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『マイクラ』のモノづくりの原点“パンチ”は、地味な見た目に反して超絶なパワーが!?

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イラスト/近藤ゆたか

 『マインクラフト』で作られた建築物には、息を飲むほど美しいものがある。ため息が出るほど荘厳なものもある。
 それらも、大自然のなかで、主人公が木を切り出して道具を作り、石や鉄などを手に入れて、まったくのゼロから作り上げたものと思えば、感銘はますます深くなる。ああ、なんという壮大なスケールか。

『マイクラ』のモノづくりの原点“パンチ”は、地味な見た目に反して超絶なパワーが!?_001
画像はminecraft.netより

 が、冷静に考えれば、これは驚くべき話である。
 どんなにすごい建築も、木を切り出すところから始まる。当然、その時点で道具はないわけで、ではどうするかというと、素手で木を殴る!
 四角い木の幹を、右手でガガガガッと叩き続けると、破片が飛び散り、原木が手に入る。それは一辺1mの立方体!

画像はOfficial Minecraft Wikiより

 壮大な『マインクラフト』の世界で、最初に行われる「素手で木を切り出す」という行為。これは、ちょっとすごくないですか。今回はこの問題を考えてみたい。

どんなパンチ力なのか!?

 この豪快な作業を、涼しい顔で繰り返す男たちの名は、スティーブ&アレックス。ここでは、キャリアの長いスティーブを例に検証しよう。
 スティーブは、堂々たる体躯をしている。『マインクラフト』の世界では、木も土も鉱物も一辺1mの立方体でできており、これらと比べると、身長2mはありそうだ。
 その隆々たる筋肉から、プロレスラーなどと比較すると、体重は150kgくらいじゃないかと推測される。
 この立派すぎる体なら、素手で木を切り出すことも可能なのだろうか。

スティーブは隆々たる筋肉の持ち主(イメージ)。

 スティーブは、木の幹を右手で何度も殴ることで、原木を入手する。
 ゲームの画面で数えてみると、14回殴った時点で、木の幹は打ち抜かれている。
 いうまでもなく、奇妙な現象である。どんなに木を殴りつけても、一辺1mの立方体がスポッと手に入る……ということは起こらないだろう、普通は。
 そこで本稿では「パンチ14発で樹木を破壊し、一辺1mの立方体のスペースを作る」と考えて、その威力を計算してみたい。というか、そんな計算しかできないです~。

 まずは実験してみよう。
 角材の先端に直径2.5mmの鋼鉄の棒を固定して、高さ1mから木の板の上に落としてみる。鋼鉄の棒は木の板に0.9mmめり込んだ。「角材+鋼鉄の棒」の重さは160g。

直径2.5mmの鋼鉄の棒を高さ1mから木の板の上に落としてみたら、木の板は0.9mmめり込んだ。

 つまり、160gの物体が高度1mから落下するエネルギーで、体積にして4.4m㎥の木が破壊されたわけである。

 では、スティーブの場合はどうか? 
 一辺1mの立方体の体積は1㎥。これはm㎥に直すと10億m㎥であり、4.4m㎥の2億3千万倍だ。
 つまりスティーブは、14回のパンチで、上記のエネルギーの2億3千万倍を出した!
 ここからパンチ1発のエネルギーを計算すると……、うおっ、車重1tの乗用車が時速810kmでぶつかるのと同じ!

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 これはもう、強いとか、すごいとかいうレベルではない。
 男性の片腕の重さは、体重の5%だから、推定体重150kgのスティーブの場合は7.5kgだ。この腕で、車が時速810㎞で激突するのと同じエネルギーを出すとしたら、パンチのスピードは時速4万3千km=マッハ35
 わははははっ。とんでもない数値が出るだろうと思っていたけど、予想のはるか上を行った。
 ものすごいな、スティーブ。こんなパンチを食らうモンスターが気の毒だ。

確かにクリーパーもすごいが

 しかし『マインクラフト』の世界には、このスティーブをも脅かすモンスターがいるのだから、驚きだ。近寄ってきて、白く光ると、いきなり自爆する!
 その名はクリーパー。近くで爆発されると、スティーブさえも死亡することがある。

画像はOfficial Minecraft Wikiより

 これ、いったいどういう動物なのだろう?
 現実の自然界には、爆発する動物はいない。動物の行動は「捕食」「防衛」「生殖」「巣や縄張りを守る」のいずれかと関係があり、自分が爆発してしまったら、どれもできなくなってしまうからだ。
 植物界にまで目を広げれば、ホウセンカは、実が熟すと弾けて種を遠くへ飛ばす。子孫を広い範囲に広げるための仕組みだ。
 ことによると、クリーパーも爆発することで、卵のようなものを遠くへ飛ばすのか……。

ホウセンカ
(画像はWikipediaより)

 などと妄想の森に入ると抜け出せなくなるので、爆発する理由はともかく、その威力を考えよう。

 爆薬によるビル解体では、コンクリート1㎥につき200gの爆薬を使う。これは標準的なダイナマイト1本分の薬量だ。つまりダイナマイト1本で、コンクリート1㎥が破壊できると考えていい。

爆破解体により建物が崩れ落ちる瞬間。
(画像はWikipediaより)

 ゲームのある場面では、クリーパーが爆発することで、地面が24ブロックにわたって吹き飛んでいた。地面を1㎥破壊するのにもダイナマイト1本分の爆発力が必要と考え、クリーパーが地上で爆発することを考慮すれば、エネルギーの半分は空中に逃げるから、ダイナマイト48本分の威力となる。すごいな!

 こんなモノが近くで爆発したら、スティーブも無事では済まないだろう。
 爆風は四方八方に広がるから、1m離れたところでクリーパーが爆発すると、スティーブは全身でダイナマイト2.6本分の爆風を浴びることになる。
 ここで「2.6本? 上記の48本に比べれば大したことない」などと思ってしまったあなたは、アタマが『マインクラフト』化しています。ダイナマイト2.6本分の爆風を浴びたら、死んで当然だって。

 とはいえ、実は筆者も「あれっ」と思っている。
 クリーパーの爆発によるエネルギーも、スティーブのパンチに比べれば、なんということはない。パンチ1発のエネルギーは、ダイナマイト48本が爆発する分の9倍もあるのだ。

 『マインクラフト』においては、すべての出発点であるスティーブのパンチ力が異様に突出している。やはり、すごい男だ。【了】

プロフィール
理系作家。空想科学研究所の主任研究員として、書籍の執筆を続ける一方で、各地での講演、ラジオ・TV番組への出演など精力的に活動。2007年には『空想科学 図書館通信』の無料配信を始め、現在も継続中。代表作『空想科学読本』シリーズは、現在17巻まで刊行。明治大学理工学部の非常勤講師。
空想科学研究所公式サイト:www.kusokagaku.co.jp
Twitter:@KUSOLAB



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