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“世界最古”にして現代ゲームAIの先駆。21世紀に『パックマン』が再評価される理由を、作者・岩谷徹氏×AI開発者・三宅陽一郎氏が解説【仕様書も一部公開!】

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 電ファミで先週リリースした、AI開発者・三宅陽一郎氏への「ゲームAI」史のインタビュー記事が、大きな反響を呼んでいる。

21世紀に“洋ゲー”でゲームAIが遂げた驚異の進化史。その「敗戦」から日本のゲーム業界が再び立ち上がるには?【AI開発者・三宅陽一郎氏インタビュー】

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 歴史の話にくわえて、海外と日本のゲームAIを巡る「認識の落差」についても、三宅氏に語っていただいているので、ぜひ未読の方はご一読いただければと思う。

 ところで、この「ゲームAI」史の記事の中で、1980年に発売されたアーケードゲームの名作『パックマン』が、どうやら「ゲームAI」の起源らしいという話が、三宅氏によって語られている。
 「世界一売れたアーケードゲーム機」としてギネス記録にも載っている、この40年も昔の名作が「世界最古のゲームAI」でもある――それは一体、どういうことなのか。しかも、『パックマン』の開発人数は、たった7〜8人。どのような経緯で、当時のナムコは21世紀のゲーム開発にも通じる「ゲームAI」の発想を必要としたというのか。

 ――実は、その謎を解き明かすイベントが、去る2016年12月12日に開催されている。

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『人工知能の作り方 ―「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか』(三宅 陽一郎・ 2016)
(画像はAmazonより)

 それは三宅氏が同年12月20日に上梓した『人工知能の作り方 ―「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか』の書店イベント。『パックマン』の生みの親として知られ、現在東京工芸大学で教鞭を執る岩谷徹氏に、三宅氏が秋葉原の書泉ブックタワーで、パックマンの開発秘話を「ゲームAI」の観点から聞いているのだ。
 イベントは、なんと岩谷氏の計らいで、当時の『パックマン』の仕様書まで飛び出し、大盛り上がり。『パックマン』開発秘話のみならず、プレイヤーの満足度を最大化させるゲーム制作の極意について、ゲームAIの最新事情と照らし合わせながら、その先進性が論じられた。
 「最古のゲームAI開発者」と「最先端のゲームAI開発者」——そんな世代を超えた二人の日本人「AI開発者」の対談から見える「ゲームAI」の可能性とは……?

文/高橋ミレイ

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三宅陽一郎氏(写真左)と岩谷徹氏(写真右)。

ゲームAIは『パックマン』から始まった!

三宅陽一郎氏(以下、三宅氏):
 岩谷先生がナムコに入社されてからの最初の作品は、いつ出されたのでしょうか?

岩谷徹氏(以下、岩谷氏):
 1977年にナムコへ入社してから最初に開発に携わったのが1978年に出した『ジービー』【※1】でした。ピンボールとブロック崩しを混ぜたゲームでしたが、これが大失敗だったんです(笑)。でも、後にその失敗が1980年5月22日に誕生した『パックマン』【※2】に活かされることになりました。

※1 ジービー
1978年に ナムコ(当時)より発表されたアーケードゲームであり、ナムコが独自開発した初の業務用タイトルとなる。ピンボール風のブロック崩しゲームであり、ブロック以外にバンパーやスピナーなどが配置されている。続編である『ボムビー』や『キューティーQ』とあわせて「ジービー一家3部作」と称された。

※2 パックマン
1980年にナムコ(当時)より発表されたアーケードゲーム、および以後発売された同シリーズの総称。生みの親は岩谷徹氏。迷路の中で4匹のモンスターから逃げながら、迷路内に存在するドットを食べつくすゲームで、発売から7年で総販売枚数293,822枚を記録した業績を称えられ、2005年に「最も成功したコイン式業務用ゲーム」としてギネス世界記録に認定された。

三宅氏:
 今回なぜ岩谷先生をお招きしたのかと言いますと、『パックマン』がゲームAIの原点だと言えるからです。我々ゲーム業界人の間でも最初のゲームAIといえば『パックマン』から始まるのが定説になっていますし、最近は世界的に大学でのゲームAI研究が進んでいるなか、学会でも最初のゲームAIが『パックマン』だという文脈があります。

