いま読まれている記事

完璧で弱点のないキャラクターは、退屈なだけ。弱さや欠点があるからこそ、よりおもしろく、楽しいものになる──アニメとゲーム、ふたつの現場が同じ答えに辿り着いていた【『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談】

article-thumbnail-260902a

1

2

3

亀山監督の理想は「マンガ家の先生」のようなポジション

──亀山監督には、「より大きな予算で作品を作ってみたい」というようなビジョンはありますか?

亀山監督:
そういう現場に行きたいかといえば……行きたくはないですね。疲れるだろうなと思います。学生時代に部活動などを経験してこなかったこともあり、チームワークというものが非常に苦手で……。その点については、絶賛悩み中です。

ただ、作りたい作品やストーリーがあるのもたしかです。それらはさすがにひとりや小規模な体制で実現できるものではないので、将来的には規模を拡大して展開していかなければいけないのだろう、とも感じています。

──ゲーム業界の話をすると、大手メーカーに所属している方は「サラリーマンであり、クリエイター」となるため、手がけた作品がヒットするとどうしても立場が上がっていき、ものづくりだけでなく経営やマネジメントを求められるケースが多く……。

亀山監督:
そういったケースは本当に避けたいと思っています。

もっとも理想的なのは、マンガ家の先生のような立ち位置ですね。アシスタントの方に作業を振り分けることはあっても、クリエイティブの根幹をみずから担い、作品を作り続ける本質は変わらない。規模の大小にかかわらず、そうした本質的な役割を維持できるような変化が理想的だなと考えています。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_038

──『ミルキー☆サブウェイ』からはまさにそういった見え方を感じました。YouTubeで公開されていく新しい連載マンガの形と言いますか……。

亀山監督:
PC1台でできることが現代ではどんどん増えていて、映像制作のハードル自体が下がっています。その結果を見ると、これまでのマンガを描くような感覚でアニメも作れる時代になってきているのではないか、ということをたしかに感じていました。

だからこそ、『ミルキー☆サブウェイ』がそうした制作スタイルの先駆け的な作品になればいいなという思いはありましたし、実際にそういう意識で作っていた部分もあります。

──個人で制作されている2次元のマンガはたくさんありますが、3DCGでそれをやっている『ミルキー☆サブウェイ』に新しさを感じたんです。

亀山監督:
個人や小規模だからこそ持てる自由度や勢いというのも確実にありますよね。日本のマンガ文化はジャンルも非常に豊富で、すばらしいメディアだと感じています。だからこそ、アニメもそういった形で作品が増えていけばいいなと考えていました。

ただ、ビジネス面のことを考えると、そこまで簡単な話ではないんだなと実感する部分もあります。今回はなんとか完成まで持って行けたから良かったものの、毎回同じようにうまくいくかどうかはわからないな……というのが正直なところです。

ジェイコブ氏:
それはとても難しいことですし、この数年で僕たちが学ばなければならなかったことでもあります。『オービタルズ』も最初のころはふたりとも細かいフィードバックばかり出していて、そのせいで制作がなかなか前に進みませんでした。あまりに細かい部分に時間を費やしすぎていたんです。誰かに自分のビジョンを託して任せるというのは、とても怖いことなんですよね。

マルコス氏:
もともと僕たちはふたりとも現場タイプ……つまり実際に手を動かして作る側の人間なんです。ですから、現場で手を動かすことをやめるというのは、僕たちにとってこれまであまりに当たり前だったぶん、奇妙な感覚がありました。

現場から離れることが求められるわけですが、あらゆるタイミングで「自分で描けるのに」と感じてしまう。やっぱり、どうしても現場に関わりたくなってしまうんですよね。

ジェイコブ氏:
やり方はわかっているんです。でも、さっき言ったように、すべてを自分でやるには1日の時間が足りないんですよね。

亀山監督:
おふたりは、1週間でどれくらい会議があるのでしょうか?

マルコス氏:
勤務時間の半分は会議ですね。2日半は完全に人と話すことに費やしていて、週によっては3日ほどになることもあります。

亀山監督:
なるほど。では、実際に絵を描いたりクリエイティブなものを作ったりする時間は、週の半分ほどなんですね。

マルコス氏:
ただ、それもプロジェクトのフェーズによります。いまは仕上げの段階なので、僕たちが直接手を動かす作業はそれほど多くありません。

どちらかといえばプログラマーやQAテスターの領域で、僕たちはテストプレイこそするものの、なにかを新規に制作しているわけではないんです。

一方で、プリプロダクションの段階であれば、アイデア出しやドキュメント作成が中心になります。時期によって変動するので、つねに一定の割合で会議をしているわけではないですね。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_039

亀山監督:
実際の制作以外で、お互いを知ったりチームの仲を深めたりするために、何か取り組んでいることはありますか?

