いま読まれている記事

30万本売れた”圧倒的に好評”の『Chill with You』は、なぜヒットしたのか?→ヒロインの実在性とリアルな作業通話に異様なほど誠実だったから。これは「作業通話」だから、着せ替えもマルチアングルも、干渉もナシ。できるのはささやかな会話だけ【開発者インタビュー】

article-thumbnail-260417u

1

2

作業通話アドベンチャー『Chill with You : Lo-Fi Story』は、ヒロインのサトネとポモドーロタイマーを共有し、穏やかに各々の作業に没頭し、時折言葉を交わす「作業通話」を体験するゲームだ。

ただ、それだけだ。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

2024年11月のリリース以降、本作は日本のみならず中国をはじめとする世界各地で支持を広げており、累計販売本数は30万本を突破。2026年3月現在、Steamでのユーザー評価は「圧倒的に好評」となっている。

本作が描く作業通話と、その中で描かれるささやかな物語は、なぜここまで人々を虜にしているのだろう。

その理由は、「作業通話という体験」を構築することへの、開発チームの異様なまでに誠実な姿勢にある。

画面の向こう側にいる誰かの存在をかすかに意識し、時折言葉を交わす、穏やかで体温を感じるような時間。そんな作業通話を描くにあたって開発チームが選んだ手法は、キャラクターを愛でるための着せ替え機能でも、自由なマルチアングルでもない。

彼らが徹底したのは、あらゆる要素を「作業通話」という文脈で再解釈することだ。たとえその答えがゲーム的な不自由であっても、迷わず、ためらわず、それを積み上げていく。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

ゲーム画面の画角はサトネが置いたカメラの位置に固定されて1ミリも動かすことはできないし、彼女が刻むタイピング音を止めることもできない。彼女はあくまで「画面の向こう側の通話相手」であり、プレイヤーはほとんどの行動に干渉することはできない。

その結果、サトネは2次元のキャラクターとしては異質なほど、独立した一個人として存在している。彼女には単なるツールを超えた、たしかな気配が宿っているのだ。

今回は、30万人に寄り添う居場所となった本作のヒロイン・サトネの実在性を創り上げた裏側について、開発チームの3名にお話を伺った。本稿では、その様子をお届けする。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた
左から藤原氏、藤森氏、塩崎氏

聞き手/TAITAI
編集/anymo
撮影/松本祐亮


サトネがカメラを触った瞬間、ゲーム画面が「作業通話のカメラ」になった

──『Chill with You』という企画は、どのように立ち上がったのですか?

藤森氏:
いちばん最初の発想は「作業用BGM」でした。「Lo-Fiガール」の動画が世界中で再生されていることを受けて、それと同じように女の子と作業するゲームも世界的に売れるのではないか……というところから企画がスタートしています。

なので、コンセプトは「Lo-Fiガール」そのまま、女の子のキャラクターを起用する構想も当初から存在していました。

いちばん最初は、「雨が止まない星で女の子と作業をする」というものでしたが、そこから発展していって、いつの間にか今の『Chill with You』の形になっていました。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた
初期の企画書

──本作の発売前にも、女の子のキャラクターが登場する作業用ゲームは存在したのでしょうか?

藤森氏:
女の子がいてBGMが聴ける、かつポモドーロタイマーの機能を搭載したゲームはすでにいくつかありましたが、3Dで高品質なビジュアルに挑んだタイトルは少なかったんです。その現状を見て、「ブルーオーシャンでは?」と考えたんです。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──結果として、本作は大ヒット(30万本を突破)となりましたね。

藤森氏:
企画を立案したあと、プロジェクト続行の許可をもらうための中間審査会というものが社内にあるんです。

それに向けて企画書を作成する中で、それまでは女の子を愛でるような萌え要素が強かったものを、この段階で明確に「作業ツール」として開発することにしました

──なるほど。この時点では「ツール」として磨きをかけていくことになったんですね。

藤森氏:
じつは、僕は前任者から引き継いで本作のディレクターになったんです。

その引き継ぎの際に受けた「この企画を落ち着かせてください」という指令を、僕が勘違いをしてしまいまして……。じつは、この勘違いが開発における大きなターニングポイントになったんです

──えっ、勘違いですか?それはどういった?

