2月13日、Twitterにて、あるブラウザゲームを遊んだ感想がつぶやかれた。
「怖くないホラーゲーム」というものを遊んだ。うさぎさんを操作して穴にボールを落としていく可愛らしいパズルゲーム…なんだけど、「押してはいけないボタン」や前触れもなく解説され始める違法薬物、明らかに様子がおかしい。遊園地にある子供向け遊具から流れてくるような陽気なBGMが逆に怖い。 pic.twitter.com/KzRxeIshdZ
— ロッズ (@rods_skyfish) February 13, 2018
ロッズ氏(@rods_skyfish)がつぶやいたのは、スマホ・PC向けのブラウザゲームを制作・公開しているサイト「作っちゃうおじさんの寝床」に置かれていた『うさぎパズル』なるゲーム。
「怖くないホラーゲーム」、「押してはいけないボタン」といったワードが注目を浴び、またたくまに拡散。本稿執筆時点で26000を超えるリツイート数を叩き出している。
ロッズ氏のツイートを『NieR:Automata』のディレクター、ヨコオタロウ氏がお気に入り登録したこともあるのかもしれないが、大手ゲームメーカー作品でもない『うさぎパズル』がなぜこれほどのリツイート数を記録したのか?
『うさぎパズル』は、2000年代初頭の “ブラウザ上でプレイ可能なフラッシュゲーム”(※『うさぎパズル』はHTML5製)を思い出させる内容であり、このようなシンプルな作品が現代において脚光を浴びるのは非常に興味深い。
本稿では『うさぎパズル』を開発した「作っちゃうおじさん」氏にインタビューを敢行。「作っちゃうおじさん」氏は、自身のサイトにて手軽に遊べるブラウザゲームを月に1本、制作・公開しているインディーゲームクリエイターだ。
氏はなぜ今もブラウザゲームを作り続けるのか。そしてどのような信念を抱いているのか。インタビューから見えてきた、ブラウザゲーム制作への情熱とは?
文・聞き手/Nobuhiko Nakanishi
編集・聞き手/ishigenn
「怖くないホラーゲーム」誕生秘話
──『うさぎパズル』が大きな注目を集めましたが、反響はいかがですか?
作っちゃうおじさん:
ブログにも書いたんですけど、プレイしているときに感じる、怖い予感がする状態をいかに長くするか、ということに注力しました。
──開発のコンセプトを教えていただけますか?
作っちゃうおじさん:
『アカズノハコ』というホラーゲームを以前作ったんですが、コメント欄に「怖くないのを出してください」と書かれていたんですよね。そのときは「そんなのあるわけないでしょ!」って思っていたんです(笑)。
でも、仕事の合間に「なにかできるかもしれない」と光明がさしてきまして。そもそもホラーって、禁忌を踏むものじゃないですか? 踏まなければ無事終わるけど、踏むと怖いっていうゲームならできると思って、アイデアが浮かんだ日にすぐに作り始めました。
──開発期間は?
作っちゃうおじさん:
だいたい1週間くらいですね。
で、リリースしてもそんなに反応はなかったので、巨大資本と広告という見えない敵には勝てないなと思っていたところ、例のツイートで爆発しましたね。
おかげさまで、どれぐらいのアクセスがあれば食っていけるのか、という検証ができるくらい大ヒットしました(笑)。
──いわゆる一般的なホラーゲームとは趣が違いますが、どのような点を意識したのですか?
作っちゃうおじさん:
まあ大手には勝てないじゃないですか。たとえば『バイオハザード7』とか超怖いじゃないですか。
でも「自力でなんとかすごい怖さを作れないか」と考えることが大事で、大手に対して個人制作の範疇で対抗できないものか、と努力する姿勢が大事ですよね。
──その努力を突き詰めると、そもそもなにが怖いのかというホラーゲームの本質に迫ることになりますよね。
作っちゃうおじさん:
でも突き詰めてしまえば、人ってそこまでの表現を受け止められなくて、“3Dは強すぎる”って思っているんですよ。2Dで描かれた恐怖のほうがプレイヤーにとっては受け止めやすいんじゃないかと。
または、恐怖の感情というのは実は外からくるのではなくて、ゲームという舞台装置によって個々人の内側から生まれてくるもの。その感情こそが本当の恐怖なんじゃないかと。
夜暗い中、トイレに行くのが怖いっていう原理ですよね。3Dは全部見えてしまうけど、本当に怖いのは情報を遮断した状態から想起されるものじゃないかって考えてますね。
──ファンシーな世界だけど、禁忌を踏んだときに大きな場面転換がある。そうすることによって、その人が感じていた世界の大きさが一瞬でつかめなくなりますよね。だからこそパニックに陥りやすい。
作っちゃうおじさん:
そういう部分は意識していますね。情報をいかに開示しないか。世界観をあえて提示しないようにしています。
「作っちゃうおじさん」、27歳
──ゲームを作るようになった明確なきっかけはあったのですか?