マルコス氏:
パーティーのような大げさなノリではありませんが、家族のような自然な関わり方ですね。

ジェイコブ氏:
オフィス全体が、すごく社交的な雰囲気なんです。いっしょに食事やランチに行ったりビールを飲んだり、仕事後にいっしょにゲームをしたりもします。

じつは、僕がShapefarmに入社して日本に来たいと思った理由のひとつが、まさにこのオフィスの雰囲気でした。みんなとても温かく歓迎してくれて、受け入れてくれる空気感があるんです。

マルコス氏:
沖縄でスキューバダイビングを習う会社全体の旅行があったんです。みんなで行けて、すばらしかったですね。そのあとにジェイコブが入社してきたのですが……。

ジェイコブ氏:
webサイトで「年に1回こういう旅行をします」という記載と沖縄の写真を見て入社を決めたんです(笑)。ですが、入社してみたらそれ以来一度も行けていなくて(笑)。

亀山監督:
ふだん、オフィスでは英語で会話されているのですか?

マルコス氏:
ほとんど英語ですが、プロジェクトの工程にもよりますね。たとえば声の収録を行う際は、キャストや音響エンジニアも含めて全員が日本人なので、すべて日本語で進行します。僕は現場に同席して、すべて通訳してもらいながら参加している状態です。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_040

ダサさは「ある種のリアリズム」

──失礼な言い方かもしれませんが、『ミルキー☆サブウェイ』も『オービタルズ』もオフビートというか、ダサかっこいいというか……ハズしのある独自のセンスで構成されていますよね。メジャー作品ではなかなか見られないこのセンスは、計算して狙ったものなのでしょうか。それとも個性を突き詰めた結果、自然と形になったものなのでしょうか? このセンスを言語化できたらうれしいなと思ったのですが……。

亀山監督:
意図的なのか、自分が作ると自然とそうなってしまうのかは、正直自分でもよくわかりません。ただ、あまりにかっこよすぎると、共感しづらい世界観やキャラクターになってしまうと感じています。

多少ずっこけるようなキャラクターのほうが、見ている側に親近感や安心感を持ってもらえますよね。すべてをかっこよくしてしまうと、かえって作品世界に入り込みづらくなってしまうのかなと思っています。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_041

──作品を構築していくときにあえて「隙」を入れている、と。

亀山監督:
そうですね。隙もありますし、ダサさというのはある種のリアリズムだと思っているんです。たとえば、すごくかっこいい街並みを見ると、たしかに綺麗だなと感じる反面、生気がなくて「本当にここに人間が住んでいるのだろうか」という違和感を覚えることがありますよね。

それよりも、多少汚れがあったりゴミが落ちていたりするほうが、オシャレではなくても「そこに人が生きている感覚」が生まれる。そうしたリアリティを生み出す意味でも、ダサさのような要素はある程度必要なのかなと考えています。

──『オービタルズ』はいかがでしょうか。

マルコス氏:
僕たちは、間違いなく非常に意図的に、そのように作品を作っています。考え方としては、「物語で起こることと辻褄が合う世界を作る」というものです。

作中では大きな宇宙嵐によって既知の社会が破壊され、わずかな生存者だけが残されます。僕はそうした生存者たちがどう生き延び、どうやって社会を再構築していくのかという物語にずっと関心がありました。

すべてが手つかずで美しかった繁栄の時代よりも、崩壊後の世界に惹かれるんです。自分たちの生活をもう一度立て直して、バラバラになった部品を寄せ集めて新しいものを作り出す、いわば「キットバッシュ」のような世界ですね。

家も船も、あり合わせの部品を組み合わせてキットバッシュできる。そういう生存者たちの物語であることが非常に重要でしたし、異なる要素を組み合わせる発想そのものにクリエイティブな面白さがあると思っています。

レゴブロックで遊ぶ感覚に近いかもしれません。「自分だけの船を作って、操縦席にはバイクのシートを取り付けてみよう」といったような。一見するとちょっと悲しい状況でありながら、どこか作る楽しさが同居しているんです。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_042

