裏アカ規制派の東谷氏、匿名性守りたい川上氏
高橋氏:
東谷さん(の現象)が、今のSNSが持つ力のようなものの起点になっていたと思うので、ざっくばらんな意見を聞いてみたいです。
東谷さん自身にも、借金の問題や、辞めたくても辞められないという事情と、さまざまな動機がありましたよね。SNSにおける悪口や嘘も同様に、いろいろな事情があると思うんです。
それこそ切り抜き動画には、儲けたいという気持ちもあるだろうし、一部の人は本当にそれが正義だと思ってやっている可能性もあると思います。隠されている情報を暴くことで、世の中や政治を変えたい。そういうモチベーションでやっている人もいる中で、たくさんの嘘が出てきてしまう。
東谷さんは、そんな今のSNSをどうやって規制していったらいいか、なにか思うところはありますか?
東谷氏:
僕が自分のことを誹謗中傷している人を開示請求したことがあって、そのほとんどが中学生だったんですよ。やはり大人の人ってどこかで分別があるので、そういったことをする人って未成年が多いんです。
高橋氏:
東谷さんがご自身のことを攻撃している人を開示請求したら、未成年が多かったんですね。
東谷氏:
周囲の人にも聞いて「未成年が多かった」という意見を聞いたとき、オーストラリアの「16歳未満SNS禁止法」がすごく正しいと思ったんです。SNSの使いかたも、何もわからない子供たちが、何事もなくそういった(誹謗中傷)ことをしてしまうんですよ。
それが人を傷つけたりする可能性があるから、小学校でSNSの使いかたを教えたり、授業にそれを取り込んだり、それぐらいのことをするのであれば、子供がSNSを使ってもいいと思います。
けれど、僕はSNSが諸刃の剣だと思っているので、使い始めの段階で教育していかないと、大人になってもそのままになってしまうと思うんです。
川上氏:
それに関して言うと、「2ちゃんねる」の全盛期に言われていたネットターム(用語)で、「春厨」という言葉があったんですよ。「春の中坊」という意味なのですが、要するに、4月になると罵詈雑言を言うイキったコメントがすごく増えるんです。
新中学生や新高校生なんです。「そういうもの」なんですよね。みんなSNSは若いときに人生で1回はハマるんですよ。そういうときイキってしまうんですよね。
高橋氏:
東谷さんがおっしゃる通り、若いときに小学校や中学校の授業でリテラシーを教えるのは大切かもしれませんね。
東谷氏:
僕は大事だと思います。あとSNSはたとえば身分証明書などをきちんと提示することなどによって、いわゆる「裏アカ」とか「捨てアカ」をなくしたほうがいいと思うんですよ。
写真付きの身分証で、住所、連絡先などをすべて掲示したうえで、正々堂々と物を言うのだったらいいと思うんです。
現状は、ほとんどの人が「裏アカ」や「捨てアカ」を使って発言していて、困ったらアカウントを捨てて急に消えますよね。それが今の状況をとても悪化させている原因だと思うので、こうした対策は絶対に必要だと思います。
川上氏:
ずっとネットの側に生きてきた人間としては、そういった対策には反対ですね。やはり「本名で発言しろ」というのは、リアルの世界で強い人だから言えることなんですよ。世の中には、リアルの世界に居場所がない人もいますから。
東谷氏:
そうですね、それは間違いないと思います。
川上氏:
匿名で発言している人たちには、そういった方が多いので、そのような規制の仕方に関しては僕は反対なんです。
そんな境遇にいる中学生がどんなにひどい暴言を吐いたとしても、仕方のないことだと思うんですよ。あとは、年をとった人が罵詈雑言を書き込む人がいたとしても、そういった人たちも許されるべきだと思うんです。
身分証などの問題で規制すべきものがあるのだとしたら、「工作アカウント」ですよね。政治関連で顕著ですが、組織的に運用しているようなアカウントって実際に存在するので、そういったものは規制すべきだと思います。
でも個人がいかに誹謗中傷しようが、それは社会で居場所のないひとが悲鳴をあげているわけです。それをネットという場所でもう1回奪うのか、とは思いますよね。僕はどんな罵詈雑言をしている人でも、「個人」であるなら排除しちゃダメだと思います。
SNSの誹謗中傷、犯罪に繋がる問題への川上氏の考える対策
高橋氏:
リアルの世界に居場所がない人が、居心地のいい場所を見つけられたら、そこが安住の地であってほしいと思います。
そのうえで、身分証の提示が不要なんだとすると、SNSが誹謗中傷や犯罪につながるような言論空間にならないようにするためにはどうしていけばいいと川上さんはお考えですか。
川上氏:
それはとても難しい問題ですね。「どうしていけば良い」ではなくて、「どうなるか」という話をすると、悪口を言うような人は同じような発言の人しか見えない、悪口を言わない人からは悪口を言う人が見えないという風に、住む空間が分離されていくんでしょうね。
すでにXなどでは、それぞれのユーザーが心地いいものしか見えないようになっていますけど、そういった方向でテクノロジーの進化が進むと思います。