作っちゃうおじさん:
巷でフラッシュが流行していたころ、僕は小学生だったんですけど……。
──えっ。今おいくつなんですか?
作っちゃうおじさん:
27歳ですね。
──「おじさん」と名乗られているので、2000年代からゲームを作っている方だと勝手に思い込んでいました。
作っちゃうおじさん:
そうですよね(笑)。私は小学3年生のころ、親のノートパソコンでフラッシュを見て爆笑していた世代なんです。「オラエモン」とか「ペリーの来航」とかが流行っていたときでしたね。
それからBABARAGIOさんやシフトアップネットさん、タカヒロウさんのブラウザゲームサイトに遊びに行くようになって。そのときに受けた衝撃が忘れられなくて、自分でブラウザゲームを作るようになりました。
──いつごろから作り始めたんですか?
作っちゃうおじさん:
僕が大学生のころですから、2009年くらいですね。一番最初に作ったのは……『パズルRPG』かな。
これは携帯電話で遊べるように画面デザインを工夫した覚えがあります。あのころはガラケーがまだ主流だったので、ボタンがあって、テンキー入力ができたんですよね。
──子どものころに見て楽しんでいた、フラッシュ黄金時代の作品から影響を受けて作り初めたと。
作っちゃうおじさん:
作っちゃいましたね。単純に好奇心からだと思うんですけど。ほかには、高校時代にJavaScriptでゲームみたいなものを作って遊んでいたこともありましたね。
ブラウザゲームを作って怨念発散
──サイトを見るとたくさんの作品が公開されていますが、どのくらいのペースで制作されているのですか?
作っちゃうおじさん:
大学時代と比べると、社会人になってからのほうが作るペースは早くなりましたね。たぶんストレスが増えたからだと思うんですけど。
ゲームを見てもらうと、僕がそのころいつ何をやっていたかがわかると思います。たとえば就活生時代の苦しみをぶつけたのが『お祈りぷよぷよ』ですね。これはドワンゴに落ちたときに作ったものです(笑)。
──(笑)。では、サイトのゲーム一覧を見れば、作っちゃうおじさんになにがあって、どんな精神状態だったかがわかるということですね。
作っちゃうおじさん:
『お祈りぷよぷよ』を作ったときは、IT企業を中心に面接を受けていて。ちょうど大学院を卒業したばかりだったんですが、当時はIT業界ってわりと周囲から反対されたんですよ。
周りの雑音もあり、中途半端な気持ちで就職活動をしたもんだからなかなか受からない。しかも、最終面接までいったのに、その会社の評判を聞いて辞退してしまったり。
自分が悪いんですけど、企業側からはすごく怒られて。そういったすごく鬱屈した気持ちをゲーム制作にぶつけました。
──ストレスもあったのかもしれませんが、感情の起伏がクリエイティブで発散されたんですね。ほかのゲームで制作時に思い出深かったものはありますか?
作っちゃうおじさん:
『はじめての合コン』ですね。大学4年生のときに作ったものなんですけど、初めて合コンに参加したときの鬱屈した気持ちをぶつけました。
あとは……社会人になってからのストレスは『エレソナ5』や『ヤリイカ99』が色濃くでていますね。この辺はあほげーで作ったものになります。
──ちなみに伺いますが、『クリスマス討魔伝』はクリスマスに対する怨念から生まれたのですか?
作っちゃうおじさん:
これはですね、童貞だったころの気持ちを忘れちゃいけないと思って作りましたね。
──(笑)。どうして忘れちゃいけないんですか?
作っちゃうおじさん:
陰キャ感は大事だと思ったんですよ。童貞だったころの偏っている部分っていいパワーだったなと。それってすごい力だよなと。
『クリスマス討魔伝』を作っているときは、実はもう彼女はいたんです。しかも、来年には結婚予定という……。人間、落ち着くと保守的になるので、あのころの気持ちを忘れちゃいけないと思って。
──これまでに作ってきたゲームが人生の鏡になっているんですね。
作っちゃうおじさん:
まさに鏡ですね。たとえば、作家という職業に就いている方は、自身にはない感情を生み出したり、表現することができると思うんですけど、僕はどうしても自分がそのときに持っている感情が出てしまうんですよね。
なぜいまブラウザゲーム?