ジェイコブ氏:
これは、ゲームプレイ自体にも影響を与えていると思います。作中のキャラクターたちは何でもこなすかっこいいスーパーヒーローではなく、ゲームプレイの過程で何度も命を落とします。

ただ、僕たちはその失敗すらも楽しい体験にしようと意識してきました。

ゲームで死ぬと、お互いに笑い合う。死んだ瞬間にかっこよさが失われるのではなく、プレイヤーどうしで笑い合い、また挑戦したくなるような調整です。

つまり、行動や振る舞いにおけるキャラクターの「不完全さ」こそが、彼らをより親しみやすく親近感の持てる存在にしているのだと思います。

亀山監督:
それは、一般的なキャラクターデザインの考え方とも通じる部分ですね。完璧で弱点のないキャラクターは、退屈なだけです。なんらかの弱さや欠点があるからこそ、よりおもしろく、楽しいものになるのだと思います。

アニメの感触とゲームの手触りを両立させる。『オービタルズ』が「毎秒30フレーム」に着地するまで

──フレームレートやキャラクターの動きについては、どのように捉えていらっしゃるのでしょうか?

マルコス氏:
『オービタルズ』のフレームレートについては何度も議論を重ねてきましたが、着地点を見出すのが難しいテーマです。というのも、「アニメらしい感触を与えること」「ゲームとしての手触りを保つこと」というふたつの要件を同時に満たさなければならないからです。

キャラクターが毎秒60フレームで1フレームずつ滑らかに動いてしまうと、情報量が多すぎてアニメではなくなってしまうんですね。一方、フレームレートを下げすぎてしまうと、今度はゲームとしての操作感や手触りが損なわれてしまいます。急にぎこちなく感じたり、反応が鈍く感じられる。

だからこそ僕たちは、プレイヤーに必要な情報を伝えつつ、アニメらしい感触も損なわない最適なフレーム数を模索し続けてきました。そうして辿り着いたのが、毎秒30フレームです。アニメーションによっては同じフレーム数で繰り返しの絵を減らして、ポーズを維持したりもしています。

キャラクター自体は毎秒30フレームで動いていますが、アニメらしい感触とゲームとしての手触りの両方で正解を出すため、試行錯誤を重ねています。

ジェイコブ氏:
環境の中のものは、最初にすべて毎秒12フレームで動作するよう設定し、速く動くものでカクつきすぎると感じたら毎秒24フレームに引き上げます。動くものに関しては必ずこの調整を行っています。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_043

フレーム数を選ぶこと自体が、アニメの美しさの一部

亀山監督:
フレームについては、最近アニメから学んだことでもあります。3Dアニメーションや古典的なディズニー映画などでは、どのシーンも毎秒12コマや24コマで作られていますが、テレビアニメ表現などではもっと柔軟に変化しますよね。

アクションシーンでは12コマ以上使ったりしつつも、日常シーンでは毎秒8コマ程度まで落としていたりする。その「どのフレーム数を選ぶか」という選択自体が、アニメ制作の美しさの一部なんです。選ぶこと自体が技術の一部であり、美しさの一部でもある。

子どものころには気づけなかったことでしたので、とても衝撃的でした。根本的には、おふたりが向き合われている課題と同じなのだと思います。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_044

マルコス氏:
まったく同感です。興味深いのは、僕自身がアニメを見ることにすっかり慣れてしまい、「必要がなければ動かない」という手法に馴染んでしまったことです。

だから最近の新しい映画を見にいくと、「動きすぎて情報が多すぎる」と感じてしまって……。

亀山監督:
昔のアニメーションはすべての絵が人の手によって描かれていましたから、とても美しいですよね。

マルコス氏:
ええ、本当に信じられない仕事量です。ゼロックス【※】が導入される以前の時代、たとえば『眠れる森の美女』のようなクラシックなディズニー映画は、僕が大好きな作品のひとつです。本当に美しいですよね。

※ゼロックス……アニメ制作において、鉛筆画をセル画へ転写するために用いられた静止画用の複写技術、およびその機械。1960年代にアメリカで導入され、それまで職人の手作業で行われていたセル画へのトレース工程を自動化・高速化させた。

マルコス氏:
もちろん、競技性の高いシューターのようなゲームではミリ秒単位の判断が求められるため、高フレームレートによる情報が必要になるのはわかります。

ですが、僕たちの場合はそうしたジャンルとは異なるパズル寄りの作品なので、高フレームレートの情報はゲームプレイに何ももたらさないんです。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_045

『オービタルズ』最大のインスピレーションは『新世紀エヴァンゲリオン』

亀山監督:
『オービタルズ』が強く影響を受けた作品はなんですか?

