天皇陛下ご著書の装釘から『デュエマ』のイラスト、『覇邪の封印』まで! 多彩な事業を手がける1916年創業の100年企業「工画堂スタジオ」が経営危機に直面してもゲームを作り続ける理由とは!?

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最新作『ユメミドリーマー』では、手に取ってもらうまでの仕組みを変えたかった

──さて2021年11月4日からは、「くろねこさんちーむ」10年ぶりの最新作となる『スターメロディー ユメミドリーマー』(以下、『ユメミドリーマー』)の単話配信が開始されています(パッケージ版/一括配信の発売日は2022年1月27日)。この企画は、どこから生まれてきたのですか? これまでの工画堂さんのように、作り手側から「こういうゲームを作りたい」と持ち上がったのでしょうか。それとも会社として、そろそろ「くろねこさんちーむ」の新作を作ろうか、という話になったのでしょうか?

北川氏:
 じつは『ユメミドリーマー』は、もう10年ぐらい前からやっているんです。

谷氏:
 2009年に開発ラインを整理したときに、2ラインある中でいちばん完成に近いものを選んで、それが「しまりすさんちーむ」の『白衣性恋愛症候群』だったんですけど。で、もうひとつのほうっていうのが、鳥越のやっている『ユメミドリーマー』だったんですよ。

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──ええっ! 本当に10年ぐらい前からの企画だったんですね。

谷氏:
 当時はまだ「どんなものを作るの?」、「キャラクターデザインはどうなの?」と検討している時期でした。

 で、「しまりすさんちーむ」の『白衣性恋愛症候群』を進めるというのが決定してからは、そっちに軸足を置くしかなかったので、『ユメミドリーマー』はしばらくストップ。鳥越はほかの部分のお手伝いと、イラストのほうの仕事というふうに、シフトチェンジしてもらっていたんです。

北川氏:
 いったん凍結してもらって、それで「凍結したのを解凍して」、「ごめん、もう一回凍結して」っていうのを、2回ぐらいやってますね。

谷氏:
 そうだね、たしかに。

北川氏:
 いちばん最初に、僕が鳥越さんに企画を頼んだのは、もうだいぶ前の話ですけど、鳥越さんの当時作ったゲームがあまり良い結果がでなくて……。いったんお休みになったんです。

 その期間で溜めて溜めて、溜まりきったところで、「鳥越さんがいちばんやりたい企画を出してください」ってお願いしたんです。あなたが本当に、心の底からやってみたいと思っていたジャンルで、全振りで勝負してください。その企画を上げてきたら僕は何も文句を言わないので、その代わり絶対に「やりたいこと」だけをやってくださいと。それが、僕が覚えている『ユメミドリーマー』のスタートですね。

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 実際、それで上がってきた企画に対して僕は異論もなかったし。彼がああいう変身ヒーロー物、変身少女物がすごく好きだっていうのを知っていたので。「本当に自分でやりたいものを上げてきやがったなぁ」と。

──(笑)。

北川氏:
 そこからは「できる限りの、最大限をやってください」というような感じで走らせ始めたんですが、途中で何度も凍結が起きてしまって。シナリオ制作の期間が相当に長かったですよね。何度も止めてはまた再開、というようなことをやっていたので。

──ということは、その「振り切った」ところというのは、変身ヒーロー物、変身少女物をやりたいとうのが、まずベースにあるわけですか?

北川氏:
 そうですね。そこからあとは本当に、彼がやりたい部分だけを、ただひたすらコツコツやっていた感じです、……それはそれで、さっきまでの話の流れでいうと工画堂の悪いクセなんですけど(苦笑)。

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(画像はスターメロディー ユメミドリーマー ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

──まあでも、難しいですよね。悪いクセだけど、そういうところがあるからこそ、求心力があったり魅力があるものにもなっていくので。

北川氏:
 そうですね。

──『ユメミドリーマー』はリリース方法がかなり特殊なのですが、単話配信というアイデアは、鳥越さんなんですか? それとも別の方ですか?

