暴露配信を行っていた当時の状況や、被害者に対する現在の思い
高橋氏:
東谷さんの当時の暴露配信は、旧来のメディアのあり方などの構造的な問題もあって、大きな支持を寄せる人たちがいました。ただ、司法の判断も下っている通り、手法としては許されるものではなかったと思います。
東谷さんは逮捕、裁判を経て、当時のことに関しては深く反省されているとのことですが、それでも今回の容疑だけではなく、借金の問題や周辺の人脈、お金の出元など、怪しく思われる点も多々あると思います。
実際、東谷さんにお会いしてみると、さわやかな印象を受けますし、反省の弁を聞くと納得してしまいそうになるのですが、それが本心なのかを判断するのは早いとも思うんです。
これまでの行為を鑑みたうえで、なぜ「今回は違う」と言い切れるのでしょうか。今の反省は、心からの言葉でおっしゃっているのでしょうか。
東谷氏:
さきほども言いましたが、日本に戻って逮捕された時に、調書を見させていただいたりする中で、自分がしでかしたことの大きさに気づいたんです。海外にいるときって、周囲に日本人がいないので、そうした情報が入ってこないんですよ。
自分がいかに影響力を持っていたかということもわからなくて、選挙に出るときも、絶対に受からないだろうと思っていました。「ドバイにいる人間に誰が票を入れるんだ」と思っていたので、正直なところ、当選したときは驚きました。
日本にいる友人から「今、日本ではすごいことになっているよ」と言われても、自分が日本に帰っていないからピンときていませんでした。
ドバイに行って唯一良かったことと言えば、ギャンブルを完全に辞められたことです。僕はギャンブルにハマって、すべてを失った人間なので。
高橋氏:
東谷さんはギャンブル依存症だったんでしたっけ?
東谷氏:
そうですね。依存症にもお酒やドラッグなど、さまざまなものがありますが、僕がいつも思うのは「それがある場所にいたら絶対に立ち直れない」ということです。
ドバイはイスラム教で、ギャンブルが一切許されない国だったので、そのおかげで僕は依存症から立ち直れたんだと思います。今もギャンブルには一切行っていないですし、やる気もありません。でも、僕も人間なので、もし誰かに連れていかれてやらされたら、またぶり返してしまうかもしれません。
ギャンブルですべてを失って追い込まれて、気づいたらYouTubeをやることになっていたということに関しては「しでかした人生の末路がそこだった」という風に思っています。
今SNSをしているのは、仕事のためという側面もありますが、自分として反省したことを世の中に出していくためにやっているというのも事実なんです。
僕の人脈に関しては、警察にも取り調べであれこれ聞かれました。でも、それに関しても警察が裏をとって、何もやましいところがないとわかってくれたことなんです。
世の中のSNSが勝手に「この人と繋がっている」「あの人に指示された」「この人のお金が流れている」などと言っていますが、すべて根拠のない噂にすぎないんです。それくらい、今のSNSには適当なことが書かれています。
よく「マスコミは嘘を流していて、世論の操作を図っている」などと言われますが、僕からしたらSNSのほうがよっぽど嘘が多いし、どっちもどっちだと思います。
川上氏:
それは本当にそうですよね。メディアが嘘を流すというのは事実だと思うし、世界中でそうなんですよ。でも、ネットとどちらのほうが嘘が多いかといったら、ネットのほうが嘘だらけです(笑)。
東谷氏:
僕も、わけのわからない組織図を描かれたり、詐欺に関わっている疑惑をかけられたりしていたので、警察もちゃんと調べてきたんですよ。そのうえで、その疑惑に対して僕が関係していなかったことが証明されたんです。
たとえば検察官に言われたのは、箕輪(厚介)くん【※】が書いた僕の本『死なばもろとも』を証拠にするということです。本にはもちろん脚色もありますから、僕としては「いやいや、ちょっと待ってください。この本に書いてあることすべてが事実じゃありませんよ」となりますよね。
※箕輪厚介氏……幻冬舎の編集者。堀江貴文氏ら著名人の自叙伝などを担当する。
そうしたら検事さんも、本の内容それぞれに関して「これは脚色ですか?」と質問をしてきて。僕のほうからもひとつひとつ説明するということがありました。
いまだに僕が表に出ると「反社なんですか」「半グレなんですか」と言われますが、仮にもし反社なんだとしたら、僕は今ごろ刑務所に行っていると思うんですよ。反社チェックは警察がまずすることなので。
