日本らしいファンドを作ろうと思ったとき、真っ先に思いついたのがゲームとアニメだった
──この「ゲーム&アニメ株」のETFはどのような経緯で立ち上がったんでしょうか。
杉山氏:
「ゲーム&アニメ株」のETFは4年ほど前から運用を始めているのですが、そもそもは会社の設立初期から商品化したいアイデアだったんです。
そもそも、私たちGlobal X Japan(グローバルエックスジャパン)は、2019年に、アメリカのGlobal XというETF専門の運用会社と、日本の大和証券グループが合弁で設立した会社です。
設立の目的としては、アメリカと同じ商品を日本国内に提供することや、日本独自のテーマ設定をした商品について、海外を含めた投資家から投資できるようにすることでした。その目的に向けて、日本らしいテーマとは何かを考えたとき、コンテンツ産業やIP産業は欠かせなかったんです。
──このETFと一般的な投資信託との違いとは?
杉山氏:
上場しているか(ETF)、上場していないか(投資信託)が、圧倒的に違うところです。ETFは上場していることで、簡単に言うと誰でも購入できる。それによりコストパフォーマンスが良くなるんです。
──誰でも買えることと、コストパフォーマンスのよさにはどのような関係性があるのでしょうか。
杉山氏:
まず、一般的な投資信託の場合は、商品を組成した運用会社が、証券会社に取り扱い(投資家への販売)を依頼します。そのため証券会社の営業員が投資家に投資信託を販売する際には、証券会社の販売手数料が上乗せされています。
対して、ETFは株式市場で売買ができるため、投資信託のように証券会社の販売手数料が存在しません。そのため、一般的に投信信託よりも低コストになることが多く、その結果がコストパフォーマンスにも反映されます。
宮本氏:
ETFと投資信託では流動性も大きな違いです。
投資信託の場合、1日に1回、その日の組み入れ銘柄の株式市場の終値を元に基準価額が算出されます。そのため日中の価格を見ながらの売買はできません。一方、ETFに関しては、株式と同様にリアルタイムで変動しています。
ETF(上場投資信託)が良い商品だとしたら、どうして日本では普及していないのか?
──仕組み自体はおもしろいと思うのですが、ETFは日本国内ではあまり普及していませんよね。そこには何か事情や背景があるんでしょうか。
杉山氏:
日本ではこれまで、主に証券会社や銀行などの販売会社が、投資家である顧客に対面で金融商品の販売を行ってきました。また、販売会社は、証券取引所に上場しているETFを顧客に案内をしても販売手数料は入らないため、販売手数料が見込める投資信託の販売への動機付けにつながります。
宮本氏:
対して、アメリカではETFが圧倒的に伸びています。
アメリカでは「IFA」という独立した個人のファイナンシャル・アドバイザー【※】がたくさんおり、その存在が確立されています。彼らは顧客の資産残高に応じて手数料を得ているため、ETFを含めた金融商品の中から、本当に顧客のためになる商品を勧めるのです。
※ファイナンシャル・アドバイザー……特定の金融機関に所属せず、独立・中立な立場から顧客に資産運用のアドバイスを行う専門家。会社の営業方針に縛られず、数多くの金融商品の中から顧客にとって本当にベストなものを提案できることがメリットとされている。
──ETFが日本国内では普及していない 日本特有の事情とは?
杉山氏:
日本の場合、投資信託が長年金融機関の主な収益源になっていた背景もあるので、販売方法もETFにはない工夫がなされています。
たとえば、今ならクレジットカードがあれば、ネットショッピングをするように投資信託を購入できます。それに、月に1,000円ごと積み立てるといったように、単位も細かく指定して買うことができるようになっていたりと、買い方の利便性が独自の発展を見せています。一方、ETFではこのようなクレジットカードを用いて購入することは原則できません。
ETFの商品としての良さや強みは各国で実証されているんですが、このような日本特有の事情が、投資信託に比べてETFが普及されていない理由のひとつに挙げられます。
──なるほど、日本の金融市場は少し特殊なんですね。ではみなさんの立場としては、その独特な背景を持つ日本市場に対して、ETFの良さを広めるチャレンジャーでもあると。
杉山氏:
おっしゃるとおりです。そういったことをしたくて、6年ほど前に立ち上げた会社がGlobal X Japanなんです。
──今現在日本国内でETFを見つけて買っている人たち、つまり顧客層でいうとどんなイメージですか?
