東谷氏が参議院選挙に立候補した経緯
高橋氏:
今は「SNSと政治」というところに関する議論が盛んになっている時期でもありますが、東谷さんも、紹介するときの肩書としては「元参議院議員」ということになりますよね。そもそも選挙に出馬しようと思ったのはなぜなんでしょうか。
東谷氏:
オファーがあって、僕はそれを受けただけです。僕自身、将来の夢が政治家だったわけでもありませんし、自分が政治家に向いていると思ったこともありません。
日本にも帰っていないですし、選挙運動もしていないので、出馬したところで当選するなんて1ミリも思っていませんでした。
高橋氏:
そのオファーを断るという手段もあったと思うのですが、なぜ受けたのでしょうか。
東谷氏:
僕はその当時、お金に困っていたんです。言ってしまえば、僕はお金のためだけに立候補したんです。
でも、いざ当選してからは、SNSのDMが送られてきたりと、国民の声は聞こえてくるんです。その中で、「できることからやってみよう」と思って、ボランティアに行ったりもしました。
政治家を目指して生きてきたわけではないので、なにもわからない中で、できることをしてみようとしたんですが……。やろうとすることすべてに、秘書からのダメ出しされたわけです。
自分の給料を全部寄付しようとした時も、買収になってしまうからダメだと言われましたし、ボランティアの現場に行って手伝おうとした時も、「作業は手伝わずに応援だけしていてください」と言われました。その時点で「政治家って何のために必要なんだ?」と思いますよね。
あとは、官僚との打ち合わせもありました。僕はドバイからリモートで参加していたんですが……。
高橋氏:
官僚さんとの打ち合わせがあったんですか?
東谷氏:
ありましたね。立花さんと他の議員さんも参加されていたんですが、その時に官僚が分厚い資料を持ってくるんです。
それが「これ、わかる人いるの?」というくらい難しくて、まったく理解できないんです。「これを見て国民が理解できるのか」と思いました。
他の先生方がどうかは知りませんが、僕は1ミリも理解ができないから、「小学生か中学生でもわかるような文章に変えてくれ」と何度も頼みました。そう言っても官僚は鼻で笑いながら「いや、それは……」みたいなことを言うわけです。
僕以外のほとんどの政治家の先生も、この小難しい資料を恐らく理解できていないんじゃないかと思います。これを理解しないままOKを出して、議会が始まったら賛成するということなんだったらむちゃくちゃじゃないかと、政治に対する疑問は持ちましたね。
高橋氏:
鼻で笑った官僚の方は、資料を修正してくれなかったんですか。
東谷氏:
一切直してくれないですし、細かい説明もしてくれないのに「時間もないので、ガーシー先生の承諾を得たい」と言ってくるんですよ。「じゃあ僕は承諾しないです」と返しました。
専門家だったら理解できると思うのですが、僕らは専門家じゃないですよね。法案を理解できないまま承認はできないじゃないですか。そこを他の先生方は簡単に承認してしまっているんだと思います。
こういった経験から、日本の政治はめちゃくちゃなんだと初めて思いましたね。
高橋氏:
実際に政治家になってみて、感じることはいろいろあったんですね。
東谷氏:
それで言うと「登院しないのに除名されない」というシステムも僕はよくわかっていませんでした。僕は当初「当選しても、日本には行かなくていい」という話で立候補したのですが、蓋を開けてみたらクビになりました。
その時、石破首相が「国民が選んだ議員のクビを他の議員が切ってはダメだ」ということを言ってくれたんです。これについては「その通りだな」と思いました。
たしかに、僕は他の議員先生がたに選ばれたわけじゃなくて、曲がりなりにも国民からの投票を受けて当選したわけじゃないですか。
その国民から「辞めろ」と言われて辞めるんだったらわかるんですけど、議会にいる議会さんにクビにされる筋合いはないなと僕は思ったので、そのときに石破さんの言っていることがすごく正しいと思った記憶があります。だから、石破さんが首相になったとき、僕は正直喜びました。
川上氏:
番組が編集されて公開されるときの、東谷さんの肩書きのテロップってどうなるんでしょうね。「前参議院議員」でしょうか。
高橋氏:
普通に言うと「前参議院議員」ですけど……。「犯罪者」じゃないですか?(笑)
東谷氏:
なんでも良いですけど(笑)。別に「前参議院議員」と書いてほしいとも思っていないですし、どんな立ち位置でも僕は受け止めようと思っているので、それでも全然問題ないです。
高橋氏:
東谷さんは「どちらも事実」という二面をお持ちということですよね。
東谷氏:
そうですね。裁判が終わってからも、支持者の中には「もう一度議員になってください」と言う人もいましたし、とある政党からも出馬の打診がありました。
高橋氏:
どこの政党ですか。
東谷氏:
それはちょっと言えないのですが、僕としてはすべてお断りしました。
東谷氏から見た「NHK党」立花孝志氏像
高橋氏:
立花孝志さんという人は、東谷さんの中ではどういった存在だったんでしょうか。
東谷氏:
「長所」という言い方はおかしいかもしれませんが、僕が「すごいな」と思う部分で言うと、選挙に関しては、すごくいろいろと考えてやられている人だと思います。でも、そこばかりが先走りしているところもあるな、という見方もしています。
高橋氏:
なぜそう思われるのでしょうか?
