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“全滅寸前”からの大逆転が気持ちいい!『サガ エメラルドビヨンド』はバトルの面白さが頭ひとつ抜けたRPGだった。戦略性、遊びごたえ、“尖り”を求める方にはうってつけの一本

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RPGには、ストーリーよりも戦闘(バトル)の面白さと手ごたえを求める──そんなプレイヤーにこそ、『サガ エメラルドビヨンド』が刺さるだろう。

『サガ エメラルドビヨンド』先行プレイレビュー:新システム「独壇場」で“全滅寸前”からの大逆転が気持ちいい_001

ただし、1989年発売の『魔界塔士 Sa・Ga』以降、35年の長きに渡り、ひとクセもふたクセもあるシステムを持つ作品を出してきた『サガ』シリーズの新作。本作もご多分にもれず、クセの強い”異形のRPG”になっている。

最も象徴的なのは、「ゲーム全体の7~8割近くを戦闘が占める」という構成だ。2016年発売の前作『サガ スカーレット グレイス』と同じく、本編のマップ探索などの戦闘以外の要素は最低限に抑えられ、とにかく戦闘に重点を置いたRPGに仕上げられているのである。

そこに「経験値とレベルの概念はなし」、「キャラクターの種族ごとに成長方法が異なる」、「新しい技は戦いを通して”ひらめく”」といった、『サガ』シリーズ伝統の個性的すぎるシステムが絡み合い、独特にして唯一無二の遊び応えが演出されている。

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前作に引き続き、本作の戦闘システムの要となる「タイムラインバトル」も非常に個性的だ。
パーティメンバー全員の攻撃などの行動を決め、あとは画面下に表示された「タイムライン」の順序に沿って実行されていくのだが、タイムラインには敵がどんな行動を取るかの情報も表示され、それに適した技などを選ぶことが要求される。

しかも、実行すれば必ずその順番通りの結果になるとは限らない。こちらが仕掛ける技、敵の行動によっては、実行中に順序が入れ替わる。それによって大ダメージを与えるチャンスに繋がることもあれば、逆にこちらが全滅寸前に追い込まれるといった逆転劇も生まれるのだ。

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「タイムラインバトル」というベースはありつつ、一方で、本作では前作とは全く違った戦術と戦略が必要とされる戦闘システムになっている。

とくに新システム「独壇場」は素晴らしい出来で、パーティメンバー残り1人、全滅寸前という危機的状況に陥っても、勝利を掴むチャンスが生まれる。もちろんボス戦でも有効で、大逆転できるともう脳汁ドバドバ大放出。RPG伝統のターン制コマンド選択型バトルにおける、一種の「発明」と言っても過言ではない魅力がある。

このため、本作の一番面白い部分はどこか?と問われれば「戦闘!」と即答するほど、完成度が際立っている。ストーリーや世界観も完全に独立しているため、『サガ』シリーズの経験が無くても問題はない。
ゆえにRPGには何よりも戦闘の面白さを求めるそこのアナタ。ぜひ、ご挑戦を。

文/シェループ

前作『サガ スカーレット グレイス』をベースに、マップ探索の遊びが僅かに復活した『サガ エメラルド ビヨンド』

初っ端から結論付けてしまったが、そもそも『サガ エメラルド ビヨンド』とはいかなるRPGなのか、どれほどクセがあって異形の作りをしているのかを紹介していこう。まず基本的な遊び方だが、最初は主人公を選ぶところから始まる。

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本作ではスタート間もなく、計6人5組の主人公が選べる。大学生の「御堂 綱紀(みどう つなのり)」、魔女の「アメイヤ アシュリン」、元歌姫のメカ「ディーヴァ ナンバー5」、吸血鬼で闇の世界の王「シウグナス」、警官コンビ「ボーニー ブレア&フォルミナ フランクリン」のいずれか1人(2人1組)を決めると、それぞれのオープニングイベントを挟んだ後、本番(本編)開始になる。