杉山氏:
もっとも多いのは、30代、40代の男性の高所得サラリーマンという方が多いですね。普段自分のビジネスにおいて、いろいろな情報を得ている方が、「そこを軸に投資にも生かそう」と考えてご購入いただいているイメージです。
半導体をテーマにしたETFというのも作っているんですが、ハイテクセクターで働いてる方が、お仕事で培った感覚を活用して投資する、ようなケースが多いです。
あとは、最近はインフルエンサーの方の持つ力も強いです。金融系のYouTuberの方もたくさんいますから、その辺りの影響もあるのではないかと。
投資の世界から見た、アメリカや中国のコンテンツ産業の特徴。とくに日本と傾向が近い中国は脅威?
──ETFが圧倒的に伸びているという、アメリカのコンテンツ産業に関してはどんな特徴があるんでしょう?
宮本氏:
アメリカに関しては、IPとしての強さというよりプラットフォームビジネスに強みがある会社が注目される傾向にありますね。
仮に海外の同セクターでETFを作るなら、Netflixやディズニープラスなどのサブスクリプションサービスや、『フォートナイト』のEpic Gamesさんなどが入ると思います。
IPが強い会社ももちろんあると思いますが日本には及びませんし、非上場企業のことも考えると、数自体が日本よりも少ないのではないかと個人的には思います。
──コンテンツ制作の専業会社というよりは、ディズニーのようにIPホルダーでもあり、プラットフォームを展開しているようなところが強いんですね。
宮本氏:
そうですね。そう考えると、北米よりは中国のほうが傾向として日本に近いものもあります。
テンセントなどは日本でもアニメやゲームを展開していますし、中国市場でもアニメやゲームの市場は広がっているので将来的には脅威になると思います。
ただ、IPに関しては日本のほうが歴史が長いので、中長期的な目線では日本のほうが強いと思っています。
──日本のIPを目当てに、海外からの投資が集まるようなケースが今後も増えていくのでしょうか。
杉山氏:
ゲーム会社に投資するにしても「任天堂だけじゃなくて、もう少し分散して投資をしたい」というニーズはすでにあると思っています。事実、そういった意図で海外の証券会社からも連絡が入ってきています。
そういったニーズに対して、「ゲーム&アニメ株」ETFが受け皿になるということはあると思いますし、その流れは今後も続いていくのではないかと考えています。
──現状では「ゲーム&アニメ株」ETFを購入しているのは、国内の投資家が中心なんでしょうか。
杉山氏:
国内の投資家の方が多いですが、徐々に海外の投資家も入ってきていますね。
どちらかというと個人投資家が好む商品をイメージして作ったのですが、最近は地方銀行など、いわゆる機関投資家と呼ばれる人たちも購入しています。この点については少し意外でしたが、一部のゲームやアニメ好きの個人投資家だけでなく、機関投資家も着目しているテーマであることが分かります。
日本は強いIPが生まれていく「独自のエコシステム」ができている
──最近のゲーム業界の動きとして、中国企業がすごい勢いで、クオリティの高いゲームを展開しています。そんななかで日本のゲーム会社はどう戦っていくかというのがある。投資家の目線から見ていかがでしょうか。
宮本氏:
たしかに最近は、国外のコンテンツのクオリティが上がってきていると思います。ただ、それでも日本にはコンテンツを生み出してきた積み重ねがあり、これは他の地域では再現できないユニークな環境だと見ています。
杉山氏:
単純に比較して良いかはわかりませんが、シリコンバレーの事例をお話させてください。
シリコンバレーは広大なアメリカのなかの一部の場所でしかありません。ですが、数多くのIT企業がシリコンバレーで誕生しています。それは、その土地に特殊なエコシステム【※】や、才能が集まってくる素地があったからだと思うんです。
それと類似したことがIPという分野において起きた結果、今の日本のコンテンツ産業があるのではないか。個人的にはそのように感じています。
※エコシステム……本来の意味は、生物と環境が相互に依存して共存する仕組み。そこから派生して、企業・技術・サービス・顧客などが相互に依存し、共存共栄することで新しい価値を生み出す構造も指す。
──なるほど。投資家の冷徹な視点からバッサリ切られると思ったので、少し安心しました……(笑)。
一同:
(笑)。
杉山氏:
株式市場として、IP産業に注目が集まるようになったのは今年に入って、あるいは、ある程度遡ったとしても去年くらいからなんです。
もちろんそれ以前にスポットが当たっていなかったというわけではないんですが、トランプ関税などがひとつのきっかけになってここまで評価されたと考えています。
──投資の世界ではIP産業が注目されたのが「ここ最近」というのも新鮮なんです。というのも、アニメやゲームなどのコンテンツビジネスって「クールジャパン」【※】のときにも重要視されていましたよね。
※クールジャパン……アニメ、マンガ、ゲーム、ファッション、食といった日本の文化やその魅力を海外に発信することで、日本経済の成長に繋げようとする文化事業。
杉山氏:
おっしゃる通り、10年以上前にもそういった流れはありました。
そういう意味では、突出して注目されるようになったのはここ最近ですが、それ以前から株価自体は安定して上昇する動きではあったんです。
宮本氏:
最近は政府からの支援という意味でも流れが変わったように感じています。
──政府からの支援と言いますと?