僕自身、今は吉本興業のタレントとコラボしているのですが、これも吉本興業が反社チェックをして問題ない判断が出ているからですよね。
こんな簡単な理屈についても、SNS上では情報が操作されて「東谷は反社だ」というような言い方をされている状態です。それに対して「どうですか」と言われても、「いや、そんな付き合いはないですよ」と言うしかないんです。
「ガーシー」はなぜこれほどに支持されたのか
高橋氏:
川上さん以外にも、東谷さんが当時攻撃をされていた方々っているじゃないですか。川上さんは少し特殊なケースで、FC2の高橋さんとの関係もあり、かなり違った文脈での攻撃だったと思います。
「もう二度とやりたくない」と仰られましたが、当時の配信で暴露の対象となっていた方々に対しては、怒りを持って批判されているように見えました。そうした怒りというのは、現在では収まったのでしょうか。
東谷氏:
当時は1日に500件以上のタレコミが来ていて、僕はタレコミの被害者の方と喋る機会も多かったので、その感情が乗り移ったということがあると思います。
演技というわけではありませんが、始まる前はニコニコしていても、配信が始まったら怒るという感じで、オン・オフはしっかりしていましたね。
高橋氏:
つまり、ビューを稼ぐために、怒りを演じていたという感じですか。
東谷氏:
ビューを稼ぐという意識ではないですね。僕自身はYouTubeがバズっているという認識もなかったんですよ。
高橋氏:
それでは、そのオン・オフは何のためのものだったんですか。
東谷氏:
僕はタレコミの被害者本人から話を聞いているので、それにもかかわらず、ニコニコ笑って配信はできないですよね。
高橋氏:
なるほど、被害者の抱える怒りが乗り移っていたという感じなんですね。
東谷氏:
そういうことですね。
川上氏:
でも、そのあたりはやっぱりある種、「役を演じている」という感じはしましたよね。FC2の高橋さんの件についても、直接話している時と配信上では全然印象が違いました。
当時から東谷さんは「自分は高橋さんの味方しかできないから」と言っていましたが、そうして「味方というロール」を演じていたんだと思います。
高橋氏:
川上さんは、訴訟の結果をもってそれで許すということでした。ただ、他の2名の被害者が許すかどうかはわからないですし、東谷さんのことが怖くてお金もかかるので訴えないけど「許したくない」と思っている人もいると思います。
そういった中で、東谷さん自身が世に出ていくということに関してはどう思われますか。もしかしたら、東谷さんのことを「見たくない」と思っている人もいるかもしれませんよね。
東谷氏:
それはもちろんです。それに関して言うと、僕は自分の配信の「切り抜き動画」の作成を一切禁止しています。僕はライブ配信しかしませんし、そのアーカイブもほとんど残しません。
それはなぜかというと、高橋さんの仰るように、僕のことを見たくない人も絶対にいるので、「その人たちに見せたらあかんな」と思うからです。
それでも世の中に伝えなければいけないこともありますし、事実として、いま僕ができる仕事はそれしかないということもあって、SNSを続けています。
今回は、川上さんからオファーをいただいて謝罪をする場をいただきました。僕としては、被害や迷惑をかけた方々がもし「謝ってくれ」というのであれば、今回のような場でもいいですし、非公式な場でもいいので、謝りに行きたいと思っています。
ただ、弁護士から「自分から連絡してはいけない」と言われているので、僕からの連絡はできないんです。ですから、向こうから連絡をいただければ、公式・非公式の場を問わず謝罪をさせていただきます。
高橋氏:
当時批判をしたすべての人にきちんと謝罪をしたいという気持ちがあるということですか。
東谷氏:
はい。
高橋氏:
川上さんは、今の言葉をお聞きになっていかがですか。
川上氏:
実際に東谷さんの話を聞いて「なんかイメージと違うな」と思った人って多いと思うんですよね。「暴露系YouTuberとしてのガーシー」を演じていた東谷さんと、そうでない東谷さんという面があるんだと思います。
ファンの方であれば、そんな今の東谷さんのことも見ているかもしれませんが、世間の多くの人はたぶん知りませんよね。それを見ていただくということというのは、意味のあることだと思います。
