『A列車で行こう』『信長の野望』に夢中になった中学生が、パソコン誌に投稿し続けたシミュレーションゲームのプログラム。それが今、Nintendo Switchで動き出した【カイロソフト社長インタビュー】

『A列車で行こう』『信長の野望』に夢中になった中学生が、パソコン誌に投稿し続けたシミュレーションゲームのプログラム。それが今、Nintendo Switchで動き出した【カイロソフト社長インタビュー】

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カイロソフトという名前の由来

──法人化にあたってカイロソフトという名前を選んだ理由は?

カイロくん:
 名前に込めた意味のひとつは、冬場に手を暖めたりするカイロですね。カイロのように心身ともに温まるゲームを作りたい、という意味。嘘ですけど。

──え? 嘘?

カイロくん:
 もうひとつの理由は、電子回路からきています。パソコンの基板の上って、CPUやメモリなどのチップが乗った電子回路があるわけですけれど、あのチップがちょうど建物で、それらをつなぐ線(銅箔パターン)を通る電子が人にたとえられると思うんです。
 そういう視点で見ると、基板自体が街っぽいというか、電子の流れを人の流れと考えると、街づくりシミュレーションゲームっぽいな、と。その辺が面白くて、電子回路の“回路”を意識しました。

当時考えたカイロソフトのロゴ案。臼井さんはとにかく物持ちがいい。

 ……という理由だけじゃなくて、じつは3つ目もあるんですよ。

──まだあるんですか(笑)。

カイロくん:
 3つ目は、パソコンのOSに関するものなんです。
 まず、当時使っていたWindowsは何かとクラッシュしやすかった。動作の安定度が低かったんですね。当時のWindowsはUNIXなどと比べると、完成度的にはおもちゃみたいなものでした。

 そこで、マイクロソフトさんは「なるべくクラッシュしない、より安定度の高いOSを作ろう」と考えるわけですが、その様子を描いている『闘うプログラマー』【※】という本があるんですね。これは1993年頃の開発模様を描いたノンフィクションです。

※『闘うプログラマー』……高性能のコンピュータが普及する時代の到来をにらんで、マイクロソフト社が開発していたOS(オペレーティング・システム)「Windows NT」のプロジェクトを追ったノンフィクションの書籍。日本では日経BP社から発行されている。

カイロくん:
 パソコンに詳しい方はご存じだと思いますけれど、もともとパソコンで使うWindowsには、おおまかに言うとWindows95や98などの9x系と、Windows NT系のふたつの系統がありました。
 動いているものはほぼ同じなんですが、作り方が全然違っている。NT系は最終的にWindowsXPになって、そのあとWindows10に繋がっていきます。

──???(この話はどこに進んでいるの?)

カイロくん:
 この本はWindows NTの開発に関するお話が中心ではあるものの、そのはるか先のOSの話もしているんです。
 将来的に商品になるかどうかはわからないけれど、内容はすごく先進的で、未来のOSはそうなっていくだろうなと、読んでいてワクワクすることが書かれていました。

 で、Windowsは全部が全部そうではないのですが、開発コード名に都市の名前をけっこう使っているんですね。Windows95なら「Chicago(アメリカのイリノイ州の街)」とか、Windows98では「Memphis(アメリカのテネシー州の街)」とか。
 そして、その本のなかで触れていた未来のOSのコードネームが、エジプトの首都の「Cairo(カイロ)」なんですよ。

──そんなところから!

カイロくん:
 カイロという言葉の響きもいいし、日本語の電子回路を想像させるのもいいと。何よりOS「カイロ」はいろいろと夢がつまっていて良かった。

──では、昔ペンネームで使った「大山カイロ」はどこから来たのですか?

