「空前絶後のバッサリ感」のキャッチコピーで名高い、カプコンの戦国サバイバルアクションゲーム『鬼武者』。その第1作のHDリマスター版が発売されたのは、2018年12月のことだった。
いまにして思えば、第1作のリマスター版は急に発表され、急に発売された形だった。さながら「一閃」のごとし、勢いのありすぎる展開である。同時にそんな勢いよく発売されたからこそ、続くナンバリングタイトルの『鬼武者2』、『鬼武者3』も順次、リマスターされていくのかもしれないと、推測したシリーズファンは少なくなかったと思われる。
ところが現実は異なり、第1作のリマスター版発売から実に6年以上(7年近く)の期間を経て、『鬼武者2』のリマスター版は発売されることになった。
まさに「お待たせしました諸君!」といった感じの展開である。
満を持して5月23日に発売を迎える『鬼武者2』のリマスター版。そもそもなぜこれほどブランクが空くことになったのか。
また、今回の『鬼武者2』のリマスター版は、オリジナルのPlayStation 2版に引き続き江城元秀氏がディレクターを務められている。この座組も第1作のリマスター版とは大きく異なる興味深い点で、その抜擢の経緯が気になるところだ。
このたび、そんな『鬼武者2』リマスター版のプロデューサーである田中浩介氏と、江城氏へのメディア合同インタビューが実施された。第1作のリマスター版発売から6年以上の時を経て発売に至った経緯から、江城氏がディレクターとして抜擢された背景、さらにはオリジナルのPlayStation 2版開発当時の貴重なエピソードも明かされたその模様をお届けする。
※田中浩介氏
2012年、カプコンに入社。『モンスターハンタークロス』『モンスターハンターダブルクロス』のサウンドデザイナーを経て、『モンスターハンターライズ』『モンスターハンターライズ:サンブレイク』のサウンドディレクターを担当。
2022年にプロデューサーへ転向し、『鬼武者2』リマスター版のプロデュースを行う。
※江城元秀氏
1990年、カプコンに入社。業務用STREET FIGHTER Ⅱでガイルなどのプログラムを担当。幾つかのタイトルを経てプランナーとなり、オリジナル版鬼武者2でディレクターデビューを果たす。その後、SHADOW OF ROMEのディレクターを経て逆転検事からプロデューサーとなり、逆転シリーズや大神伝 ~小さき太陽~、DmC Devil May Cryなど様々なタイトルのプロデュースを行う。
「『鬼武者』シリーズを盛り上げていこう!」という機運の高まりと環境の整備により、満を持して『鬼武者2』リマスター版の開発が決定
──第1作『鬼武者』のリマスターから6年以上の時を経て、ついに『鬼武者2』のリマスター版が発売となります。これは前々からずっと温めておられたものだったのでしょうか。また、リマスター版開発の決め手となったのはなんだったのでしょうか。
田中浩介氏(以下、田中氏):
カプコンには、過去に出たゲームもたくさんのユーザーさんにしっかり遊んでいただきたいという考えがありまして、『鬼武者2』のリマスターも社内のラインナップとして入っていました。ですけど、なかなか社内の人員や、環境が揃わない状態にあったんですね。
既にご存じの通り、『鬼武者』は完全新作の『鬼武者 Way of the Sword』がアナウンスされ、開発が進められている状況にあります。そこで環境も整って、「『鬼武者』シリーズを盛り上げるためにも、しっかりここで『鬼武者2』のリマスターを出そう!」となり、開発が決まったという感じでしたね。
──『鬼武者 Way of the Sword』のお話がありましたが、新作の発売直前ということから、リマスター版の開発は結構、スムーズに進められていったのでしょうか。もしその場合、スムーズに開発が進んだ理由みたいなものがあればお聞きできればと思います。
田中氏:
もともと『鬼武者2』のリマスター自体は常に候補に挙がっていたんです。なので、完全新作が出るからというよりは、そのきっかけを得たという方が近いのかなと思っています。
あと、スムーズに進んだ要因としては、移植するに当たっての検証が上手くいったこともあります。特に何かがあった訳ではなく、純粋に開発が順調に進んでいったというのが実際のところかなと思います。
──実際に『鬼武者2』のリマスターが発表されて、どのような反響がありましたか。特に興味があるのは海外圏と、オリジナルの『鬼武者2』が発売されなかった国・地域からの反響なのですが、もしありましたら教えてください。
田中氏:
ちょうど、弊社のデジタルイベントの「カプコンスポットライト」がありまして、そこでサプライズ的にアナウンスしました。国内はその時に、瞬間最大風速的にX(Twitter)のトレンド入りを果たしました。
あと、映像のぶら下がりに「ゴーガンダンテス」も出させてもらったんですけど、そちらもトレンドに入りまして。「うわー!懐かしい!」、「やったー!」みたいな好意的な声が多く寄せられまして、国内に関してはかなりの反響がありましたね。
