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『サイパン2077』のために作った曲を“ボツ”にして速攻で再制作。8000曲から勝ち抜いたバーチャル音楽ユニット「NoWorld」に話を聴いたらガッツとユニークな経歴が凄かった

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 『サイバーパンク2077』の拡張パック「仮初めの自由」に際して配信される「アップデート2.0」には新ラジオ「グラウルFM」が実装される。同ラジオには応募された8000曲から選ばれ、国内で活動するバーチャル音楽ユニット「NoWorld」の楽曲が収録される。

 このたび、NoWorldのメンバーにお話を伺う機会を得たため、グラウルFMに収録されるアーティストの実態や収録楽曲「Do or Die」の制作秘話などをインタビュー形式でお届けする。

 NoWorldは作詞、作曲、ボーカルなどを手掛けるVtuber・NoiRさん、マネジメントや世界観のディレクション、映像の制作などを担当するハイズミさん、編曲やエンジニアリングを手掛けるやっすんさんの3名からなるバーチャル音楽ユニットだ。

 実際にお話を伺うと、『サイバーパンク2077』のコンペの為に短期間で楽曲を作り直したり、3人がお互いにメンバーの意思を尊重したりと、ピュアな熱意に溢れたユニットであることが伺えた。

 また、12万人の登録者を抱えるBiliBiliでの活動のきっかけや、澤野弘之氏に影響を受けた作風などを経て、『サイバーパンク2077』にて牙を剥く“バーチャルアーティスト”のリアルな実態が伝われば幸いだ。

取材・文/りつこ


『サイパン2077』のために一度作った楽曲をボツに。ストイックな制作で8000曲から選ばれた新曲「Do or Die」

──本日はよろしくお願いいたします。「Do or Die」はどのような楽曲になっているのでしょうか。

NoiR氏:
 『サイバーパンク2077』にマッチするように洋楽風の曲調で、さまざまな野心や思惑、欲望に溢れた「ナイトシティ」に関する歌詞をしたためました。

 タイトルはナイトシティで暮らす人たちを表現する曲として、死と隣り合わせのナイトシティと、「生きるか死ぬか」の選択を繰り返す主人公・Vにインスパイアされ、「Do or Die」になっています。

──コンペティションの仕様上、限られた期間での制作だったと思いますが苦労はありましたか。

NoiR氏:
 制作は『サイバーパンク2077』を研究することからスタートして、ハイズミさんが長時間にわたりプレイしているところを一緒に見たり、収録されているサウンドトラックを聴き込むところからスタートしました。

 そうして1曲作ったのですが、初めに作った曲はハイズミさんからNGが出て、1から新しく作り直して「Do or Die」を完成させました。

──制作期間が限られているにもかかわらず、「作り直そう!」と踏み切った理由はなんだったのでしょうか。

やっすん氏:
 最初に制作した楽曲は、自分たち自身が影響を受けているアニメ作品の楽曲からインスパイアされて制作したこともあり、いわゆる邦楽/アニメソング調の楽曲だったんです。

 でも、結果としてアニメソングのイメージが強すぎてしまって、実際に『サイバーパンク2077』のサウンドトラックと聞き比べると違和感があったんです。なので、応募締め切りのかなり直前でしたが、ゲームの作風を重視して本格的に作り直しました。

NoiR氏:
 根本的な雰囲気やNoWorldらしさは踏襲しつつ、特にサビなどは新たに制作した要素を取り込んでいます。

──『サイバーパンク2077』のグラウルFMコンペティションには、どのような切っ掛けで応募したのでしょうか。

NoiR氏:
 私たちの目標のひとつとして、アニメやゲームの主題歌にNoWorldが起用されるということがあります。そのためにアーティスト活動だけではなく、クリエーターとして公募やコンペティションにも積極的に参加するようにしているんです。

