イシイジロウ氏が総監督を務める”渋谷実写アドベンチャープロジェクト”『シブヤスクランブルストーリーズ』(以下、『SSS』)。
昨年、クラウドファンディングサイト「うぶごえ」で実施したクラウドファンディングで、5475万4878円という支援金を集めたが、「うぶごえ」から2700万円以上が未払いという前代未聞の事態が発生した。現在も未払い金は支払われておらず、うぶごえのサイトは閉鎖状態に。また、うぶごえからは何の声明も発表されておらず、状況は好転していない。
『SSS』はクラウドファンディング第2弾を実施することをイシイ氏が公言しており、支援者にもその旨がアナウンスされていた。「クラウドファンディングプラットフォームをどうするのか?」と、その動向が注目されていたのだが、6月26日に大手クラウドファンディングプラットフォームであるCAMPFIRE(キャンプファイヤー)にて実施されることが発表となった(第2弾クラウドファンディング期間は7月1日〜7月31日)。
「うぶごえ」の未入金問題に対して大きな憤りと落胆を感じていたイシイジロウ氏だが、どのような思いで第2弾のクラファンを実施することを決めたのか。また、うぶごえ未入金問題と同様の事態が発生しないよう、なにを重視したのか? なぜプラットフォームにCAMPFIREを選んだのか?
電ファミ編集部はイシイ氏と、CAMPFIREのエンターテインメント・サポート管掌 執行役員である藤原裕樹氏に話をうかがった。

聞き手・文/豊田恵吾
「うぶごえ」で起こった未入金問題は、収納代行という仕組みの構造的課題。重要なのは、その上でいかに信頼関係を築くか
──本日はよろしくお願いします。まずは『SSS』のクラウドファンディング第2弾をCAMPFIREさんといっしょにやられることになった経緯を教えてください。
イシイジロウ氏(以下、イシイ氏):
我々がいま制作している『SSS』プロジェクトでは、昨年「うぶごえ」にてクラウドファンディングを実施しており、第1弾のクラファンが終わった時点で第2弾のクラファンを行うことを宣言していたんですね。ただ、以前のインタビューでもお伝えさせていただいたとおり、「うぶごえ」から2700万円以上の支援金が未払いという事態が発生してしまい、「第2弾のクラファンをどうするのか?」ということをプロジェクト内部でも議論していました。
「うぶごえ」で続けることは不可能だろうと当初から思っていましたので、「ほかに信用できるクラウドファンディングのプラットフォームはあるのか?」、「同じようなことが本当に起こらないのか?」と、いろいろと調べましたし、本当に悩みました。調べれば調べるほど、「今回起こったことはクラウドファンディングが抱える根本的な問題であり、100%回避するのは困難」ということを思い知りました。
そのため、自分たちで新たにクラファンプラットフォームを立ち上げるぐらいのことをしないと、お客さまに対して本当の安全は提示できないのではないか? とずっと悩んでいたんですね。
そんなときにCAMPFIREさんからメールでご連絡をいただいたんです。「今回の件(「うぶごえ」未入金」の件)について、たいへん心配しております。CAMPFIREではこのような事態が起こらないような体制を組んでおり、そのことについて一度ご説明する機会をいただけませんか」とご連絡をいただいて。
最初にお話をさせていただいたときは、第2弾のクラウドファンディングのご相談などは行わず、CAMPFIREさんから自社のプラットフォームの安全性について、詳しくご説明をいただいたんです。
内容としては「資金管理が独立していること」、そして「CAMPFIREでは同じ事態は起きません」ということでした。そのときのご説明で「「うぶごえ」は資金管理が独立していなかった」ということを理解しました。
これは極論となりますが「ブラットフォーム会社の倒産や天変地異が発生するなど、本当にどうしようもないことが起こってお金が出せなくなった場合、その責任がどこにいくのか?」ということをうかがったんですね。
その際、「起案者側に責任が発生します。それは収納代行の構造的な問題であるため、回避はできません」という回答をいただきました。「お客さまに対して説明する方法はないでしょうか?」ということも問いかけ、「それに関しては答えがなく、資金を独立して別管理を行っているので信じていただくしかありません」とのことでした。
つまり、これはクラウドファンディング業界に限った話ではなく、収納代行という仕組みを利用するすべてのサービスに共通する構造的な課題だということです。不可抗力の事態が起きた際、最終的な責任の所在がどこになるのか。私たちはその前提を理解したうえで、いかに信頼関係を築くかという本質的な問いを突きつけられたと感じています。
プラットフォーム側に不測の事態が発生するかもしれないという不安を、いかに払拭できるのかという議論をCAMPFIREさんと重ねまして、「CAMPFIREさんであればお客さまの不安を限りなくゼロにできるのではないか」と判断し、クラファン第2弾をCAMPFIREさんで実施することを決定しました。