カイロくん:
 雑誌に記事が掲載される前に、編集部から本名とペンネームのどちらを載せるかと聞かれて、考えたのが「大山カイロ」でした。
 大山カイロの「カイロ」はさきほどの電子回路から来たと思うのですが、「大山」は当時読んでいた松本零士先生のマンガ『男おいどん』の主人公、大山昇太から来ています。

(画像は男おいどん(1) (週刊少年マガジンコミックス) | 松本零士 | 少年マンガ | Kindleストア | Amazonより)

──この「大山」の部分は、やっぱり聞いてみないと元ネタはたどれないですね(笑)。

カイロくん:
 「大山」の由来を話しても、わかる人が今まで4人くらいしかいませんでしたよ(笑)。主人公が、貧乏な四畳半で明日への希望を持って生きているあたりに感動しました。

──ここにもマンガの影響があったとは。ところで、カイロという言葉の中に3つも意味が込められていますけれども、臼井さんが一番強く意識しているのはどれですか?

カイロくん:
 『闘うプログラマー』のOSの話ですね。今でいうと量子コンピュータとか空飛ぶ車とか、夢だったSF世界のものが現実に迫って来るようなワクワク感がありましたから。

──本を読んだときの衝撃がよほど大きかったんですね。もうひとつ、カイロといえば御社のマスコットキャラクターであるご自身──「カイロくん」は、どの段階でできたのですか?

カイロくん:
 他社さんにアプリを提供していたときには、ゲームのなかで開発者の名前が出せなかったんですよ。
 だから、何か別の形で会社の存在をアピールしたかった。考えた結果、ウチが作ったゲームを遊んだときに、同じ会社の特定の人が作っているゲームだとわかってもらえるようにすればいいと気づきました。
 それで、カイロくんというキャラクターを考えて、どのゲームにも必ず出すようにしたのがきっかけです。

──カイロくんの頭を四角にしたのには何か理由があるんですか?

カイロくん:
 シンプルな形のほうがドット絵にしたときに表現しやすいからですね。

カイロくんが生まれるまでのスケッチ(画:木村さん)。臼井さんは本当に物持ちがいい。

──隠れキャラだったときから「カイロくん」という名前なんですか?

カイロくん:
 そうです。たとえば、カイロくんが出るとゲーム内のお金が貯まりやすくなるとか、特殊な状況も発生するようにして、キャラクターの印象を強めています。

1990年代パソコンゲームの黄金時代のような開発体制

──御社のラインナップを見ると、そのほとんどすべてがシミュレーションゲームですが、このジャンルにこだわる理由は何ですか?

カイロくん:
 ゲームって、自分が「面白い!」と思った要素をプレイした人に伝わるように組み上げて作っていくのが常道だと思うのですが、完成したらほとんどシミュレーションゲームになっていたんですね。最初から「シミュレーションゲームを作るぞ!」と考えて作っていたわけではないんです。

 もう1点は、RPGも好きなんですけれど、作るときはシミュレーションゲームのほうが楽しいんです。
 それに、RPGの場合は作るのがうまいメーカーさんが他にたくさんあるので、その水準と同じものを自分たちが作れるかというと、難しいとも考えています。

──そういう意味では、御社はシミュレーションゲーム作りの得意な人たちが集まっていると。

カイロくん:
 全員シミュレーションや育成ゲーム好きな下地を持っていると思います。なによりPC-88とかPC-98用のゲームがたくさん出ていた、パソコンゲームの黄金時代が本当に好きなんです。

 特に、箱庭に干渉していくようなシミュレーションが好きなのですが、最近はそういうゲームも少なくなってしまった。
 だから、自分たちの手でそういうゲームをリリースし続けようという使命感から、シミュレーションゲームを作っているんです。たぶん。

──たぶん? えっと、その志のもと、今までいろいろな内容のシミュレーションゲームを出してきました。ゲームの題材はどういうときに思いつくんですか?

カイロくん:
 最初に、次回作で扱いたい題材をみんなに出してもらうんです。そこでアイデアを出す人は、基本的にその題材に興味があるか詳しい人ですし、何より自分で作りたいと思っている。

 ですから、会議で題材が決まったら、アイデアを出した人を中心に少人数でチームを組みます。だいたい「プログラマーがひとり、デザイナーがひとりかふたり」というパターンですね。プログラマーとデザイナーがひとりずついれば、「絵も描けるしプログラムできる」ということで、ウチのゲーム開発の最小単位です。
 そのチームで、だいたい半年間ぐらいかけて作ります。フリーミアム(フリートゥプレイ)ソフトの場合だと、開発が難航してもっと長くなりますね。

──半年ぐらいで1本作る、と。だいたいどのくらいのラインが同時に走っているのでしょうか。

カイロくん:
  5ラインくらいですね。基本的にグラフィックにドット絵を選んでいるのも、「少人数で短い期間の間に、ゲーム性に集中できるから」というのも大きな理由でして。

──となると、スタッフ数から考えて、ひとりがいくつかのソフト開発を兼務されている?

