いま、沖縄で『スマブラ』が熱い。
その熱気の中心となっているのが、常連メンバーは全員が「VIPクラス」レベルの実力をもつという、沖縄最強のスマブラ集団・「美ら組(ちゅらぐみ)」だ。
那覇のゲーミングバーに毎週のように集まり、対戦会や独自の大会を定期的に企画・開催。格闘ゲームイベント「KVOリゾート」の『スマブラ』部門の取り仕切りや、参加者100人規模の大会の企画運営まで行っている。
どうして都心ではなく日本最南端の沖縄で、これほどに『スマブラ』が盛り上がっているのだろうか? オンライン対戦が当たり前になったいま、どうして熱気にあふれるゲームコミュニティが生まれたのか?
そうした疑問を尋ねるべく、美ら組の代表であり、『スマブラ』プロプレイヤーでもあるJ-Snake氏にインタビューを行った。
そこには、「本当に強い人たちが集まる大会」が開かれることのなかった沖縄の地に、「好きなゲームで評価される場所を作りたい」という氏の強い想いがあった。
美ら組が「心地いい居場所」になっている秘訣とは何なのか。地方でも都心でも、場所の制約にとらわれないコミュニティの条件とは。プロプレイヤーとイベンターという二足の草鞋を履くJ-Snake氏の語るコミュニティ論は、「叩き上げ」の説得力に満ちていた。自分の好きなゲームコミュニティをもっと盛り上げたいと思っている方々にとっても、大きな示唆が得られるはずだ。
※本稿の取材は2020年10月に行われたものです。2021年2月現在、美ら組さん主催のオフラインイベントは新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言のため、休止されています。
自分の好きなものを好きな人たち同士で熱狂して盛り上がる=HYPE(ハイプ)の感覚を重要視
いま、沖縄で『スマブラ』が熱い!! 沖縄最強のスマブラ集団「美ら組」に、ゲーマーの理想郷を見た
──ひと通り対戦会の様子を拝見しましたが、皆さんとてつもなく上手いですね。
J-Snake:
ここによく来ている人たちなら、オンライン対戦のVIPクラスぐらいの実力があると思いますよ。対戦会は毎週、大会もほぼ毎月という頻度でやっていますから、みんなめきめきと腕を上げてきていますね。
──オンラインでほとんど勝てた試しがない私からしたら、だれもが雲の上の存在です(笑)。美ら組はいつごろからこのような活動を始めたんでしょうか?
J-Snake:
WiiU、3DSで発売された『スマブラfor』のころからなので、6〜7年くらいになりますね。沖縄の『スマブラ』勢が集まる、知り合える場所を作ろうと思って立ち上げたんです。『スマブラ』好きな人たち同士で集まったり、沖縄の『スマブラ』コミュニティを盛り上げるためにイベントを開催したりするための交流のツールとしてですね。
──美ら組さんは那覇市内の『Good Game』というゲームバーを中心に活動されてますよね。都心ではミカドのような「格ゲーのメッカ」と呼ばれる場所もありますが、それを意識したりとかは?
J-Snake:
いえ、ひとつの場所にこだわるつもりはないです。アーケードと違って、『スマブラ』って持ち込めばどこでもできるじゃないですか。だから、人さえ集まれば場所は問わないので。むしろ、場所にとらわれず活動できるのが美ら組のいいところだと思っています。残念ながらコロナの影響で中止になってしまったんですけど、今年は書店や大学での大会も企画していたくらいですから。
──たしかに、今やNintendo Switchがあればどこでも対戦できますからね。ただ、『スマブラ』も含め現代のゲームはオンライン対戦が主流になったと思います。そんな中、オフラインでの集まりに力を入れているのはなぜなんでしょうか?
J-Snake:
たしかに、『スマブラ』ってゲーセンと違って毎回100円を払わなくてもいいし、会場に行って利用料を払わなくてもいいんです。じゃあなんでわざわざオフラインでやるのかといったら、やっぱり“熱狂する体験”をしたいんですよ。みんなが何にお金を払っているかといったら、そこだと思うんです。
音楽でも、自分の好きなアーティストの音楽をCDやライブDVDを聞いたり見たりすれば済むのに、ライブに行くじゃないですか。それはたぶん、「自分の好きなものを好きな人たち同士で熱狂して盛り上がる」体験をしたいから行くんですよね。オフラインの魅力というのは、そこにあると思っています。
私はその感覚をよく「HYPE(ハイプ)」って呼んでいるんですよ。これは直訳すると「誇大広告」って意味なんですけど、スラングで「熱狂する」という意味もあるんです。そういう意味で、美ら組では「HYPEする」ようなシーンを重要視しています。
──ゲームの対戦を見て思わず熱くなったり、声を出してしまったりっていうような感覚でしょうか。たしかに、オンラインでは共有しきれない部分がある感じがします。
J-Snake:
はい。そういう熱狂を感じられるようになるというのがいちばんの理由だと思います。
「ゲームで勝ったこと」がちゃんと評価される場所を作る
──美ら組には、年齢や実力やゲーム歴に関係なく、幅広い層の方々が参加しているなという印象がありました。対戦ゲームをする集まりなので、もっとストイックな方ばかりが集まっているのかと思いきや、全然そんなことないですよね。
J-Snake:
そうですね。実力最上位のストイックな選手はもちろん、来た人皆が楽しんでもらえるような場や仕組みを作っていった結果、自然と幅広い層が参加するコミュニティとなりました。
「段位戦」【※】システムもそのひとつです。「大会」だと優勝争いに食い込める選手はほんの僅かですが、それ以外の選手にもスポットライトを当てつつ「自分たちが沖縄スマブラ界全体の中で、どのくらいの立ち位置なのか」を測れる場があればいいなと思って取り入れました。
段位があると、単純に自分の強さの指標を確認できますし、普段から「負けたら失う物がある」ような、緊張感のある戦いに慣れられる。だから実際の本番の戦いで緊張せずに挑めるといいますか、参加者のモチベーションにつながるのかな、というのが始めた理由ですね。
※段位戦
勝つとプラス1点、負けるとマイナス1点を加算。勝負を重ね、プラス3点に達したときに昇段する。『ストリートファイターⅢ 3rd STRIKE』のころに現れたシステムで、初代『スマブラ』のオンライン対戦(ネトスマ)にも取り入れられた。
──なるほど。段位戦もそうですし、美ら組ではアマチュア杯や講習会など、いろいろな人が楽しめるような取り組みをされていて、同じゲームでも間口がより広くなっている気がしますね。トーナメント式の大会で、思う存分腕試しが出来る機会もしっかり保証されていますし。
J-Snakeさん自身、これまでさまざまな競技ゲームの企画やイベンターをやってきた経歴がありますが、このような施策はその経験に基づいているのでしょうか?