北川氏:
 もともとのきっかけは、鳥越だった気がするんですよ。その理由は、フルスペックのゲームって、やっぱり高いじゃないですか(苦笑)。

──はいはい。

北川氏:
 フリー・トゥ・プレイで遊べるゲームが世の中にはあるところで、内容もわかんないのにいきなり6000円、っていうのは時代に合ってないというか、お客さんもそれに納得できないだろうなと思っていて。もうちょっとそこに落としどころがないかなと。我々が工夫することで、もうちょっと手に取ってもらえるようにできないかな、というのがあります。

 もうひとつ、鳥越がいちばん最初に言ったのは、単話配信にすると毎回「新作」って、ストアのいちばん上に出るんじゃない? みたいな打算があって。ただ、それはその通りにはならなかったんですけど。

──(笑)。

北川氏:
 きっかけとしては、そういったところです。

──なるほど、なるほど。

北川氏:
 僕としては、無料配信をしたかったんですよ。結果的には実現できなかったんですけれど、無料で最後までプレイしてもらうっていうのをやりたかったんです。

──1、2話だけ無料ではなく、全部無料で遊べるということですか?

北川氏:
  単話配信でリリースしていくんですけど、最初の1週間は無料。で、翌週になると有料になるけど、最新話は無料、というふうにやっていきたいと。

──なるほど、TVアニメのオンライン配信みたいな感じですね。いちばん最初からちゃんと追っている人は、全部無料で楽しめるっていう。

北川氏:
 そうなんです。最新話を追っかけていくと、最後まで無料で遊べるよ、っていうのを実現したかったんですけれど。プラットフォームさんから「それはダメ」と言われてしまって。

 とはいえ、どういうふうに作品を知ってもらって、どういうふうに好きになってもらうかっていう部分を、ちょっと工夫したかったんですよね。こちらの都合でポイって出して、「気に入ったら買ってください」っていう、いままでのやり方を変えてみたい、とは思いました。

谷氏:
 僕なんかはもう、ぜんぜん受け入れられないんだけど(笑)。昔の工画堂っていうのは、自分たちの作ったコンテンツが最高だから、これを買えっていう提供の仕方だったので。もちろん、それで成立していた時代だからいいんですけど、いまはそうじゃないわけですから。

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北川氏:
  単話配信がうまくいくのかどうかは、まだわからないんですけど。ただ、僕は制作側の人間ではないので中身についてとやかく言えないし、言わないつもりでいるんです。そのぶん、コンテンツの中身以外の部分でできることっていうのは、つねに頭を働かせていないといけないだろうと思うし。僕がさっき言った“マーケティング感覚”みたいなものを、最終的に紐付けられるポジションにいるべきだろうなと思っているので。それが実際にできているかはともかく、そういうところでコンテンツ作りのサポートができればと、常々思ってはいます。

新しい世代の開発スタッフにも、作りたいものを作るチャンスを与えたい

──いま、ソフトウェアの開発スタッフというのは、鳥越さん以外はどういう方々なんですか。

北川氏:
 『夢現 Re:Master』などのディレクターであるみやざーさんが独立しまして。社内だと、西川真音ですかね。『シンフォニック=レイン』の。

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(画像はシンフォニック=レイン ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

谷氏:
 『シンフォニック=レイン』のシナリオはすべて、西川が担当しています。

北川氏:
 それと、社内ではないんですけど関係性があるのが、竹内なおゆきさんですね。『蒼い海のトリスティア』などをやられていた方です。

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(画像は蒼い海のトリスティア ポータブル ~ナノカ・フランカ発明工房記~ | ソフトウェアカタログ | プレイステーション® オフィシャルサイトより)

 あとは、“百合”のラインを作っている「しまりすさんちーむ」の“イズム”を引き継いでシナリオを制作できる人間が、ちょっと近いところにいたりはします。

 あと、僕が密かに期待しているのは、新卒2年目、3年目の若い子たちがいるんですね。その子たちに「君たちの作りたいものを作ってみて」という形でチャンスを与えられたらなぁ、とは思っています。その中のひとりは「VRをやってみたい」と、以前からずーっと言っていて。よりによってそんなたいへんそうなものをよくも選んでくれたな……って思っているんですけど(笑)。