 僕自身は、主に大型のコンシューマーゲームを作りながら著作を出しています。その中でも、プレイヤーを倒そうとするモンスターの頭の中を作るのが、ゲームAI開発者としての僕の主な仕事です。そのルーツとなるのが、岩谷先生が手がけられた『パックマン』のモンスターでした。ゲーム内に出てくるキャラクターの動きに個性を出したのは、これが初めてだったんです。『パックマン』には、キャラクターに個性を持たせる「キャラクターAI」とゲーム全体のレベル調整をする「メタAI」が実装されていたんですね。

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 さて、ここから先は岩谷先生に色々とお聞きしたいと思います。先生としては、会社で作った作品の何作目が『パックマン』になるのでしょうか?

岩谷氏:
 4作目ですね。その前に、失敗した『ジービー』と、失敗した『ボムビー』と、失敗した『キューティQ』がありました(笑)。なぜ失敗し続けたかというと、開発中に開発者の腕が上がってしまって、難易度が高めに設定されたまま出荷されてしまうという失敗を繰り返していたからです。つまり、お客様にとっては難しすぎたんですね。それで、『パックマン』を開発するときは本当にやさしく作るように心がけました。
 「プレイヤーの心の動きを先取りした仕掛けや、面白さとは何だろう?」ということを考え、細かい設定を随所に入れながら作ったのです。

『パックマン』の最終仕様書が登場!

三宅氏:
 今日は、貴重な資料を持ってきていただきました。『パックマン』の最終仕様書です。

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岩谷氏:
 こちらの仕様書に細かい要件などが書かれておりまして、例えばミスしたときなどは、そこでやられたんだから、同じ難易度からリスタートするとプレイヤーはついて来られないはずです。ですから、やられた所の難しさから少し戻してリスタートしたりするんですね。

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 後は、モンスターの動きを工夫しました。『パックマン』には、アカ、ピンク、シアン、オレンジの4色のモンスターがいます。もし、その4匹ともが同じアルゴリズムでパックマンを追いかけてしまうと、迷路の中で数珠つなぎになって追いかけることになってしまいますよね。すると、後方さえ守っていればパックマンは安全ということになってしまうので、プレイヤーがスリルを感じる場面がなくなってしまうんです。

 ゲームは、ある程度のハードルをクリアしていくことが大事なんですね。なので、パックマンの周りに4匹のモンスターが散らばるように、なるべくパックマンを取り囲んで追い詰めるようなアルゴリズムにしました。これはプログラマーの舟木茂雄さんが考えたのですけれども、1匹1匹違う動き方をするんです。

三宅氏:
 こちらの表はどういうものなのでしょうか?

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岩谷氏:
 この表はパックマンとモンスターのスピードの差の変化表ですね。
 パックマンは、エサを食べているときは動きが遅くなります。そうすると、モンスターに追いつかれてしまうんですよ。ただし、パワーエサを食べると、追いかけられている立場からモンスターを追いかける立場に逆転して、パックマンの動きも速くなる……そういった関係性を示しています。表では左からABCDとありますが、Dに向かって右に行けば行くほど、お互いの動くスピードがアップするんです。ですから、迷路をクリアしてAからBに移ると、相対的にスピードが増すので、だんだんと難しくなってきたと思わせることができるんです。

最初のゲームAIが誕生するまで

三宅氏:
 『人工知能の作り方 ―「おもしろい」ゲームAIはいかにして動くのか』のテーマもそうですけれども、ゲームデザインとAIは深く関わっているんですね。ちなみに、『パックマン』はAIにあたる技術が先にあり、それを活用する形でゲームをデザインされたのでしょうか?