本編は「ワールド」と称されたフィールドマップ上で主人公のキャラクターを動かし、各所で発生するイベントをこなしていく形だ。

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イベントが発生するポイントは、「スキャン」を行うことで「エメラルドヴィジョン」なるものがマップ上に浮かび上がって可視化。そのままヴィジョンを直接調べるとその色に応じたイベントが発生して、ゲームが進む仕組みとなっている。

ちなみにヴィジョンは緑・青・赤の3色があって、緑はメインストーリー、青はサブイベント、赤は戦闘となる。さらに各ヴィジョンからは緑色の光の波「エメラルドウェーブ」が主人公に繋がるように発せられていて、これが位置と距離を示すガイドとなっている。

そして、ワールドごとのメインストーリーが完了すると、次のワールドへと移れるようになる。

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▲連接領域(「ウェーブ」の先にある扉をくぐると次のワールドへ降り立つ)

ワールド間の移動は、「連接領域」と称された3Dフィールドのマップを介して実施。そのまま、フィールド内にある扉をくぐることで、新しいワールドに主人公たちが降り立つ。以降はヴィジョンを可視化して、イベントをこなしていくことの繰り返し。以上が本作の基本的な遊び方および本編の流れとなる。

フィールドマップの構造は、前作『サガ スカーレット グレイス』のスタイルを踏襲している。どんな構造か端的に言えば、RPGお馴染みのダンジョン、街といった局地マップが存在しない。ヴィジョンなるイベント発生ポイントを調べれば、ストーリー上でそれらに該当する展開が発生する簡易形式になっている。

それは戦闘も同様で、発生させるか否かはほとんど任意。フィールドマップを歩いていると突然発生したり、敵を示すシンボルに接触と同時に発生するといった仕組みが採用されていないのだ。まさに必要最小限の要素で作られたマップである。

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しかも、今回からは店も無くなった。前作には装備品の強化に特化した店が存在したのだが、今作ではメニュー画面の「アイテム」を経由して行う形になっている。

そのため、マップ絡みの要素は前作以上に減少……してない。それどころか滑る足場、一方通行の道、特定の装置で動作するリフトといった仕掛けが一部ワールドのマップで登場して、多少ながら探索の遊びが復活している。

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イベントによっては「リトグラム」なるパズルも発生。ピースを回して最適な位置にはめ込んでいくことも求められる。

他に青のヴィジョン、サブイベント関連でフィールド上に置かれたアイテム回収や、人の救出といったことも求められてくる。
そのため、バトル以外は徹底して最小限に留めていた前作よりも遊びの幅は広がっていて、ひたすら戦い続けるだけのゲームから多少脱却した作りになっている。

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▲穴を掘って道を作りながら進んでいくワールド

訪れることになるワールドも17と多く、場所によっては個性的な仕掛けがあったり、特殊な構造をしている。一般的なRPGに比べるとごく僅かの感じはあるものの、今回はそういった遊びも設けて楽しませてくれる作りに進歩。

特に前作の経験がある人ほど、似ているようで違うとの印象を強く抱くだろう。逆に経験がない人は、この思い切りすぎた作りに色んな意味で戸惑うこと必至である。

技同士を繋げて「連携」を決めろ!新たな戦術と戦略が試されるタイムラインバトル

似ているようで違うものは、戦闘システムも該当する。

見た目は前作『サガ スカーレット グレイス』と同じ。パーティメンバー全員の行動を決めて、あとは画面下の「タイムライン」に表示された順序に沿って実行・展開されていくものである。

詳しい流れを解説すると、まず最初にキャラクターごとの行動……技などをどの敵に対して繰り出すかを決める。ちなみに一切の行動を取らない場合は、自動的に防御行動になる。

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▲前作『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』のタイムライン

技を出すに当たっては、★で表された「BP」を消費する。BPはカードゲームで例えるところのコストで、選べる技や術はその数値内に限られる。基本、強い技ほど消費BPが多くなるため、複数のキャラクターを行動させたい場合はBPが少ない技などを選ぶことが求められてくる。