カイロくん:
 そうです。以前は社員数8人ぐらいで4ラインを動かしていたこともありましたよ。プログラマーはひとり1ライン専属で、デザイナーが複数のラインを掛け持ちでやります。

 法人化以降に一番厳しかったのが、6ライン同時進行で、1日でも納品が間に合わないとアウトになるという状況のときですね。しかも6ラインの締め切りがほぼ変わらない。
 たぶん、人生でも一番本気で締め切りを守ろうとしたときです。

一番厳しかったときのスケジュール表。怖いほど物持ちがいい。

──(笑)。間に合ったのがスゴイ。

カイロくん:
 ゲームを作り慣れている人しか集めなかったから効率が良かったんでしょう。臼井氏も作れますし、他の人も経験が豊富ですしね。

──ゲーム制作経験の豊富な方ばかりなんですね。

カイロくん:
 カイロ社でメインを張っているプログラマーは『ゆけむり温泉郷』【※】をはじめ10本近く作っている人で、ゲームの企画もするし、細かいアイデアも考えるし、それを自分で形にできて、しかも制作が早いという優秀な人なんですよ(笑)。
 その人は小学校の頃からプログラミングが好きでやっていました。

──臼井さんみたいな方だ(笑)。その方の例を見る限り、仕事は完全に分業体制ということでもなさそうですね。

カイロくん:
 いやもう、彼には技術力ではまったくかないません。
 昔からそうなんですけれど、カイロ社で社員を募集するときは、“特定の職種の人材を増やすため”というよりも、「何を作りたいか」が決まっている人を採っているんです。
 「ウチでゲームを作りたい」という人がいたら、どういうゲームが好きで、働いたら何ができるかを良く話して、どういうゲームを作りましょうと決まってから採用する、と。

──実力主義ですね。

カイロくん:
 「会社で決めた何かを作るために人を充てる」のではなくて、「その人がいるんだったら、こういうゲームを作ろう」という考え方です。プログラマー、デザイナーがいたら、そのうちの誰かがゲームのアイデアを考えて作るし、ディレクターも兼ねている、と。

──属人性を意識した決め方ですね。

カイロくん:
 マンガ家さんを例に挙げますが、ストーリーや演出を考えて絵をひとりで描く作業は“スゴい!”のと同時に、いい意味で“異常!”なんですよね。才能がないとできない。
 でも、マンガ家からすると、自分の作りたいものを作っているわけで、それが面白いからやっている。できるからやっている、と。
 そしてゲームも、大作でさえなければ少人数で制作できますし、面白さも表現できるんです。

──「本人が望んでいて、しかも遂行できるなら、仕事を兼務してでもやらせないともったいない」という考え方は、日本ファルコムさんに取材をさせていただいたときに加藤会長が仰っていました。

【ゲームの企画書】激動のゲーム業界を“変わらないこと”で生き抜いてきた日本ファルコムのスゴさとは?【業界初、加藤会長×近藤社長対談】

カイロくん:
 この記事は読んで感動しました。あちらのほうが歴史もあるし、名作もたくさん出ていますけれど。
 さっきもちょっと話が出ましたが、日本のパソコンゲームの黄金時代が好きなので、ウチもどこか1990年代のノリで作っています。それで現代まで会社が生き残れるのは珍しいことなんですけれど、ちょっとだけ気をつければ継続可能なんだと思いますよ。

──その、気をつけるとことは?

カイロくん:
 企業秘密ですけれど(笑)……なんて、別にたいしたことじゃなくて、「開発したゲームを自分たちで遊びながら、開発にフィードバックすること」です。
 会社の規模に合わない大作ゲームを作らせたり、会社の規模を急拡大させたりすることは、自分たちには合わないと思っています。

ゲームでは夢を見せたいから、現実を完璧にシミュレートしないように

──御社のゲームの題材は、温泉宿やラーメン屋、アニメスタジオなど、実際にあるものが多いのですが、内容を固めていく段階では、実際に取材をされますか?