マルコス氏:
具体的な影響はたくさんあります。全体を通してもっとも大きなインスピレーション源となったのは、『新世紀エヴァンゲリオン』です。

VFXや登場するメカニックの美しさといった具体的な要素はもちろんですが、何より「制作者がやろうとしたことのすべてを、完璧に達成している点」に惹かれています。アクション作品でありながら、その内側にはとても人間的なドラマがあり、さらにその内側には哲学的な思想がある。

しかも、それらの要素が同時に成り立ったうえで、完璧に表現されている。そうしたプロジェクトを作り上げることができるのだと考えること自体が、僕たちにとって計り知れないインスピレーションになりました。

だからこそ僕たちも『オービタルズ』制作にあたり、同様のアプローチで臨むことに決めたんです。

感情的なドラマに興味がない人でも惹きつけられるような、かっこいいキャラクター、かっこいい船、かっこいい宇宙の冒険がある。それと同時に、キャラクターに共感し、愛着を持つことができる深い人間ドラマでもあり、何か言うべきことも持っている。さらにはプレイし終えたときに「これからはこういう選択をしていこうかな」と思えるような……。それが、いちばん大きなインスピレーションです。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_046

ジェイコブ氏:
マルコスは『新世紀エヴァンゲリオン』を愛しすぎていて、仕事をしていると動画を見せてきては「この爆発を見てくれ」、「この戦闘を見てくれ」と言ってくるんです(笑)。

それともうひとつ、本作の雰囲気に大きな影響を与えているのが『ドラゴンボール』です。あの冒険の感覚や、まったくデザインの異なるキャラクターがたくさんいること、そして軽やかでありながらも感情が高まる場面やシリアスな瞬間もちゃんと描ける点に影響をうけています。

マルコス氏:
『新世紀エヴァンゲリオン』は「どういうプロジェクトを作りたいか」という根本的なインスピレーションで、『ドラゴンボール』は「実際に描いている物語」のインスピレーションなんです。アクションのあるコメディ・アドベンチャーですね。

亀山監督:
トレーラーを拝見した限りでは、『エヴァンゲリオン』っぽさは感じられなかったので、それは意外でした。

ジェイコブ氏:
『エヴァンゲリオン』の影響は、もっと細かな部分に現れているんです。特定のアニメーションにおける爆発の描き方やレーザーの表現、あるいはキャラクターの感情描写といった部分です。

マルコス氏:
そうそう。エンディングまで観ていただければ、わかりますよ。

『ミルサブ』が全員ペアなのは、「話し相手がいるべきだから」

マルコス氏:
『ミルキー☆サブウェイ』を拝見していて、これは「社会の外側で生きる人たちの物語」だと感じずにはいられませんでした。

社会から拒まれた者たちが、まるで「家族」のようなコミュニティを形成していく。亀山監督におうかがいしたいのですが、こうしたテーマはご自身が大切にされているもの、あるいは意図して描かれていることなのでしょうか?

亀山監督:
「アウトサイダー」というテーマは、必ずしも念頭に置いているものではありません。

というのも、ベースになった短編アニメーション『ミルキー☆ハイウェイ』【※】のラストで、チハルとマキナが逮捕されてしまうんです。そこから物語を拡張していくにあたって、新しいキャラクターを自然な形で登場させようとした結果、必然的に犯罪者たちの物語になり、「そうした状況下に置かれた彼らに何ができるのか」という話になっていきました。

だから、最初から「アウトサイダーの物語を描こう」と狙っていたというよりは、展開上、必然的にそうなっていった結果なんです。

※『ミルキー☆ハイウェイ』……亀山監督が2022年に発表した自主制作のショート3Dアニメ。惑星間横断道路を舞台に、強化人間のチハルとサイボーグのマキナが繰り広げるSFコメディ。

マルコス氏:
自然なストーリーの流れの中で、結果的にそうなっていったんですね。

ジェイコブ氏:
僕はこれまで協力プレイのゲームをずっと作ってきたので、そこにはつねにペア、バディが存在していました。そして『ミルキー☆サブウェイ』にも、3組のペアが登場しますよね。