最初に選択されている連携陣では、BPはターン経過(※行動をすべて実行し終えること)のたびに最大値が1増えていき(初期値は4)、最終的には10まで到達。消費BPの高い技が選びやすくなっていく。

さらにBPは毎ターン、必ずそのターン時点における最大値まで補充される。BPをひとつ残してターンを経過させた場合も同じで、残せば最大値が通常よりも増えるような稼ぎはできないのだ。その辺りはカードゲームとは明確に異なる。

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▲『サガ エメラルド ビヨンド』のタイムライン。キャラクターアイコン真下に新たなスペースが設けられている

この一連の仕組みは、今回の『サガ エメラルド ビヨンド』でもほぼそのまま引き継がれている。ただ、大きく異なるのがタイムライン上のキャラクターたちのアイコン真下。そこにマス目状のスペース「連携範囲」なるものが新たに設けられている。

今回は技や術ごとに「連携範囲」が設定されていて、これを他のキャラクターの技などと繋ぎ合わせることで、「連携」なる連続攻撃が発生する仕組みに改められた。

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▲前作『サガ スカーレット グレイス 緋色の野望』より「連撃」

前作では2人の味方の間を挟む敵を倒し、双方が重なり合うと「連撃」なる連続攻撃が発動する、落ちものパズルゲームの連鎖を思わせるものだった。今回はそれとは異なり、前述した「連携範囲」を繋げて連続攻撃を決めていくのである。

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「連携」が発生すると画面上部中央の「連携率」が上昇していき、それと共に敵に与えるダメージ量も増えていく。さらに連携率が一定以上に達すると「オーバードライブ」こと追加の連携攻撃(要は「おかわり」)が発生。より大きなダメージを与えられる。

そして連携範囲内で、キャラクターの左右2マスが空いている状態になれば「独壇場」が発動する。

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これはひとりで連携攻撃を実施するというものである。「連携」はその仕組み上、パーティメンバーが減るほど、発動させるのが難しくなっていく。並行して全滅の危険も高まるが、本作はそれと同時に「独壇場」の条件が達成しやすくなる。

このおかげで、本作は例えパーティが1人だけになっても勝てる可能性が残る。上手く戦術を立てれば、絶望的状況からの大逆転を狙えるのだ。

この「オーバードライブ」と「独壇場」の2つが、本作の戦闘システムにおける最大の特徴にして見所であり、前作とは似て非なる遊び心地を演出するものになっている。

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特に「連携」は前作の「連撃」とは全く違う戦術を組み立てる必要があるため、経験者ほど「似ているようで違う!」と強く感じるだろう。そもそも、初見のプレイヤーとほぼ同じスタートラインに立って個々の仕様や特徴を理解していくことになるかもしれない。

なお、今回のバトルも回復はない。厳密には敵専用で、味方にはない。前作には一部、気休めレベルの回復技があったが、それすら無くなっている。よって、戦闘は雑魚敵だろうがボスだろうが全力でぶつからねばならない。日和ったりすれば全滅である。慈悲はない。

興奮必至の大逆転を決める快感!新システム「独壇場」がターン制コマンドバトルの新境地を切り開いた

そんな戦闘こそが本作最大のセールスポイントであり、プレイヤーの感情を最も揺さぶる部分だ。

特に素晴らしいのが「独壇場」のシステム。これによって、全滅寸前という危機的状況に陥っても、勝利を掴むチャンスが作れるのは、RPG伝統のターン制コマンド選択型バトルにおける発明と言っても過言ではない魅力がある。

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実際、本稿執筆の過程で体験したボス戦では、何度かこれによる大逆転を体験したのだが、誇張抜きに脳汁ドバドバ大放出の驚異的な快感を味わった

熾烈な攻撃を仕掛けるボスによって、パーティメンバーがターン経過のたびに倒れていく。気付いた頃には、パーティにはあと2人。そのうちのひとりは、1回でも強力な攻撃を受ければ脱落不可避。残るひとりもステータス異常を食らっていて、いつ仕留められるか分からない状況。

しかし!タイムライン上のキャラクターが減ったことで、独壇場の発動条件を達成しやすくなっている!スペースも十分に確保できる!

