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世界最大級のゲームショウE3も、見本市から「ユーザーイベント」へ。激変する「ゲームショウ事情」とWebメディアの果たすべき役割を取材しつつ考えてみた【E3 2017】

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 すでにさまざまなビッグニュースが報じられているので、ゲーム好きの皆さんには今さらではあるが、2017年6月13日~15日(現地時間)にかけて、世界最大級のゲームイベント「E3 2017」が開催されている。
 1995年の初回開催以降、いわゆる業界関係者向けのゲームショウとして、実に20年以上もの歴史を誇るE3(Electronic Entertainment Expo)だが、今年からはその方針を大きく転換。一般来場者にも門戸を開く形となり、その成否が注目されている。
 電ファミ編集部でも、今年のE3には取材班(といっても、私含めて2名のみだが)を派遣。さっそく熱気溢れるE3の様子をレポートしよう!

 ……と行きたいところなのだが、速報やプレイレポートはファミ通電撃4Gamerなどといったゲーム媒体で十分だし、発表ものは直前のカンファレンスで大方の情報が出きってしまっており、「はて、我々は何を書いたものやら」というのが本音だったりする。
 よって電ファミでは、通常のゲームメディアとはあえて軸をずらした視点でレポートを書いてみたい。例えば、いつもは取材する側の“ゲームメディアの人々”に逆に取材を試みたり、E3初の試みとなる一般来場者として来た人々の声を拾ってみたりなど、普段、主要なゲームメディアが伝えない部分にフォーカスしてみようと思う。

 ここでは、その第一弾として、まずは「メディア関係者が見るE3」「変化するゲームショウの役割」について筆を進めてみたい。

取材/TAITAI


かつてゲームショウに存在した「見本市」の役割

 まず、実際に現地まで来ているメディア関係者の話を聞いて思うのは、いよいよ「現地で取材する意味があまりない……」「ゲームショウというものが、完全にユーザーイベント寄りになってきた」ということかもしれない。
 これは、もう何年も前からの全世界的な傾向ではあるのだが、今回、一般来場者も参加できるイベントになったことで、E3でもそれが鮮明になった、という印象である。

 というのも、昨今、盛り上がっていると言われるゲームショウの多くは、関係者を集めた見本市、ビジネスショー的なものよりも、“ユーザーイベント”、“ファンイベント”に寄せているものが多いという流れがある。
 各種のPAX、Gamescomなどをはじめ、BlizzConなどのメーカー単独主催のもの、それから最近だとPlayStation Experienceなども、そういった流れを汲んだイベントだと言える。これはe-Sports的なイベントも含めた潮流だが、ゲーム業界全体の流れとして、ユーザー向けのイベントが年々増えているという事実があるのだ。

世界最大級のゲームショウE3も、見本市から「ユーザーイベント」へ。激変する「ゲームショウ事情」とWebメディアの果たすべき役割を取材しつつ考えてみた【E3 2017】_001
(画像はElectronic Entertainment Expo公式ギャラリーより)

 どういうことか? この点については、ゲームショウというものの役割と、存在意義から少し解説してみたい。

 E3は、元々はビジネス向けの“見本市”をスタートとしている。昔(今もだが)はゲームを売りたければ、まず商品を流通させる小売り業者や問屋にゲームを買ってもらう必要があったし、ユーザーへ商品の存在と魅力を知らしめるためにも、雑誌やテレビなどといった媒体に掲載してもらう必要があった。
 これを逆に言えば、ゲームメーカーにとって、“メディアやバイヤーに対して”商品の魅力を伝えることが、もっとも効率的に商品(と情報)をお客さんに届ける手段でもあったわけだ。だから、それらを一同に集める“見本市”には確かな需要と価値があったし、実際に有効に機能もした。

 また我々のようなメディアにとっても、最先端の情報を仕入れる場所として、このような見本市は非常に有用だった。みんながまだ知らないものを、現地に行った人だけが見ることができ、現地に行った人だけがそれにまつわる情報素材(資料や絵、映像など)を手に入れることができたからだ。そして、見たものをストレートに伝えることが、ダイレクトに情報価値になった。大きな手間暇を掛けてでも取材する価値が、以前のE3には確実にあったのだ。

なぜWeb以降、「見本市」の意義は失われたのか?

 しかし、インターネットが発達し、動画やファイル、あるいは情報が即座に世界で共有されるようになると、状況が変わってくる。

 最近では、カンファレンスはすべてストリーミングで同時中継されるし、作品の発表があれば、その動画が即座にYouTubeで公開される世の中だ。昔は、CDやUSBメモリなどといった物理メディアで配られていたプレス用素材も、最近ではネット経由で全世界配布するのが通例となっている。
 いや実際、最近は現地になんて行かずに、ストリーミング動画を見て記事を書いた方が早いくらいで、各編集部も実際にそういう体制になっているところも少なくない。こうなると、現地までいって“取材する”意味はかなり薄れていると言わざるを得ない。

世界最大級のゲームショウE3も、見本市から「ユーザーイベント」へ。激変する「ゲームショウ事情」とWebメディアの果たすべき役割を取材しつつ考えてみた【E3 2017】_002
(画像はElectronic Entertainment Expo公式ギャラリーより)