藤森氏:
「落ち着かせる=今の予算とスケジュールの範囲内で、最低限のものを確実にリリースしてください」という意味だと解釈してしまったんです。

ですが会社の求めていた「落ち着かせる」は、ほぼ逆の意味でした。「面白い製品にするために全力を尽くしてください。足りなければ増額を相談してください」という意味だったんです。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──たしかに「予算内でとにかく着地させろ」と「ベストを尽くせ」では、かなり意味合いが変わってきますね……。

藤森氏:
ですが「最低限のものを作れ」と言われた(と思い込んだ)ことが、逆に「絶対に嫌だ!いいものを作って、予算増額を納得させてやる!」という僕の反骨心に火をつけました。

そうして、予算増額のための説得材料として、1ヶ月後のストアページ公開に向けて死に物狂いでPVを作りました

その中で「サトネがカメラを触って調整する」という演出が出来上がったんです。

──この演出は、まさに『Chill With You』の作業通話という体験を象徴するものですよね。

藤森氏:
はい。この演出が入ったことで、一気に「カメラの向こう側にサトネがいる」という実在感と期待感が跳ね上がったんです。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──この演出には、どういった経緯で辿り着いたのですか?

藤森氏:
視察のために参加した、インディーゲームイベントがきっかけでした。

いわゆる「イケてるゲーム」に対峙したときに、一目見て「どんな体験ができるのかわかるビジュアル」の重要性に打ちのめされたんです。

──たしかに、そのゲームでできる体験がパッと見で、一目でわかる、画力のある作品は強いですよね。

藤森氏:
当時の『Chill with You』にはそれがなかったんです。体験を伝える画力が足りていませんでした。だから、「『Chill with You』がどんな体験かわかる画面を、作らなきゃダメだ!」と思ったんです。

ですが、すぐにカメラを触る演出に辿り着いたわけではないんです。たとえば青色を要素として入れたり……無理やり特色をつけていました。でも、どうしてもそれではキャッチーにはならなくて。

──ビジュアルだけではない、体験と結びついた「キャッチーな動作や演出」を求めていたと。

藤森氏:
なので、「『Chill with You』がどんな体験かわかる画面」……スクリーンショット1枚で本作の体験がわかるような演出を作るために画角を研究することにしました。

その中で、このカメラを触る演出が生まれたんです。

これによって、本作の画面はゲームの世界を覗く窓ではなく、「作業通話のカメラ」に変わることができたんです。

──たしかに、あの演出があるからこそ、初回起動時の通話が始まった瞬間の「繋がってるかな?」というリアルな間も、本当に通話をしているようなリアルさと緊張がありますよね。

藤森氏:
僕が出したのはアイディアだけだったのですが、デザイナーの塩崎が本当にうまいことやってくれました。「もっとぼかして!」とか、僕のうるさくて細かい要望にちゃんと応えてくれたんです。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──(笑)。この時点で、本作の作業通話という体験の本質が映像になっていたんですね。

藤森氏:
そうして出来上がったカメラを触る演出を入れたPVとストアページが公開されて、さあ予算増額の申請を出そう、という矢先のことでした。このPVがSNSでバズって、ウィッシュリストが爆発的に増えました

──うれしい誤算ですね。社内での予算増額の説得材料として気合いを入れたつもりが、その気合いゆえのクオリティでバズったと。

藤森氏:
もしも最初から予算増額を相談できることを知っていたら、僕の反骨心に火がつくこともなく、ヤバいPVに仕上がっていたと思います。

反骨心の結果としてクオリティの高いPVが完成し、それを見たユーザーがウィッシュリストに登録してくれました。この反響を見た会社が「『Chill with You』はいける」と判断して……なんと、僕が説得する必要もなく勝手に予算が増えました

──まさかの勘違い、言葉のすれ違いをきっかけに予算の増額に繋がっていったんですね。ウィッシュリストの推移はどんな感じでしたか?