そこを狙って独壇場を仕掛けてみた結果、残るひとりが熾烈な連携攻撃を展開。そのままボスの体力がみるみる減っていき、ついには撃破。絶望的状況を覆す大逆転劇になったのである。

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直後、思わず力を込めてガッツポーズしてしまったのは言うまでもない。

こういう絶望的状況を覆す快感が「独壇場」にあり、戦闘に予測不能な展開をもたらすのだ。これが本当に気持ちよく、綺麗に成功した時なんて大興奮も大興奮である。

そして、このシステムは「パーティメンバーの減少=全滅の危機」という、ターン制コマンドバトルにおける定説に一石を投じている。
特にパーティメンバーがあと1人、敵も1人という状況での戦いは絵的に地味になりがちだ。中には演出を駆使して派手さを出したり、涙腺を刺激する例もあるが、普通の敵やボスとの戦闘の場合、なかなかそうはなりにくい。

それを本作の「独壇場」なるシステムは可能にして、新境地を切り開いているのだ。そのことからも、本当にこのシステムは発明と言っても大げさではない。

何より「独壇場」にせよ、「連携」と「オーバードライブ」にせよ、プレイヤーだけが扱うことを許されたシステムではない。

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▲連携、オーバードライブ、独壇場はプレイヤーだけのものじゃない!

敵やボスもこれらのシステムを活用してくるのだ。これも一連のシステムと快感を大幅に引き立てると同時に、ゲームバランスの奥行きを演出している。

なので、複数体の敵を相手にする戦闘で、残り1人になった時も決して油断できない。その1体が「独壇場」を仕掛けてくる可能性が残り続けるからだ!しかも、回復が存在しないので、仮にそういった技を決められた際の被害は甚大。持ち直すことはできない。

だが、そのようなことになっても最低ひとりが残れば、辛うじて逆転の機会は残る。そして見事、そこから勝利を掴めれば最高の達成感が得られる。

これほどプレイヤーの感情を揺さぶる仕組みを持っているだけでも、本作の戦闘システムがいかに異彩を放っているかは想像に難くないだろう。

筆者自身は前作『サガ スカーレット グレイス』の経験者で、そちらでもタイムラインを軸にしたバトルの面白さと油断ならない緊張感は異彩を放っていた。だが、『サガ エメラルド ビヨンド』はさらにその一段上を行ったように思える。何よりも「独壇場」による逆転の快感と、「全滅寸前=敗北確定」とはならないことが大変に感情を揺さぶる。

ターン制のコマンド選択型バトルの新境地も切り開いているので、本当にRPGには何よりも戦闘の面白さと手応えを求める人ほど、体験してみていただきたい限りである。

全滅寸前なのに、逆にワクワクしてしまう戦闘など滅多にあったものではない。実際、一度でも独壇場の逆転を経験すれば、全滅の危機に瀕する状況にニヤニヤするようになってしまうだろう。

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▲敵の連携を崩す際に大変役立つバンプ技「失礼剣」(モーションがとっても失礼)

もちろん、他の「連携」と「オーバードライブ」を狙う展開も時間を忘れて試行錯誤してしまう面白さがある。敵の連携を防ぐため、特定の属性の技を選んで割り込む「インタラプト」、「バンプ」なるタイムライン上の位置をズラす技を決める快感は、誇張抜きに本作ならではだ。

また、どんなに戦闘が感情を揺さぶるほど面白くても音楽が……という点についても問題ない。数々の『サガ』シリーズで名曲を生み出してきた伊藤賢治氏による熱くてカッコよく、時にニャンニャン(!?)な楽曲が大いに盛り上げてくれる。

ファンタジーにSF、現代、スチームパンクまでごった煮の世界観と膨大な分岐の数々

戦闘の面白さを率先して取り上げたが、ストーリーおよび世界観も非常に先鋭的な仕上がりだ。

特に強烈なのは世界観だ。ファンタジーにSF、スチームパンク、ゴシックホラー、現代劇に魔法少女モノまで、”ごった煮”という表現がこれ以上似合うほどなんでもありなものになっている。

