1980年〜1990年代のアニメーション、いわゆる「レトロアニメ」に心を奪われる人は多い。
当時をリアルタイムで体験していた人は、懐かしさやノスタルジーもあるだろう。だが、魅了されているのは80年代アニメ世代の方だけではない。
レトロアニメが有する、手書きセル画特有の温かみや表現の自由度、そして「新しいものに挑戦する姿勢」は、国内外を問わず、若い世代をも惹きつけている。
このレトロアニメの質感を見事に現代のアニメーション技術で再構築しているのが『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』(以下、『ミルキー☆サブウェイ』)【※】だ。
※『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』……2025年7月から9月にかけて、TOKYO MXおよびYouTubeチャンネル、各種配信サービスにて全12話が放送・配信。2026年2月には、シリーズを再編集、新作パートを追加した映画『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』が公開されている。
監督を務めた亀山陽平氏は、脚本・キャラクターデザインなども含めて、ほぼひとりで制作を手がけており、新たな才能の登場にアニメファンは歓喜の声をあげた。
一方、ゲーム業界でも「レトロアニメ」をリスペクトした作品が話題を集めている。なかでも注目を集めているタイトルが『Orbitals(オービタルズ)』(以下、『オービタルズ』)だ。
『オービタルズ』は80年代の日本アニメ風グラフィックが特徴のふたり協力プレイアクションゲームで、開発をShapefarm、販売をKepler Interactiveが手がけ、2026年9月3日に発売を予定しているNintendo Switch 2用ソフト。
The Game Awards 2025で発表され、そのビジュアルと「ふたりプレイ専用」というゲーム性が話題となっている。
『ミルキー☆サブウェイ』と『オービタルズ』は、「レトロアニメ」という要素のほか、キャラクターの描き方やペアという関係性、そして小規模制作ならではの「尖り」を有するという共通点がある。
そこで電ファミニコゲーマーでは、『ミルキー☆サブウェイ』を生み出した亀山陽平監督、そして『オービタルズ』ディレクターのジェイコブ・ルンドグレン氏、クリエイティブディレクターのマルコス・ラモス氏への鼎談を実施。

80年代アニメの魅力、キャラクターをペアで描くことの効果など、作品に関するあれこれを語っていただいた。また、懐かしくて、肩の力が抜けてて、超カッコいい──あの絶妙なハズしのセンスについても語っていただいているので、両作品に注目している方は必読だ。
「『ミルキー☆サブウェイ』の大ファンなんです」──『オービタルズ』開発陣と亀山監督が対面
── マルコスさんはアルゼンチン出身、ジェイコブさんはスウェーデン出身ということで、この鼎談は英語をベースに通訳をしながら進めさせていただきますが、亀山さんはアメリカに留学していた経験があるんですよね。
亀山陽平監督(以下、亀山監督):
はい、アメリカで2年ほど勉強していました。ただ、そのときはあまり人と話していなかったので、英語はそれほど得意ではないんです。カリフォルニアのグレンデールや、サンノゼに滞在して勉強していたのですが、すぐに帰国してしまいました。
もう10年も前のことですが、そのころはシリコンバレーがテック系で盛り上がりを見せていて、そのすぐ南に位置するサンノゼも盛り上がっていた時期に留学していたんです。
──なるほど。鼎談をスタートさせる前に、マルコスさん、ジェイコブさんも自己紹介をお願いします。
マルコス・ラモス氏(以下、マルコス氏):
『オービタルズ』のクリエイティブディレクター・アートディレクターを務めているマルコスです。『オービタルズ』のキャラクターや作中のオブジェクトなど、オリジナルのデザインをすべて手がけています。Shapefarmには8年ほど在籍していて、会社がまだとても小さかったころから参加しています。
そして僕たちはいま、最初のゲームである『オービタルズ』をようやく世に出そうとしているところです。
今日は亀山監督にお会いできてとてもうれしいです。『ミルキー☆サブウェイ』の大ファンなので、楽しい時間になると思います!