興味深いのは、僕が関わったゲームのひとつで、作中のキャラクターどうしの仲が悪くて、プレイヤーにとってそれがストレスになってしまったこと。キャラクターどうしが言い争っているのを聞かされるのが、プレイヤーにとってはフラストレーションになってしまったんです。

ですが『ミルキー☆サブウェイ』を観ていて感じたのは、キャラクターどうしがお互いを絶妙に補い合っているということでした。意見が食い違ったり、相手の振る舞いに賛成できない瞬間はあっても、根底では「いい相棒」だとしっかり伝わってくる。

この「違いを持ちながらも補い合えるキャラクター」は、どのようにデザインされたのでしょうか?

亀山監督:
キャラクターをペアにしているのは、「話し相手が必要だから」なんです。信頼関係が深ければ深いほど、お互いに本音で言い争えたりもしますよね。

アニメやゲームでキャラクターがひとりでしゃべっているシーンを見かけることがありますが、個人的にはとても奇妙で不自然に感じてしまうんです。ですが相棒が隣りにいれば、自分の考えや感情を口に出す必然性が生まれます。それによってセリフがぐっと自然になるからこそ、全員をペアという構成にしているんです。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_047
(画像は自主制作アニメーション『ミルキー☆ハイウェイ』本編 – YouTubeより)

マルコス氏:
すごく興味深い話ですね。というのも、西洋の脚本でも似たような原則があって、モノローグや説明的な自己対話は、物語の中で自然な流れとして組み込まなければならないとされているんです。

ですが、実際のアニメ作品などを見ていると、キャラクターが「こんにちは、僕の名前は〜」といったような説明的なセリフを直接しゃべってしまうケースも多い。だからこそ、亀山監督がそうした手法を意図的に避けて作られているというのはすごく興味深いです。

ジェイコブ氏:
本当に仲の良い友達には批判ができる、というお話はすごく共感できます。批判が友情を壊さないとわかっているから、正直になれる。それは、とても良い捉え方だと思います。

マキとオムラも親友で、お互いに正直になれるという関係性なんですね。言い争うけれど、それは友好的な形での言い争いだという。

──『ミルキー☆サブウェイ』はエンディングでキャンディーズの名曲『銀河系まで飛んで行け!』が流れて話題となりました。『オービタルズ』も日本語の歌が流れたりするのでしょうか。

マルコス氏:
発売前なので詳細はお伝えできませんが、こだわって制作していますので、ぜひ楽しみにしていてください。

亀山監督:
ほかに何か影響を受けた映画や作品はありますか?

マルコス氏:
『リメンバー・ミー』のミゲルとひいおばあちゃん(ママ・ココ)の関係性ですね。彼が彼女とどう接して、どれほど大切に思っているかという部分です。

ピクサーやディズニーの作品は、僕にとって本当に、本当に大きなインスピレーションになっています。

ジェイコブ氏:
僕の場合は特定の一作品というものはなくて……。マルコスはひとつのアイデアを掘り下げるために一作品に深く没頭して、いろいろな要素を取り入れつつも、強く思い入れのあるアイデアを形にしていくタイプ。僕は「この作品のこのワンシーン」とか「この瞬間」といったように、いろいろなところから断片的にインスピレーションを集めるタイプなんです。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_048

マルコス氏:
それから、僕たちはふたりともホラーが大好きなんです。ジェイコブはホラーゲームが好きで、僕はホラー映画が好き。

だから「この前見た恐ろしいものを、僕たちらしい表現にアレンジしてゲームに落とし込めないか」と思いつくことがよくあります。ただ、もちろんそのまま引用することは決してありません。あくまでその瞬間だったり、感触だったりを自分たちの作品に取り入れているんです。

亀山監督:
物語の舞台が宇宙であることや、おふたりがホラー好きだというお話がありましたが、そういった作品に影響を受けたエイリアンなどはゲームに出てくるのでしょうか?

