eスポーツの認知が高まるにつれ、若い世代への訴求力の高さから「ゲームによる地方創生」が各地で試みられている。自治体も積極的に協力している富山県や、温泉地であることを活かした大分県などの例が有名だ。その熱気は地方という物理的なハンデを超え、都心に負けずとも劣らない活気がある。
日本最南端の島である「沖縄」にも、その息吹はあった。それが、那覇を拠点に活動する『スマブラ』コミュニティ「美ら組(ちゅらぐみ)」だ。
「沖縄最強」と名高い美ら組は、上位メンバーのほぼ全員が「VIPクラス」の実力をもつという。また、参加者100人規模の大会を企画・開催するほか、大会成績などのデータに基づいたパワーランキングを作成するなど、コミュニティ全体の活性化にも余念がない。その勢いは止まることを知らず、沖縄中から年齢や性別や国籍を問わずさまざまな人々が集まっている。
ただ『スマブラ』といえば、今や多くの「ガチ勢」がプレイする格闘ゲームの筆頭だ。先日の「EVO Japan 2020」では世界中から訪れた6,000人近くの選手のうち、約半数の3,000人以上が『スマブラ』部門参加者だったことからも、その修羅具合は明白!
それを自分たちで大会を開くほどガチガチにやり込んでいる集団とは、一体どんな方々なのだろうか。昔のゲームセンターのような、アンダーグラウンドな雰囲気が脳裏をよぎる。 ほんの少しおっかなびっくりしつつ、美ら組の定期対戦会に足を運んでみた。
※本稿の取材は2020年10月に行われたものです。2021年2月現在、美ら組さん主催のオフラインイベントは新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言のため、休止されています。
【更新 2021/2/19 15:00】
公開当時、一部に誤解をまねく画像がございましたため、当該画像を削除しました。
本稿で取材を行った『Good Game』様は、イベントスペースとして営業されております。
イベントに用いられるゲーム機・ゲームソフト類はユーザーの持ち込みによるものです。
平日夜でも20〜30人が集まるほどの熱気
美ら組の『スマブラ』定期対戦会が行われているのは、那覇市内の駄菓子ボードゲームバー『Good Game』というお店だ。観光客や修学旅行の学生で賑わうことも多い繁華街「国際通り」の中にあり、普段は各種ボードゲームが自由に遊べるゲームバー兼イベントスペースとして営業している。
エレベーターでビルを登ること4階、賑やかに装飾されたドアがお出迎え。19時からの開始に少し遅れる形で足を運んだ筆者だが、すでに外から聞こえるほどの賑やかな歓声が!
重い扉をあけると、目の前を覆うかのような巨大スクリーンで熱い戦いが繰り広げられていた。ほか6〜8箇所の対戦ブースが設けられており、参加者たちが思い思いの場所で戦いを繰り広げ、店内は熱気と歓喜に包まれていた。
対戦会の参加者は事前に募集する予約式。お店のキャパシティもあり無制限とはいかないが、平日の夜でも毎回20〜30人近くの参加者が集まり、席が取り合いになるほどだという。この日も上限の20人いっぱいまで人が集まり、お店は貸し切り状態となっていた。
参加者の年齢層も、上は30代前半から下は中学生3年生までと幅広い。美ら組発足当時から頻繁に通っている方もいれば、友達に誘われてつい2ヶ月前に来たばかりという方も。
那覇は比較的どこからもアクセスしやすい場所ではあるが、19時ごろは帰宅ラッシュと重なるので道も混みやすい。そのため、中部・北部から来るとなるとそれなりに大変である。だが参加者は沖縄のあちこちから毎週のように足を運んでいる。
中には、学校が終わった後にバスで2時間かけてやってくる中学生の子もいた。まさに情熱の塊である。
その熱気を反映するかのように、『スマブラ』の腕前も折り紙付きだ。『スマブラ』歴はそれなりに長いものの、ネットでは有無を言わさずボコボコにされている筆者からすると、目の前で行われている戦いそのものが異次元のやりとりでしかなかった。
お話しさせていただいた参加者の方は「自分なんてまだまだ弱いから、見られるの恥ずかしいなぁ」と言いつつ対戦台に向かって行ったが、その方もまた異次元の動きを見せていた。平均値が高すぎる。
『スマブラ』の強さを可視化して、目標を持ちやすく
