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『テイルズ オブ』のキャラデザをやりたくて“下積み18年、勉強20年”。最新作『アライズ』を成功に導いたアートディレクターが語る『テイルズ オブ』らしさが納得しかなかった

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『テイルズ オブ』シリーズは「キャラクターを応援したくなるゲーム」を意識している

──昔のゲームは表現力がスペック的に低かったので、どうしてもアイコニックな表現にならざるを得なかったじゃないですか。『ストII』春麗の腕輪がやたらとデカかったりするのは、限られたドット数で分かりやすく表現するためですよね。そういう意味では初期の『テイルズ オブ』も手足が大きかったりして、かなりゲームに寄ったデザインですよね。

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シリーズ第1作『テイルズ オブ ファンタジア』の主人公・クレス(画像はテイルズチャンネル+より)

岩本氏:
 顔もかなり大きいですね。

──でも今のように頭身がかなり高くなって、写実的とまでは言わないまでも、よりリアルに寄っていった表現がトレンドになっていくと、そういうアイコン的な表現との落としどころになにかしら工夫が必要になってくると思うんです。

岩本氏:
 自分たちも100パーセントできているとは言い難いので、あくまで理想の話になってしまうんですが……

 まずひとつは表現力が向上したことで、解像度をより高く表現できるというのはあると思います。ドット絵だったら2パターンで剣を振る動作を描いていたのが、秒間60フレームでヌルっと動かせるようになったり。
 昔のドット絵の表現も素晴らしいんですけど、やっぱり60フレームのほうが、情報量は多いですし。でもそこでより伝わりやすいようにするために、たとえばアニメーションを工夫したり、カットシーンを工夫したり、いろんな技法が進歩していると思います。

 そうなった時に古い記号的なやり方も有効になってくると思うんです。「赤いグローブを着ける」だとか、「揺れ物で動きを大きく見せる」だとか、そういった工夫はぜんぜん色褪せることがないんです。そういう「こうやったらこんなことができる」みたいな発明は、日々ゲーム業界でも進歩していると思いますよ。

 たとえば『テイルズ オブ』の烈空斬みたいな動きは、自分は「頭身を高くしたキャラではできない」と思っていたんですけど、実写のワイヤーアクションのように、よりリアルな表現で、より世界に入り込めるゲームもあるなという気付きや実感を得たこともあって。

 それで、じつは『テイルズ オブ』でも一回リアル寄りな見せ方を試してみたんです。
 でも面白いことに、「たしかに凄味は感じるけど、楽しくなかった」んですよ。僕自身はリアリティを突き詰めた方向性も好きですけど、一方でそれはアニメや漫画が好きな人が楽しいと思う方向とは違うんじゃないかとも思っていて。

 だったら僕らとしては、アニメ・漫画の可能性を広げる方向に舵を切ったほうが、独自性を持てるし、やりがいもあるし、お客さんにも新鮮に感じてもらえるんじゃないかと思っています。

──たしかにそうですね。

岩本氏:
 じつは『テイルズ オブ エクシリア2』のルドガーもそうなんですけど、「あえて『テイルズ オブ』的な記号を付けない」という見せ方も試してはいるんです。

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ルドガー(画像はバンダイナムコゲームス『テイルズ オブ エクシリア2』公式サイトより)


 でも、このへんも勘になっちゃいますけど、漫画好き・アニメ好きの人たちの琴線に触れるにはどのぐらいのバランスがいいのか、試行錯誤した結果のひとつが『アライズ』だと思います。

──ゲームが漫画やアニメと違うのは、ゲームの場合は「体験を伴う」というのがあると思うんです。たとえば「『ドラクエ』のモンスターは必ず、プレイヤーに対して目線を向けている」といった見せ方が有名ですけど、そういった意味で今回の『アライズ』や、岩本さんのこれまでのお仕事でゲーム的な工夫をされてきたところはありますか?

