選手と運営の二足のわらじ。だからこそ、説得力が違う
──J-Snakeさんはコミュニティやイベントの企画や運営を手がける傍ら、eスポーツ選手としても活躍していますよね。コミュニティ運営と競技プレイヤーを同時にやる人って、あまり見かけない気がします。
J-Snake:
そう言われてみると、たしかに特殊かもしれないです。私自身、100人規模の大会を自分で開いて自分で優勝したことがあるんですけど、『スマブラ』界隈全体でもあまりいないタイプだと思います。競技者としてコミットしようと思ったら、イベントや企画の準備をやる暇はないですよね(笑)。
──自分のために練習したりする時間は減っちゃいますよね。
J-Snake:
でも単純に、私自身は世界レベルになりたいかといえば、そうではないという部分があります。たとえば東京住まいで世界ランキングを本気で狙っているのであればそんなことはしないと思いますけど、私はある程度自分の中で納得できれば、選手としての活動は満足できるので。
ただ、最近はeスポーツやゲームのことは全然知らないんだけど、「とりあえず流行ってるから応援したい」みたいな人たちがたくさん出てきていまして。もちろん、裾野が広がるという意味ではありがたいことなんですけど……本当にコアなゲーマーたちにとっては「誰が言うか」がすごく大事と言いますか。ゲームのことをよく知らない人たちに何か言われても、心が響かないんですよ。
──自分たちのことを本当に理解しているかどうかって、見ていれば自然と伝わりますからね。
J-Snake:
たとえば、大会が始まるときに「今日は盛り上がっていこうぜ!」「決勝戦、みんなで応援していこうぜ!」って言うとするじゃないですか。同じ言葉でも、今まで大会で結果出してきた人が先頭に立って言うのと、ぽっと出の誰かもわからない偉そうな人間が急にマイクを持って言うのでは、やっぱり響き方が違うんですよ。
そういう意味では、ある程度自分の言葉がみんなに届くようにするためにも、完全に競技者を引退することはできないですね。ある程度は示しを付けないといけないというか、発言に説得力を持たせないといけないので。
──J-Snakeさんのような叩き上げの方が音頭を取っているからこそ、というのは大きそうですね。
J-Snake:
私は「Ryukyu Gaming」というプロチームに所属しているんですが、メンバーにすごく上手い中学生の子がいるんです。もし、私が今も『スマブラ』をやってなかったとしたら、その子も耳を傾けづらいと思うんですよね。
たとえば「自分は、ちょっと考えることが苦手な感覚派なんで」と言われたことがあるんですが、「いやいや、もっと考えて動いてごらんよ。自分の天井を決めるのは自分で、それはただの言い訳だよ」と反論して、聞き入れてもらったこともあります。それってやっぱり「論より証拠」で私が結果を出しているからなんですよ。「君より2倍生きてるおじさんができてるんだから、君もできるよ」って。(笑)
──なるほど。そういうふうに言われると、たしかに説得力がありますね(笑)。
J-Snake:
でも実際、そういう人がいないと選手が育たないんですよ。やっぱりいい選手に育ってほしいから、自分はまだまだ引退できないなと。会場に来たら誰よりも先に設営しますし、撤収作業も自分が率先して動くことで、みんなに対して積極的な姿勢は常に見せていくようにはしています。
「沖縄勢は仲が良い」と羨ましがられる
──J-Snakeさんが美ら組というコミュニティを運営していくなかで、意識していることは何でしょうか。
J-Snake:
色々ありますが、まずは「プレイヤーファースト」ですね。普段の対戦会でも大会でも、全ては選手のための場なので、選手目線で運営することを大切にしています。
たとえば、シードって基本的には「一回戦から強い人同士が当たらないようにする」システムなんですけど、シードの基準や決め方などを公にしないことが多いんです。でも、それって選手にとっては不信感しかないんですよ。たとえば私と仲の良い選手がシードになったとき、本当に実力があるからシードになったのか、運営である私とのコネでシードになってるのか、外からはわからないじゃないですか。そういうのって、一回でも不信感が生まれたらずっとそのイメージがつきまとうので、できるだけ公開情報にしています。
──それは選手だけでなく、見る側にとっても安心できますね。
J-Snake:
シードの決め方も、自分の主観に基づいてはやりません。客観的に誰が見ても納得するように、計算式を組んでシステム化したランキングを基準にするようにしてます。
あと意識しているところで言えば、大会ではきちんと休憩時間を作ってあげるようにしたり。細かいですが、「自分が選手だったらやってほしいな」と思いついたことは全部やるようにしていますね。
──美ら組には都心とは違う、沖縄ならではの特色みたいなものはあるのでしょうか?