一同:
  (笑)。

北川氏:
 ただ、彼らは若すぎて、僕らとは感覚も違うので、鳥越とかがアドバイスできないんですよ。3世代ぐらい違うので。

 鳥越から後ろの世代が、さっき言った10年のあいだに、入っては辞めてというのを繰り返して、ボコッと抜けているんですよね。

谷氏:
 それがソフトウェア開発の難しいところだよね。

北川氏:
 なので本当に、新しい世代が芽を出して、根を張ってくれると嬉しいな。

 ただ一方で、鳥越が『リトル・ウィッチ パルフェ』を作ったときに、当時の先輩方は「こんなもの絶対に売れるわけがない」って言ったんですよ。『シンフォニック=レイン』のときも。でもどちらも売れたし、評価もされたんです。だから結局、年寄り連中が言うことなんか全部外れるんですよ。

一同:
  (苦笑)。

谷氏:
 『シンフォニック=レイン』は究極の鬱ゲーなんて称されて、新普及版が出るほど人気の高いタイトルだよね。絵師のしろさんは、当時大学生だったかな? いまや『ヤマノススメ』がアニメ化されるなど、大活躍されている先生ですからね。

北川氏:
 こちら側の常識で良い・悪いを判断しちゃうと大きなものを失うぞ、っていう経験を何度もしているので。ただ、あんまり何も言わないと、今度は「言っときゃよかった」みたいなことにもなるんですけどね……(笑)。

谷氏:
 そうなんですよね。とくにこのコロナ禍でみんながテレワークになっているから、昔みたいに密接な感じではないじゃないですか。だから余計不安になっちゃって、「言っとかないといけないよな」って思っちゃうところはたくさんありますよね。

──でも最新作の『ユメミドリーマー』では、若いスタッフからベテランの方まで、いろんなスタッフが関わっているんですよね?

北川氏:
  そうですね。

先人たちが作った昔のタイトルを、新しいコンテンツとして復活させてみたい

──『ユメミドリーマー』の次のタイトルみたいなものも、動きとしてはあるのですか?

北川氏:
 いまのところはまだないですね。

谷氏:
 昔のタイトルのリメイク、リマスタリングみたいなものを、あいだに挟みながらやっているので。

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 さっき北川が言っていた、若い子たちに作らせているものっていうのが、いきなりオリジナルというのではなくて。昔のウチのコンテンツを使って、あなたたちのやりたい新しいものを考えてみて、という形にしているんです。そういうものは少しずつですけど動いています。

──では、たとえばタイトルは『パワードール』なんだけど、作っているのは本当に新しい人たち、といったゲームがこれから出てくると?

谷氏:
 そうですね。

──それは楽しみですね。

谷氏:
 先人たちがせっかく作ってくれた資産なのでね。それをうまく回転させていけば、昔のファンの人たちもきっと注目してくれると思うんです。「なんか懐かしいタイトルを目にしたぞ」って(笑)。

──そういった形で、復活させてみたいタイトルはありますか?

谷氏:
 僕は『覇邪の封印』を何がなんでも復活させたい、っていう思いが強いんです。それは僕が入社した時から、『覇邪』がスゴかったから。北川は『パワードール』なんだって。

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──個人的には、『シュヴァルツシルト』に期待しています(笑)。

谷氏:
  『シュヴァルツシルト』もね、ぜひやりたいですよね。僕にとっても『シュヴァルツシルト』は、『覇邪の封印』の次に思い出深いタイトルなので。

 ただ『シュヴァルツシルト』に関してはですね、『IV』まで出したところで、NECにライセンスをした時期があるんです。PC-9821が出たときに。PC-9821専用版というのを自分たちで出すのはリスクがあったので「NECさんから出してください」と言って。その結果が『シュヴァルツシルトEX』です。PC-9821専用で、CDで供給するタイトルでしたね。

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 そこから『シュヴァルツシルト』の路線はNEC側でやるようになって、いわゆる外伝シリーズがいくつも出ました。その中でも『W』がもっとも売れましたね。

 ただし、これらはあくまでも外伝ですからね。もし今度『シュヴァルツシルト』を出すんだったら、本家の正規ナンバリングとしてちゃんと作りたいなって思っています。先ほどお話ししたように、105年の歴史で唯一お蔵入りにしたのも、『シュヴァルツシルト』だったし。だからちゃんとやりたいなぁ、っていう気持ちがあるんですよね。

クリエイターの気持ちに、本気で寄り添っていける会社を目指したい

──谷社長としては、これから会社の規模を「大きくしていきたい」という意志はあるんですか?

