「なんか寒い」のが幼馴染じゃない? 小高氏がこだわりぬいた幼馴染の距離感
──木村さんと黒沢さんは、2周目を読まれたときの衝撃ってどうだったんですか?
黒沢氏:
小高さんのLINEを知ってたら、速攻で連絡していただろうなっていう感じでした。 感想もだし、クレームもだし……。
小高氏:
クレームなら最初から言って(笑)。
黒沢氏:
面白過ぎるし、苦し過ぎるし…… なんかすごいものを出してくるし、これをゲームで出すって、すごくメッセージ性が強いと感動しましたね。
小高氏:
そうですね。冒頭は20分くらいのムービーシーンでゲームにしては長いとは思ってはいたんですけど、カルアと拓海のふたりの関係を伝えるには普通のアドベンチャーのノベルパートっぽくすると難しい。そこで動きも表現できるムービーシーンを入れたほうが「お互いこれだけ信頼し合ってるんだな」という関係性が伝わると思いました。あのムービーシーンを切り出してるSNSの感想を見てみると、「幼馴染の関係がいい」という反応をしてくれる人たちがいて、それがすごくほっとした。僕はいままでそれほど「主人公と幼馴染」といった関係性を書いたことがなかったので、どうなんだろうと思ったんですけど、幼馴染感が出せてて良かったなーという感じでしたね。
ただ実は、カルアの「たっくん」呼びっていうのは社内では不評の人もいまして。 「なんか寒い!」みたいなことを言われたり。でも寒いのが幼馴染じゃない? と僕は思っています。子どものときからもうその呼び方で大人になっても拓海的には「やめろよ」と思いつつもこう、なんかもう定着しているし、微妙な距離感だし、みたいなのがいいなと思って。 だからそういうところは意識はしましたね。青臭さっていうか、あんま大人になりきらないようにという感じ。
小高氏:
ふたりの会話をたくさん収録した後も、音声のない会話文は結構いじり倒してます。 本当に微妙な、僕の中では微妙な差なんですが、ユーザーからしたら「カルアと霧藤が一緒に見えるから澄野が混乱するのはしょうがない」 。だから霧藤が澄野に対して強く言いすぎると、霧藤が嫌な奴っぽくなる。
逆に霧藤からしたら身に覚えがないんだから、澄野がガンガンいったら澄野が気持ち悪くなってしまう。そこら辺を超えないようにというか、嫌われないように何回も読み直して、読み直すたびに「あ、ここまで言っちゃうと拒絶しすぎかな」とか思う部分はかなりいじり倒しましたね。ふたりの会話はすごく繊細で、ちょっとのニュアンスで変わっちゃう感じはありました。
黒沢氏:
じゃあ、私たちがプレイしたら、ちょっと新鮮な気持ちでプレイできるかも?
小高氏:
そうかもしれないですね。意外と最初の台本から変わっているところもあります。ひと言ボイスの選び方も本当にすごくこだわった。「この表情のときにこのセリフはちょっときつすぎるからもうちょっと柔らかい声を当てたい」とか。多分ふたりの会話はそうしないと、さっき言ったみたいに「ええ!? 霧藤、なんかひどい!」ってなっちゃうし、「澄野、気持ち悪い!」となっちゃう。そうならないようにすごく気をつけましたね。
だからその辺が真相解明ルートの最後のふたりのシーンにつながってきて、すごくいいシーンにはなったなぁという。 100個エンディングがあるけど、僕としてはあそこは絶対見てほしい。あそこにたどり着くのも結構難しいんですけども。
黒沢氏:
そうですよね。分岐がありますから。
小高氏:
全部正解というか、全部の分岐で真相解明ルートへの正しい道を辿っていないといけないので。
澄野の声優の決め手は「声質」と「男の子らしさ」。幼馴染のいる男の子に合う声が木村さんだった
──主人公役の声優を木村さんに決定された理由は何だったのですか?
黒沢氏:
木村さんが収録を始めたのは2024年でしたっけ?
