松竹株式会社が、12月4日と11日の2日間ライブ配信という形式で実施する体験型演劇「イマーシブミステリー『アウフヘーベンの牢獄』」。こちらは、ゲームデザインや舞台を手掛けているイシイジロウ氏と謎解きゲーム制作団体「よだかのレコード」がコラボし、ZoomとLINEのオープンチャットで観客と演者がリアルタイムに対話しながら謎を解いていくというユニークなスタイルで行われる舞台となっている。
この『アウフヘーベンの牢獄』は、自分の名前や場所さえもわからなくなった記憶消失の主人公である“彼”に観客が話しかけながら、囚われている室内にある手がかりを元に謎を解いて救い出すといったストーリーだ。
こちらの公演に先駆けて、囚われの“彼”を演じる俳優の北川尚弥さんと、原作・総合監修を務めるイシイジロウ氏にお話をお伺いすることができた。本稿では、その模様をお届けする。
取材・写真・執筆/高島おしゃむ
企画のきっかけはClubhouseから
──『アウフヘーベンの牢獄』ですが、ざっくりというとどんな舞台になるのでしょうか?
イシイジロウ氏:
ざっくりというと……それは難しいですね(笑)。演劇と謎解き、ゲーム性の本格的な融合を目指す舞台になります。
──実験的な舞台ということでしょうか?
イシイジロウ氏:
実験的というよりも、先進的という言い方の方がいいのかなと思います。実験をするところは過ぎている気がしています。これまでのコロナ渦のなかで、様々なリモート系のインタラクティブな試みがありました。そこで行われていた実験には、自分が作ったものもあるし、見せていただいたものもあります。そうした中で、(コロナ渦になってから)2年が経ち、自分なりに統合してひとつの答えにたどり着ければいいなという作品になっています。
──今回オンラインで舞台を行うことになったのも、コロナ渦の影響があったからでしょうか?
イシイジロウ氏:
はい、そうですね。コロナ渦で行われてきたものを見て、松竹さんと僕が組むのであればさらに新しい挑戦ができるのではないかと思ったというのが、今回の企画です。
──企画がスタートしたきっかけを教えていただけますか?
イシイジロウ氏:
電ファミニコゲーマーの平さんのしきりで、Clubhouseで鳥嶋和彦さんや堀井雄二さんと対談をしていたときがありました。それを、松竹さんの体験型イベントを行っている新規事業の方が聞かれていて、私の方に連絡があったんです。そこで「いろいろと新しいことをやっていきたいので、なにか面白いことできないですか?」というお話をいただき、出てきた企画が今回のものになります。
──それはいつ頃のお話ですか?
イシイジロウ氏:
今年の3月頃に松竹さんのご担当者とお会いして、(企画を進めたのは)初夏から夏にかけてですね。それからここまで来てるので、無茶苦茶ですね。すごい時間をかけて準備していたかのような口ぶりで話していましたが(笑)。
──この2~3ヵ月ほどで企画をまとめ上げたという感じでしょうか?
イシイジロウ氏:
あ~そうですね。でも、やりたいことは案外見えていたんです。松竹さんのほうからは、リモートやZoomを使って『マーダーミステリー』的なものを何かできないかというお題が出ていました。そして、僕の中には答えがあったんです。答えとお題がある状態だったので、これはやるしかないですねということで企画を詰めていきました。
──今回は、ZoomとLINEというふたつのプラットフォームを活用したものとなっています。こちらを選んだ理由を教えていただけますか?
イシイジロウ氏:
これも体験なんですが、お客様からは話すよりもテキストでメッセージを送る方がハードルが低いと思ったからです。逆に、役者側からはしゃべったほうがいいですよね。テキストと会話のキャッチボールみたいなことができるといいなと思いZoomとLINEを選んでいます。
──ちなみに、1回の公演で何人ぐらいの観客が参加できるのでしょうか?
イシイジロウ氏:
数千人単位のお客様が楽しめるものを目指しています。なので、1対数千なんですよ。それができてこそ、今回の企画のゴールじゃないかなと思っています。
北川尚弥さん:
すご~い。
──観客のコメントを拾い上げて、演技に反映させていくという感じでしょうか?
イシイジロウ氏:
そうしたことにも挑戦はしたいのですが、さすがにすべてを拾うことは不可能です。それが整理されて謎解きに集約されるほか、最初に謎の解明にたどり着いた方やクリティカルな問題にたどり着いた方は、コミュニケーションのポイントになってくるんじゃないかなと思っています。
──ちなみに、今回の『アウフヘーベンの牢獄』を発表されてから、まわりの反応はいかがでしたか?
イシイジロウ氏:
今回はZoomを利用することもあって、通常の舞台よりも客席数が多くなっています。実際にはこうした作品は客席数が絞られてチケットが買えない場合が多いんです。そこで言われたのは、一応申し込むけどダメだったらイシイさんのルートからチケットくださいということでした(笑)。反応は上々ですね。
──通常の舞台はどれぐらいのお客さんが入るのでしょうか?
