フランス生まれのターン制コマンドRPG『Clair Obscur: Expedition 33』(以下、エクスペディション33)の評判がやたらいい。
しかし、おそらくその評判を聞いた多くの人が「なんとか33っていうゲームがおもしろいらしいけど本当なの?」と思っているのではないでしょうか。だって、タイトルに聞き覚えがなさすぎるから。筆者は完全にノーマークでした。
とはいえここまで大きな話題になっているとさすがに気になってしまいます。「おもしろい」と言われている理由を自分の手でたしかめたい。そこでさっそく買ってみました。

現在30時間ほどプレイしたところなのですが、想像以上におもしろくて世間の評判に納得しています。本作は、 “心が折れてしまうこと” が極めて少ないゲームになっていると感じました。
というのも、RPGなどをやっているとやんわり萎える瞬間がたびたび訪れると思います。筆者の場合はだいたい下記。
・ものすごい威力の攻撃を食らう
・画面外からいきなり攻撃を食らう
・敵に遭遇すると先制攻撃を食らう
上記のように、一方的に攻撃されると萎えてしまいがち。しかし本作は、こういった萎えポイントをひとつひとつ潰してくれています。
特筆すべきはターン制コマンドRPGなのに「攻撃を受けるときは同時に回避/反撃のチャンスが与えられている」こと。つまり、攻撃をただ受けるだけの “虚無の時間” がありません。
詳しい方法は後述しますが、攻撃を受ける毎にプレイヤーには下記のチャンスがあります。
・そのまま食らう:ダメージを受ける
・「回避」をする(易):ノーダメージ
・「パリィ」をする(難):ノーダメ+反撃
すべての攻撃においてダメージを受けるかどうかは自分次第。であれば、負けてしまっても納得ができます。納得していると心が折れにくい。少なくとも筆者は30時間ほど遊んだなかで「不公平だ!」と萎えた場面はありませんでした。
『エクスペディション33』のおもしろいところは、ターン制コマンドRPGのデメリットを最小限に抑えながらターン制コマンドRPGのメリットを最大限に活かしているところだと思います。もちろん映像や音楽も美しいのですが、筆者は「既存のシステムがいい感じに調整されていること」に感動しました。
本稿では、どういう要素がどういうふうに組み合わさっているのか紹介させていただきます。
文/柳本マリエ
バトルは「定位置」から落ち着いて操作することができる
本作はターン制コマンドRPGなのですが、「相手に攻撃をするとき」と「自分が攻撃を受けるとき」にそれぞれタイミングよくボタンを押すことでメリットがあります。『スーパーマリオRPG』のシステムをド派手にしたような感じ。
このシステムによってコマンド式バトルなのにアクションバトルのような臨場感が味わえます。それでいてアクションバトルのように自分が動き回る必要がないため、攻撃をするときも受けるときも定位置から落ち着いて操作することが可能。
ここがけっこうポイントで、「定位置から落ち着いて操作することができる」ということは、アクションバトルのようにうっかり死角から攻撃されるというようなことがありません。毎回しっかり相手の攻撃も自分の攻撃も見えているので、プレイヤーが覚えるのはボタンを押す「タイミング」となります。
やることはシンプルだけど決して暇にはならない、という絶妙な忙しさ。それでは実際に見ていきましょう。
プレイヤーにはいくつかの攻撃方法があるのですが、基本的に「スキル」を使いキャラクター固有の技で攻撃していくことになります。スキルを選んで攻撃が始まるとQTEが発動するので、そこに合わせてボタンを押すだけ。適切なタイミングでボタンを押せるとスキルの効果が上昇します。

QTEは不意に出てくると対応することが難しいですが、本作ではスキルを使うたびにQTEになるので心の準備ができています。押すボタンも固定されているので失敗することはほぼないかと。
よく使うスキルはすぐにタイミングを覚えられるので非常に気持ちよく攻撃することができます。しかし、脳汁が出るのは攻撃を受けるとき。ここからは本作の醍醐味とも言えるパリィについて紹介します。
あまりにもパリィのメリットがありすぎて “パリィ狂” になってしまう
本作は「パリィゲー」といっても過言ではないくらいパリィを多用します。
こう言うとおそらく一定数の人は「あっ、じゃあいいです……」と思うのではないでしょうか。だってパリィってどのゲームでもかなりシビアなタイミングでボタンを押す必要があるので、やらずに済むならやりたくないですよね。しかし本作は下記の理由から、パリィ狂にならざるを得ません。
<パリィの効果>
・ダメージを避けられる
・相手にカウンターでダメージを与えられる
・スキルを使うための「AP」が1回復する
・連続でパリィが成功すると脳汁がやばい