それは東谷さんのためだけではなくて、今でも「ガーシーが正しかった」と思っている人たちに向けてもそうです。僕自身に対しても、事件を通して「どうせ本当は悪いことをしていたんだろう」というようなことを言ってくる人がいますしね。
東谷氏:
そういったイメージを植え付けてくる人っていますもんね。
川上氏:
せっかくの機会なので、そこに関してははっきりさせておきたいんですが、少なくとも僕は、何かを暴露されたわけではない唯一の被害者だと思うんですよね。
高橋氏:
たしかにそうですね。
川上氏:
僕に対する脅迫は、タレコミに300万円の懸賞金をかけて、何か情報が集まったら暴露しようとしていた、ということなんですよ。
東谷氏:
そうですね。FC2の高橋さんがやられた件ですね。
川上氏:
「暴露するネタを募集する」という脅迫だったので、僕自身がなにかを暴露されたわけではないということを、この場を借りてしっかり言っておきたいと思います。
高橋氏:
結果として、300万円の懸賞金をかけてもそんなに情報は出てこなかったわけですからね。
東谷氏:
あれは僕が懸賞金をかけたのではなくて、高橋さんがやったことなので、高橋さんのところに情報が集まったかどうかは、僕は知らないんです。
川上氏:
結局、大した情報は集まらなくて、むしろ、うちの会社で過去に不正をした人間の話が出てきたりしました。
僕らが尻尾を完全に捕まえきれなかった案件がでてきて、僕はもう「もっとやれよ」って応援してたんですけど(笑)。
高橋氏:
逆に会社の闇を暴いてもらったんですね(笑)。
自分のやっていることは「悪」だと思っていた
高橋氏:
事件や騒動があって、多くの人の目に強制的に触れてしまうテレビなどの媒体に出演するのはなかなか難しいと思いますが、今後はどうやって生計を立てていこうと思われていますか。
東谷氏:
今の僕を応援してくれる支持者の方もいるので、そういう人たちへ向けたオンラインサロンをしたり、YouTube以外のSNSで収益化できているプラットフォームでライブ配信をしたりしています。
高橋氏:
今のファンたちは過去の「ガーシー」を盲信しないように伝えたうえで残ってくれているわけですよね。そういった方々というのは、東谷さんのどういったところを見てついてきてくれるんでしょうか。
東谷氏:
ファンの方たちは、僕が逮捕されて裁判が終わるまで、ずっと盲目的に応援してくれていた面はあると思います。
ただ、裁判後の最初の配信で「俺はもう以前のようなことはしたくないんだ」ということを伝えました。それを理解してくれた方々だけが残ってくれているような状況なんです。
もちろん、いまだに理解できずに、以前の僕のような配信をしようとしている人もいます。それは僕が絶対に止めなければいけないと思っていて、弁護士の先生とも相談しています。彼らはある種、僕が生み出した子たちなので、その回収だけは自分がしなければいけないと思っているんです。
あとは、僕の過去の配信を、いまだに「切り抜き」として勝手に流している人たちもいます。これに対しても警告を入れたり、削除要請を出したりしています。
そうしないと、いつまでたっても僕の動画が消えないということもありますし、それを目にすることで被害者の方々が苦しむというのもわかっているからです。
僕自身には「テレビに出たい」といった気持ちはまったくないんですが、SNSに出ることで、少しでも今の僕のことを理解してくれている人たちが、切り抜き動画がアップされていることなどを報告してくれるんです。それに対して僕の方で削除依頼を出すといったことをしています。
高橋氏:
東谷さんが参議院選挙に立候補されたのが2年ほど前です。
今年行われた兵庫県知事選挙では、SNS上でかなりの誹謗中傷合戦が行われました。SNSには、大きいメディアが報じないことに対してファクトを持ち出したり、マスコミに対して反対の視点を与えるといったように、良いところもたくさんあります。
ただ、今のSNS上では嘘や誹謗中傷がものすごく広まっているという現実もあります。こういった状態の転換点になったのは、東谷さんが行っていた暴露配信が大きかったと思っているんです。
SNS上で、メディアや権力の嘘のようなものが半分明るみになっていた状況だから、民衆が東谷さんを支持しましたし、その後も一部SNSで陰謀論のようなものを信じる人たちの流れがあったと思います。
当時、東谷さんの根拠不明な情報が、多くの信者を獲得していったのにはどのような理由があったと思いますか?