藤森氏:
ウィッシュリストは最初のPV公開で3万件、Steam Nextフェスで4万5000件、最終的には、10万件まで伸びていました。

──10万件!

藤森氏:
それから、最初のPVの公開とそれを受けてのウィッシュリスト爆増のあと、登録しているユーザー層を調べてみたんです。そしたら、3万件のうち、2万件くらいがブラジルとポルトガルのユーザーだったんです。

──3分の2がブラジルとポルトガルですか?それはすごく意外ですね。本作は日本以外だと、中国ですごく人気ですよね。

藤森氏:
じつは最終的に、ブラジルやポルトガルでは本作はぜんぜん売れませんでした。

空手形に向けて予算が増加されていた、ということですね。

一同:
(笑)。

藤森氏:
でももしも、最初にこの2ヶ国での反響がなかったら、予算の増額はありませんでした。

そしてこの増額がなければ、今と同じクオリティで発売することはできませんでしたし、今よりクオリティが低ければこれほど売れていなかったとも思うんです。なんだか、奇跡ですよね。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

作業ツールから、「作業通話」という体験を描く作品へ化けた瞬間

藤森氏:
その後、体験版を出すために開発を進めていたのですが……。

体験版の配信2週間前に、社長から「このままではリリースできない」と告げられました

──2週間前!……かなりハードな状況ですね。

藤森氏:
「40点」、「こんな体験版はお客さんに出せない」と。『美味しんぼ』の海原雄山みたいなセリフがSlackで送られてきました。

一同:
(笑)。

──「40点」という点数は、いったいなにが原因だったんでしょうか。

藤森氏:
『Chill With You』の本質は、「サトネと作業通話をする」という“体験”の部分ですよね。それにもかかわらず、我々は作業用ツールとしての「機能」の開発に集中してしまっていたんです。

みんな、To Doリストやポモドーロタイマーといったような機能的な面ばかりに集中していて、「サトネと作業通話をする」という体験について考えることができていませんでした。

──今となっては「作業通話」は本作の体験における絶対的な軸ですが、このときは“アドベンチャーゲームの設定”としてしか機能していなかったと。開発初期を経た中間審査会の際には、明確に作業「ツール」として開発することにしたとおっしゃっていましたね。

藤森氏:
はい。そのころは、まずはツールとして形にすることにチームみんなが必死でした。その結果、チーム全員がツールとしての便利さを磨く方ばかりに向いてしまって……。

藤原氏:
体験版の配信直前まで、当初から決まっていた「サトネ(女の子)と作業をする」というコンセプトをどうやってシステムで表現すればいいかが、まったく見えていなかったんです。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──でもそこから、ここまで「作業通話」感のある体験を作り上げたわけですよね。この2週間で、いったい何が変わったのでしょうか。

藤森氏:
サトネと作業通話をしている実感をプレイヤーに与えるため、「サトネの実在感」とは一体なんなのか?ということを真剣に考え、積み上げていきました。

──なるほど。作業通話の相手である、サトネの実在感に着目したのですね。具体的にはどのようなアプローチをしたのですか?

藤森氏:
ゲーム内のあらゆる要素をひとつひとつ分解して、再定義していきました。

──再定義、というと。

藤森氏:
例えば、サトネが使っているキーボードの音がありますよね。それまでは「作業用ツールに収録されている環境音のひとつ」としてなんとなく存在していたのですが、これを「これはサトネ自身が鳴らしている音だ」と改めて定義し直したんです。

だから、その定義に沿って、サトネのキーボードの音はプレイヤーが干渉できない仕様にしました。プレイヤーは音を止められない。単なるゲームの効果音ではなく、「サトネの」作業音だからです

