いセリフが多いこともあって。私の演じる霧藤は、霧藤メインのルートが一番セリフが多いんですが、あとの分岐は割と出番が少なかったので……返事しかないからこそ、ちゃんと聞いてはっきりさせておこう、みたいな(笑)

一同:
(笑)。

──主人公の澄野とカルア・霧藤を演じられたおふたりはどれくらいのワード数を演じたのでしょうか?

木村氏:
澄野は5000ワードないくらいですかね?

小高氏:
いや、約6000ワードくらい【※】? ひとりだけダントツですよね。

【※】正確には5800ワード程度とのこと

木村氏:
6000ワード近くも録ってたんですか!?

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黒沢氏:
え~、私はどのぐらい録ったんだろう?

小高氏:
黒沢さんは霧藤だけで1500ワードくらいですかね。カルアを入れてもうちょい。まあ、カルアは長いセリフも多いんで。

黒沢氏:
私1500ワードくらいだったんだ! え、木村さんは何千って? え? 6000?

木村氏:
6000くらいだそうですが……。全然そんな印象はなかったです。

黒沢氏:
ええ。なんかこれで賞狙えるんじゃない?

小高氏:
多い……「多いで賞」みたいな。

木村氏:
声優アワードで作ってもらいましょう、「多いで賞」。

小高氏:
やっぱりどこのルートに行っても 主人公の澄野が起点にはなっちゃいますからね。特定のルートに行くと、あるキャラが死んでたりとかはするけど。 基本、澄野は生きてるんですよね。

木村氏:
確かにどのルートに行っても大体はそうですね。

小高氏:
死ぬルートもあるっちゃあるんですけどね。

締め切りを過ぎても制作が終わらない! 驚異の100エンディングの作り方

──本作では、小高さんはどのように話を組み立てて行かれたんですか?

小高氏:
分岐はもう打越【※】に任せたっていうか(笑)。僕は単純にプレイするたびに物語が変わってくれるアドベンチャーゲームがあったら面白いと思っていて、その果てにユーザーが納得して卒業していけるようなゲームにしたいというのがありました。

【※】『極限脱出』シリーズなどで知られる打越鋼太郎氏。『ハンドラ』は小高氏と打越氏の共同シナリオ&共同ディレクションのADVゲーム。

<写真>

もちろんマニアは全部やってくれると思いますけど、たとえば『エヴァンゲリオン』って何回もずっとリメイクし続けてエンディングが違いますよね。

木村氏:
そうですね。テレビ、旧劇、マンガ、新劇、どれもエンディングが違う。

小高氏:
かつて自分たちも、どこかで『エヴァンゲリオン』を卒業しないといけないのか? と思いながらエンディングを見ていたんですよね。そういうのをやれたら面白いなあと。「このエンディングで自分の中での『ハンドレッドライン』は終わりだ」っていう風に思える仕組みを作れたらいいなと思って組み立てました。そのために、じゃあとりあえず100個エンディングを作ろう、みたいな感じでスタートし、まず1本「真相解明ルート」を作って、その時々にも分岐がある、というのをまずプロットで作りました。

そのプロットを打越に渡して、「ここから100ルート作ってくれ」と依頼して作ってもらいました。

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──100個のエンディングを作るのはかなり大変な作業だと思うのですが……。

小高氏:
僕がシナリオを書いた「1周目」【※】と2周目の「真相解明ルート」【※】はだいぶ前からシナリオを書いてたんで、ある程度もうそんなにいじらないかな? っていうタイミングで渡せはしたんですけど、ほかの100分岐は結構ギリギリで。

【※】最初の100日を迎えてエンディングを迎えるまでのルートのこと
【※】「1周目」の謎を解明するルートのこと

木村氏:
あ、そうだったんですね。

小高氏:
締め切りを過ぎたタイミングで「このルートのライターが決まってません」みたいなことが……。じゃあ俺がやる、と空いてる人がやったりしたんですけど、それでももうギリギリで、打越からは「もう100ルートを諦めるか、お前が書くかどっちかだ」と言われたので、僕も結局4、5ルート書く羽目になっちゃいました。

木村氏:
“ハンドレッド”ラインがもう決まっちゃってますもんね。

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──ということは、1周目や真相解明ルート以外にも小高さんが担当したルートがあるんですね。

小高氏:
そうですね。ただもう時間もないしプロットも書いてる時間もないから、「とりあえずもう狂気じみたエロをやろう」みたいなルートもできたっていう。

黒沢氏:
疲れの集約だったんですね(笑)。

木村氏:
絶対あそこは通りたいですね(笑)。

小高氏:
プロットもないまま書いたっていう珍しいルート。その割に、声優さんにはめっちゃがんばってもらっちゃいました(笑)。

──キャラクターとストーリーの関係としては、100個のエンディングにキャラクターを合わせたのでしょうか? それともキャラクターは元々あって、そこに100個のエンディングを用意したのでしょうか。

小高氏:
後者です。キャラはキャラで15~16人とか作っておいて、エンディングはエンディングで100個作ろうっていうように、別で考えてた感じですね。

黒沢氏:
仕掛けが先だったんですか? それともストーリーのメッセージ性が先だったんですか?

小高氏:
うーん、まぁ、仕掛けですかね。新しいIPを作る場合は「このゲーム、なんか狂ってんな」って要素が一個はないと戦えない『モンスターハンター』とかのAAAタイトルとある程度同じ土俵で戦わなくちゃいけないっていうときに、それがなければもう同じ土俵にすら立てない。

そこで僕らがやれることって言ったら、やっぱり狂気じみたシナリオの量とイラストの数。そこで「このゲームおかしいぞ」と思わせないと戦えないなっていうのがあったんで、そういうものを作ろうっていう仕掛けがスタートでしたね。

黒沢氏:
えぇ~、すごい……。

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▲鏡に向かって自分の存在を何度も確認する澄野

小高氏:
「1周目」と2周目の「真相解明ルート」っていう僕が書いたルートを先に収録したんですよね。

木村氏:
一番最初に収録しました。

小高氏:
そこから次の収録まで1か月ぐらい空いてたよね? 多分。

木村氏:
空いてましたね。

黒沢氏:
そうそう、そうだった。

小高氏:
今回100ルートあるんで、基本的には自分が書いたルートは自分がディレクションしています。まず最初に僕の「1周目」と「真相解明ルート」をやって演者さんたちにキャラの雰囲気をつかんでもらい、それからほかのルートの分岐を同じようなキャラ感でやってもらう、という流れです。

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──ある程度ゲームの流れに沿った形での順番での収録だったわけですね。音声の収録時には、小高さんはすべて立ち会っていたんですか?

小高氏:
そうですね。どうしても外せないとき以外は、ほかのルートもほとんど立ち会うようにはしてました。

黒沢氏:
私のときはもう全部です。いらっしゃらなかった回はなかったと記憶してます。

木村氏:
小高さんがいらっしゃらなかったのは1回とかですよね。

小高氏:
ああ、多分、木村君のはちょっとパートボイス【※】が多くて。いいかな? みたいな。

【※】一部にしか音声が入ってない部分のこと

黒沢氏:
信頼ですね(笑)。

小高氏:
やっぱり主人公のボイスはすごく多いので、100ルート分あるとちょっとすごい量なんですよね。 そこはもう信頼してお任せしました。

木村氏:
ありがとうございます。

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副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。
ライター
なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『ドラゴンクエスト』シリーズで育ち、『The Stanley Parable』でインディーゲームに目覚めた。作った人のやりたいことが滲み出るゲームが好きです。

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