カイロくん:
 基本的には“脳内”ですね。たとえば温泉宿のゲームだったら、たぶん中には立派なバーがあったり、ダンスしたりする場所があるだろうな、という想像から作りはじめます。
 そのうち、どうしてもわからないところは資料を見ますが、「たぶんこうじゃないかな」という想像や希望を入れてあります。

──現場には行かないんですね。ちょっとびっくりです。

カイロくん:
 場合によっては取材に行かなくもないですよ。たとえば、豪華客船を運営して、クルーズで世界1周するゲーム『クルーズ大紀行』【※】を作ったときも、千葉県の港に行って小さな船に10分くらい乗って帰ってきました。

※クルーズ大紀行……Android、iOSで配信されている、豪華客船の経営シミュレーションゲーム。ジャグジー風呂、カジノなどを設置して船の施設を充実させながら客の満足度を上げ、より良い客船を作り上げていくことが目的。定期的に訪れる審査員の評価によっては、客船のグレードを表す「星」をもらうことができ、評価が高まればVIPが乗船することもある。
(画像はカイロパーク クルーズ大紀行より)

──(笑)。では、現実にあるものをシミュレーションゲームに落とし込むときは、どういう点に気をつけるのでしょうか?

カイロくん:
 開発するときに強く意識していることは、ゲームなので「わかりやすくデフォルメすること」ですね。
 シミュレーションゲームを作ってはいるけれど、何でもかんでも細かくシミュレートし過ぎてもいけないと思っています。

 たとえば、『ゲーム発展国++』のように、ゲーム開発会社が題材であれば、社員が急にいなくなったりとか、徹夜仕事で倒れてしまったりすることをゲームに盛り込んでも、単なる辛い現実シミュレーターになってしまうので、それは面白くない(笑)。
 実際にある題材のゲームを作ると、よく「ブラックなネタを入れるのはどう?」という人も多いのですが、ウチはあまりそういうことはやりません。

──作り手も辛くなりそうですし、ね。

カイロくん:
 現実でゲーム会社を新たに興して成功したり、何年も続けられたりするのはほんの一握りで、ゲーム以上に難しい。また例に出してしまいますが、成功の難しさはマンガ家もそうですよね。でも、みんな挑戦してみたいと思うんです。鳥山明先生とか尾田栄一郎先生とか秋本治先生みたいになれたらいいなと思っている人もいる。

 『ゲーム発展国++』では、ゲーム会社の社長やプロデューサーになった感覚をゲーム上で気軽に体験できることを重視しています。
 だから、リアルな内容にはせず、現実をデフォルメして良いところだけを選んで詰めているんですよ。

 現実の生活で嫌な思いをしたり苦しいことがあったりするでしょうから、ゲームでは純粋に楽しんでもらいたいんです。

コンシューマーゲーム機参入までの道のり

──その『ゲーム発展国++』では、日本のゲーム業界の歴史をなぞったように新ハードが出てくるじゃないですか。
 しかも、新ハードが発表されるたびに「発表会を見に行きましょう」とか「ハードメーカーと契約を結びましょう」とか、秘書に参入を促されたりして。

『ゲーム発展国++』、秘書に促されている場面

 そういうゲームを作っているのに、ずっとフィーチャーフォン、スマホへのリリースが多くて、なかなか家庭用ゲーム機に参入しなかったのが興味深いです。

カイロくん:
 やっぱりゲーム業界って、作ったソフトの当たり外れが大きいですしねぇ。ヒットすれば大金が入って来ますが、外せば会社が傾いたりつぶれたり、他社に吸収されたり……。

──現実は、なかなか『ゲーム発展国++』のようにトントン拍子というわけにはいかないとは思いますが、それでもカイロソフトには固定ファンがしっかりついているイメージがありますから。
 おもにフィーチャーフォン、スマホユーザーに。

カイロくん:
 そんなに多くはないのですが、おかげさまで。新作をリリースすれば、ほぼ必ずダウンロードしてくださる方々もいて、ありがたいですホンマに。
 でも、大半のゲームファンにとっては、たとえカイロ社を知っている人がいたとしても「シミュレーションゲームを作っているところ?」とか「ドット絵のゲームを作っている会社?」程度の認識だと思います。

──カイロソフトファンは、シミュレーション好きな男性が多いのかな、というイメージがあります。それこそ『信長の野望』とか『A列車』に青春を費やしていた人たち?