───なるほど!サトネという、一個人が出している生活音だからですね。実際の作業通話でも、通話相手の作業音を止めることはできませんね。

藤森氏:
それから、本作はプレイ中に画面を見ない設計だからこそ、音で実在感を積み上げていかなければいけないことにも気づきました。

藤原氏:
チームで「作業中に音を発する動きは何があるか」を話し合って、音とモーションを追加しました。

サトネがそこにいる証拠として、ペンをトントンする音や衣擦れの音などをふたたびゲーム内に積み上げていきました。

───本作は、誰かがそこにいる、生々しすぎない体温の再現度がすごく高いですよね。

藤森氏:
デスク周りのビジュアルもそうです。

サトネの小説の執筆が進むにつれて、資料の束がどんどん積み重なっていきます。ゲームの進捗ともリンクしていて、資料が増えて余裕がなくなって少しずつ机が散らかっていく。

塩崎氏:
「締切前のリアルな机」ですね(笑)。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

───単に「それっぽい」ビジュアルなのではなく、「サトネ」というキャラクターを念頭に再解釈してから積み上げ直していったのですね。

藤森氏:
それから、もっともこだわるべきだと考えたのは、「サトネ側にカメラの権利がある」というリアリティです。

本作はサトネがカメラを設置して、通話を開始する。だから、プレイヤーはカメラを動かせないんです

──先ほどの、「サトネの作業音はプレイヤーに消せない」とも同じ理屈ですね。

藤森氏:
この設定を崩してしまうと、たしかにゲームとしてプレイヤーの選択肢は増えますが、リアルな作業通話感は薄れてしまいますよね。それでは、彼女との「作業通話を介した友達感」が消えてしまうと考えたんです。

──普通、ついつい「かわいい子はいろんな角度から見たいだろう」とカメラ周りの設定を入れてしまいそうなものですよね……。それがプレイヤーの自由度だと思い込んでしまうというか。

藤森氏:
最初はベッドで寝転んでいる姿や、ソファーでくつろぐ姿など、3つほど画角があって実装もしていました。さらに窓の外、ベランダに行けるモードまで作っていたんです。

ですが、すべてボツにしました

── えっ!そこまで作っていたのにボツにしたんですか?

藤森氏:
はい。なぜカメラを持って移動するのか、納得のいく理由を見つけるのが難しかったんです。

そもそも、女の子がベッドで寝転んでる姿を相手に見せるわけないだろう、とも思ったんです(笑)。

塩崎氏:
それに、移動する演出を入れると、サトネとすぐに作業を始めたいプレイヤーにとって邪魔にもなってしまいます。

藤森氏:
なら、いっそ画角は机の上の1本に絞ったほうが作業通話らしい、『Chill with You』らしい体験になると確信して、あえて作ったものを削っていくことにしました。

こういうところにこだわって、選んで積み上げていったものが本作なのだと思います。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──そこまでブレずに、ストイックに、引き算で「サトネの実在感」をやり切れたのはなぜなのでしょうか。

藤森氏:
自社開発だからこそ、この引き算を徹底することができました。パブリッシャーと組んでいたら「機能が足りない」と言われて、ブレていたかもしれません。

余計なものを足すほど、コンセプトがぼやけていく。だからこそ、削って、手放して、最後に残ったものが一番強いのだと思います。

──マルチカメラや着せ替えなどの要素を搭載しないというのは思い切った決断ですよね。

塩崎氏:
それから、チュートリアルも実装できて本当によかったと思っています。これも大きな転換点でしたし、「これはいい体験になるぞ」という実感が湧いてきたんです。

藤森氏:
じつは、これまで一度も外部の方にテストプレイをしてもらっていなかったんです。

しかし、実際に触ってもらうとチュートリアルがないせいで、「サトネをクリックして話せること」も「これが通話画面であること」も、何ひとつ伝わっていないことがわかったんです。

どうしたらいいのか、何ができるゲームなのかが、プレイヤーにはわからなかったんです。

──本作の主軸である作業通話という体験も、その操作方法も、何も伝わっていなかったということですね。

藤森氏:
衝撃ですよね。「ユーザーに伝える」という視点が完全に抜けていて、ゲーム開発という目の前のタスクをなんとかすることばかり考えていたんです。

──そこから、どのようにして伝えることに成功したのでしょうか。

塩崎氏:
チュートリアルって、どのキーを押せば、どのアクションを繰り出せるか……といったような事務的な操作説明になりがちですよね。

ですが、本作では最初のチュートリアルでポモドーロタイマーを実際に回して、「試しにいっしょに作業してみる」ところから始まります。本作の主軸である、「作業通話をして、その合間にサトネと話す」という体験を最初に体感してもらうことができるんです。

