ゲームの最速クリアで2億3000万円以上の寄付金。RTAを披露するチャリティーイベント「SGDQ 2018」成功の秘訣は“視聴者を楽しませる”

 世界最大級のゲームイベント「Games Done Quick」(以下、GDQ)の夏イベント「Summer Games Done Quick」(以下、SGDQ)が、現地時間の6月24日から7月1日の7日間、米国ミネソタ州ブルーミントンで開催された。
 同イベントでは国境なき医師団への寄付金を募っており、今年は過去最高額となる2億3000万円以上が集まったという。

この「SGDQ」に加え、アメリカでは毎年1月に開催される「Awesome Games Done Quick」(以下、AGDQ)と呼ばれる本イベントがあり、これらを総称して「GDQ」と呼ぶ。
(画像はYouTube | Resident Evil 4 by JTB in 1:36:28 – SGDQ2018より)

 「SGDQ」とは、2011年から毎年夏に開催されているリアルタイムアタック(RTA、英語圏ではスピードランと呼ばれる)のイベント。
 同イベントでは、世界中から集まったプレイヤーたちが、昼夜問わずノンストップでゲームの早解きにリレー形式で挑戦していく。
 その模様は1週間途切れることなくライブ配信され続け、華麗なゲームプレイを見た視聴者やコミュニティからは寄付を募ることが慣例となっている。

 今年の「SGDQ」にてプレイされた作品は、『バイオニックコマンドー』『魔界村』といったレトロゲームから、『バイオハザード4』のような名作、さらには『スーパーマリオ オデッセイ』といった最新作、さらには『Cuphead』『Undertale』のようなインディーゲームまで。
 合計153本ものゲームのRTAが披露された。これらのRTA映像は、YouTubeTwitchの公式チャンネルにアーカイブされており、その素晴らしい腕前を視聴することができる。

 注目したいのは、「GDQ」のチャリティイベントとしての側面だ。2018年の「SGDQ」では、3万5370回の寄付があり、前述したとおり総額は212万9079ドル(約2億3567万円)にもなった。一昨年の129万4139ドル、昨年の179万2342ドルを遥かに超え、200万ドルの大台に到達している。

 これは今回限りの奇跡というわけではなく、今年1月に開催された「AGDQ 2018」にて集まった寄付金は229万5191ドル。
 当初、1万ドルほどが集まる程度だった「GDQ」だが、回を重ねるごとにイベントは巨大化し、集まる寄付金の額も増加して今年は年間400万ドル以上(約4億4000万円以上)へと達した。

 ゲームのイベントで2億3000万円もの寄付が集まることは想像しづらいかもしれない。日本語圏と英語圏では人口が大きく違う、そもそもイベント内容や期間が違うなど、単純に比較できるものではないことを前置きしておくが、たとえば2011年から毎年開催の日本の格闘ゲームイベント「TOPANGAチャリティーカップ」では、1日に集まる寄付金は現在130万円ほど【※】
 「GDQ」と同規模のチャリティイベントとしては、日本テレビが毎年放送しているチャリティー番組『24時間テレビ 愛は地球を救う』では、2017年に24時間で約1億3000万円を集めている。 

※TOPANGAチャリティーカップでは来場者の寄付に加え、参加者の参加費も寄付される。

 これほど「GDQ」がチャリティイベントとして発展していった要因のひとつには、アメリカで根付いていると言われる寄付文化も影響していると考えられる。
 アメリカとイギリスのチャリティー組織が合同アンケート調査で算出している「世界寄付指数(World Giving Index)」では、アメリカの寄付指数は例年ランキング10位圏内。寄付文化が浸透している理由としては、キリスト教文化圏のなかで根付いた他者への献身であったり、確定申告にて寄付金が控除されるといった税金的な話などさまざまな説が挙げられている。

 だがそれだけでなく、アメリカのRTAコミュニティには、10年前にある契機があった点も触れておかねばならないだろう。「GDQ」以前にアメリカで成功したチャリティーゲームイベントに、『DesertBus』をプレイする「Desert Bus for Hope」がある。

 メガCDの未発売ゲーム『Penn & Teller’s Smoke and Mirrors』に収録されていたこの『Desert bus』というゲームは、ただひたすら8時間のあいだ同じ風景の砂漠をバスで走り続けるという、苦行に近いゲーム内容となっている。
 「Desert Bus for Hope」では、ゲームをプレイさせ続けるかどうかを募金額によって決めるというエンターテイメント性の強いルールが用意されており、2007年の第1回には2万2805ドル(約240万円)の募金を得て、その後も存続しながら成長を続けている。

 ゲーム内容はともかくとして、「Desert Bus for Hope」の成功の裏には、インターネットを通じた映像配信分野の成長があったことも考えられる。
 そもそも「GDQ」も「Desert Bus for Hope」も映像配信がなければ実現しないチャリティイベントであることは間違いないが、第1回が実施された2007年には、のちのTwitchの生みの親となるJustin.tvやUstreamといった映像配信プラットフォームの先駆けが開設されている。以降、年を追うごとにストリーミングは見ることも配信することも一般化されていった。

 またこの両者に共通して言えるのは、ストリーミングサービスの重要な点は“視聴者を楽しませることだ”と考えているところにある。
 たとえば前述したように、「Desert Bus for Hope」では苦行を体現したゲームをプレイさせ続けるかどうかを、募金額で決定する。イベント中、ワイプに小さく映る、ゲーム画面の前でげんなりした顔のプレイヤーがいることを想像するのは楽しく、それが視聴者の提示する募金額によって決まるのであれば、参加意欲が飛躍的に高まるのは必然だろう。

 一方「GDQ」では、スピードランそのものに強いエンターテインメント性があるのは当然として、さらには募金額によってプレイヤーの行動を決定する「インセンティブ」という制度を採用している。
 たとえば2016年の「AGDQ」の『スーパーメトロイド』では、ゲームの仕様として舞台となった惑星の動物を助けることができるのだが、当然ながらクリアのスピードを競うプレイのなかで動物を助ければ、その手間はタイムロスになる。インセンティブでは、この動物を助けるか否か、その判断を視聴者の募金額に委ねている。

 これらライブストリーミング時代のチャリティーは、けっして目的の正当性だけを主張したりせず、視聴者に面白さをどう提示するのかが考え抜いて作られている。
 つまり視聴者が面白い、素晴らしいと思えるものに対する「Tipping(投げ銭)」と、救いを求めている人々への「Donation(寄付)」が、上手く融合しているということだ。単純に寄付文化が根付いているだけでなく、寄付をしたくなるような仕掛けを用意したことによって、「Desert Bus for Hope」や「GDQ」が発展していったことは間違いない。

 「世界寄付指数」では寄付指数ランキング100位前後を推移している日本。チャリティ文化が根付いているとは言い難いかもしれないが、一方でRTAをリアルタイム配信する「GDQ」と同様のイベント「RTA in Japan」が近年注目を集めており、また「お花」、「おひねり」、「投げ銭」、「ご祝儀」といった文化も存在してきた。ボタンがうまく掛け合えば、大きく花開くゲームチャリティーイベントが生まれる可能性はある。

文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn

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著者
Nobuhiko Nakanishi
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
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