 さらに。そういう状況となると、例えば“速報”についても、その意味合いが変わってくる。
 つまり、かつては取材にいったメディアの中での(ある種の閉鎖された中での)競争だったものが、Twitterやユーザーのブログも含めた、全ユーザー横並びで扱われるものになる。なぜなら、中継されている動画を見ながらつぶやけばいいだけなのだから、速報の発信も、いまや誰でもできるコモディティ化された要素でしかないのだ。
 加えて、ゲームの販売経路も、今やオンラインサービス化/ダウンロード販売の割合が増えているのはご存じの通り。いまなおバイヤーの重要さに変わりはないが、それでも、昔ほどの影響力はなくなったのは確かであろう。

 要するに。見本市的なゲームショウが力を失う背景には、「メディアやバイヤーに対して商品の魅力を伝えることが、現在においては、必ずしも効率的なお客さんへの届け方ではなくなった」──という事実があるわけだ。

世界最大級のゲームショウE3も、見本市から「ユーザーイベント」へ。激変する「ゲームショウ事情」とWebメディアの果たすべき役割を取材しつつ考えてみた【E3 2017】_003
(画像はElectronic Entertainment Expo公式ギャラリーより)

会場のビジュアルの変化。SNSへの投稿を促すブース設計へ

 じゃあ、いま、もっとも効率的にお客さんに伝える/届けるにはどうすればいいのか。これもシンプルな話だが、「直接やればよい」ということである。任天堂がみずからストリーミングでタイトルの発表などを行う“ニンテンドーダイレクト”などはその好例だ。
 さらにとくに昨今は、SNSが社会の隅々まで浸透していることも手伝って、ユーザーの中には、メディアに匹敵する/あるいは凌駕する影響力を持つ個人も少なくない。また別にそうした特別なユーザーとまでいかなくても、一つのメディアに情報を発信してもらうよりも、1000人のユーザーに発信して貰った方がよい――そう考えるメーカーが出てくるのは当然だといえよう。

世界最大級のゲームショウE3も、見本市から「ユーザーイベント」へ。激変する「ゲームショウ事情」とWebメディアの果たすべき役割を取材しつつ考えてみた【E3 2017】_004
(画像はElectronic Entertainment Expo公式ギャラリーより)

 その施策として解りやすい話として、例えば、特徴的なオブジェをブースに置き、写真撮影やTwitterへの投稿などを促すスペースが増えていることなどが挙げられる。
 これは、ユーザーに直にゲームに触れてもらうだけではなく、そのことを、あるいは会場まで足を運んだことを、SNSに投稿して拡散してもらいやすくする(投稿の動機を作ってあげる)手段の一つである。最近では、ブースの設計としても、ユーザーのSNS拡散までを盛り込んだ形になっているわけだ。

 楽しそうなユーザーの写真や投稿は、何よりも説得力を持つ。
 今は、“ユーザーに対して”商品の魅力を伝えることが、もっとも効率的に商品(と情報)をお客さんに届ける手段になっているのだ。

世界最大級のゲームショウE3も、見本市から「ユーザーイベント」へ。激変する「ゲームショウ事情」とWebメディアの果たすべき役割を取材しつつ考えてみた【E3 2017】_005
(画像はElectronic Entertainment Expo公式ギャラリーより)

 E3も含めた、昨今のゲームショウのユーザーイベント化には、こういった力学が働いている。
 そして、そうした状況の中では、当然、メディアに求められるべき役割も変わってくる。以前のような“情報”だけで勝負ができなくなっているなかで、専門誌には専門誌なりの突っ込んだ切り口、大衆紙には大衆紙なりの噛み砕いた伝え方が求められるからだ。

Webメディアの未来を探るヒントとしての「E3 2017」

 まぁ簡単に言うと、求められるものが凄く難しいものになった。
 ここは、もっというと、専門誌なりの突っ込んだ切り口って、大抵は「ニッチなもの」でしかなくて、なかなかそれで読者は増えないんだよなぁ……とか、難しい問題もあるのだが。現地で実際に触ってみたプレイレポートなども、発表で存在を知った人の中から、より詳しく知りたいという人向けのものなので、どうしても読者数は少なくなりがちだったりする。
 なんだかんだで、シンプルな発表もの、速報ものが、もっとも読者を集められる分野なのは間違いなく、それがコモディティ化&レッドオーシャン化しているのが、既存(商業)のメディアの苦しさの一因でもあるんだよなぁ……。って、なんだか愚痴っぽくなってしまった!

 いやでも、だからといって、そう悲観しているわけでもないのだ。
 メディアじゃないと出来ない企画や記事はたくさんあるし、例えば、クリエイターへのインタビューなどは、クリエイター側の時間が有限だという意味では、対象者を絞らざるを得ないものだ。そういう部分では、腕のある「プロの記者/ライター」の価値が逆に高くなっているのも事実だ。

 ふり返ってみれば、あらゆるものがユーザー化しているというのは、ネット時代における普遍的な変動の話であって、何もゲームショウに限った話ではないのだろう。そんな環境のなかで、プロフェッショナルなメディアがどういうスタンスで、取材や日々の記事作成に向き合うべきなのか。

 いま、E3(ゲームショウ)で起こっている変化は、我々にそのヒントをもたらしてくれるキッカケになるかもしれない。(了)

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(画像はElectronic Entertainment Expo公式ギャラリーより)

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インタビュアー
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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