美ら組の定期対戦会では、毎回『段位戦』というシステムに則った戦いが繰り広げられる。同じ段位を持った人同士が戦って勝利したらポイントを獲得し、一定以上手に入れると昇段して次の段位へ進める、というシステムだ。メンバーはフリー対戦で腕を磨いたりレクチャーを受ける傍ら、お店で一番目立つスクリーンでは緊張感のある戦いに身を投じる。
トーナメント形式の大会「美らブラSP」も、ほぼ毎月開催されている。それらの対戦会や大会での成績をデータ化し、厳密な計算式によって割り出された数字をもとにした「沖縄スマブラパワーランキング」という指標も存在。こちらも自分の強さがひと目でわかるため、メンバーたちが切磋琢磨する目標となっているそうだ。
また、Nintendo Switch本体やソフト、GCコン接続タップなど、モニターやスピーカーなど備え付けのものを除いて、必要な機材はすべて美ら組のメンバーたちが持ち寄ってセットアップしている。
対戦会の参加者に必要なものは、その日の施設使用料と自分が使うコントローラー、そして何よりも向上心とゲームを楽しむ気持ちがあればOKとのことだ。機材を提供してくれた人や学生には割引などのサービスも実施しているという。
沖縄スマブラ界の登竜門、「アマチュア杯」
美ら組では毎週の定期対戦会のほか、毎月さまざまな大会も開かれている。なかでも、ビギナーであれば誰でも参加できる「アマチュア杯」は「沖縄スマブラ界の登竜門」と位置づけられているそうだ。そのアマチュア杯の様子も合わせてお届けしよう。
開会式では、美ら組代表であるJ-Snake氏が選手たちに激励の言葉をかける。同氏は選手として活動しつつ、同時に美ら組のあらゆるイベント運営を手がける人物だ。この日の参加者には妊婦さんがいることに言及し、「席のひとつをその方専用にしてほしい」との声かけを行う。参加するプレイヤーひとりひとりのことを考えて、誰もが快適に楽しめる時間を作ろうとするきめ細やかな配慮が際立っていた。
開会式のあと、早速各テーブルで予選がはじまる。決められたブロックで、順番に戦いの火蓋が切って落とされていく。
参加者と観戦者で、定期対戦会以上にごった返す店内。定期対戦会のときにお話させていただいた方々も、今日は少し緊張気味の様子だ。参加者以外にもお店の常連さんをはじめとした観戦者の方も集まり、選手と談笑をしてエールを送ったり、真剣な眼差しで戦いの様子を見守っていた。 都合により今回は予選までしかレポートできなかったが、決勝トーナメントもすさまじい盛り上がりを見せたとのことだ。今までランキングトップにいなかった新規プレイヤーの入賞も数多くあったようで、美ら組の選手層の厚さがうかがいしれる。
「自分たちで自分の遊び場を作る」という強い意志を感じる
実際に美ら組の活動に触れてみて驚いたのは、年齢やゲーム歴に関わらず、美ら組の参加者の全員がとても楽しげに交流しているところだった。
「格闘ゲームの対戦会」というと、ストイックでヒリヒリしたコロシアム的な雰囲気を想像しがちだが、実際はその真逆だった。「コントローラー持ってきてないんですか? 一緒に『スマブラ』やりましょうよ」と声をかけてくれたりと、みなさんの優しさが身にしみる。
その和やかな雰囲気とは反対に、『スマブラ』の実力はかなりのものであることはレポートしたとおりだ。対戦をしたあとにじっくりと感想戦を行ったり、上手いプレイヤーからレクチャーを受ける姿があったりと、真剣に『スマブラ』を追求している姿があちこちで見られた。
さらに対戦会や大会の準備や運営等も、みんなで積極的に行っている姿が印象的であった。代表者のJ-Snake氏をはじめ、美ら組のみなさんからは「自分たちで自分の遊び場を作る」という強い意志を感じる。
ただゲームで競い合うだけではなく、その土台づくりから全員で関わっているからこそ生まれる一体感。それが、まさしく「サードプレイス」であるような、美ら組の居心地の良さを作り出しているのではないだろうか。オフラインよりもオンラインでのつながりが増えている昨今において、このようなコミュニティはゲーマーたちにとって理想的な居場所なのかもしれない。
なお、別稿で美ら組の代表者であるJ-Snake氏へのインタビューも掲載している。美ら組というコミュニティを作るまでに至った経緯と、いちゲーマーのリアルな想いは必見だ。是非とも合わせてご覧いただきたい。
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そうした疑問を尋ねるべく、美ら組の代表であり、『スマブラ』プロプレイヤーでもあるJ-Snake氏にインタビューを行った。