オリジナルのPlayStation 2版が発売されなかった国・地域の方々の声については、私の方では分析しきれていないのですが……。海外圏という意味でも、色んなお客様がとても好意的に見てくれています。私の体感としては、世界中で好意的な声が上がった感じがありますね。
──前作のリマスター版の移植開発は、NeoBards Entertainment(ネオバーズ・エンターテインメント)さん【※1】が担当されていましたが、今回のリマスター版『鬼武者2』はカプコンさま内製で作られていらっしゃるのでしょうか。
田中氏:
前作と同じく協力会社さまと一緒に作っています。今回は株式会社エイティングさま【※2】と一緒に作らせていただいております。
※1 NeoBards Entertainment:台北と蘇州に開発拠点を置くゲーム開発会社。カプコンタイトルでは『バイオハザード RE:2』『バイオハザード RE:3』『ロックマンエグゼ アドバンスドコレクション』『デッドライジング デラックス リマスター』などの開発に参加。
※2 株式会社エイティング:東京に本社を置くゲーム開発会社。カプコンタイトルでは『ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3』『モンスターハンター3(トライ)G』『モンスターハンター4G』『モンスターハンターダブルクロス Nintendo Switch Ver.』などの開発に参加。
──エイティングさまを選ばれた理由はどういったものだったのでしょうか。また、エイティングさまだからこそ実現できたことなどは何かあったのでしょうか。
田中氏:
『鬼武者』シリーズ全体のプロデュースと、新作の『鬼武者 Way of the Sword』でも顔出しでコメントされている門脇章人プロデューサーが私の上司に当たるのですが、元々、門脇がエイティングさまとこれまでの開発でお付き合いがあったんです。
それでお話をしていく中で、まず移植するに当たっての検証をしまして。『鬼武者2』は23年前の作品で、まだゲームエンジンと言われるものがない時代に作られたゲームなんですね。これを「REエンジン」で作るにあたって、技術的な検証という課題があったんです。
そこに対して、「エイティングさまが持っている技術がハマるのではないか?」という見立てをカプコン社内で検討し、お声がけしました。それで実際に検証を進めていったところ上手く行きましたので、ご委託に至ったという形ですね。
23年前のオリジナル版に引き続き、江城さんがディレクターとして抜擢されたのは……神様からのプレゼント?
──今回のリマスター版では、オリジナル版と同じ江城さんがディレクターを担当されていますが、この座組になった背景はどういったものだったのでしょうか?
田中氏:
正直言いますと……たまたまその時、江城が空いていたんですよ。それで「これは神様からのプレゼントだな」と(笑)。
最初はプロデューサーとして活躍されている人間ですので、その側面でちょっとサポートいただいていたんです。けど、やっぱりディレクションしていく人間も必要だろうとなりまして。それで江城だからオリジナル版当時のことを色々知っていますから、もう「絶対にこの人以外いないだろう!」と、社内で即決となってシフトしていただきました。
──実際に23年前に作られたゲームに再びディレクターとして関わるのが決まった時、江城さんはどんな心境だったんですか?
江城元秀氏(以下、江城氏):
『鬼武者2』は僕自身、ディレクターとしてデビューした作品でもありますので、その話をもらった時は素直に嬉しかったですね。
あと、運命的なものを感じました。なかなか無いことだと思うんですよ。20数年前にディレクションしたタイトルを長い年月を経て、リマスターという形でもういちどディレクターとして関われるなんてことは。
だから改めて、当時のオリジナル版をプレイし直しまして、「もっと良くしたいな」って気になった部分がありましたので、プレイフィールを向上させるといったことをしていきました。
──逆に今回のリマスター版で当時、やり残したことを実現させたみたいなことはあるのですか?
江城氏:
当時としても非常にボリューミーなゲームでしたので、特にやり残したことはなかったです。ただ、当時は開発中にずっとプレイしていたこともあってゲームに慣れてしまい、スルーしてしまっていた部分があったんですね。
それで今回、改めてオリジナル版をプレイし直したら、操作性やアクションゲームとしての作りの部分で、「あ、これは今のゲームユーザーさんには厳しいよね」というものがあって、遊びやすくしたいと思いました。その辺りは色々と実現させてもらいました。
──23年前にご自身がディレクションされたオリジナル版をプレイし直してみて、どんな感想を抱きましたか?