 その中で今回、『サイバーパンク2077』のコンペティションをハイズミさんが見つけたため、「参加するしかない」と意を決して応募させていただきました。

──楽曲は8000曲の応募から選ばれていますが、採用が決定した際にはどのように感じましたか。

NoiR氏:
 採用のメールが全編英語だったんですけど、私たちには英語を読めるメンバーが居なくて、本当に採用が決定しているのか判断できなかったんです(笑)。なので、メンバー全員でドメインなどを確認して、採用されたことを実感しました。

──確かに全編英語だと一瞬戸惑ってしまうかもしれないですね(笑)。

やっすん氏:
 8000曲の応募から選ばれたとのことで、「本当に!?」とメールが来た時には驚きました(笑)。同時に、そんな膨大な曲からNoWorldの「Do or Die」が選ばれたことは、とても光栄に感じます。

──NoWorldさんはバーチャル音楽ユニットであり、楽曲では社会のダークな側面を扱う楽曲も多いです。この点において『サイバーパンク2077』との親和性があるように感じました。

NoiR氏:
 その点は、気づいていただけて嬉しいポイントです。

ハイズミ氏:
 今回のコンペに参加することを決めて、長時間にわたり『サイバーパンク2077』をプレイさせて頂きました。作中の「魂が肉体を離れていく」要素などはNoWorldにも共通する部分であり、コンペティションに参加するきっかけのひとつになっていると思います。

 ゲームは僕が中心になってプレイしたのですが、いざ遊びはじめたら個人的にハマってしまい、コンペが終わってからは、別のライフパスで周回プレイをするほど没頭しました(笑)。

 作中キャラクターではジャッキー・ウェルズが特に大好きで、ジャッキーに関連するサイドジョブにも心を鷲掴みにされました。

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(画像はCyberpunk 2077/ジャッキー・ウェルズ | サイバーパンク(Cyberpunk) Wiki | Fandomより)

──Vの相棒であり、冒頭から「ナイトシティ」の魅力とスリルをプレイヤーに伝えてくれる魅力的なキャラクターですよね。

ハイズミ氏:
 最早コンペティションと関係なく、個人的に作品のファンになってしまいましたね(笑)。『サイバーパンク2077』のあとは、おなじくCDPRさんの『ウィッチャー』シリーズの作品なども楽しませて頂いています。

 なので「仮初めの自由」はファンとして正式版のリリースが楽しみです。

──実際に「仮初めの自由」のゲーム内で「Do or Die」を聴いていかがでしたか。

ハイズミ氏:
 作中で車を乗り回しながら聴かせて頂いたのですが、「すごい、流れてる!」という感動はあったのですが、同時にまだ実感が湧かないんです。なので、ゲームが正式に発売されたらドッグタウンを練り歩いて、街中で流れているのを探しに行こうと思います。

NoiR氏:
 私もこうしてインタビューをして頂いたり、ゲームにNoWorldの楽曲が収録されていることがあまりにも不思議で、非現実的なことのように感じてしまいますね。

 正式に発売され、ユーザーさんたちの反応があれば、ようやく実感を味わえそうです。今も「どんな感想を貰えるんだろう」と非常に楽しみにしています。

──『サイバーパンク2077』を研究して制作されたとのことで、作中の世界を更に盛り上げてくれそうですね。

やっすん氏:
 「自分ならイケる!」と高揚感を引き出すようなカッコいい曲として制作したので、「仮初めの自由」で戦闘をしながら聴きたいです。 

影響を受けたのは澤野弘之氏。Vtuber/作詞作曲/ボーカリストとして成長を見せるNoWorldのメンバー・NoiR

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(画像はNoiR|NoWorldさん / Xより)

──ここで、『サイバーパンク2077』を機に「NoWorld」を知った方に向けて、改めて普段の活動などを教えて頂きたいです。

NoiR氏:
 NoWorldの作詞と作曲、ボーカルを担当しているNoiRと申します。Vtuberとしても活動しつつ、アーティスト活動を行っています。

 普段は音楽を作りつつ、YouTubeや中国の動画プラットフォーム「BiliBili」にてピアノの弾き語り配信を行ったりしています。作曲家としては制作のお仕事をしたり、先ほど述べたように公募のコンペティションへの投稿も行っています。