岩本氏:
 『テイルズ オブ』は自分がキャラクターに成り代わって操作する場面もあるんですけど、どちらかというと第三者視点で、人格を持っているキャラクターを応援している気持ちが強いと思うんです。なので、基本的にはプレイヤーがキャラクターを応援したくなるように作っています。

 キャラクターの強さに憧れる、みたいなところもあれば、キャラクターの弱みや悩みをしっかり描くというのもあって。それは日常的な小さなこと、たとえばネズミが嫌いとかお風呂が嫌いとか、そんなことでも構わないんですけど、人間味をちゃんと持たせてあげる

 成し遂げたいことだとか夢だとかコンプレックスだとか、そういったものを抱えたキャラクターたちを応援することで、プレイヤーの気持ちが浄化されるというか、楽しんでもらえればと。そうしてキャラクターを好きになってもらいたい、というのは意識しています。

──『テイルズ オブ』が三人称視点で、キャラクターを応援したくなるゲーム、という表現はすごくよく分かりますね。

岩本氏:
 ありがとうございます。キャラクターを立たせるというところで考えることはいろいろあるんですけど、やっぱり「応援したくなる」という点は意識していますね。

保育園児の頃に遊んだMSX版『マッピー』が、インタラクティブの原体験

──岩本さんは高校生の頃からゲーム開発者を目指していたとのことでしたが、その中で絵はどれぐらいの比率を占めていたのですか?

岩本氏:
 そういう意味では「絵」と言うより「ゲームグラフィック」と言ったほうが正しいかもしれません。漫画が大好きだったのでイラストを描くことも普通にやっていたんですけど、ドット絵だったり3Dモデリングだったり、ゲームで使用される表現がとにかく大好きでしたね。

 いわゆるイラストレーターや漫画家に憧れる面もあったんですけど、それでもやっぱりゲームグラフィッカーに一番憧れていましたね

──ゲームグラフィックを選んだ決め手はなんだったんでしょうか?

岩本氏:
 うーん、難しいんですけど「面白いから」ですかね(笑)

 保育園児の頃になぜか自宅にMSXのハードがあって、最初に遊んだゲームは『マッピー』でした。
 一番よく覚えているのは、「自分が操作するとTV画面の中でキャラクターが動く」というそのこと自体ですね。マッピーがビヨーンと跳ねたりして、しかも自分がそれに介入して操作できるということが、面白くてしょうがなかったんです。

 それがゲームハードの進化と共に、どんどん可能性が広がっていって。綺麗なビジュアルももちろん好きなんですけど、やっぱりゲームらしいインタラクティブ性が本当に楽しかったんです。

──岩本さんは今、おいくつですか?

岩本氏:
 40歳です。

──ということはゲームのハードの進化を、リアルタイムに体験した世代ですね。最初に触れたゲームハードがMSXとのことですが、ファミコンあたりも触りましたか?

岩本氏:
 それがなかったんですよ。家にMSXがあったので、小学6年生まで買ってもらえなかったんです。小学校に入った頃は、ゲームボーイを自分で買って遊んでいました当時ゲームボーイを持ってる子はあまりいなかったので、ちょっとしたヒーローみたいな感じで、嬉しかったのを覚えていますね。

 あとは友達の家でファミコンを遊んだり。小学校3年生の頃に従兄弟がファミコンを買ったので、小学校3年生の足で自転車で一山越えて、往復4〜5時間かけて遊びに行った記憶があります。

──その後のゲーム遍歴は?

岩本氏:
 中学生の頃にはお年玉を貯めて、セガサターンやプレイステーションを買いました。あとは友達がネオジオを持っていたので、「ゲームセンター代わりになるぞ」ということで、往復3時間ぐらいかけて遊びに行ったりして

 高校生の頃には本気でプロになると決めていたので、パソコンを買ってC++とかJavaとかのプログラミングを、本当に触り程度ですけど勉強していた記憶があります。

ナムコに入社して、同僚や先輩たちのレベルの高さに圧倒された

──大学には進学されたのですか?

岩本氏:
 はい、大学に進学する際はゲーム制作を勉強できる学校を選びました。そこではプログラムの勉強ができる電子系の学科もあったし、デザイン系の建築学科や写真学科もあったので。今はゲーム学科やアニメーション学科ができているんですけど、当時はそういう学科がなかったので。

 大学ではプログラミング研究会に入って、自分でプログラムも打ちましたし、MIDIも打ちましたし、ドット絵ですけどゲームを作ったりもしました。それが大学1〜2年生ですね。
 大学3〜4年生になると、実際にゲーム会社で仕事をしていました。タイトルは言えないんですけど、ある格闘ゲームのキャラクターデザインと、キャラクターの監修というかチーフみたいなことをやっていました。あとは有名格闘ゲームを移植する際のグラフィックを担当したりして。

──そんなにゲームを専門的に作るような学校だったのですか?