東谷氏:
世の中の人がどう思われているかはわかりませんが、僕としては「後がついてこない」という印象があるんです。
この前の兵庫県知事選や僕のことも含め、さまざまなことがあると思いますが、僕が一度あの人と一緒にやった中で思うことは「最後までは行き着かない」という見解なんです。
選挙には勝つかもしれないし、何らかの結果は残すかもしれないけど、その後の部分までは、恐らくあの人の頭の中にしかないんじゃないかと思います。
高橋氏:
逆に言うと、頭の中にはあるんですか?
東谷氏:
あるんじゃないですかね。なかったら、ああいうことはやらないと思いますし、あるからこそ、彼に惹きつけられる人間もいるんだと思います。
今で言うと、武田塾の林(尚弘)さん【※】が一緒に応援演説をしたりと活動していますよね。僕からしたら「なにをしているんだろう」と頭をかしげてしまいますが、たぶん彼の中には立花さんと共有する部分があって、立花さんはそれを彼に見せたからこそ、応援しているんだろうなという認識です。
※林尚弘氏……日本の実業家。立花氏が2024年の兵庫県知事選に立候補する際の供託金を支援した。
高橋氏:
その部分は、東谷さんは見なかったんですか。
東谷氏:
もちろん僕も、選挙に出るときにいろいろなことを言われましたよ。僕が議員になったうえで、してほしいことを腹を割って話されました。
高橋氏:
どういったことを言われたんですか。
東谷氏:
僕が除名されて、代わりに議員になった斎藤(健一郎)議員がいますよね。選挙に出る最初の段階から、彼に議席を譲ってほしいと言われていました。当選する役目と、実際に政治家をする役目と、2分割ということですね。
参議院は議席を譲れるシステムがあるじゃないですか。普通だったらやらないことですが、立花さんはそういったシステムを熟知していらっしゃるんですよね。
高橋氏:
東谷さんはその話には納得されたんですか。
東谷氏:
僕は政治家になりたいわけではなかったんですが、影響力はありました。一方、斎藤議員は政治家になりたかったけど、当選するだけの影響力がなかったんです。そういった点で利害が一致したんですよ。
高橋氏:
それでも、当選してからしばらく議席を譲らなかったのはなぜなんですか?