木村氏:
2024年の1月からでした。
黒沢氏:
じゃあ、2024年が全部この作品に……。
木村氏:
2023年末にオーディションがあって、その場で「お願いしたいです」って言われたときはほんとに最高の気持ちでした。
黒沢氏:
ええ!? そんな嬉しいオーディションあるんだ……。
木村氏:
僕も「そんな、ええ! ありがとうございます!」っていう感じで、びっくりしてなんか現実味が全然なくて。その気持ちで2023年を締めくくって、台本をいただいて。2024年が『ハンドラ』の台本で始まった記憶があります。
でも初めて主人公役を演じるので、めちゃくちゃワード数が多いのを見ても……「いや、主人公ならこんなもんなのかな?」と思いつつ、ビビりながら「みんなこれぐらいやってんだ、俺もがんばらないとな」って思いました。
一同:
(笑)。
小高氏:
木村君は、声質で選んだところがあります。オーディションなんでいろんなタイプの声優さんがいましたが、今回のキャラクター的に主人公は芝居というより、声質が大事だなっていうのがすごいあって。
木村氏:
ありがたい……。
小高氏:
過去の僕のゲームの主人公の男の子はちょっと弱かったり、女性声優さんに男の声をやってもらうことが多かったですから。
黒沢氏:
確かに。
小高氏:
『ハンドラ』はいきなり冒頭からカルアと拓海の幼馴染の関係性が描かれるので「男の子」って感じがほしいなっていうのがありました。木村君の声質を聞いたときに「ああ、一番近い」っていう感覚はあったけど、経歴的にはまだちょっと浅いので、「どうでしょう?」みたいなところはあって。そこで「最後にもう1回オーディションをやってみましょう」という話になって、あえて難度の高いセリフを振ってみて、どのぐらい修正能力があるかをちょっと見てみよう、ということになった。
あのオーディションをやったときには、ほぼほぼ決まっていたけど、修正能力を実際に見てみたくて最終オーディションをやった。だからあえてすごい修正を何回も何テイクもやってもらって……。だけど結構ついてきてたから、「いけるんじゃないか」と思って、じゃあもう頼んじまおう!今一番いい!みたいな感じで(笑)。
黒沢氏:
じゃあ、最終オーディションに呼んでたのはひとりだったんですか?
小高氏:
あ、ひとりだけです。
木村氏:
そうだったんですね!?
──でも名目はオーディションという。
黒沢氏:
かっこいい~! なにそれ~!
木村氏:
うれしい……うれしいですね。ありがとうございます、本当にがんばります。あ、もうがんばり終わったあとだ(笑)。
黒沢氏:
伝説だ……。小高さんってそういうかっこいいことしますよね。いいな~。
霧藤の声優の決め手は「難度の高さ」。一番難しいキャラだからこそ黒沢さんに頼んだ
──いいな~、とおっしゃっている黒沢さんに関しては?
小高氏:
『ハンドラ』はトゥーキョーゲームスの総決算みたいな感じのタイトルだったので、これまでの作品でもご一緒した方で、全員は難しいかもしれないが呼びたい声優さんがいたら呼ぼう、といった感じで。そこで「黒沢さんは入れたい」という意見が打越さんと俺で一致して。じゃあとりあえず黒沢さんは何かにいれよう、と。黒沢さんはだいぶ前から、オファーをしようというのは決まっていました。
──そこで「霧藤希」と「柏宮カルア」の二役を黒沢さんにオファーすることになったと。決め手はどういったところだったんですか?
小高氏:
カルアと希の使い分けもあるし、演じていただいているキャラがぶっ飛んでいるんだけど、僕の作るキャラクターの中では普通の人に近いところもあって。
「大鈴木」みたいな突拍子もない奴が多い中で、個性をどう出すのかがちょっと難しいぞっていうときに、黒沢さんの力を借りようと。どう演じるのかを見てみたかったですし、「難度が高いからこそお願いしよう」という感じでしたね。要は一番難しそうだったからです。
黒沢氏:
怖い怖い……! 帰っていいですか?
一同:
(笑)。