岩本氏:
 もちろん違います。だからかなり異端でしたね(笑)。とはいえデザインや映像なんかの学科があって電子系の学生さんもいるので、これなら確実にいろんな人たちがいるだろうと。それにサークルを調べたら、プログラミング研究会がありましたし。

 あとは、大学に行くことで東京に出られるので。もし大学でゲームを勉強できなくても、外で勉強してやろうと思っていました。

──話を戻しますが、大学生の頃からゲーム業界で活躍するようになっていたにも関わらず、卒業後はなぜナムコに就職したのですか?

岩本氏:
 当時のナムコはCGが最強だったんですよ。『ソウルキャリバー』のオープニングだとか『リッジレーサー』だとか、SIGGRAPH【※】で大賞を毎年バンバン獲る、みたいな。だからCGと言えばナムコ、技術といえばナムコというイメージだったんです。

 それと、自分が大学を卒業したのは2003年ですけど、その頃には格闘ゲームブームが過ぎ去ってしまって。そんな中でナムコは『鉄拳』『ソウルキャリバー』と格闘ゲームを作り続けていたので、それも大きかったです。

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『アールフォー リッジレーサータイプフォー』(画像はPlayStation.Blogより)
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『鉄拳3』(画像はPlayStation.Blogより)

 あとは2Dでファンタジー的な表現をしているゲーム、『風のクロノア』や『テイルズ オブ』シリーズといったアニメ・漫画的な表現のものもあって。最先端の技術のゲームと、自分の好きな表現のゲームのどちらもあっていいなと。

※SIGGRAPH
アメリカコンピュータ学会(ACM)のCGを扱う分科会で、毎年夏に国際会議を開催している。世界最大級のCGの祭典として、特に1980年代から2000年代にかけては、SIGGRAPHのElectronic Theaterで上映されるCG映像が世界的な注目を集めてきた。

──実際にナムコに入社して、いかがでした?

岩本氏:
 同期の人たちのレベルの高さに大驚愕でしたね(笑)。自分は大学時代、バイトで格闘ゲームのキャラクターデザインやデザインチームもやっていたと言いましたけど、同期で入社した子たちの中には、有名RPGのコンセプトアーティストをやっていた子がいたんですよ。それも大学生の時に。

 彼のポートフォリオを見せてもらったら「なんじゃこりゃ、上手すぎる!」と。当時の自分は全部手で描いていたんですけど、彼はその時点ですでにCGや実写を上手く使っていて「こんな描き方があるんだ」と、すごく衝撃を受けました。他にも、建築学科を卒業した人の3DCGは本当に写実的でしたし。

 会社の先輩たちになると、さらにぶっ飛んだすごいスキルの方たちばかりで。自分のインストラクターをやってくださったのが奥村大悟さんなんですけど、もう一目惚れしてしまって(笑)。
 あんまり良くないんですけど、奥村さんに絡んで「自宅に来て一緒に絵を描きませんか?」とお願いしたりして。とにかく教えていただくこと、学ぶことがむちゃくちゃ多かったですね。

 なので、ナムコに入った時の感想は、とにかく「井の中の蛙だったな」と。当時、自分は22歳だったんですけど、30歳の人も40歳の人も同じ現場のプロとして働いているじゃないですか。
 そんなスゴイ人たちと、ゲームクリエイターという枠で見たら自分も同じ枠なわけで。これはもう勉強しないと置いていかれる、なんとか食らいつけって感じで。「スゴいぞ、この業界」と思いました。

 それこそ大学時代、バイトだけどゲームも作っていたし、じつはイラストレーターの仕事もしていたんですよ。「まだ学生だけど自分はプロとして通用している」と思っていた鼻をバキッと折られましたね(笑)。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』『電撃オンライン』などで、クリエイターインタビューや業界分析記事を担当。また、アニメに関する著作も。現在は電ファミニコゲーマーで企画記事を執筆中。
Twitter:@ito_seinosuke
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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