──起動時のカメラを触る演出もあいまって、即座にこれが「作業通話」であること、時間を共有しながらいっしょに作業するゲームであることを直感できるわけですね。

藤原氏:
それから、自分たちで作っている最中は気づかなかったのですが……。チュートリアルがないままだと、起動してすぐサトネが「今日の作業しようか」とサトネが話しかけてくることになるんです。

プレイヤーからすれば「えっ誰?」「なんで?」という状態のまま、なぜか一緒に作業をさせられるという状態になっていました(笑)。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──(笑)。

藤原氏:
先ほどの作業通話のチュートリアルにくわえて、最初にサトネの自己紹介を入れたことで、この子がどんな子で、なぜ一緒に作業をするのかという物語の背景が明確になりました。

これが、「これから、この子といっしょに頑張るんだ!」というプレイヤーの感情にも結びついたんだと思います。

──チュートリアルを通してサトネがどんな子かわかることで、この先のプレイのイメージも掴みやすいですよね。

藤原氏:
ストーリーの進行についても、修正をくわえました。

過去の仕様では、ストーリーの進行はプレイヤーが「話しかける」ものではなかったんです。

──今の仕様だと、レベルが上がるとサトネが話したそうにしていて、プレイヤーがクリックして話しかけることで会話が始まりますが、違う仕様だったということでしょうか?

藤原氏:
はい。左下に「過去ログ」というボタンがあって、レベルが上がるとそこに勝手にストーリーが追加されていくので、それをクリックして各自で好きな時にストーリーを見てもらう仕様だったんですが……。

「それ、サトネに話しかけてないじゃん!」って気づいたんです

──たしかに……。本を開いて読むようにシナリオを追うのは、会話という体験とは違いますね。

藤原氏:
そこで、サトネがプレイヤーに何かを話したがっているモーションを塩崎さんに追加してもらったんです。

話したそうにしているサトネに、プレイヤーがクリックして話しかける。これで初めて、「サトネに話しかけて、会話する」という体験が完成したんです。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──UIのデザインや各機能の仕様は、どのように決めていったのでしょうか。すごく使いやすいように感じます。

藤森氏:
完成形というゴールが見えていない状態だったこともあり、とにかく泥臭くやっていました。一旦実装してみて「あれ、なんか違うな?」と修正する、改良に改良を重ねる……その繰り返しです。

例えばTo Doリストも、タスクをクリアした瞬間の気持ちよさや達成感が足りないと何度もブラッシュアップしました。To Doリストやカレンダー、メモ帳といった機能は、その完成度が高くないと「作業通話というごっこ遊び」が成立しないんです。だからこそ、演出や手触りには徹底的にこだわりました。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──体験版配信までの2週間で、単なる作業支援ツールだったものが凄まじい勢いで『Chill With You』という体験に、ゲームに、変わっていったんですね。

藤森氏:
こうして出来上がった体験を携えてのリリース後に改めて実感したのは、「作業時間をプレイヤーに消費させる」という仕組みこそ、このゲームの真価であったことです。

──なるほど、さらに詳しく聞かせていただけますか?

藤森氏:
普通のゲームは休憩時間や休み時間といった「空き時間」を奪い合っていますが、本作はその逆です。

プレイヤー自身の「作業時間」という、これまでゲームが手出しできなかった領域、別の作業をしている時間を消費してプレイすることができるんです。

── たしかに…!作業時間というのは本来、ゲームには充てられない時間ですよね。本作ではそこを使うことができる。「放置ゲー」に近いような気もしますが、本質は違うような気もします。

藤森氏:
そうなんです。ゲームを閉じて、あるいは意識の外に置いて放置するのではなく、「誰かと一緒に頑張っている」という実感を伴いながら作業時間を共有する

このコンセプトが、現代社会のニーズとうまく噛み合ったことが、最大の勝因だったのだと思います。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

サトネのデザインテーマは、「普段着のような親しみやすさと、恋愛感のないデザイン」

──本作のヒロインである「サトネ」はどのように出来上がっていたのですか?