マルコス氏:
僕たちの作中の世界には「エイリアン」という概念そのものが存在しないので、『エイリアン』の映画に登場するようなモンスターは出てきません。

ただ、「人間には理解できない有機体」というコンセプトや、正常の枠から外れているという意味でのエイリアン性──異質さのようなものは取り入れています。ただ、霊のようなイメージで、どちらかといえば神話に出てくる生き物のような位置づけですね。

マルコス氏:
生態や設定が用意された、いわゆるエイリアンという感じではないんです。

ジェイコブ氏:
おもしろいことに、ゲームプレイに関してのインスピレーションの多くは、映画やゲームからではなく、実生活のやりとりから来ているんです。協力プレイのゲームだからこそ、重要になってくるのはプレイヤーどうしの社会的なコミュニケーションなんですよね。

とても気に入っているセクションがあるのですが、着想は「混雑した駅を歩いているときの出来事」から得ました。向かいから歩いてきた人と鉢合わせて、お互いに避けようとしてふたりとも右に行き、ふたりとも左に行き、またふたりとも右に行って……という、あの現象です。

「これこそ誰もが共感できる瞬間だ」と感じたんです。そこで、ゲーム内にも取り入れることにしました。プレイヤーが「右に行こう、でも分かれる必要があるな」と考えて動くと、ふたりとも右に行き、左に行き、またふたりとも右に行く、という(笑)。

プレイヤーがその瞬間を体験したとき、過去に現実世界で経験したことがあるからこそ、心から共感できる。そうした日常の体験を、ゲームプレイのメカニクスとして使う方法を見つけたんです。

亀山監督:
そういった描写は、僕も100パーセント実生活から拾い上げています。まさに「共感できるかどうか」が鍵ですよね。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_049

海外のクリエイターだからこそ「Anime」を客観的に捉えている?

──ここまで亀山監督とお話をされて、いかがでしたか?

ジェイコブ氏:
今日の対話は本当にインスピレーションに満ちた時間でした。『ミルキー☆サブウェイ』を観たこと自体が大きな刺激になりましたし、たくさんの学びや「持ち帰れるもの」がありました。

いちばん大きかったのは間違いなく、「キャラクターどうしのやりとりが、いかに自然で共感できるものになっているか」という点です。協力プレイのゲームを作るうえでそこは非常に重要な要素。ですので、監督がどのような姿勢で作品世界に取り組まれているのかを直接うかがえたのは、興味深かったですね。亀山監督は本当にすばらしい仕事をされていると思います。

マルコス氏:
同感です。亀山監督は明確なビジョンを持っていて、それが作品全体をとおしてしっかりと感じられます。ひとつの作品として完成されており、「伝えたいメッセージ」があることを感じられて、かつそのメッセージが非常に明快なんですよね。

世の中のさまざまな作品に触れていると、尖りやクセが削ぎ落とされ、一般的なものに均されてしまったように感じることがよくあります。「この背後には声がないな」、「まるで委員会で作られたみたいだ」と感じるというか。

ですが、亀山監督の作品を観て、今日こうしてお話を聞いていると「この作品の背後にはひとりの人間がいる。意見と視点を持ったひとりの人間がいる」ということがはっきりとわかります。それが僕たちにとってものすごく大きな刺激になりました。

自分たちの意見と視点がしっかりと形になって表れるような、そういうゲームを作りたいと改めて強く思いました。本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_050

──最後に、この記事を読んで『オービタルズ』に興味を持ってくれた方、買おうと思ってくださっている方々へのメッセージを、それぞれお願いします。

マルコス氏:
僕からお伝えしたいのは、『オービタルズ』はアニメの客観的・科学的な再現を目指して始まった作品ではない、ということです。それよりも大切にしたのは「ある感覚」を捉えることでした。子どものころ、アニメを観るのが本当に楽しみで、観たあとには友達と分かち合う、あの感覚です。

僕たちが目指したのはまさにそれで、つねに「どうすればあの感覚を再現できるか」に立ち返りながら制作してきました。時にはアニメのルールをあえて無視して、「こっちのほうが良い感じがする」と思える表現を生み出すこともありました。それが、自分の少年時代と繋がっているからです。

ですから、もしいま僕が言っていることが響く方、子どものころにアニメを見たときの、あの感覚を覚えている方、あの感覚を大事に思っている方なら、『オービタルズ』はきっと楽しい時間になるはずです。

そしてぜひ、その感覚を共有できる誰かといっしょに遊んでみてください。ふたりでプレイすれば、きっと本当にかっこよくて特別ななにかを創り出せるはずです。

ジェイコブ氏:
僕にとって『オービタルズ』は、「人々を集めること」、「いっしょに楽しむこと」がすべてです。だから僕たちは、同じ瞬間を共有できて、同じ思い出を作れて、笑って、繋がって、お互いにもっと近づけるゲームを作りたかったのです。

ともに時間を過ごしたい相手がいるなら、いっしょにプレイすること自体を楽しんでもらえると思います。

──亀山監督は、今回の鼎談はいかがでしたか?