カイロくん:
 iアプリのユーザーは、意外にも30代の主婦層が多かったんですよ。ケータイのキャリアによる違いもありますけれど。

──それは意外です。

カイロくん:
 あと、カイロ社のソフトは日本語で作ったものを英語や韓国語、中国語に翻訳していて、海外のダウンロード数もけっこう多いんですよ。

──グローバルな展開を……それも意外です。

カイロくん:
 いずれにせよ、10代のゲームファンにはリーチできていませんでした。

 ですが、Nintendo Switchでリリースしたことで、子どもたちにも手に取りやすい環境を作ることができて、よかったと思います。ダウンロード版のゲームは、安価でプリペイドカードを買うだけで遊べますからね。

──Nintendo Switch参入の決め手とは?

カイロくん:
 先ほどお話しした、ニンテンドーDSソフト参入の話以降、パブリッシャーさんから開発のお声がけはないし、自分たちの力だけで参入するのも難しいと思っていたので、しばらく家庭用への参入は見送っていたんですけどね。

──その間、スマホのゲーム市場に向けてリリースしまくっていた、と。

カイロくん:
 ですね。スマホのゲームで、毎月何千、何億という売り上げを出しているメーカーを横目で見ているうちに、家庭用ゲームに対して憧れが少し薄らいでしまった時期が正直あったりして……。
 「パッケージ版のソフトを何十万本も販売するのは並たいていのことではないけれど、課金という方法でも収益を上げられるんだな」ということを思いつつ、実際は“アプリ開発に精いっぱいで他に余裕がなかった”というのも大きいです。

 それでも、今回Nintendo Switchへ参入しようと思った決め手は、“リリースまでのハードルが下がったこと”と“自分たちがUnity【※】を使って開発できるようになったこと”ですね。

※Unity
ユニティ・テクノロジーズが提供する、統合開発環境を内蔵したマルチプラットフォーム対応のゲームエンジンのこと。

──Unityの存在が大きいんですね。

カイロくん:
 今まで作ったものが手間をかけずに任天堂のハードで動かせることは夢のようなことでしたから、とりあえずやってみたかったんですよね。

──Nintendo Switch版の発売で、カイロソフトのiアプリやスマホ用アプリではリーチしづらかった10代にも遊んでもらえるでしょうね。

カイロくん:
 ……じつのところ、我々のゲームは、もっと早くに子どもたちに遊んでほしかったんです。

──もっと早くに、というのは?

カイロくん:
 たとえば『信長の野望』とか、かつてパソコンでしかプレイできないゲームが、僕が小学生のときにファミコンやスーパーファミコンで遊べるようになりましたが、そのときの興奮といったら……!
 そのときに味わった嬉しさを、今度は提供する側として、子どもたちに味わってもらいたいんです。

──(興奮して思わず”僕”って言ってる……)Nintendo Switch版がリリースされたあとの反響はいかがですか?

カイロくん:
 配信してからまだ日が浅いのですが、思ったよりちゃんと売れてくれて安心しています。まったく誰も買ってくれないのでは……と心配していましたので。
 海外にもウチのファンがある程度いらっしゃるようなので、Nintendo Switch版のリリースは、海外市場でも効果があるといいなと思っています。

Nintendo Switchストアページでカイロソフトと検索した様子。これからどんどん増えていく……?
(画像はゲームソフト・ページをさがす | 任天堂より)

 ……といってもじつは、固定ファンがいるとはいえ、家庭用ゲーム機のダウンロード専売ソフトがどの程度伸びるのか、予想がまったくつけられていないんです。
 でも、確かに誰かが購入してくださっている。「誰が遊んでくれているのだろう」と不思議な気持ちになりますが(笑)。

──幸先がいいですね。基本的には、最初にスマホアプリを作って、その後Nintendo Switchに移植する、という流れですか?