高橋氏:
テクノロジーで、フィルターバブル的なものを改善していく方向になるわけですね。
川上氏:
今はAIも発達してきていますし、そういう形になっていくと思います。今もすでにそういう風になっています。
SNSで罵詈雑言を言っている人たちに応援のコメントがたくさんついているけど、じつはそれは誰にも見えていないとか、反応しているのがAIによるコメントだとか。恐らくそういう時代になるんですよ。
それが良いとは思いませんが、技術的な進化の方向性でいうと、そういう方向に変わっていくでしょうね。
高橋氏:
なるほど。その中で、そういった人たちが我に返ったり、冷静になれる瞬間が訪れたりするかもしれないと。
川上氏:
そういう時代になったら、叱ってくれる人が必要だと思うんですよね。今同じことをしたら通報されますが、昔の公園とかには、子供が悪いことをしたら叱るおじさんとかがいたんですよ。それと同じように、ネットで悪口を言ったら、叱ってくれる大人が必要だと思うんです。
高橋氏:
そうすると、誰がその役割を担うことになるんでしょうか。そういうインフルエンサーがいないといけないのか。
川上氏:
今のインフルエンサーは、そういったものを避ける傾向にあるので。たぶん「叱ってくれるAI」とかになるんじゃないですか(笑)。
高橋氏:
AIが自動的にパトロールして、悪口を見つけたら叱ってくれると。
川上氏:
それぐらいしか、解決する方法はないんじゃないかって気はします。
高橋氏:
規制論も難しいですね。今もそれこそ兵庫県知事選を契機に、SNS規制論のようなものが話題になっています。その流れについては東谷さんはある程度賛成の立場ということですか。
東谷氏:
川上さんが言っているとおり、名前を出さずに声を上げたい人たちがいるというのもわかっているので、「全面的に」というのは難しいと思います。
でも、未成年に対しての禁止などはアリなんじゃないかと思います。なぜかというと、僕らはSNSのない時代で育ってきているので、SNSがなくても子供ってちゃんと育つんですよ。
だから今SNSがなくなったからといって、子供が育たないわけではないので、僕は子供にSNSは必要ないかなと思います。
マスコミもSNSも同じ。今なお過熱する「暴露系」や、SNS上での「裁判」
高橋氏:
東谷さんはいまだに「暴露系YouTuber」としての肩書で見られることが多いということでしたが、東谷さんの後にもたくさんの暴露系YouTuberが出てきたじゃないですか。
東谷氏:
そこには少し語弊があるのですが、そういった人たちはもともといて、僕が出たことでスポットライトを浴びただけなんですよ。
高橋氏:
そういった人たちはもとから存在したと。僕は、公益性があれば、暴露が悪いことだとは思わないんです。東谷さんのやりかたは違うと思いますが、それこそ「週刊文春」なんかもそういった機能があるかもしれませんよね。
正義感から活動しているYouTuberもいるだろうし、ある程度「知る権利」に応えるもので、公共性があるのであれば良いと思うのですが、結構過激なことをする人も生まれていったじゃないですか。それに関しては、東谷さんはどう見ていましたか。
東谷氏:
そういったものに関して僕は、すごく第三者的な目線で見ていましたね。暴露配信というのは、被害にあった方々、加害した方々、それを暴露する方と、3つの立場がありますよね。そのうちの誰が本当のことを言っているのかって、僕らにはわからないんですよ。
だから僕はそこに対しては「関わりたくないな」という目線で見ていました。でも世の中の人たちは、どちらかに肩入れをし始めますよね。僕はそれがSNSの悪いところだと思っています。
もし被害者とされる人が嘘をついていたとしても、一度、被害者という立場になってしまったら「言ったもの勝ち」みたいになってしまいますよね。
反対に加害者の側も、実際は加害していないにもかかわらず、一度加害者のレッテルを貼られたら、それだけで犯罪者のような扱いを受けてしまいます。それこそ私設裁判のように、SNS上で「この人は悪人で、この人は被害者だ」と議論が始まってしまうじゃないですか。
川上氏:
そうですね。結局のところ、みんなが情報操作をし始めますから。被害者の立場だったら、自分が確実に同情されるような情報の出しかたをするんですよ。それを聞いたら「確かにそうだ」と思うんですけどね。
東谷氏:
当事者しか知りえない事実というのがありますよね。それをSNSに上げたところで、外部の誰が何を言おうが、そんなものはその人の持論であって、なにひとつ正しい情報ではないんです。
暴露系YouTuberの人たちも同じで、その人がたまたま被害者から相談されたから「こいつがかわいそうだ」と思って暴露しているじゃないですか。加害者側の方にも味方する人がいて、じつはそちら側にも被害があって、見方によって変わってくるものなんですよ。