亀山監督:
かなり前にこのゲームのトレーラーを拝見したとき、「ここまで昭和アニメのテイストをゲームで再現できるんだ」という大きな衝撃を受けたんですね。すごい作品が出てきた、という印象でした。

てっきり日本の作品なのだろうと思い込んでいたのですが、今回の対談のお話をいただいて、海外のクリエイターが集まって制作されていることを知って驚きました。

というのも、海外の方が作る日本風の作品は、日本人から見るとどこか嘘っぽく感じてしまうことが多かったりもします。ですが『オービタルズ』に関しては日本のアニメに対する解像度が高く、嘘くささが一切なかったので、海外チームによって作られたということ自体が本当に衝撃的でした。

実際にお話を聞かせていただいて、本気でアニメが大好きな人たちが集まって制作していることがすごく伝わってきました。

日本人にとって「アニメ」という言葉は、ディズニー作品なども含めた「アニメーション全般」の単なる略称として使われがちですよね。ですが、英語圏での「Anime」はアニメーション全般とは明確に区別された、日本独自の表現スタイルやジャンルとして認識されています。日本にいると、アニメをひとつの独自の「ジャンル」として客観的に捉える機会は意外と少ないかもしれません。

海外のクリエイターだからこそ「ジャンルとしての「Anime」とは何なのか」ということを意識し、考えることが多いのだろうと感じました。アニメ表現に向き合い、本気で作られたこのゲームがいったいどんな内容に仕上がっているのか、ますます楽しみになりました。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_051

──ありがとうございます。『ミルキー☆サブウェイ』の今後の展開があれば、そちらもぜひお聞かせください。

亀山監督:
コミカライズなどのスピンオフ展開などが進んでいますが、2027年に新作としてショート作品を公開予定ですので、そちらもぜひ楽しみに待っていていただければと思います。

今日のお話にもありましたが、なんとか制作現場の体制を拡大して、より効率よく作品をお届けできるようがんばっておりますので、引き続き応援よろしくお願いいたします。

『ミルキー☆サブウェイ』亀山監督×『オービタルズ』開発陣鼎談_052


欠点や失敗、弱点があるからこそ、キャラクターや作品はよりおもしろく、楽しいものになる。

インタビュー中、「まったく同感です」という言葉が何度も飛び出したことがとても印象的だった。国もメディアも異なれば、制作方法も違う。ほぼひとりで作るアニメと、50人で作るゲーム。それにもかかわらず、辿り着いた答えは驚くほど重なっていたのだ。

どちらの作品も「レトロ」をそのまま再現しようとはしていない。捉えようとしているのは「感触」のほうだ。ブラウン管の電源ボタンの手応え、巻き戻さなければ始まらないVHS、カセットテープに指を噛まれる感覚──あの満足感を、ノスタルジーを、いまの技術で再構築しているのだ。

両作品が持つちょっと抜けたカッコよさには、そこに人が生きているような体温が宿っている。それは1980年代、1990年代のアニメの表現技法を徹底的に研究した線の1本1本に、あるいは気の置けない友人同士のハイコンテクストで高速な会話に表れている。

『オービタルズ』は9月3日発売。『ミルキー☆サブウェイ』は2027年に新作ショートアニメを控えている。「レトロ」をクールに解釈し現代へ持ち込んだふたつの作品を、ぜひそれぞれの画面で確かめてほしい。

1

2

3

副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。元ファミ通.com編集長。1990年代からゲームメディアに所属しており、これまで500人以上のゲーム開発者、業界関係者、著名人インタビューを手がける。1970年代後半からアーケード、PC、コンシューマーゲームにのめり込み、『ウィザードリィ』のワイヤーフレームで深淵を覗き、現在に至る。
Twitter:@Famitsu_Toyoda
編集者
3D酔いに全敗の神奈川生まれ99’s。好きなゲームは『ベヨネッタ』『ロリポップチェーンソー』『RUINER』。好きな酔い止めはアネロンニスキャップとNAVAMET。
Twitter:@d0ntcry4nym0re

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