藤森氏:
開発初期、プレイヤーがいっしょに作業する女の子が「何の作業をするのか」を決めることに難航したんです。最初はキャンバスに向かって筆を持つ本格的な「絵描き」という設定でした。

ですが、実際にモックを作り始めてみると、「誰かが絵を描く構図」を見ながら自分が作業をするのは、あまり気分が上がらないのではないかという話になりまして……。

──たしかに、今はPCでタイピングしているので、「作業通話」としての説得力がありますね。

塩崎氏:
ゴリゴリの「絵描き」設定でしたね。ちなみに、製品版に描くモーションは存在していませんが、通話していない時に設計図を書いている……という設定は残っています。

藤森氏:
いまサトネの部屋に貼ってある落書きは、その「絵描き」設定の名残なんです。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──変遷が名残として残っているのは面白いですね。製品版でのサトネは理系のイメージが強いので、その世界線の彼女も気になります。

藤森氏:
作業内容を特定しすぎず、シンセサイザーで音楽制作もする、パソコンでコーディングもする、絵を描いてデザインもする、マルチな「ゲームクリエイター」という案も出ました。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた
ゲームクリエイター設定時代のモック。シンセサイザーが配置されている。

藤森氏:
ですが最終的には、シナリオライターと企画の立案者が相談する中で「物語を書く少女」に落ち着きました

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた
モックのサトネ。ニヤッとした表情がこの時点では残っている

塩崎氏:
本作は少人数開発で、デザイナーである私が3Dも2Dもすべて手がけています。なので、僕がイラストから一気に3Dに起こしてしまったので、三面図などの設定資料もないんです。最初のラフ画1枚から、感覚に従って作っていきました。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた
ゲームクリエイター設定時代の、サトネのキャラクターシート

──では、サトネのガワの部分、デザインはどのように作られていったのでしょうか?

塩崎氏:
まず、デザインのテーマは、パッと見で「こういう格好してる女の子いそうだな」です。

友達の普段着のような親しみやすさと、恋愛感のないデザインを心がけています。露出もほとんどありません。

──たしかに、女の子を主軸に据えているのに「萌え」要素は多くない、というかほとんど感じられませんよね。関係性に親密さはありつつ、恋愛というよりは信頼という方が近いような。

藤森氏:
初期の企画では、囁き声DLCのような案もふくめてもっと男性向け的なかわいさ、いわゆる「萌え」を全面に出して惹きつける方向性も考えていました。

ですが、「作業通話」という、一貫したテーマを信じていたからこそ、最終的には萌え要素は削ぎ落としていくことにしました

──なるほど。体験版の配信よりも前の中間審査会で萌え要素をオミットすることが決まったとおっしゃっていましたよね。

藤森氏:
はい。開発のわりと初期段階、最初のPVが公開されるよりも前から、血の通った「実在感」をストイックに追求したことで、結果的にサトネは『Chill with You』独自の温度感を持ったキャラクターになったのだと思います。

──親しみやすいけれど、近すぎない。本当に絶妙なラインですよね。

塩崎氏:
この初期の衣装案は、まだ「サトネ」になる前のちょっとニヤッとしている雰囲気の表情ですね。

衣装を決める際、この手の格好はエッチすぎるという結論に至り、これはボになりました

──……なんで、エッチすぎるとボツになるんでしょうか?

藤森氏:
集中できないからですよ!

一同:
(笑)。

──衣装でいうと、カラーリングもすごく爽やかですよね。

塩崎氏:
サトネは「宇宙好き」という設定があるので、青、赤、白というNASAのロゴに使われている配色をモチーフにしています。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──なるほど!彼女の知的なムードとピッタリのカラーですよね。では、トレードマークである眼鏡やヘッドホンは、どのタイミングで決まったのでしょうか?