──Twitter上では「みんなアプリじゃなくてブラウザでゲーム作ろうよ」ってつぶやかれていましたよね。なぜブラウザゲームにこだわっているのでしょう?
作っちゃうおじさんさん:
ひとつはブラウザゲームの“自由さ”ですね。アプリはAppleやGoogleの審査がどうしても面倒で煩雑なところがあるんですよ。
一方、ブラウザは開発サイクルも短いし審査もない。しかも感想やリアクション、フィードバックが早くもらえるんですよね。
むしろ、なぜみんなブラウザで作らないのか不思議でしょうがないです。周囲に聞いてみても「アプリはみんなが作っているから」とか「もうブラウザゲームなんて古い。時代はアプリでしょ」といった答えが返ってきて。僕からすると不思議ですね。
──『うさぎパズル』はリツイート数が26000を超えていますが、流れてきたツイートから、スマホでもすぐに遊べるわけですよね。そういった手軽さが受けたのかもしれませんね。
作っちゃうおじさんさん:
そこは正直狙いました。画面サイズもスマホで遊べそうなサイズにしています。
スマホでブラウザゲームをやるという時代はいつかくると思っていて、今回の大ヒットは一番乗りしたボーナスのひとつかなと(笑)。
──ブラウザゲームなら携帯電話やスマホ向けに作りたいものを作れる。気軽に作れるから数も出せる。スマホを持っているユーザーも多いからリアクションもすぐにもらえる。
そういった環境で日々ゲームを作られることが、ライフスタイルになっているわけですね。
作っちゃうおじさん:
その通りですね。そのライフスタイルを流行らせたいです。人によっては詩だったり絵だったりで表現するかもしれないですけど、“ゲームを作る”という行為は没入感も高いですし、感情も表現しやすいと思います。
ブラウザゲームを作って発散するライフスタイルというのが流行ればいいなと思っています。
──お話を伺ってると、ブラウザゲームみたいな手軽なものは、冒頭で話されたホラーゲームの感覚と親和性が高い気がします。
たとえばパッケージゲームは“購入する”という行為によって「これからホラーゲームを遊ぶ」、「このゲームは怖いんだ」という心構えができてしまう。でも『うさぎパズル』は無料で簡単に始められるから、心構えができていない分、恐怖も強くなると言いますか。
作っちゃうおじさん:
そうですね。ホラーだとバレてしまった時点で恐怖心が削がれるので、次回はホラーやめとこうと思います(笑)。
──でも、サイトにある作品はほとんどがホラーテイストですよね。『お祈りぷよぷよ』も……。
作っちゃうおじさん:
ホラーじゃないですよ?
──いやいや、十分サイコホラーですよ(笑)。
負の感情が途絶えたら開発もできない
──今(2018年2月現在)は仕事でお忙しいのですか?
作っちゃうおじさん:
実は転職を控えてまして、時間がある状態ですね。せっかくなので何かやろうと思っていたんですけど、外的刺激がなくなってしまうと創作はできないんですよね(笑)。
みんな心に持っているじゃないですか。子どものころに満たされなかった思いを社会で発散するという、出世欲とか名声欲とか。
──つまり、ご自身は負の感情をブラウザゲーム開発で発散していると。
作っちゃうおじさん:
そういうことになりますね。人生が無風だと負の感情を集めなくちゃ、となってしまうので、それはそれで不健康じゃないかと(笑)。
──ストイックですよね。童貞だったころの気持ちを忘れちゃいけないとか。
作っちゃうおじさん:
腹が立ったときに「これを忘れないでゲームにしてやる!」って思いますね。ゲームの作り方講座も公開しているので、僕のあとに続いてくれる人がいてほしいなと思っています。
──スマホのユーザー層が気軽に遊べるゲームとして、ブラウザゲームの立ち位置がこれから変わってくるかもしれませんね。
作っちゃうおじさん:
ブラウザゲームはもっと流行っていいと思って続けていたので、その流れが生まれてくれると嬉しいです。
今までは仕事のストレス発散としてゲームを制作してきました。今後は不幸やストレス以外のモチベーションを持ってゲームを制作することが目標です。(了)
かつて一時代を築いた個人制作のフラッシュコンテンツは時間の経過とともに廃れ、回顧の中にわずかにその形を残すのみになった。
時代が変わり、スマートフォンというデバイスを媒介にして手軽に遊べる『うさぎパズル』は、“うさぎ”の名のとおり身軽さを活かし、ブラウザゲームならではの表現で注目を浴びた。
スマホとブラウザゲームの親和性。ホラーとブラウザゲームの親和性。今後、この組み合わせを活かしたムーブメントが、個人ゲーム制作者から生まれるのかもしれない。