谷氏:
 「規模を大きくしたい」とは思っていないんですよ。ただやっぱり、なんだろうな。この業界の中で100年企業として、歴史の中にきちんと足跡を残したいというか。ちゃんとその「証し」を残したいという感じはあるんですよね。それが「大きさ」っていうこととイコールじゃないと思うので。

──なるほど。

谷氏:
 僕の言う「歴史」とか「証し」って何? っていうと、それはやっぱり「コンテンツ」なんですよ。

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 どういうことかっていうと、「今日は『パワードール』の発売日です。それでお店に行ったら、もう売り切れていた。でもそこで「しょうがねえな。じゃあ『麻雀ゲーム』を買って帰ろう」とはならないですよね。

──はい。

谷氏:
 だって『パワードール』を買いに来たんだから。ソフマップにないんだったら、じゃあヨドバシに行って、ビックカメラに行って……ってなるわけですよね。それが「コンテンツ」というものでしょ? それは、上の方にコーエーテクモゲームスさんがいようと日本ファルコムさんがいようとスクウェア・エニックスさんがいようと、胸を張って「世界に冠たるオンリーワンのコンテンツをウチも作ってるんです」って言える。そこが工画堂にとっていちばん守っていかなきゃいけない、重要なところなんじゃないかな、って思っています。

 本当にね、パソコンゲーム黎明期の人たちと肩を並べてやってきて、向こうは大きくなったけど、でもその人たちと同じ考え方を持って勝負できるコンテンツを、僕らは作っているはずですから。

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──ゲーム会社にしてもアニメ会社とかにしても。社長がコンテンツのクリエイターである場合と、そうじゃない場合があるじゃないですか。

谷氏:
  はい。

──谷社長はクリエイターではない道を歩んでこられて。クリエイターの方が「作る」、「作れる」というところに矜持を持ってやれるのは、まぁわかりやすいんですけど。一方で事業者として、ビジネスマンとしてのコンテンツ会社の社長っていうものが、コンテンツに対する誇りの「持ち方」みたいなものって、いったいどういうものなんだろうな、と。

谷氏:
 難しいですねぇ、質問が。僕は確かにクリエイターとしての実績は積んできていないですけど、やっぱり出自として、デザインのところを志向してきたっていうのは、これは嘘じゃないんですよね。ウチの親父っていうのは古い人間なんで、僕が生まれたときから「お前は工画堂を継ぐんだよ」っていう線路を引いて、洗脳してきて育てたんですから(笑)。

──(笑)。

谷氏:
  だから本当に僕は逃げ場がなくて。自分がそれで苦しんだっていう思い出のほうが大きいので、自分の息子・娘には、同じことはしなかった。一回も「継げ」とか言ったことはないし。

 でも僕はそういうふうには育ってこなかった。それでも当時、自分で美術っていう道を選んで、それを少なからず勉強してきて。その延長線の中で工画堂に入った。で、その工画堂は100年間、デザインっていうものをDNAのど真ん中に置いてやってきている会社で。それをまったくわからない人と、少しでも噛んでわかってる人と、っていうことで考えたときには、やっぱり自分も美術を学んだクリエイターの端くれとして、わかる部分っていうのがすごくある。

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 一方で、自分がわずかだけでもクリエイターとして苦しんだ部分があるならば、そこを自分たちが理解をしてあげて、サポートしていきたい。っていうようなところにも繋がっている。ここで言う「クリエイター」っていうのは、ゲームソフトのクリエイターも、イラスト制作の絵師さんも、グラフィックデザイナーもそうだし。
 まさにいまウチがやっている事業の周りにいる人たちに対して、多方面での関わりを持って、やれることを精一杯やりながら生きていけたらおもしろいよね、と。

 だから、本当の意味でクリエイターの気持ちになって、彼らの役に立つようなことを「本気で」やろうとしている会社の想いっていうのはきっと、単なる実業としてそれをやろうとしている人たちとは違うんですよね。

──それは具体的にはどう違うのですか?