──「うぶごえ」の未入金問題が起こったあとですから、「クラファン第2弾は実施しない」という選択肢もあったと思うのですが……。
イシイ氏:
おっしゃるとおり、「第2弾はやらない」という選択肢は最初に考えました。ですが、それは起案者側の問題なんですよね。応援したい、支援したいと思ってくださっているお客さまのことを考えたときに、やはり第2弾をやるべきだと考えたんです。
また、第1回のクラウドファンディングは準備不足だったところもあり、お客さまの「これが欲しい」という要望に対して満足いただける提示ができていなかったんですね。そのため、「来年、必ず第2弾をやります」とお約束をしていて、お客さまは期待を持っていただいていると強く感じていたんです。
「クラウドファンディングと違う形で実現する方法はないだろうか」など、本当にいろいろと悩みました。たとえば、ECサイトのようなものを立ち上げてリワードにあたるものを商品として販売するとか、Game Creator Finding(東急不動産・Skeleton Crew Studio)の協力をいただいてクラウドファンディングのプラットフォームをゼロから新規に立ち上げるとか。
ただ、自分たちで新規クラウドファンディングプラットフォームを立ち上げるには、別のリスクが発生してしまうんですね。じつは、そのあたりもCAMPFIREさんに教えていただいて。そういったやり取りをCAMPFIREと続けさせていただく中で、ご説明いただいた内容にも納得できましたし、本当に真摯に向き合っていただいたことから「CAMPFIREさんは信用・信頼できるのでは?」と感じたんですね。
私ども起案者側がプラットフォームを信じるということと、お客さまがプラットフォームを信じるというのはまた別の話になりますので、起案者側とプラットフォーム側の両者が強固に協力し、「お客さまの信用を改めて得ること」がつぎのステップだと考えたんです。
クラウドファンディングは作り手にとっては重要な「選択肢」。自分たちが信じることで信頼を取り戻さなければ、それが閉ざされてしまう
──「うぶごえ」の件では、イシイさんは被害者じゃないですか。それでもなお「クラファンをもう一度やろう」と決断したのは、クラウドファンディングという仕組みそのものが持つ「お客さんとの距離感、一体感」が代え難いものだからという考えもあるのでしょうか?
イシイ氏:
以前のインタビューの中で「自分たちでクラファンをやることも検討している」と発言したのは、未入金が発覚した直後だったため「クラウドファンディングのプラットフォームは信じられない」と疑心暗鬼になっていたからなんですね。
「自分たちでやる」というのは、「クラファン業界を一切信じていない」というメッセージにもなってしまうことから、「それで本当にいいのだろうか?」と、すごく悩みました。そんなときにCAMPFIREさんとお話をさせていただいて、「クラファン業界を信じなかったらエンタメが世に出る方法のひとつを閉ざしてしまう」と強く感じたんですね。仮に自分たちで新たにクラファンを立ち上げて成功したとしても、つぎにはつながらないわけです。私たち起案者側がプラットフォームを信じ、クラファン業界そのものの信頼を取り戻さないと未来がないと思ったんですね。
クラウドファンディングの可能性は、広がり始めた当初からずっと感じています。私自身、2014年にKickstarter(キックスターター)で『Under the Dog(アンダー・ザ・ドッグ)』【※】というアニメーションのクラウドファンディングを実施していますので、クラファンの意義や価値については最初期から注目していました。
『Under the Dog』では当時の日本円で約1億円ほどの支援を集めたのですが、実現するのにすごく苦労したんですね。実際に1億円を集めたからといってアニメが簡単に作れるわけでもなく、海外対応での税金の問題などもあり、実際に制作費として使える額はかなり少なかったんです。でも、支援者さんからすると「1億円のクオリティの何かが生まれる」と思っているわけで……。「お客さまが望むものは何か?」、「お客さまの期待にいかに応えるのか」ということに向き合いながら何とか形にしたのですが、たいへんだったと同時に、実現できたときのよろこび、そして自分たちがクライアントやスポンサーを気にせずに自由に作れたという実感がずっと残っているんですね。
いまはインディーゲームの勢いがすごくありますから、クラウドファンディング業界が萎縮したり、縮小したりしてしまったらゲーム業界、エンタメ業界にとってはマイナスでしかない。大手の会社さんから生み出される作品がある一方で、お客さまから直接支援していただく形で新しい作品を生み出せる環境があるというのは、作家・クリエイターにとっては大きな強みなんです。「いざとなったらお客さまから直接支援いただいて作れる」という選択肢があることが重要というか、作り手のためにはクラウドファンディングという仕組みはあるべきなんですよね。