杉山氏:
ここ2、3年、政府からの支援やサポートは成長分野である「半導体」に集中していました。しかし、去年の後半からアニメをはじめとした国産IPを、政府としてもより海外に広めていくという流れができたように思います。
コンテンツ産業は、海外の方に日本に興味を持ってもらい呼び込むためのツールとしても重要です。半導体とは異なる、ソフトウェアという領域という点でも注目されています。
そういった経緯があって、コンテンツ産業で株式市場が評価されたのは「つい最近」という感覚が業界内ではあります。
──そういう流れもあったんですね。
杉山氏:
今後も長期的にプラットフォームは多様化していくでしょう。しかし、コンテンツはプラットフォームに縛られない。だからこそ、他の産業や業界との繋がりが増えて、ビジネスとしても広がっていくのではないかと。
──日本のコンテンツ産業の特色としては、一部の例外を除いてプラットフォーム争いに負けてしまったことがあると思うんです。一方で『鬼滅の刃』のように今でも世界でも通用するIPは登場していますよね。
宮本氏:
IPの強みとして、横の展開力を持っていることが挙げられます。たとえば、マンガ発の作品がアニメになったりゲームになったり、メディアミックスで展開されていきますし、アニメを基にしたグッズや玩具などにも広がっていく。
プラットフォームという視点で負けていても、こういったIPならではの展開力をいかせるのが強みの分野だと思います。
──最後に、投資の世界から見た、ゲームやアニメ業界の動向の予想や、今後期待する動きについて教えていただけないでしょうか。
杉山氏:
ゲーム業界は、投資の観点から見ても中長期的な成長産業と評価されています。足元では、為替・関税リスクや開発費の上昇といった短期的な不透明感は残るものの、ファンが長く遊び続けることで生まれるリカーリング(継続)収益の拡大、IPの多面的活用、海外展開の加速が進む成長局面にあります。
任天堂のスイッチ2発売を契機としたハードサイクルの再加速や、IPの海外展開は中期的な投資テーマで、たとえばコナミのEフットボールは新興国にまで波及し、最近はアフリカでも収益を拡大しており2026年FIFAワールドカップに向けて更なる成長が期待できます。
総じて、ゲーム業界は短期的な波はあるものの、IP価値の国際的拡張と技術革新を軸に、安定したファン層に支えられた投資魅力を維持する構造的成長セクターと考えています。
宮本氏:
投資の観点では、既存のIPを有効活用して収益を最大化しつつ、新たなIPを生み出せる企業が成長すると考えています。
かつて子ども向けだったゲームやアニメは、購買力のある大人層まで裾野が広がっており、世代を超えて長く愛される強いIPの重要性が増しています。日本には世界に誇れるIPを持つ企業が多く、投資先としての魅力も高いです。
個人的にもゲームやアニメが好きなので、今回の話が投資に興味を持つきっかけになれば幸いです。
今回の取材を通じて印象に残っているのが、かつて「規模が小さい」と見なされていたゲーム・アニメ業界が、今や日本の基幹産業である「自動車産業」と同じ規模の市場になっている事実だった。
2019年を境に加速したこの成長は、単なる一過性のブームではなく、コロナ禍による需要の変化、そして企業の「稼ぐ構造」の劇的な変化によるものだというのだ。
そして、投資の世界では「IP(知的財産)がいかに国境を越え、時代を超えて稼ぎ続けるか」という、より長期的な「強さ」が評価されている点も興味深かった。