塩崎氏:
かなり初期からです

最初のデザイン案には眼鏡がなかったのですが、赤い眼鏡をパパッと書き足した差分を作ってみたところ、周囲から「眼鏡があったほうがいい!」という強い推しがあって採用されました。眼鏡を赤にしたので、色味を合わせてヘッドセットや服のアクセントにも赤を入れて、キャラクターを固めていきました。

あと、彼女は意外と身長が高いんですよ。170cmくらいあります

──えっ、それは意外です。155cmくらいの小柄なイメージでした。

塩崎氏:
萌え感を抑えて、少し大人びた、あるいは「ニヒルなお姉さん」という初期の印象を残したかったんです。

先日、Steamでアップデートのお知らせといっしょに出したバナーがわかりやすいです。この画像を出したとき、ユーザーの間でも「サトネって実は高身長なのか?」と少し話題になったんです。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──サトネのデスク周りには、執筆中の紙の束にくわえてラジカセなどのアナログな小物が置いてあるのも印象的ですよね。

塩崎氏:
サトネには「アンティーク収集癖がある」という設定があるんです。

──それは初耳です!そうだったんですね。

塩崎氏:
古いものって「チル」ですよね。コーヒーマシンやラジカセなどは、彼女が自分の落ち着く空間を作るために集めたもの……という設定があります。

じつは画面を広げると、端の方にオルゴールも置いてあるんですよ。

──机の上のオブジェクトにまで、しっかりサトネの実在性が宿っているんですね……。ではもっと内面的な部分、彼女の細かな仕草や表情についてはどのように決まっていったのでしょうか?

藤森氏:
まず、ベースとなる「人見知りで、トラウマを抱えている少女」という性格は、シナリオ担当と企画の立案者が話し合って決めたものです。

サトネのトラウマは、過去に自分の書いた本が売れたことで、高まった周囲の期待に応えようとして「ウケる」作品を書こうとするうち、何を書けばいいかわからなくなってしまった、というものです。

──このトラウマも、重たすぎないけれどすごく切実な、リアルなラインですよね。

藤森氏:
そんな人付き合いが苦手な彼女だからこそ、演出面では「カメラ(プレイヤー)をあまり見ない」ことを徹底しました。特に序盤は目が泳いでいたり、伏せ目がちだったり。そうした距離感をモーションで表現することで、リアリティが増したと思っています。

『Chill with You』インタビュー:30万本売れた

──たしかに、ストーリーが後半になるにつれてサトネが心を開いてくれている感じがします。実際にそのように演出されていたんですね。声のキャスティングについてはいかがでしょうか?

藤森氏:
当初は有名なアイドル声優さんにお願いする案もありましたが、予算の関係やコンセプトの変化を経て、最終的には舞台俳優としても活動されている方にお願いしました。

──素朴でかわいらしい、サトネらしい声ですよね。

藤森氏:
このゲームはプレイヤーが画面を見ないという、特異なプレイを想定しています。

だからこそ、作業の邪魔にならない、雑音にならない声である必要がありました。アニメチックなキャラクター感よりも、現実的でスッと違和感なく抜けていくような声を重視したんです。

じつは、サトネの声には加工も施しています

──サトネの声に「生っぽさ」が少ないのは、それが理由だったんですね。

藤森氏:
当初は、声を加工すればキャラクターボイスを「CV:サトネ」と表記できる、それが演出として面白そう、という考えから声を加工することに決めました。

出発は「CV:サトネ」表記をやりたかったからなのですが、サトネの声を固めていく段階で、アニメチックな声を消したり、あえて平坦にしたりといった素朴さを演出するための作業がしやすかったんです。結果的に、加工することに決めてよかったと思いました。

1

2

編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
編集者
3D酔いに全敗の神奈川生まれ99’s。好きなゲームは『ベヨネッタ』『ロリポップチェーンソー』『RUINER』。好きな酔い止めはアネロンニスキャップとNAVAMET。
Twitter:@d0ntcry4nym0re

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ

インタビュー

インタビューの記事一覧