※『アンダー・ザ・ドッグ』……2014年に、アメリカのKickstarterでクラウドファンディングを募ったアニメ制作プロジェクト。当時、アニメ作品としては歴代最高額である約88万ドル(約9700万円)を30日間で約12000人から集め、本編制作まですべてユーザーの力で行った。
──『SSS』がインディーゲームであることもそうですし、クラファンを通じて新しい才能が出てくる場所を失いたくないということですね。
イシイ氏:
たとえば、1000万円といったサイズ感であれば、クラウドファンディングとは関係なく、自費での制作はもちろん、インディーを支援する会社さんからサポートいただけることがあると思うんですね。一方、AAAクラスのタイトルだと、何十億円、何百億円という超巨大なプロジェクトになってしまう。
その中間というか、1億~2億円くらいで作れそうな「おもしろい企画」を思いついても、制作費が都合できるバジェットの場があまり多くない。そして、この中間のタイトルはクラウドファンディングと相性がとてもいいんです。1億円と言わないまでも数千万円であれば、お客さまからの支援を得られる確率が高いですし、『SSS』がGame Creator Findingを通じて支援を得たように、サポートも取り付けやすい
しかも、クラウドファンディングであれば、スポンサーの言いなりではなく自分たちが制作内容についてコントロールできる。「実写ADVにはお客さまがいない」といった理由で、この20年くらいは大手の会社さんも二の足を踏んでいたわけです。
「新しい実写ADVを遊びたい」というお客さまからの熱心な声があって『SSS』は立ち上がりました。それを証明する場所としてクラウドファンディングはまさにうってつけだったわけです。ですので、お客さまの熱量を消してはいけないですし、それが実現できるクラウドファンディングという場所を失ってはいけないと思っています。
CAMPFIREでは資金管理を徹底して分離。権限の分譲やシステムによる自動化、内部監査によるチェックなどでトラブルを防ぐ
──CAMPFIREさんは同じクラファンプラットフォームとして、「うぶごえ」の未入金問題をどう捉えていたのですか? また、イシイさんへ連絡をされたきっかけはどういったものだったのでしょうか?
藤原裕樹氏(以下、藤原氏):
他社さんのことについては明言できないことも多いのですが、CAMPFIREのプロジェクト起案をいただいている方々から「CAMPFIREは大丈夫ですか?」というお声を数多くいただきました。そういったことからも、クラウドファンディング業界全体として私たちが取り組むべき問題だと捉えたのが起点です。
イシイさんのインタビュー記事を拝見して共感しましたし、経営レイヤーの号令で動いたものではなくて、エンタメチームの総意として「私たちがやるべき仕事ではないのか」と考え、イシイさんにお声がけをさせていただきました。
──CAMPFIREさんがイシイさんに連絡したのは、「『SSS』のクラファン第2弾をいっしょにやりましょう」というものではなく、あくまでクラウドファンディングの安全や安心をイシイさんに改めてお伝えしたいというところでのアプローチだったのですか?
藤原氏:
まさにそうです。最初にお話させていただいたときはその点に終始しまして、「具体的にどのようにお金を分けて管理しているのか」、「どう権限管理をしているのか」、「外部の監査をどうやっているのか」といった具体的なお話を、法務部分も含めてお伝えさせていただいきました。
イシイ氏:
クラウドファンディングのプラットフォームは「お金を預かるお仕事」だと思っていたので、すべてのプラットフォームさんが当たり前のこととして資金管理を分離していると思っていたんですね。
会社によっていろいろなやり方があるとは思うのですが、「一部のプラットフォームはちゃんとできていない」ということがわかり、衝撃を受けました。業界として当たり前だと私が思っていたことを、改めて丁寧に説明していただいたんですね。
──「資金管理を分離している」という点について、もう少し詳しくお話しいただけますか。
藤原氏:
大きく3つのポイントで整理をしていまして、ひとつが「お金の管理方法を変えている」ということです。「CAMPFIREの固有財産」と「プロジェクト起案者への「預かり金」」の扱いに関しては、明確に分離しております。これは経理上もそうですし、資金の管理方法についても厳格に分けているということです。
藤原氏:
それをどう運用して、実際に支援者だったり起案者にお金を送っていくのかというのが、資料中央の「安心・安全を担保する運用体制」というところになります。
「分別管理と権限分掌」を徹底し、預かり金は物理的に別の銀行口座に分けるとともに区分して経理しています。資金移動する者の権限も限定しておりますので、たとえば弊社の取締役であっても自身の権限では資金移動できないようになっているなど、権限を明確かつ厳格にしています。すべての資金移動において複数名での管理体制を敷いており、担当者による「申請」と別の管理者による「承認」という、二重のチェック機能を持たせております。