カイロくん:
 当面はそうなると思います。コンシューマー版でユーザー層を広げて、次のゲーマー世代に受け継がれていくような作品にしたいですね。
 あと、せっかくNintendo Switchで出すなら、コントローラーがふたつあるし、ひとつのゲーム画面に対して“ひとりは街を建てて、もうひとりはその街をコントローラーで人を歩かせる”みたいな、Nintendo Switchでしかできないようなゲームもいつかは作りたいですね。

東京ゲームショウ2018への出展は、求人の意味合いも

──カイロソフト設立10周年の2018年、ゲームショウに初参加されました。出展を決めたのはNintendo Switchへの参入があったからですか?

カイロくん:
 これまでカイロ社には、開発をする人しかいなくて、イベントなどに出展する余裕がありませんでした。
 でも、最近入社したプログラマーの女性が要領の良い人で、広報的なこともできるんですよ。これでイベント関係の仕事も回せるようになったのが大きいです。
 あと、デザイナーも増えてきたおかげで、展示に必要な素材を作れるようになりましたから。

──出展できる体制になった、と。

カイロくん:
 もちろん、Nintendo Switchの参入を記念して、皆さんの目に触れる機会を作りたかったこともあります。このために、私カイロくんの等身大着ぐるみを作りました。

──ブースではゲームの開発に使ったソースコード(プログラム)を展示していましたね。

カイロくん:
 今まで見たことないですよね(笑)。

──ほかにもドット絵を描く実演もやっていて、すごくインパクトのある内容でした。

カイロくん:
 「将来、ゲームを作りたい」と考えている子どもは、プロがどのようにゲームを作っているのかを知りたいのでは、と思ったんですよ。

 以前、マンガ家が作品を作り上げるまでの様子を見せているNHKの番組を観たのですが、そのとき、「マンガ家は人によって使う画材や描く順番が違う」という点に、衝撃を受けたんです。

──で、「ゲーム制作も同じように現場が見たいんじゃないか」と考えたわけですね。

カイロくん:
 新作ゲームはもちろん見たいでしょうが、実際に作ったプログラムが見られたり、ドット絵がどう描かれていくのかも見られたりしたら……特にドット絵は完成するまでの過程を見たいんじゃないかと。

──確かにプロがドット絵を描いているところを、そばで見られる機会はないですよね。

カイロくん:
 プログラムのソースコードにしても、普通はまず見られませんよね。でも、カイロ社のプログラムなら公開できちゃう。
 といっても、内部で通信している先とか、本当に見られるとマズい部分は消してあるんですけどね。それ以外は、実際に使ったコードですよ。

──ゲームショウのブースに来たのは、外国人のファンも多かったとか。

カイロくん:
 海外では弊社はクラシックなピクセルアートのゲームを作っているメーカーと捉えられているようで、ブースに外国の方が多くてびっくりしました。

カイロくん:
 こういうことも含めて、ゲームショウの出展は手応えがあってよかったのですが、「展示を見た才能のある人材が、カイロ社に来てくれるといいな」という期待もありました。展示にはそういうメッセージも込めたつもりなんですね。
 今後、求人するにあたって、カイロ社の存在を知ってもらいたいと。

──採用する際は、どういう人を選んでいるんですか?

カイロくん:
 基本的には、やっぱりその人なりの世界観を持っている人ですね。
 何かひとつ特技というか、好きなものを持った人。よく個人の能力を八角形や五角形のグラフ(レーダーチャート)で表したりしますけれど、それでいうと“どこかひとつの能力が飛び抜けて高い人”
 たとえいびつな形でも、会社には別のいびつな形の人がいるので、各人のグラフを重ねて上から見たときに、全体が整った形になっていればいいんです。

 だからカイロ社の社員は、ある点においてはまともな感覚でも、別の点では少しおかしかったりする。そういう意味では、臼井を筆頭に全員がおかしい(笑)。
 でもそれは、「個性」と捉えています。

──さきほど社員にはシミュレーションゲーム好きの方が多いとおっしゃっていました。入社を希望される方からして、すでにそうなのでしょうか?