J-Snake:
「沖縄ならでは」かどうかはわからないですけど、みんなすごく仲が良いんですよ。今まで、いろんな場所で大会でいろんな『スマブラプレイヤー』を見てきましたが、たしかに沖縄勢はほかと比べてもかなり仲が良いほうなのかなと。実際、他県の『スマブラ』プレイヤーから羨ましがられたりすることもありますし。
沖縄って狭い島国なので、どうしても同じ人と顔を合わせる機会が多くなるんですよ。住んでいる地域が近いと、一緒の車に乗り合わせてきたりすることもありますし。強い人は強い人同士で固まりがちかとは思いきや、うちは実力や年齢関係なく和気あいあいとしていますね。
あと、美ら組は「みんなで運営していこう」という姿勢が強くて、あんまりお客さま気分の人はいないんですよ。コミュニティって、人が多くなってくるとどうしても「運営にクレームを入れて、自分たちでは何もしない」みたいな、お客さま気分の方が増えてきちゃうと思うんです。
──積極的に運営などにも関わる人と、受動的に享受する人の間で温度差が生じたりしていきますよね。
J-Snake:
その点でいうと、美ら組は基本的にはDIY精神が基盤になっていますね。活動に必要な機材も基本的に持ち寄りだし、イベントの設営も手分けして行います。大会のときは、メンバーのみんなが代わる代わる実況してくれたり、選手も進行役になって予選をまわしてくれたりしています。
──他のメンバーの方ともお話しさせていただきましたが、どなたも「ここは新規の方にも優しくて参加しやすくて、居心地がいい」とおっしゃっていました。しかも、顔を出したら一度きりだけじゃなく、常連になりやすいとも。その理由はどこにあると思いますか?
J-Snake:
もともと沖縄の人って文化的になんでもウェルカムな地域性と言いますか、人も物もなんでも受け入れようとする気質の人が多いんです。ウチでは、下は中学3年生から、上は30代まで。性別や国籍も関係なく、みんなで楽しめる場になっているんじゃないかなと思います。
──いわゆる「チャンプルー」的な精神が自然と人の輪を作っているのかもしれませんね。
「想いは直接言わないと伝わらない」
──自分の好きなゲームのコミュニティをもっと盛り上げたい、活性化させたいという思いを持つ方々も多いと思います。J-Snakeさんのようにコミュニティを運営したり盛り上げようとしたとき、どういったことが重要になるのでしょうか。
J-Snake:
たくさん失敗もしているのであまり偉そうなことは言えないんですが、「想いは直接言わないと伝わらない」というのは、ひとつ言えることかなと思います。
黙々と自分の責任を果たすことで、「口では無く背中で語る」ことを美徳とする感覚ってあると思うんですけど、やっぱり直接言わないと意味がないんですよ。コミュニティの人たちの信頼を得たり、逆に彼らを信用するためにも、いろんな人に自分の想いは伝えていきながらやっていかないと、どこかで思わぬ失敗をすると思っていて。
良かれと思ってやっていることでも、それを言わなかったら変に思われたり、誤解が生まれたりするんですよね。「本当はみんなのためにやっているのに、なんでわかってくれないのか」と思うこともありましたけど、実際には単純に伝わってなかっただけというのはよくありました。
──メンバーそれぞれの立場や価値観が違うからこそ、共通認識はしっかり確立しておかなければならないと。
J-Snake:
本当にその通りです。たとえば「大会の決勝戦を、みんなにも応援してほしい」と思ったら、ただみんなに「モニターの前へ集まってください」と言うだけじゃダメなんです。
「みんなに想像してほしい。自分が決勝戦の舞台に立った時、誰も応援してくれなかったら寂しいでしょう?だから、今日という日をここまで勝ち上がってきた彼らを、みんなで応援しよう!」と言ったら、ちゃんと伝わるんですよ。
そうやって、自分の気持ちには必ず理由を添えて伝えるようにしています。同じゲームが好きだからこそ、「言わなくてもわかるよね?」という思い込みはせず、はっきりと言葉にして伝える。そのことは大事なんじゃないかと思います。
──これからの美ら組を、どのように発展させていくつもりなのでしょうか。
J-Snake:
おかげさまで新規の方も人数も増えてきて、美ら組はどんどん盛り上がりをみせています。とはいっても、これまでもこれからもやることは変わらないです。
私が最初期から掲げている美ら組の目標として、「県内外への認知度、知名度の向上」「全体のレベルの底上げ」「プレイヤー人口の増加」の3つがあります。個人だとどうしても限界があるので、活動を広げていくためにはいろいろな方の力をお借りしなければなりません。
プロゲーミングチームを立ち上げてスポンサーを募ったり、企業さんとコラボしたり、教育の現場に入ったりなど、この3つの目標に関することならばなんでもやってみて、これからの美ら組の発展につなげていければと思っています。(了)
地方という立地上の不利を言い訳にせず、熱気あふれる南国の島でゲームにとことん「HYPE」しつづける「美ら組」という存在。
J-Snake氏の幼き日の自分と、亡き友人への想いにより走り始めたコミュニティは、いつしか一人ひとりが「自分たちの場所を自分たちで作っていく」という主体的な姿勢に満ちあふれた場所になっていた。
だからこそ人が絶えず、実力や年齢などのカテゴリーに縛られない能動的で魅力的なコミュニティになっているのだと、実際に接してみてひしひしと感じた。J-Snake氏の語ったコミュニティに関する考えには、沖縄や『スマブラ』に限らず、他の都市や異なるゲームにも応用できる普遍性がある。自分の好きなゲームにコミュニティをもっと盛り上げたいと思う方々にとっても、きっと良い参考事例になることだろう。
いちゲームファンとして、そんなワクワクすることが起きてくれることを期待せずにはいられない。琉球、アメリカ、日本とさまざまな文化を融合して唯一無二のカルチャーを生み出してきた沖縄が、きっとゲームの世界でも新しい軸を生み出してくれると信じて。
【この記事を面白い!と思った方へ】
電ファミニコゲーマーでは独立に伴い、読者様からのご支援を募集しております。もしこの記事を気に入っていただき、「お金を払ってもいい」と思われましたら、ご支援いただけますと幸いです。ファンクラブ(世界征服大作戦)には興味がないけど、電ファミを応援したい(記事をもっと作ってほしい)と思っている方もぜひ。
頂いた支援金は電ファミの運営のために使用させていただきます。※クレジットカード / 銀行口座に対応
※クレジットカードにのみ対応
【あわせて読みたい】
いま、沖縄で『スマブラ』が熱い!! 沖縄最強のスマブラ集団「美ら組」に、ゲーマーの理想郷を見た自分たちで大会を開くほどガチガチにやり込んでいる集団とは、一体どんな方々なのだろうか。昔のゲームセンターのような、アンダーグラウンドな雰囲気が脳裏をよぎる。 ほんの少しおっかなびっくりしつつ、美ら組の定期対戦会に足を運んでみた。