東谷氏:
すぐに譲るという話ではなかったんですよね。「しばらくは」という言い方をしていました。
高橋氏:
そういったことを通じて、立花さんの頭の中になにかあるように感じたということなんでしょうか。
東谷氏:
そうですね。彼は「選挙はビジネス」ということを言っていました。僕が受かったことによって、何十億という政党助成金が入ってきますよね。彼はそれをビジネスだと捉えていました。
高橋氏:
川上さんはどう思われますか。立花さんに関して、手法論もいろいろと賛否ありますし、かなりスレスレというか、実際に執行猶予中の身ですよね。
川上氏:
僕はあの人のことは社会的な害悪だと思っているので、とくにそれ以上のことは思わないですけどね(笑)。
高橋氏:
川上さんはそうですよね(笑)。2回直接会って話されていますもんね。
東谷氏:
賛否両論あるとは思いますが、選挙に関してはすごいと思いますよ。林さんのことに関しても、彼はずっと議員になりたいと言っていましたし、それで利害が一致したんだと思います。
でもそれは林さんの自由であって、僕が止める資格もなければ、応援する資格もないので、「立花さんと頑張ってください」というだけですね。邪魔する気もないです。
高橋氏:
選挙において、合法・違法のスレスレなところを突くという手法についてはどう思っていますか。そういう意味では東谷さんも経験したことですよね。斎藤さんに議席を譲るというのは、スレスレのところですが、違法ではない。あくまで「ハック」の範疇でもありますよね。
東谷氏:
政治に限らず、どの世界でも一緒だと思いますが、許される範囲であれば、のし上がるために頑張ろうという人はたくさんいると思います。立花さんもそれと一緒だと思いますよ。
高橋氏:
なるほど。ビジネスで言えば、スタートアップの世界にもそういうやり方もありますし。
東谷氏:
芸能界でもそうですし、恐らくスポーツ界にもそういう人はいると思います。立花さんはそれをより素直に出しているんじゃないかと思います。
川上氏:
でも、明らかに許される範囲は超えてますからね(笑)。
東谷氏:
許される・許されないという部分で言えば、それを判断するのは僕たちじゃなくて司法じゃないですか。僕は、そこに口を挟むのはおこがましいと思っているので、それもあって、どんなことに対しても口を挟まない態度を貫いているところがあります。
高橋氏:
それが、一連の騒動を経ての東谷さんの生きかたになったというところでしょうか。
東谷氏:
そうですね。「もう、自分の意見なんて言う必要はないな」と思いました。たとえば僕が「Aさんのやっていることは犯罪だ」と声を上げたとして、裁判所が「犯罪ではありませんでした」と言ったら、それでおしまいじゃないですか。
それはもう、司法が判断したことだから、ひっくり返ることもありません。ちょっと冷めた態度かもしれませんが、「そこに口を挟んだところで……」と思いますね。
僕がなんの影響力もない「いち市民」だったら、そうして声を上げてもいいと思うんです。ただ、僕には少なくとも多少の影響力があるので、それに追随する人が出てくるじゃないですか。そうなることは避けたいので、ライブ配信でも、なにを聞かれても「俺は知らん、興味ない」と逃げています。
もちろん、胸の内ではいろいろ思うことはありますが、そこに信者の人が追随するのは良くないと思うんです。
高橋氏:
あらためて、東谷さんのファンや、支持をしている人に対しては、攻撃的な行動は避けてほしいと。それを呼びかけるためにも出演しているということですね。
東谷氏:
そうですね。
「更生を望む人に寛容な社会を作りたい」と語る川上氏。N高は犯罪を犯した生徒でも、反省の意思があれば退学させないポリシーで運営されている
高橋氏:
いろいろと伺ってきましたが、最後に川上さんからなにかありますでしょうか。これでもう、東谷さんとは10年くらいは会わないでしょうから(笑)。
川上氏:
そうですね。東谷さんにはとくに言いたいことはないんですけど(笑)。
僕はいま「N高」や「ZEN大学」などの教育事業をやっているのですが、その立場からも、今日の対談に出演した理由を説明したいんです。
N高を作った時に決めたひとつのポリシーというものがあって、これはプロモーションにはならないので、今まで外部で全然話したことがないのですが、「犯罪を犯した生徒をどうするか」という方針についてなんです。
普通の学校だったら、犯罪を犯した生徒は退学になります。でも、N高としては、本人が反省して「学校に居続けたい」という意思があれば、退学処分を行わないという方針にしているんです。相手は子供だし、退学にしてしまうと、その子が更生する道を閉ざしてしまうことになりますよね。