カイロくん:
 応募者は今までウチのゲームで遊んで「面白い」と思ってくれた人が多いですから、自然とそうなってしまいますね。
 「3Dのフォトリアルなグラフィックでゲームを作りたい」という人はまず来ないです(笑)。ウチのテイストがわかってくれている。

──そのぶん、開発の際は意思の疎通がしやすいとか?

カイロくん:
 それはありますね。「以前作った〇〇の××みたいな感じで」というたとえでも、通用しますから。
 もちろん、お互いゲームが好きなので、他社さんのゲームがたとえでもわかりますけれど。
 臼井の場合は『こち亀』が通用する人とは話しやすいかも(笑)。

──『こち亀』愛が強いですね(笑)。

カイロくん:
 『こち亀』のなかでも特に好きなのは、25~90巻までのテイストなんです。100巻以降のアニメ化したあたりからは、人情の話なども多くなってしまって……寄る年波とともに、最近ではそのあたりも好きになってきましたけど。
 180巻あたりからはさらに変わってきて、最終的にものすごい進化を遂げて、そこも大好きです。

──最新のオタクっぽいネタを扱うようになったあたりですか? あ、でもマニアックなネタはけっこう昔からありましたよね。

カイロくん:
 突然、両津が全裸になってともだちんこしたりするという。秋本先生が60歳を過ぎ、コミックスを180巻も描いて、その境地に達したことが大好きなんです。「こち亀展」にも、もちろん行きましたよ。

カイロソフトは、ブランド自体がプラットフォーム

──今までいろいろなシミュレーションゲームを作ってきた臼井さんの、最終的な目標とは何でしょう?

カイロくん:
 今まで作ったシミュレーションゲームがひとつになった、壮大なゲームを作りたいですね。

──高校生時代に作ったゲーム『人生』のような? オープンワールドのゲームだったり?

カイロくん:
 そうですね……「カイロワールド」を作りたいです。

──構想としてはかなり大きいですね。

カイロくん:
 収益を考えると、いろいろ難しい点はありますけれどね(笑)。

──オンラインゲームになるんでしょうかね。特定のハード専用だと、長期の継続がたいへんそうな……。

カイロくん:
 そうでしょうね。昔に比べてオンラインもいろいろやりやすくなっているとはいえ、オープンワールドだと物量も多いですし……。

 というよりも、カイロ社自体がすでに「カイロワールド」になっているとも言えるのかな?

──と、言いますと?

カイロくん:
 新作ゲームがリリースされることは“「カイロワールド」という世界に、新しい街や施設、お店ができたようなもの”だし、そのゲームで遊ぶことは“オープンしたての街や施設、お店で、新しいことを体験する”ともいえると思うんです。

──リリースされるゲームは、“「カイロワールド」の一部を切り取ったもの”、という捉え方ができますもんね。

カイロくん:
 じつは、カイロ社を興して以来、シミュレーションゲームを束ねる構想と、それを実現するためのゲームフォーマットについては、ずっと社内で話し合われていることなんですよね。

──その構想は、すでに実現されつつあるということじゃないでしょうか。
 これからもずっと、そしてもっともっと「カイロワールド」が広がっていくことに期待しています!(了)

カイロソフトから電ファミ読者にお願いです!

 カイロソフトには、カイロくん以外に「チンパンG」というマスコットキャラクターが存在する。

 公式サイトでは、「グラフィック部門と音楽部門を率いる立派な人。ときにやさしい一面を見せてくれる。好物はバナナとミカン」という説明がされているチンパンGについて、カイロくんが電ファミ読者の力を借りたいことがあるという。

 

カイロくん:
 そうそう、この場をお借りしてひとつ、TGSのブースでも展示していたチンパンジーのぬいぐるみについて、読者の皆さんにご協力いただきたいことがあるんです。

 このぬいぐるみが、ゲームにも出てくるマスコットキャラクター「チンパンG」のモデルです。最初は臼井の家にあって、法人化したタイミングで会社に置いて以来、ずっと会社にいるんですよ。

