2024年1月19日にPS5向けに『The Last of Us Part II Remastered』が発売された。原作となる『The Last of Us Part II』は2020年6月にリリースされたタイトルだ。
PS4末期にリリースされ、魂を揺さぶる激烈なシナリオやリアリズムに満ち溢れた演出で大きな話題を呼んだ本作を最新の環境で遊べることは喜ばしい。しかし、原作のリリースからは4年ほども経たないスパンでのリマスター版の発売となった。
本リマスターでは、いくつかの追加モードや新要素などはあるもののシナリオの本筋に変更点はほとんどない。
リマスター版のディレクターを務めるマシュー・ガラント氏は、なぜあくまで原作に忠実なリマスターをこのような短いスパンでリリースする運びとなったのかを語る。
PS5のスペックは『ラスアス2』の物語により強度なリアリティを加えるにふさわしいものだった。
聞き手/豊田恵吾
新しくも忠実なリマスター
──本リマスターにあたって『The Last of Us Part II』(以下、ラスアス2)をPS5ユーザーが遊べるようになりますが、リマスター版の発売が思いのほか早いな、と感じました。PS5で前作『The Last of Us Part I』(以下、ラスアス1)の発売があったからこそ、このスピード感で本リマスターの発売に至ったのでしょうか。
マシュー・ガラント氏(以下、マシュー氏):
『The Last of Us』はもともとPS3向けのソフトでしたので、2014年にPS4向けにリマスターした際は、ゲームのアセットやアートワークをいちから作る必要があったんです。2022年のPS5版の制作にあたっては、それらをリメイクしました。
いっぽう、『ラスアス2』はもともとPS4末期のリリースだったので、本リマスターではそれらのノウハウを生かし、アートを作り直すのではなくグラフィックのグレードアップやデュアルセンスコントローラーへの対応といったプラスアルファの要素を追加していくような制作が可能でした。
そのため、前作よりもスピーディな制作につながったと思います。
ほかにもレンダー設定や陰影、テクスチャー表現の向上、4Kへの対応などが行われています。
──リマスタリングにあたって最も意識したこととはなんでしょうか?
マシュー氏:
グラフィックやフィードバックの向上など技術的な面はもちろん、いろいろな要素が追加されています。
たとえば「未公開ステージ」をプレイできるモードが追加されており、ゲーム本編ではカットとなったステージを、ディレクターのニール・ドラックマンなどスタッフのコメンタリーとともに探索することができます。本作の制作においてドラックマンやデザイナーたちが何を試して何をカットしたか、その理由を知ることができるでしょう。
ほか新しいモードに「No Return」があり、ローグライクアクションのモードとなっています。
『ラスアス2』といえばストーリーがプレイヤーのみなさんに愛されていると思うのですが、戦闘面が好きなユーザーもいます。「No Return」はそういった層のために用意されたモードです。
ゲーム本編とは直接関係のないものとなっており、だからこそイマジネーションを駆使してさまざまなことができるのではないかと思います。「No Return」モードでは敵の姿が透明になるModなど、本編にはないような実験的な要素も含まれています。
ほかにもいつでも自由にギターを弾けるフリープレイ演奏モードなども追加されており、技術面以外でも新要素を楽しんでいただけることを意識しました。
屈強な物語は変える必要がなかった
──リマスター版を最後までプレイしたのですが、本編はほとんどオリジナルから変更されていません。どのような意図で、あえてオリジナルから「変えない」という方針に至ったのでしょうか?
マシュー氏:
おっしゃるとおり、メインストーリーはほぼ原作から変えていません。また、最初からストーリーに変更を加える予定はありませんでした。
もともと本作のストーリーの完成度は高いため、今回のリマスターでは、そのストーリー演出をよりグレードアップすることに重点が置かれています。本作のストーリーをよりベストな形でお届けしたかったのが最も大きな理由です。
──2023年にはHBOでドラマ版『The Last of Us』の放送が開始され、非常に高い評価を受けています。現在シーズン2の制作開始も発表となりました。『The Last of Us』は世界中から愛されていると思います。開発陣の方々から、なぜ『The Last of Us』がこれほど多くの人の心を掴む物語となっているのかを聞かせていただければと思います。
マシュー氏:
私はドラマ版の制作には関わっていないため代弁することはできませんが、『The Last of Us』がなぜ多くの人に愛されるかについて個人的な感想として、時代を問わず普遍的な「タイムレス」な物語であることが挙げられます。
「親」や「人との繋がり」といったテーマを扱っているので、ゲームやドラマなど、メディアを問わず広く受け入れられるのだと思います。(了)
『The Last of Us Part II』のリリース当初の反響はあまりに凄まじかった。ゲーム史に名を残すほどのストーリーや演出は絶賛だけでなく、絶大な賛否両論すら巻き起こした。
本リマスターでは『ラスアス2』に通底するリアリズム、「痛み」や「苦しみ」といった感情をプレイヤーにより想起させるものとなっている。頭部が潰れた死体は4Kグラフィックでより鮮明に、敵の肉体を砕く打撃の感触はデュアルセンスの微細な振動でさらに実感として手に伝わってくる。
『ラスアス』のシナリオが多くの人にとって愛されるものとなっているのは、時代や立場を問わない屈強なテーマを扱っているからだ、とマシュー氏は語った。演出面の向上のほか、やむを得ずカットされたステージを探索できるモードなど、より深くストーリーを知れる追加要素もある。
よりベストな状態となった『ラスアス2』を改めてプレイし、エリーやアビーの魂の物語を追体験してみるといいだろう。