『サガ』シリーズは特に1992年発売の『ロマンシング サ・ガ』以降、中世ヨーロッパを模したファンタジーな世界観に寄り気味なところがあった。

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ただ、『魔界塔士Sa・Ga』を始めとする初期の『サガ』シリーズの世界観は、ファンタジーにSFまで、基本なんでもありだった。今回の『サガ エメラルド ビヨンド』は、そんな初期シリーズや、HDリマスター版が販売中の『サガ フロンティア』の路線を踏襲している感じで、往年のファンほど懐かしい路線が帰ってきたと実感しやすいだろう。

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その辺りを狙ってなのか、本作には『Sa・Ga2 秘宝伝説』のキャラクター「せんせい」も登場。「せんせいの試練」なる報酬付きチャレンジを与えてきたり、「せんせいの修行」では控えのメンバーの強化を図ってくれたりと裏方として活躍する。

また、舞台となるワールドも、独特な光景と張り巡らされた仕掛けの特徴から印象に残りやすい。それぞれのワールドで出会うキャラクターたちも個性強めで、訪れるたび「どんなキャラクターが出てくるのだろう?」と期待と不安が入り混じる気持ちにさせてくれる。

しかも、その中には「あんた、仲間になるの!?」と二度見必至のキャラクターも。

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▲おそらく、その種のキャラクターの筆頭はこの人と思うのだが、どうなのだろう……。

また、そういった誰が仲間になるかに大きく影響してくるのがイベント中に発生する選択肢や、どのサブイベントを進めたかに伴う行動。

『サガ』シリーズと言えば、前述の『ロマンシング サ・ガ』以降のシリーズで定番になった、プレイヤーの選択と行動次第でその後のイベントやストーリー展開が変化する「フリーシナリオシステム」だが、本作でもそれは健在。

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今回はイベントに「巻き戻し」の操作が追加されたことで、選択肢を決めても後から選び直せる「お試しプレイ」が可能に。これにより、選び直しの手間も軽減されると同時に、いろいろな分岐パターンを確かめられる。

ただし、確かめられるのはあくまでも序盤部分で、イベントを進行させすぎると巻き戻しは効かなくなる。その意味でもまさにお試しプレイな仕様となっている。

そして、選択による変化もバリエーション豊か。実はその一端は4月4日よりPlayStation 5|4、Nintendo Switch、PC(Steam)で配信中の無料体験版で明らかになっている。

そのひとつ、Nintendo Switch版専用のアメイヤ アシュリン編では、ボス「最終皇帝」との戦闘が用意されているのだが、彼の者の姿などが選択と行動により、著しく変わるのだ。

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参考程度に、筆者の場合は上記スクリーンショットの通り、霊体の最終皇帝がボスとして現れた。だがおそらく、体験版を遊ばれたプレイヤーの中には「誰だ、こいつ!?」となった人もいるはずだ。これ以外の最終皇帝も存在するからである。(実際に周回プレイでは、別の最終皇帝が登場する展開が起きた)

似たような展開の変化は、体験版では遊べないシウグナス編、ボーニー&フォルミナ編でも複数確認されている。

公式にはシリーズ最大の分岐数とも言われるが、実際にそれは伊達ではなさそうで、本当にやり尽くすとなれば、途方もない時間を要するのは間違いなさそうである。

現に本作には周回プレイのやり込み要素もあって、そこで初めて発生する分岐もある。イベントの会話にも新たなものや変化が起きるものがあって、思わずどれだけのテキストが収録されているのか想像してしまったほどだ。(実際、メチャクチャ多いらしい……)

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▲もちろん、周回時には1周目のデータを引き継いでプレイすることが可能だ。

そこまで多いとなると、単純にエンディングを目指す(1周する)プレイも大変そうと尻込みしてしまうかもしれない。ただ、今回はそこにも一定の配慮がされている。というのも、主人公ごとにボリュームが異なる。一部、5時間以内で終えられる主人公もいるのだ。