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──NoWorldの3人として「にじさんじ」に所属するVtuberへの楽曲提供も行っていますよね。

NoiR氏:
 色々な方と音楽などでコラボレーションができる機会やご縁があれば良いなと思っています。基本的にはアーティスト活動を主軸にしつつ、最近は周囲にも意識を向けた活動もしています。

──NoiRさんの普段の活動はピアノの弾き語りや作曲、ボーカルなどと多彩であるように感じました。どのようにして現在のスタイルに至りましたか。

NoiR氏:
 音楽を発信すること自体は、過去の自分と同じように「夢があるけど葛藤している」人の背中を押したいという想いがあります。

 ただ、私は「自分の理想的なアーティスト像」への劣等感があり、NoWorldの活動を始めてからも、しばらくボーカルに関しては踏み出せていなかったんです。

 でも今は、ボーカルに挑戦し成長していく姿を見せることで、誰かを勇気づけるきっかけになる可能性もあると考えるようになりました。そういった思いから、現在の活動形態になっています。

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(画像は NoiR / NoWorld – YouTubeより)

──NoWorldさんの楽曲は、個人的に近年のアニメソングの系譜にある美意識を感じます。やはりアニメやゲームといった文化からの影響も受けているのでしょうか。

NoiR氏:
 私はアニメ作品の劇伴などを手掛けている澤野弘之さんの影響を受けています。『アルドノア・ゼロ』『Re:CREATORS』の楽曲が特に好きで、多分にインスパイアされて制作させて頂いてます。

ルーツはVtuber「鳩羽つぐ」の衝撃。Vtuberに見た可能性から始まった音楽活動

ハイズミ氏:
 NoWorldのマネージャーと動画などの編集を担当しているハイズミと申します。基本的には裏方としてサポートをメインに行い、NoWorldの世界観を組み立てたり、方向性を考えることを主な活動としています。

──「世界観」に関しては、特にNoWorldの活動において重視されているポイントのひとつであるように感じます。

ハイズミ氏:
 僕たちの音楽は「NoWorldという世界に触れた誰かの感情や思考を読み取り(歪んだ)理想を見せる」をコンセプトに作っています。それに加えて僕は、世の中に「存在するけど気づけないこと」がたくさんあると思っていて、NoWorldの作品でも社会における「無意識」や「無自覚」に紐づいたモチーフを意識することが多いです。

 とはいえ、あくまでも3人で考えていることを共有し、制作に取り組むことを重視していますね。

──関連して、NoWorldはどのような経緯で発足したのか教えて頂きたいです。

ハイズミ氏:
 僕がNoiRさん、やっすんさんに声をかけさせて頂くかたちで発足しました。

 もともと僕は「やりたいことをやる」ということを重視していて、「やりたいこと」のひとつとして表現活動がありました。そこで「どの媒体で何を表現をするのか」ということを考えていた際に、「鳩羽つぐ」さんというVtuberの方を拝見して衝撃を受けたんです。

ハイズミ氏:
 その時は「画面の向こうの彼女を眺める」という関係性に留まっていましたが、好きな作品の登場人物たちが「次元を超えて自分を認知してくれる」という可能性を感じ、「Vtuber」という存在にワクワクしたんです。

 その後、NoiRさんとやっすんさんに出会い、3人の「やりたいこと」を共有することができ、前述のコンセプトを軸にNoWorldとして活動をはじめました。

──Vtuberに衝撃を受け、結果として「バーチャル音楽ユニット」として活動するに至った理由はありますか。

ハイズミ氏:
 「創作活動をする」際の表現媒体に悩んでいたため、音楽をやりたいNoiRさん、やっすんさんと出会うことで「音楽という媒体」で自分の描きたいNoWorldという世界を表現しようと考えました。
 
 つまるところ、僕の人生に交わり、同時に目的を共有できた人たちが「音楽に寄り添っていた」ことが大きな理由になっています。

中国の大手動画プラットフォーム「BiliBili」公式イベントに2度も出演

──NoWorldさんは中国の大手配信プラットフォームである「BiliBili」にも動画を投稿されており、中国のアニメイトからグッズが販売されるほど人気を博しています。動画を「BiliBili」に投稿し始めたきっかけを教えて頂きたいです。