あとは今、新しく始めようとしているプログラムがあるのですが、少年院の中にも「高校に進学したい」という人がいるんですよ。現実的には、それを受け入れてくれる学校はなかなかないなか、N高ではそうした子供たちを受け入れて勉強ができるようにするという体制づくりを進めているんです。
東谷さんに限らず、犯罪を犯したからといってレッテルを貼って社会復帰をできなくするというのは、その人の再犯を助長するだけだし、そもそもフェアじゃないと思うんです。人間だれしも完全ではありませんし、間違いもありますからね。
そういった点で、寛容な社会を作りたいと思ってN高も運営していますし、今回この場に出演したのも同じ理由からなんです。
高橋氏:
被害者の人権や、被害者の思いに寄り添うというのは第一で、そのあとに加害者側がどう社会に復帰するかという問題は、次の被害者を生まないためにも、構造として重要なところですよね。そのあたりは、ReHacQでも今後考えていきたいと思っています。東谷さん、今日は川上さんとお話をして、あらためてどう思われますか。
東谷氏:
まず、今日この場を設けていただいたことに関して、ReHacQさんにも、川上さんにも感謝しかありません。こういった公式の場で被害者の方と喋るというのは、そうそうないことだと思います。
もちろん被害者の方から「公式な場で謝罪してくれ」と言われたり「直接会って謝罪してくれ」と言われれば、僕は絶対に行って謝罪させていただきたいと思います。
今回はその第1歩だと思うので、川上さんから提案いただき、直接謝罪して自分の考えを述べさせていただいたことにはとても感謝しています。ありがとうございました。
高橋氏:
僕は基本的に性善説の考えかたなので、東谷さんのことはなるべく信じたいと思うんですが、これって執行猶予中だから殊勝にしているわけではないですよね? 本当の気持ちですよね? これで東谷さんが裏切ったら、人間不信になっちゃいますよ(笑)。
東谷氏:
いやいや、本当の気持ちです(笑)。僕も性善説の人間なので、大丈夫です。
川上氏:
僕は性善説の人間ではないので(笑)。東谷さんが今後また悪いことをするかもしれないし、もう一度ギャンブルをしてしまうかもしれません。でも、人生ってそういうものなので。それも含めて、機会というのは万人に与えられるべきだと思っています。
東谷氏:
ありがとうございます。
川上氏:
でも、悪いことはしないでくださいね。
東谷氏:
はい、もちろんです。もう二度としません。
高橋氏:
バカラなんて行かないでくださいね。
東谷氏:
もう二度と行かないです。
高橋氏:
それでは本日は、川上量生さんと元参議院議員の東谷義和さんにお越しいただきました。本当にありがとうございました。
今回の対談を通して、読者の皆さんは何を考えただろうか。「東谷氏に対する印象が変わった」という方もいるだろうし、「どこまでが本心かわからない、信じられない」という方もいるかもしれない。
インターネットがごく一部の人だけのものだった牧歌的な時代から、既存のマスメディアに匹敵するほどの影響力を持つに至った現代までの間に、ネットメディアやネットコミュニティというものは、さまざまな変遷を遂げてきた。
急速に進化するテクノロジーと、それに伴う環境変化に対して、現在の社会(法律や規範、倫理などを含む)がどれだけ追いつけているのか?
この課題に関しては、近年より深刻化しているように感じられるし、昨今のメディアやSNS界隈に感じられる違和感や危険性が、そうした追いつけてないがゆえの“歪み”に起因しているのは間違いないだろう。
「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏が「うそはうそと見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」という発言をしてから、もうすぐ25年が経つ。
確かに「情報を自分の力で判断する」ことはとても重要だ。
しかし、あまりにも多くの人々がそれぞれの意図で発信を行っている現代においては、情報リテラシーが高い人であっても、もはや情報の真偽を見分けることが不可能になっているのも、認めざるを得ない事実であろう。
「マスコミだから」「SNSだから」と、安易に判断することが危険なのは当然としても、どちらかに寄った“尖った意見”の方が拡散しやすく、逆にリテラシーが高い人ほど歯切れ悪くなったり、そもそも話題に触れようとしなかったりして、結果として拡散力(=影響力)が落ちる流れすらある気がしていて、ネット上の“悪貨が良貨を駆逐する力学”の強さに、絶望的な気分になったりもする。
──ただ、それでも。
東谷氏の言うように、「情報を自分の力で判断する」能力は、これからも問われ続けるのかもしれない。
今回の対談は、YouTubeチャンネル「ReHacQ」でも公開されている。実際の声色や表情などが気になる方は、そちらもチェックしてほしい。