谷氏:
 たとえばやり方としてね、分業してやれるところだけうまくやればいいんだから、みたいなことでどんどん伸ばしていく、っていうやり方も一方ではある。その中で僕らはクリエイターがもっとも輝ける題材とか、タイトルとか、そういうものをいろいろ考えながら、そこにピチッ、ピチッ、と当てはめていくことからスタートしていく。そしてその人たちに、良質な情報を切れ目なく届けてあげたい。

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 そうやって、クリエイターの気持ちに少しでも寄り添っていけるというのは、どういう理念を持った会社の人たちなんだろう、ってやっぱり考えちゃったんですよね。「そこを自分たちがやろう」っていうのが、先ほど言った30年ビジョンの、クリエイターズ・ハブというものの「核」になっている考え方なんですよ。

──いわゆるソーシャルゲームの勃興以降、イラストの発注や管理をする会社って、いっぱい増えたじゃないですか。そこと工画堂は何が違うんだろうな、みたいなことを質問をしようかなと思っていたんですけども。でも、こちらから質問をするまでもなく、その答えがたくさん返ってきたので(笑)。

 ただ、僕がちょっと気になったのは、クリエイターズ・ハブというところ。工画堂そのものがクリエイターのスタジオなんですから、要はハブじゃなくて、自分で作ればいいじゃん、と思うところがあって。

谷氏:
  あぁ、はいはい。

──出版社や編集者がそういうハブをやるのは「まぁそうかな」と思うんですけど。でも、工画堂はハブというよりは、やっぱりスタジオなのではと思うんです。

谷氏:
 イラスト制作の業務を社内で完結させようとすると、社員全員が目先の仕事ばっかりを一生懸命やらなきゃいけなくなっちゃうんです。とくにイラスト業界はニーズの移り変わりが早く、社員は心身ともに苦しくなりやすい。その人たちの「センス」にだけ頼るモノづくりになってしまいますし、これを続けると、会社もつねに苦しい状態から脱却できない。これはデザイン事業で先代たちが痛いほど経験していたことです。

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 工画堂105年の歴史から、現在、経営指針としているのは、BtoBとBtoCの掛け算で事業を動かすべきだってことなんです。受け口が広くなるのもそうなんですけど、それよりも、工画堂にとってもっとも重要なのは、クリエイターとともに成長し、社会貢献することで。

 ハブ事業は、当然クライアントありきなんですよ。でもこの僕なりの指針をもって、自分たちの配信もできる会社だ、ってことになると、つねにクリエイターに機会を提供できるし、事業も継続していける。だからウチにとっては、両輪が大切なんですよ。まさにハブ事業っていうのは、どちらの方向を向いても正しい考え方なのかな、と思っています。

──なるほど、よくわかりました。本日はどうもありがとうございました。(了)

 今回の取材は、これまで電ファミニコゲーマー誌上で数多くのクリエイターや企業経営者の方にお話をうかがったなかでも、とくに印象に残るものだった。かつてパソコンゲームの営業で腕を振るった谷社長の軽妙洒脱な語り口もさることながら、その内容がまるで一編の企業小説のように波瀾万丈な点に驚かされた。

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 ピンチのときにこそ、その人間の本質が明らかになると言われている。工画堂は100年の歴史の中で最大の経営危機を迎えたときに、同社がいったい何を目指すべきなのかという、企業としての本質を見つめ直す機会を得たのかもしれない。

 イラスト制作事業を新たな会社の柱としつつも、ゲーム開発を決して止めることなく続けてきたことが、2021年で創立105年目を迎えた現在の工画堂スタジオを支えている。2021年11月より単話配信が開始された新作ゲーム『ユメミドリーマー』のリリースは、この同社の歴史を知れば知るほど、非常に感慨深いものになるはずだ。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
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