NoiR氏:
 NoWorldとして日本で活動を行っていたなかで、中国のリスナーさんから「ぜひBiliBiliでも活動してほしい」という声を頂いたことがきっかけです。

 やはり自分としてはより多くの人に作品を届けたいので、不慣れながらも中国のリスナーさんの熱意に応えて始めてみよう、と「BiliBili」での活動をはじめました。

 実際に活動をはじめると自分が想定している以上に見てくださる方が多かったので、とても驚きました。

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──結果として「BiliBili」の大型公式イベント『BiliBili Macro Link-VR2020』『BiliBili World 2021』に出演されていて、本当に中国で大きな注目を集めていることが伺えます。

NoiR氏:
 とにかく私としては、こんなに大きなイベントに参加させていただいて、本当にありがたい経験をさせて貰えたなと感じています。

 また、「BiliBili World」に出演させていただいた際には、実際に会場にいる皆さんを見ることができたんです。そこでこんなに多くの方が活動を支えて下さっているんだ」と実感できました。

 ハイズミさんとライブのことを話し合ったときに「路上ライブのような感覚」というキーワードが出て納得しました。

──「路上ライブのような感覚」というと?

NoiR氏:
 バーチャル音楽ユニットでの活動では、リスナーの皆さんの姿を直接見ることはできないですよね。でも、会場の様子が見れたことで、普段は目の前にいないリスナーの方が実際に存在し、音楽を肌で感じてくれていることに圧倒されたんです。

 音楽を聴いてくれる皆さんのイメージがより強固になることで、技術を磨いていくのはもちろん、それ以上に「だれかが肌で感じて、心が動くような音楽を作らなければならない」ということに身をもって気づきました。

 なので、「BiliBili World」での経験は特に、その後の活動に良い影響を与えるものになったと思います。

──「BiliBili」へのイベントの出演など、さまざまな活動を経て新たにNoWorldを知る方も増えていると思います。最後に「仮初めの自由」を機にNoWorldに関心を持った方に向けて、メッセージをお願いいたします。

ハイズミ氏:
 僕自身はまだまだ『サイバーパンク2077』の新米ですが、皆さんと一緒に「仮初めの自由」を楽しみたいです。そのなかで、僕たちの楽曲が少しでも作品を彩る一助になれば幸いです。ぜひよろしければ「Do or Die」を聴いてみてください。

NoiR氏:
 私はこのコンペティションを通して『サイバーパンク2077』を本当に大好きになり、作品のことを考え抜いて「Do or Die」を制作しました。ぜひ皆さんにも気に入って頂けたら嬉しいな、と思っております。

やっすん氏:
 自分の喋ることは大体ふたりが言ってしまったので、難しいですね。

──3人目となると、確かに高難度でしたね(笑)。

やっすん氏:
 それでは、もし『サイバーパンク2077』を切っ掛けに「このグループ気になるな」と感じた方がいらっしゃれば、ぜひYouTubeなどで他の作品も聴いていただければ嬉しいです。と、最後にちょっとした宣伝をさせていただきます。

一同:
 (笑)。

──本日はありがとうございました!


 グラウルFMに収録される14曲のうち2曲が日本人アーティストの楽曲となっている。

 とはいえ、楽曲が収録されるシンガーソングライターの春ねむりさんNoWorldさんは、いずれも日本以上に欧米や中国で人気に火が付いているアーティストであることは興味深い。

 グラウルFMはアーティストの知名度ではなく、WAVデータのリストから選曲されたコンペティションであり、今回のラインナップは『サイバーパンク2077』という最新の作品が“最新の音楽”を求めた結果なのかもしれない。

 『サイバーパンク2077』の拡張パック「仮初めの自由」は9月26日に発売され、対象プラットフォームはPS5、Xbox Series X|S、PCとなる。

 『Do or Die』と作品が共鳴する様をぜひご自身の目で確かめよう。

ライター
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。

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