どの主人公が短いのかは遊んでのお楽しみだが、そうした周回しやすいシナリオもあるので、今進めている主人公は長丁場になりそうだなと思ったら、途中で切り替えてみるのも手だ。ちなみにセーブは主人公ごとに複数作成可能。並行プレイも容易だ。

異形のRPGゆえにクセも強く、人を選ぶ。だが、刺されば深々と遊び込んでしまう尖りに尖った意欲作

主人公ごとのストーリーもそれぞれ、異なるテイストを持ったものに仕上げられている。とりわけ強烈なのはアメイヤ アシュリン編だろう。

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小学生の仮の姿で日常を送る魔女が、街中の異変や失った魔力を取り戻すために奮闘するという魔法少女モノ全開の内容である。「これが『サガ』!?」と戸惑うこと必至。おまけにイベントでネコを集めたり、仲間で黒猫(しかもイケボ)がいたり、戦闘曲もニャンニャンしているほどである。その意味でも印象に残りやすい。

また、選択画面の次点で威厳とプライドの高さを匂わせているシウグナスのストーリーも面白い。というよりは、シウグナス自身が面白い。

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▲シウグナスのストーリーでは、他の主人公と一緒になって進めていくイベントも。

恐らく、主人公の中で最も愉快なキャラクターだろう。どんな主人公かは見てのお楽しみとして、多分、プレイヤーによっては主人公の中ではダントツの推し(あるいはネタキャラクター)になるかもしれない。

そんな戦闘以外の部分にも多くの見所がある本作だが、一般的なRPGとは違った作りをした作品。ギャップの激しさから、人によっては拒否反応を覚える側面もある。特にレベルと経験値の概念がなく、力任せでの戦術が通用しないところがそのひとつだ。

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▲戦闘終了後、どのステータスが伸びるかは毎回分からない。

マップを探索する遊びは最小限、回復がない、店もない、成長のさせ方にも種族それぞれ特徴と違いがあるといった部分も好みが分かれやすいだろう。

そして、これはプレイしていて気になる部分でもあるが、全体的に説明不足気味ではある。一応、チュートリアルや各種システムを解説する「TIPS」が用意されているのだが、細かい解説は省かれ気味で、基本、遊びながら理解することが要求される

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とりわけ戦闘における「バンプ」「リザーブ」といった攻撃種類(効果)は、「TIPS」に丸投げであり、普通に遊んでいると何が何だかと理解しづらい。
なので、少しでも分からない言葉が出てきたならメニュー画面から「TIPS」と「用語集」をチェックすることを強くオススメする

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演出周りもストーリー絡みのイベントにはいわゆる派手なムービーはなく、1枚絵(スチル)を活用した古風なスタイルであり、地味さは否めないだろう(ただし、戦闘は3Dモデルのキャラクターたちが躍動的に動くこともあって派手である)。

その意味でもクセが強く、人を選ぶ作品である。そもそも、戦闘にフォーカスし、マップの探索と言った遊びを最小限にしているだけでも非常に先鋭的である。

だが、そうも割り切っているなりにキモの面白さは突き詰められている。特に戦闘システムと豊富な分岐によるボリューム感は特筆に値する。前作『サガ スカーレット グレイス』の路線を継承しながら、違った手触りになっているのも面白い。

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人を選ぶ作品なのは否定できないし、万人向けではない。だが、こういう個性的なRPGがたまにはあってもいい。そう実感させる底力と癖になる魅力を秘めているのが『サガ』シリーズであり、今回の『サガ エメラルド ビヨンド』である。

繰り返しになるが、その中でも戦闘の面白さは突出しているので、まずは無料体験版でどんな感じかを確かめ、もっと戦いたいと思ったなら製品版に突撃いただきたい。冒頭の通り、RPGに戦闘の面白さを求める人ほど、刺さるのは間違いないだろう。

また、普通のRPGはもう飽きた、唯一無二の刺激と「なんだこれ」な体験を求めている人も一歩踏み出してみよう。きっと真の意味で”異世界”を体験するはずだ。

ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop

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