「帳簿管理と支払い条件の明文化」に関しては、銀行口座を分けていたとしても、最終的にお金はひとつの塊として銀行で管理されてしまうのですが、帳簿上で明確に「Aのプロジェクトはいくら」、「Bのプロジェクトはいくら」と分けております。どのプロジェクトのお金がどう管理されているのかを明文化しているわけです。
支払い条件に関してはおもに利用規約の話なので他社さんでもやっていることではあるのですが、「こういう条件になった場合にはお支払いをします」とか、「もし履行されなかった場合には返金をします」ということを明文化しています。
「システム連携による自動送金」は実際にお金を送るときの話でして、決済代行会社から送る形となるのですが、その支払いにおいても複数名で必ずチェックをして送金を行っています。また手作業ではなく、システムで自動生成されたデータに基づき、承認がなされれば自動的に送金されるという仕組みを、今回の問題が発生する以前からCAMPFIREでは導入しております。
「内部統制とガバナンス」については、ここまで述べてきた仕組みの実効性を内部監査部門が定期的にチェックしており、起案者に対する未払金の存在やその残高について外部の監査法人による監査も実施されています。ですので、もし万が一の事態があった場合でも、独立した立場から、迅速に指摘がされ、是正される体制を整備しています。
明確に私たちが資金を重要に管理してちゃんとお渡しできるような状態にしている、そういった取り組みを行っているというお話を、イシイさんに行わせていただきました。
──支援者からのお金がそのまま起案者に渡される。しかも権限を分掌しているし、内外の監査がチェックしている。「うぶごえ」の未入金問題のようなことは発生しない形で管理されているということですね。
藤原氏:
はい、そのとおりです。私たちCAMPFIREはこういった形で管理をさせていただいております。
──これぐらいしっかりやっていらっしゃるクラウドファンディングプラットフォームというのは、ほかにあまりないのでしょうか。
藤原氏:
口座分離や経理を分けるというのは、購入型・寄付型クラウドファンディング連絡会にて、業界全体としても推奨しているものです。それに加え、CAMPFIREでは権限分離や内部統制、あとは不正な資金移動を防ぐ厳格なシステム管理や外部監査の導入などは独自により強化している部分ではあります。
お金の事故のリスクを極力減らすために、短期間のクラファンを2回に分けて実施することを選択
──イシイさんの中で、今回CAMPFIREさんといっしょにやることを決めた、最大のポイントはどこにあったのですか。
イシイ氏:
まず、「お金の管理・運用について信用できる」ということ。そして、これがいちばんのポイントになるのですが、打ち合わせを重ねたうえで「リスクを減らすために資金の移動を短期間で行う」という方法にたどり着いたんですね。具体的に言うと、今回のクラウドファンディングは1ヵ月単位で行います。
7月1日から7月末までに最初のクラウドファンディングを行うのですが、この1ヵ月間に集まった支援金は8月31日に入金されるんですね。その入金が確認できたら、9月1日からもう一度クラウドファンディングを実施します。1ヵ月という最短期間での実施とすることで、プラットフォームにお金が滞留しない状態を作り、事故が起こる可能性を減らすというものになります。
CAMPFIREさんとは「クラファンの途中で入金ができないのか」、「プラットフォーム側に問題が発生したときの保険をかけられないのか」といった議論もさせていただきました。
お客さまの負担が増えず、時間がかかりすぎず、かつお客さまが安心できる方法は? その点を議論していく中で「1ヵ月単位で実施する」という方法にたどり着いたんです。このアイデア出しをいっしょにやっていただいたということもあり、私自身がCAMPFIREさんを信用できると感じたんですね。
──イシイさんとしては、もともとは数ヵ月単位のクラファン実施を考えていたのですか?
イシイ氏:
当初は2ヵ月の期間を考えていました。募集期間を2ヵ月にし、1ヵ月単位で入金を行うことはできないかと相談させていただいたのですが、その形は難しいということで、最短の1ヵ月での実施を2回に分けて行う形となっています。
資金が滞留して事故が起こったときに責任が起案者側に来てしまうという収納代行として回避できない問題があるのですが、そのリスクを軽減させるために滞留時間を短くしようというものです。
──CAMPFIREにおけるクラウドファンディングで、1ヵ月の期間というのは最低の単位になるのでしょうか。
藤原氏:
CAMPFIREで推奨している最短期間が30~45日となっていますので、期間が1ヵ月というのは特別なことではございません。ただ、基本的にはある程度、期間は長いほうが支援は集まりやすい傾向にあります。ですので、最初はイシイさんに「2ヵ月がよろしいのではないか」という提案もさせていただきました。単月ごとの実施は過去の事例としてもございますので、そういったことを踏まえて今回の実施方法に定まりました。