東谷氏:
うーん……。僕は遠い異国の地から配信をしていたので、そこまで日本に対する思い入れがないまま活動していたんですが、あの頃の日本はコロナ禍だったじゃないですか。
いろいろなストレスを抱える人たちがいて、僕のやっていることをひとつのエンターテインメントとして見ていた人、そのときの国や政府に対する不満やストレスを持っていた人、単に人の不幸が好きで寄ってきた人もいたと思うんです。
それらがコロナ禍の中でぶつかりあうことで、たまたま僕の動画が異常なくらい伸びていったというのはあると思います。正直なところ、コロナの時期でなかったら、あそこまでにはなっていなかった気がします。今同じようなことをやっても、ああはならないと思うんです。
高橋氏:
人の不幸が好きだという人間がそもそも持っている特性と、コロナ禍で過度に抑圧されたようなストレスと、ひょっとすると一部では権力や未来に対する不信のようなものがないまぜになって、「ガーシー」という存在が生まれたわけですね。川上さんはどう思われますか。
川上氏:
権力やメディアに対する批判というのは世界的な傾向ですよね。基本的にはリベラルで、権力に対する批判が本分というのが、メディアが根本に持っている属性のはずだと思うんです。
ただ、実際にそのメディアが「正しい」ということが「本当に正しいのか?」ということがあります。アメリカの例でいうと「こんなに暮らしが苦しいのに、LGBTQの問題を解決することの方がはるかに重要なのか」「それは余裕がある人の考えかただろう」というのが、トランプ支持者のひとつの声でありますよね。
同じような構図は日本にもあって、本来は権力に対峙する「みんなの味方」のはずのメディアを「味方ではない」と思っている人がたくさんいるんですよ。そういう人たちが、SNS上に「ガーシー」のような存在が現れた時に「これこそが解決策だ」と思ったんじゃないかと思います。
高橋氏:
なるほど。そういう意味で言うと、東谷さんの取った手法は許されるものではありませんが、そういったものを支持する土台があったというのは事実ですね。
僕は当時AKB48の番組を担当していたのですが、東谷さんがAKBのメンバーの名前を挙げて暴露配信をしていたのを見て、後に本人に(暴露内容について)聞いてみたら「違う」と言われたので、どこまでが本当のことなのか全然わからないまま見ていました。
ここでちょっとはっきりさせたいのですが、当時ご自身がSNSでやられていたことというのは、「善か悪か」と言ったら、どちらだと思いますか。
東谷氏:
僕は「悪」だと思っています。
高橋氏:
当時の東谷さんの存在は「悪」だったと。
東谷氏:
僕自身が「悪」ですね。自分のやっていることに対して「俺が正しい」なんて思ってやっていないです。自分のやっていることは「悪」だと思っていたし、被害者がいて被害が出ている以上、それはどう繕っても「悪」なんですよ。
僕自身は一度も「正義の味方だぞ」なんて気持ちにはなっていません。それは今同じようなことをやられている方々も理解したうえでやっているんじゃないかと思います。自分が正義の味方だと思って暴露配信をしている人っていないと思うんですよ。