岩谷氏:
 結果として、ゲームAIにあたるものも含めたゲームデザインになったんです。
 なにせ、当時の私は人工知能やAIという言葉さえ知りませんでしたから。とにかく、プレイする人たちがどんな人たちでも楽しめるようにしたんです。ゲームセンターによく来る青少年だけではなく、小さな女の子や年配の方も含めた非常に幅広いお客様の層を考えました。どなたでも満足していただけるような工夫を随所にしていたのが、大きな特徴だったと思います。

三宅氏:
 90年代に入り、ゲームが3Dになると今度は「自律型AI」が出てきます。キャラクター自身が考えて動くようになって、大局と局所が分かれていきます。それまでのゲームAIは、いわばオールインワンのシステムでしたが、現代のゲームAIの仕組みは、「キャラクターAI」「メタAI」「ナビゲーションAI」という3つのAIがコンビネーションを組むことで機能しているんです。

 「キャラクターAI」は、『パックマン』のモンスターのようなキャラクターの頭脳を司るAIです。その上にある「メタAI」は、ゲーム全体を神様のように上からコントロールするAIです。それから、位置を把握するためにパス検索【※】をしていくのが「ナビゲーションAI」です。この3つがコンビネーションすることで成り立っているのですが、実はこの3つのAIの要素はすでに『パックマン』に入っているのです。「キャラクターAI」だけではなく、全体を調整する「メタAI」、迷路を解く「ナビゲーションAI」も入っています。

※パス検索
ゲーム内の位置に関する情報を、ナビゲーションメッシュと呼ばれる連結したデータとして取得。そしてキャラクターが移動できるところ、移動できないところを判断し、2点間の最短経路を導き出す仕組み。

難易度調整は人間がやらないといけない

三宅氏:
 今は第3次AIブームと呼ばれていますが、プログラムを書くのではなく、たくさんの情報の中から学習をするのが特徴です。それを応用したのがニューラルネットワーク【※1】で、さらにそれを発展させたのがディープラーニング【※2】。5つの『Atari 2600』【※3】のゲームを自動学習したことで話題になったGoogle DeepMindのDQN(Deep Q-Network)【※4】は、そのディープラーニングを応用したものです。こういうのはデバッグで使えそうですが、難易度の調整は人間がやらないとダメですよね。

※1 ニューラルネットワーク
人間の脳の情報処理の働きをモデルにした人工知能のシステム。ニューロン同士の結合で構成されており、分散処理・並列処理・学習機能・自己組織化などを特徴とする。主に音声認識や、文字認識、画像認識などに応用されている。

※2 ディープラーニング
ニューラルネットワークの後継技術である、コンピューターによる機械学習。多層的なニューラルネットワークに膨大なデータを入力することで、該当のデータに含まれる特徴量を抽出できるのが大きな特徴となっている。第三次AIブームのきっかけとなった技術で、2016年3月にディープマインド社の開発した「アルファ碁」が囲碁のトップ棋士イ・セドルを破るなど、近年話題を呼んでいる。

※3 Atari 2600
アメリカのビデオゲーム会社・アタリ社が1977年に発売したカートリッジ交換式家庭用ゲーム機。アーケード作品の移植の試みも多く、『パックマン』や『スペースインベーダー』などの有名ゲームが移植された。なお、話題に挙がっているDQNは、強化学習を試みた約半数の29本の「Atari 2600」のゲームにおいて人間の腕前を上回るプレイを見せた。

※4 DQN(Deep Q-Network)
Google DeepMind社が開発したAI。深層強化学習アルゴリズムを利用したもので、ピンボールなどの一部の電子ゲームにおいてプロゲーマーと同等かそれ以上のスコアを獲得できている。その一方で、ランダムにゲームをプレイして学習していくその特性から、『パックマン』風のゲーム(ミズ・パックマン)ではうまく学習できずスコアを伸ばせなかった。

岩谷氏:
 そうですね。難易度調整は、何らかの人物像を想定して、それになりきってやらないといけませんからね。たとえば、「私は新宿で働いている料理人で、昼休みにゲームセンターに来た」というプレイヤーになりきるんです。その人は、いつもなら派手なアクションゲームをやりますが、たまたま見かけた『パックマン』をプレイしてみたという設定なんですね。そうして、「彼はどんな気持ちでやるのだろう?」ということを頭の中でシミュレーションするのです。

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