このように本作はパリィさえ成功すればノーダメージ+反撃ができるため、瀕死のような不利な状況からでも勝つことができます。
具体的な例として、筆者はとあるボス戦で仲間がみんな死んでしまい残りひとりになってしまったことがありました。ボスのHPはほぼ満タンで、こちらのHPは「7/620」くらい。回復アイテムも皆無。あまりにも絶望的な状況だったのですが、すべての攻撃でパリィを成功させれば(理論上)勝てます。
残りひとりになるくらいバトルが長引いていたこともあり敵の動きもまあまあ把握できていたため、冷静に対処していけば……

奇跡的に勝つことができました。上記がそのときのリザルト画面です。謎の集中力でパリィが連続で成功しました。かなり熱い展開です。
念のため書いておくと上記の「パリィ成功数:62」というのはこのバトルにおいてのパリィの総数で、連続回数ではありません。HPが1桁の瀕死状態になってからすべての攻撃をパリィで反撃したときのリザルト画面です。
思わず夫に上記の逆転劇を話したら「ウメハラじゃん」と言われてハッとしました。
それは、『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』の日米大会準決勝で体力ゲージが残り1ドットのところまで追い込まれた梅原大吾氏が、ジャスティン・ウォン氏の16連続打撃をすべてブロッキングして大逆転を成し遂げたあのエピソードを指しています。
まさか『エクスペディション33』であのときのウメハラの疑似体験ができる(?)なんて。
このようにパリィはメリットがありすぎて、すっかりパリィ狂になってしまいました。パリィより猶予フレームの長い「回避」もあるのですが、回避はその名のとおり回避しかできない(相手にダメージを与えられない)ので、やっぱりパリィを極めていきたいところ。
連続でパリィが成功するととにかく気持ちいい & 効率よく倒せるのでパリィを多用してしまいます。
こちらからバトルを仕掛ければ「先制攻撃」ができる
ところで、敵とエンカウントしたとき先制攻撃を食らうと少し萎えませんか?
自分がミスをして先制攻撃をされてしまうのは仕方ないと思うのですが、ただエンカウントしただけなのに相手が先に攻撃してくるとちょっと萎えちゃう。
しかしながら本作は、敵を見つけたとき適切な距離から適切なタイミングでボタンを押すと、先制攻撃ができてしまいます。

もちろんリスクもあり、光が敵にうまく当たらないと逆に先制攻撃をされてしまいます。このようにお互いに先制攻撃の機会があるのであれば、たとえ失敗して相手に先制攻撃をされても納得。細かいところではあるのですが、こういうシステムはモチベーションが上がります。
また、先制攻撃に限らずバトルに入ったらまず見るべきポイントのひとつが「急所」。一部の敵は急所が丸見えのパターンがあるので、そういう急所っぽい部位を見つけたらすかさず攻撃してうまく当たるとHPを大きく削ることができます。筆者調べによると、急所の多くは「キラキラした玉」でした。

それともうひとつよかったところとして、キャラクターはバトルでHPが少なくなると全身が傷だらけになります。
めっちゃかわいそう!!!
だけどなんか美しい。下記のようにムービーシーンでも顔が汚れているところがいい。死闘を繰り広げたら顔も体も傷だらけになりますからね。バトルと物語がちゃんとつながっている感じがしてグッときました。
バトル後にうっかり回復するのを忘れてしまうことがありますが、これくらい傷だらけになっていると回復を忘れないのでありがたいです。
『エクスペディション33』は、評判どおりのおもしろさでした。
冒頭にも書いたとおり、ひとつひとつのシステムは既存のもので「ほかのゲームでもやったことがある」というものがほとんど。しかしながらその組み合わせがいままでになく、神ゲーが爆誕してしまっていると感じました。
本作は筆者のなかのRPGランキングをごぼう抜きしています。こりゃ話題になりますわ。
個人的にひとつ気になったのが、親密度のイベントでの会話がわりと生々しく、けっこう大きめの声が出ました。JRPGっぽいイベントだけど、内容はフランス(?)なのかもしれません。
大きな話題を呼んでいるのでぜひこのタイミングで始めて、パリィ狂になりませんか?