北川尚弥さん:
僕が出演した舞台で一番大きかった劇場は約1,000人ぐらいですね。
──じゃ、北川さんはそれ以上のオーディエンスの前で演技をされることになるんですね!
北川尚弥さん:
そうですね~。でも、リアルではないところではあるので、また感じ方も違ってくるんじゃないかなと思っています。
──参加されている方によって、謎が解けるスピードも変わってくるものなのでしょうか?
イシイジロウ氏:
そうです。もうひとつは、謎が解けないと面白くないものにはしたくないと思っています。もちろん、謎が解けた方が面白いのですが、謎が解けても解けなくても面白いものが、新しいものだと僕は思っているので、なんとかそこに挑戦したいなと。
──観客の反応によって物語の展開が変わるというのは、どんなイメージでしょうか?
イシイジロウ氏:
どのタイミングでお客様が、主人公に対して、どんな情報を提示するのか。それが1、2、3なのか、2、3、1なのかということによっても対応が違ってきます。
──観客の反応はどのように演者から見られるようになっているのでしょうか?
イシイジロウ氏:
今のとこはテキストの予定です。想像したよりエモーショナルな作品になっていると思います。この作品を作っているのが自分たちだと思った瞬間に、お客様が盛り上がったら伝わりますし、北川さんの心を動かすこともできます。1000人のお客さんが「頑張れー!」って書き込めば、頑張れますもん。それは、ぜんぜん冷たいコミュニケーションとは感じていません。
──北川さんはどんな風に演技の対応をされるのでしょうか? リアルタイムで演技されるということですよね?
北川尚弥さん:
はい、そうです。
──お客様は異なる演技を見ることになるのでしょうか?
イシイジロウ氏:
基本的にひとつの演技を見る感じです。演技はひとつですが、周辺のインタラクティブ要素は、お客様によってどの順番で解いていくかは自由です。
──北川さんは、Zoom越しにリアルタイムで演技をされるということですが、とくに演じる上で通常の舞台や撮影の演技と異なる点や難しさはどこにあると思いますか?
北川尚弥さん:
僕は舞台をメインにやらせていただくことが多いのですが、舞台の場合は正面で全身が出ています。でも、ZoomやLINEを使ったお芝居では決まった画角でのお芝居しかないので、そこでどれだけの情報量を皆さんに正確にお届けできるのかということが、大事になってきます。なので、そこを大切にやっていければと思っています。
──最初に今回の企画のお話を聞いたときは、どんな印象でした?
北川尚弥さん:
自分にこの役が務まるのかな? というのは、最初にあったんですけど(笑)。こういう企画がありますといわれて内容を見せていただいたときに、まったく自分の中で理解できなくて。理解できないからこそ、ある意味、これ面白そうだな、やりたいなと思ったんです。
声をかけていただけたことも嬉しかったですし、常に新しいことを挑戦していきたいって思っているので、今回出演させて頂くことにしました。
──キャスティングはどのように決まったのでしょうか?
イシイジロウ氏:
ゲーム業界や謎解き業界は、舞台の業界と近いようで遠いところもあります。だからこそ、本当の演技の力をうまく使えていないなというイメージがありました。今回は、松竹さんとの出会いによって企画が始まったので、役者さんを活かすにはこの企画でどういう風にすればいいですか? どんな方にキャスティングすればいいですかとご相談しました。そこで、松竹さんのほうでキャスティングされたのが、北川さんです。
──そうだったんですね。まだ具体的な演劇内容は伏せられていると思いますが、全体としてはどのようなユーザー体験が得られるものになるのでしょうか?
イシイジロウ氏:
この作品を、北川さんとお客様の双方で作る体験を目指しています。本来なら主演北川さんということなのですが、そこにプラスしてお客様が主演です。そのキャッチボールが行われることによって、この作品が出来上がるという体験が作ればなと思っています。
お客様に役名はありませんが、作品を作るということにおいては、お客様も主演のひとりだと僕は思っています。
──共同で作り上げていく感じなんですね!
北川尚弥さん:
そうですね。役者と役者で会話をするというやりとりではなく、役者とお客さんとのやりとりで物語を作っていきます。
──こうした作品はこれまでにも存在したのでしょうか?
イシイジロウ氏:
していないことはないと思いますが、今作はかなり集大成的なものにはなっていますと思います。
──最後に、この記事を読んでいる読者にメッセージをお願いします!
イシイジロウ氏:
すごく先進的な作品になっていると思います。初めての体験が提供できるものを目指しているので、初めてのものが好きな方は、この2日間しかこれを体験できません。そのため、この機会を逃さずぜひ体験してください。
北川尚弥さん:
現実世界でもあるんじゃないかな? という物語になっています。その世界観は、非日常的ですが日常的というか、不思議な世界観に入れる貴重な時間になっているんじゃないかなと思います。二日間という限られた機会ですが、ぜひ皆さんに参加していただけたらなと思っています。
──本日はありがとうございました!