今のYouTuberの方たちは、そこを理解せずに再生数を稼ぎにいったり、エビデンスを出している人もいたり、いろいろな視点に立って活動していると思うんです。だから僕はそれに対して口を挟むべきじゃないし、Xなどで自分の意見を言うことは絶対にしないと決めているんです。
高橋氏:
なるほど。これって、視聴者の方たちはどういうスタンスで見たらいいんでしょう。知りたいから見るけど、あくまで冷静なスタンスで見れば良いということでしょうか。
東谷氏:
そういうことだと思います。とくに不倫の問題なんかは「いちいちあなたたちが口をはさむ必要はない」と思います。あくまで家族の問題、夫婦間の問題で、部外者はまったく関係ないじゃないですか。なのに、不倫をしたタレントさんはテレビに出られなくなって、いきなり仕事を失ってしまいます。僕はそんなに悪いことじゃないと思うんですよ。
高橋氏:
それはなぜですか。
東谷氏:
不倫って、日本では別に法律違反ではないですよね。これがイスラムの国だったら法律違反で、不倫をした旦那さんは逮捕されますけど。
高橋氏:
厳密に言うと、民法上の不法行為ではありますが、刑法に定められた犯罪ではないですね。
東谷氏:
でもそれって、夫婦間で話し合ってまとめる話ですよね。それを週刊誌が煽って、まったく関係ない部外者の人たちが「不倫した側が悪い」などと騒いでいて。僕の友だちのタレントにも、不倫報道で仕事がなくなりかけた人がいるんですが、じつは奥さんのほうが先に不倫をしたという事実があったりします。
高橋氏:
だけど、週刊誌ではその前のストーリーは描かれないんですね。
東谷氏:
そうなんです。僕はそれがすごく不公平だと思っていて、そんな少しの情報で、その人が仕事を失ったり、人生が変わってしまうようなことというのはあってはいけないと思います。
だから、見ている側も公平に見るというか「賛否両論言わずに、ただ見ていたらいいんじゃないの?」と思うんです。
高橋氏:
今のお話は、リテラシー教育において大切な話ですね。暴露されているものというのは、すごく長いストーリーの一部にすぎないんですよね。
たとえば不倫だとすると、その前後に長いストーリーがあって、それが明かされていない場合もあるし、場合によっては真逆の構造が見えることもある。それがないこともあるけど、真相がわからない以上、断定的だったり、過度に味方するような論調は避けるべきだと?
東谷氏:
そういうことです。それに加えて、SNSは「言ったもの勝ち」みたいなところがあります。どうしても、先に告発した側が支持される傾向があって、後出しすると負けてしまいますよね。僕はそれは良くないなと思って見ています。
川上氏:
テクニックが上手い人が勝ってしまうんですよね。「本当かどうか」ではなくて、情報の出し方が上手い人が勝つという。
東谷氏:
そうですね。どうしても、見せ方の問題になるので。
高橋氏:
東谷さんはもう、政治にはあまり興味がないとのことで、兵庫県知事選は見ていないですよね?
東谷氏:
見ていないですが、そこに対する意見はめっちゃ聞かれました。東京都知事選の時も、石丸(伸二)氏【※】について「どう思っていますか」とたくさん質問されました。それに対して僕はもう「興味ない」って言ったんです。
※石丸伸二氏……日本の政治家。元・広島県安芸高田市長。2024年の東京都知事選挙に出馬した。
その人がやっていることが嘘か本当かは、本人しか知りえないことですよね。マスコミも偏向報道をするし、SNSにも嘘が多いので、どちらを信用するかと言ったら、もう自分で情報を理解していくしかないんですよ。自分自身でいろいろなことを勉強して、自分で判断をしていくしかないと思うんです。
高橋氏:
東谷さんのやられていたことは、ご自身でも「悪だ」とおっしゃっていますし、それは法的にも認められていることだと思います。ただ、東谷さんが支持された構造がどこにあるかと言ったら、そういうところだと思うんですよね。
東谷氏:
まさしくそうですね。
高橋氏:
マスコミも偏向報道をするし、SNSにも嘘しかないように見える中、「真実を伝えます」という人が現れて、それが説得力を持つ。100あるうちの2%くらいのファクトを提示すると、残りの98%がいい加減でも、支持されるようになってしまうんですよね。これは構造上かなり問題だと思います。
東谷氏:
それがSNSの怖さであり、マスコミの怖さですよね。怖さは結局同じだと思います。
高橋氏:
マスコミもSNSも同じだと。
東谷氏:
どちらも一緒だと思っています。僕がいつも言っているのは「どちらの報道を信じるという問題ではない」ということですね。
高橋氏:
「マスコミ対SNS」ではないということですか。
東谷氏:
はい。「マスコミは嘘ばっかりで、SNSの方が正しい」と言う人がいますが、「いや、SNSの方が嘘は多い」と思いますし、かといってマスコミの肩を持つ気もありません。
「どっちもどっち」だと思っているので、やっぱり自分で判断するだけの情報を仕入れなければいけないですよね。でも、そのための手段もSNS頼りになってしまったりするので、「難しいな」と思います。