J-Snake:
それもあるのですが、私の原体験によるものも大きいと思います。
これまでに『スマブラ』だけでなくカードゲームやミニ四駆など、私も子どものころに流行ったものはなんでも触ってきていました。でも結局、全国大会のように「本当に強い人たちが集まる大会」が沖縄で開かれることは基本的になかったんです。
地元の玩具屋さんとかでやるような小さな大会はありますけども、それで勝ったからといって全国大会へ切符が手に入るわけでもないといいますか。
──特に沖縄は他県と地続きでないぶん、そこだけで完結してしまいがちですよね。今みたいにネットも普及していなかった時代でしたし。
J-Snake:
なので、どんなにいいセンスや実力を持っている人でも、それを伸ばせる場所もなければ、結果を出せる場所もなかった。仮に結果を出したとしても、認められる場所がなかったんですよね。
だから、いま自分がやっているのは「自分が子供のころにあってほしかった」場を作っているということなんです。真剣勝負の場だとか、勝った人がちゃんと評価される場だとか、そういう場が普通にある世の中になってほしいなと思っていたので。
考えてみるとおかしな話ですよね。野球部が甲子園に出場するとなれば学校の先生を含め大勢から褒められるのに、「ゲームで沖縄県の大会で勝ちました」といっても誰も褒めることはありません。他のスポーツであれば何時間練習したとしても何も言われませんけど、ゲームだと怒られたりする世の中ですから。
──すごさが伝わりづらいといいますか、ゲームのことがわからない人からすると「それは果たしてどのくらいの快挙なのか?」と想像しづらい部分もありますからね。
J-Snake:
そういうので自分はけっこう嫌な思いをしていたので。だからこそ、ゲームに真剣勝負でのめり込んでる子たちが、ちゃんと評価される場所を作ってあげて、競って高めあえる環境を用意できたらと。
あと、もうひとつ大きな理由があるんです。
私が初代『スマブラ』をやっていたとき、すごく仲の良かった友人がいました。彼は、初代『スマブラ』のネット段位戦で常に上位いた私でも負けるくらい、非常にレベルの高い優秀なプレイヤーだったんです。
ただ、どんなに強くてもたかがいちゲーム。しかも、発売からだいぶ経ってプレイヤー人口が少なくなったゲームコミュニティの中で強かったところで、一般社会では評価されないじゃないですか。
──今でこそeスポーツなどでスポットが当たりはじめましたけど、当時は「ゲームが上手くて一目置かれる」というのは難しかったですよね。認められるとしても、子ども同士の小さい関係性の中だけになってしまいがちでした。
J-Snake:
そんな彼がいろいろあって、社会に溶け込めず引きこもりになってしまい、最後には自殺で亡くなってしまったんですよ。
本当にショックだったんですが、ふと冷静に考えたら「一歩間違ったら自分もそうなっていただろうな」って思ったんです。
私自身も学生時代に引きこもっていたころがあったのですが、たまたまゲームのおかげで社会に出ることができて。「自分たちの遊び場を広げるための活動をする」という気力があったから、周りとのつながりができたんです。
ただ、彼の場合は私と違ってたまたまチャンスがなくて、たまたま色んな人と知り合えるきっかけがなくて、たまたま自分の世界に引きこもっちゃって、たまたま評価されないことが趣味だったから、この世界にあんまり興味がなくなっちゃったんだと思うんですよ。そういう人って、今までにもたくさんいたと思うんです。だからせめて、自分のまわりにいる子だけでも、ちゃんと自分の好きなことが評価される世界にいてほしいと思ったんです。
──心から大好きで、のめり込めるものがたとえゲームだとしても、そこから社会につながれるようになってほしいと。
J-Snake:
そうですね。その一環で、引きこもりの子や生活に苦しんでいる子どもたちのいる施設でゲームを教える活動もしています。そういう子たちにもeスポーツの面白さや奥深さを知ってほしいですし、なによりも「君が好きなものがちゃんと評価される世界があるんだよ」と思ってほしいので。
その子たちの親世代にもゲームに理解のある人はあまり多くはないので、「これは健全なことなんですよ」とアピールするための活動でもあります。