江城氏:
これを言うと調子に乗っていると思われるかもしれませんけど(笑)。やっぱり改めて触ってみて、「面白いな!」と思いましたね。
元々、『鬼武者』自体が非常によく出来たゲームですので、『鬼武者2』ではそこを踏襲しつつ、「連鎖一閃」の爽快感をはじめ、アクションの手触り部分でだいぶ挑戦させてもらいました。
シナリオも含めて結構、個性が出ているゲームですので、現代のアクションゲームファンの方々にも十分に通用する遊び応えがありますし、非常に楽しんでもらえるんじゃないのかなと思いますね。
前作の『鬼武者』において確立された遊びを拡張していく方向性から作られていった『鬼武者2』
──実際に『鬼武者2』は前作からアクション全般の爽快感を大幅に向上させた仕上がりとなっていますが、これはオリジナル版の開発当時から、そのようなコンセプトが掲げられていたのでしょうか。
江城氏:
『鬼武者』の遊びと言いますか、敵との間合いとか、「一閃」の気持ちよさとかは1作目である程度、確立されていたんですね。ですので、『鬼武者2』はそれをもっと広げていこうという方向性でした。
「一閃」も種類を増やしてあげたりとか、「戦術殻」も「鬼戦術」という名前にして、それがレベルが上がっていくと攻撃の威力が増したりとか。そういう形で「遊びを増やしていこう」「拡張していこう」というイメージで開発はしていましたね。
──『鬼武者2』では、全体的に冒険譚のようなイメージが強くなった印象を受けました。オープニングでは村人が惨殺されてしまうような残酷なシーンもありますが、青空の広がるマップがあったり、主人公の仲間となる4人のキャラクターが登場したり、明るさを感じる部分も結構ありますよね。あの辺りは当時、シナリオを担当された杉村升先生【※】から提案されたものだったのでしょうか。
※杉村升(すぎむら のぼる):『太陽にほえろ!』『スケバン刑事』『仮面ライダーBLACK』『五星戦隊ダイレンジャー』などのテレビドラマ、特撮作品を手がけた脚本家。『バイオハザード2』以降の『バイオハザード』シリーズのほか、『鬼武者』『クロックタワー3』『デメント』といったカプコンタイトルのシナリオを担当。ゲームシナリオ制作会社「フラグシップ」設立メンバーのひとりでもあった。2005年逝去。
江城氏:
元々は『鬼武者2』を作る上で「シナリオ面でもボリュームを出して行きたい」というのがあったんです。同士というキャラクターを出していこうという話は、どちらから出た話だったかはちょっと記憶が曖昧なのですが……。
おそらくカプコン側で企画を作っていく中でキャラクターを増やしたいと杉村先生に相談した時に「じゃあ、シナリオでもしっかり描いていこう」みたいになって、今の方向で進んでいったように思います。
ただ、キャラクターごとの性格付けやセリフ回しは、杉村先生のアイディアをそのまま踏襲しています。特にゴーガンダンテスのセリフ回しは元々の作家性を尊重して、あのままで実装していたりします。
あと前作は稲葉山城──ひとつのステージを深く掘り下げていく構成だったんですけど、『鬼武者2』ではもっと色んな所を見せてあげたいなというのがあったんです。
屋外であったり、今庄の金山の町に人をたくさん登場させて会話できるようにすると面白いよね、といった話を開発中にしながら作っていったんです。それもあって非常にボリューミーなものになりまして、当時の開発チームには相当苦労を掛けたなと思います。
いまだに昔の開発チームのメンバーと会っても、「なかなか大変でしたよね……」と言われるぐらい苦労して作りました。そういったところが高く評価されているのは嬉しい限りですね。
──ちなみに4人の仲間(同士)の中で、御二方のお気に入りっていらっしゃるのですか?
江城氏:
全員に思い入れがありますから、選べと言われたら選べないですね。でも、ドラマ的な部分で行きますと、コタロウ(風魔小太郎)はあのキャラクターも含めて、結構いいかなと思っていますね。
田中氏:
僕もプロデューサーとしては「全キャラです!」と言いたいんですが(笑)。
あえて選ぶとしたらエケイ(安国寺恵瓊)です。豪快で、酒と女が好きという、今のご時世で見るとなかなかハードなキャラクターなんですけど、過去に色々あって「人の背負っているものって色々あるんだな……」と、いいキャラクターだなと思いました。
オリジナル版が出た当時、僕は中学生か高校生ぐらいだったんですけど、遊んでいて「この人はいい人だったんだ」って思った記憶がありまして(笑)。それもあって、凄く魅力を感じましたね。