 このぬいぐるみには、タグがついていなくて、どこのメーカー製かわからないんです。

 もともとどこで手に入れたかというと、臼井が学童保育のお手伝いに行ったときに報酬としてもらったんです。
 「バザーで売れ残ったもののなかから、何かひとつ持って行っていいよ」と言われて。
 バザーで売れ残り、報酬として用意されても誰にも持って行かれなかったのが「チンパンG」なんです。

 で、ご協力いただきたいことは、「このぬいぐるみの出身地(製造元)をご存知の方がいらしたら、ぜひ教えてください」というものです。

 ネットの画像検索では引っかからなくて……。どう探しても、違うお猿が出てくるんですよ。このぬいぐるみにはベルトもついているんですけどね。
 わかっていることは、手に入れたのが13~14年前ということです。

──おわかりになる方、ぜひ電ファミTwitterアカウント(@denfaminicogame)まで情報をお寄せください!


 今回取材してわかったのは、カイロソフトがリリースするゲームへのこだわりも、醸し出す雰囲気も、すべて臼井氏が創り出しているということだ。
 無類のシミュレーションゲーム好きであり、マンガ好きであり、そしてシャイな性格が、会社の運営やゲーム作りにも色濃く表れているのではないだろうか。
 ゲームプログラムの投稿に精を出していた中・高校生の頃から「人のアドバイスはあまり聞かない」という性格だったそうだが、それが功を奏して独特の「臼井ワールド」=「カイロワールド」を作ることに成功しているようにも思える。

 多彩なシミュレーションゲームをリリースし続けることは、その「カイロワールド」の“土地開発”でもある。
 この先、“ゲーム”というお店や施設の増加に比例して、もっともっとプレイヤーという“住人”が増えることを願ってやまない。

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 詳しい応募方法は電ファミニコゲーマー公式Twitter(@denfaminicogame)をチェック!

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信長から乙女ゲームまで… シブサワ・コウとその妻が語るコーエー立志伝 「世界初ばかりだとユーザーに怒られた(笑)」

日本のコーエーテクモゲームス(当時 光栄)が初の歴史シミュレーションゲーム『川中島の合戦』を発売したのはいつか?

 ──正解は、1981年である。
 そのときには、まだパソコンでゲームをする文化自体が相当にマイナーな楽しみに過ぎなかった。有名なパソコン版の『シヴィライゼーション』が発売されたのでさえ、ずっと後のことである。しかし、そのゲームは、紡績業を営んでいた光栄という会社が大きく業態を変えていく転換点になるほどの話題を日本で獲得した。

 その2年後、彼らは『信長の野望』という大人気歴史シミュレーションゲームを生み出した。コーエーテクモホールディングス社長・襟川陽一氏ことシブサワ・コウは、それをRPGや司馬遼太郎の小説をヒントに作り上げたという。我々の遊んできたこうした『信長の野望』などの歴史シミュレーションゲームは、実はコンピュータゲーム史にほとんど忽然と登場したゲームに近い。

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インタビュアー、ライター
おはようからおやすみまで、ゲームのことを考えたり考えなかったりしながら暮らしているフリーランスのライター・編集者。
「電撃Nintendo」を中心に長年ゲーム雑誌の仕事をしつつ、最近は他ジャンルのお仕事もいただいています(取材もの中心)。
臼井さんはゲームを作って雑誌に投稿していたわけですけれど、自分の作ったものがメディアに掲載されたりゲームに収録されたりするのって嬉しいんですよね(メディアの仕事をしている者がいうのもどうかと思いますけれど)。なおかつ、賞金までもらえたら積極的に投稿したくなるのもよくわかります。
私も記事がらみの仕事だったとはいえ、初めて3Dのポリゴンで作ったキャラクターを製品版の『デザエモン3D』に収録していただけたのが嬉しくて、今でも忘れられません。
取材・編集
「電撃セガサターン」、「電撃PS2」、「電撃オンライン」、「電撃レイヤーズ」、「iモードで遊ぼう!」、「mobileASCII」、「デンゲキバズーカ!!」と数々の媒体を渡り歩いて来た40代ファミコン世代の編集者。カイロソフトの臼井さんには、「iモードで遊ぼう!」編集部時代に出会ったそうで、悲願のインタビューが実現できたことに満足。
Twitter : @nkjdfng

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