ジェイコブ・ルンドグレン氏(以下、ジェイコブ氏):
『オービタルズ』のゲームディレクション・メカニクスを担当しているジェイコブです。
Shapefarmには4年ほどいて、そのうち3年ほどは日本に住んでいます。ゲーム制作には、11年ほど携わっています。
根底にあるのは「1980年代・1990年代のアニメが大好き」。真似で終わらせないための下調べから始まった
──Shapefarmは、さまざまな国の方が集まっているゲームスタジオですよね。なぜ日本を拠点にスタジオを持つことにしたのでしょうか?
ジェイコブ氏:
いい質問ですね(笑)。Shapefarmはもともと「日本で仕事をしたい」、「日本でゲーム開発をしたい」という外国人のグループが集まって日本に法人を設立したスタジオなんです。
以前は、『サムライジャック』や『NARUTO TO BORUTO シノビストライカー』といったタイトルの下請けとして、さまざまなアートを提供したり、一部開発に関わったりしていました。
そこからKeplerさんというパブリッシャーと組むことになり、「ずっと下請けでいるのではなく自分たちから発信していこう」と考えて誕生したのが、『オービタルズ』のコンセプトです。
所属しているのはほぼ外国籍のメンバーで、「日本で働きたい人」や「日本で働いていてスカウトされた優秀な人たち」が集まっています。そして、彼らの根底にあるのは「1980年代・1990年代のアニメが大好きだ」ということなんです。だからこそ、自分たちで作るならそのスタイルで、何よりも愛を注いで作ろうと考えました。
「外国人が日本アニメを単に真似て作った」というレベルのものではなく、本当にアニメを熟知している人間が作ったものにするため、下調べや勉強するところからスタートしました。
そして本作で、STUDIO MASSKET【※】さんというアニメ制作会社さんにアニメーションを担当していただき、情報交換を重ねながらブラッシュアップを続けてきました。そうして約4年の歳月をかけて、ようやくリリースを迎える、というのが経緯になります。
※STUDIO MASSKET……2017年に設立された日本の作品企画・アニメーション制作会社。『オービタルズ』のアニメーションパートを担当している。
マルコス氏:
メインオフィスは東京にありますが、ニュージーランドにもうひとつオフィスがあるんです。さらにそれ以外にも、7〜8つの国からリモートで参加しているメンバーもいて、多国籍で多様なチーム環境ですね。
── 『オービタルズ』を制作しているスタッフは何人くらいなのでしょうか。
ジェイコブ氏:
開発を始めた当初は10人ほどでした。とても小さなプロジェクトで、まさに「インディー」と言える規模感からのスタートでしたね。
スタイルやゲームプレイを含め、すべてを手探りで固めていき、ゲームの構造が見えてきてからは、50人前後までチーム規模を拡大しました。
『聖闘士星矢』が教えてくれたこと──「男らしさだけがキャラクターのすべてじゃない」
──マルコスさんとジェイコブさんが1980年代、1990年代の日本のアニメに接したのはいつごろだったのですか?
ジェイコブ氏:
最初に観たアニメは、幼少期に土曜日の朝にスウェーデンで放送されていた『ポケットモンスター』でした。
そのあと、11歳くらいのときに『NARUTO -ナルト-』(以下、『NARUTO』)を勧めてもらって観たのですが、「わっ」と衝撃を受けました。
学校が終わると、友だちみんなで誰かの家に集まるんです。全員でパソコンの前に集まって、公開されたばかりの『NARUTO』最新話を観る。それが僕たちのお決まりになっていて、誰もが『NARUTO』を観ていて、誰もがその話をしていました。
それまでは、アニメは単に自分が観てかっこいいなと思うだけのものでしたが、『NARUTO』を観てから、自分にとっての「興味」になりました。
「今年はどんな新しいアニメが出るんだろう」とつねに探して楽しみにして、友だちと語り合う。そうやって、アニメが自分自身の人格の一部みたいになっていったんです。学校では「アニメの人」でしたね(笑)。
──『NARUTO』のどういった部分に惹かれたのでしょうか?
ジェイコブ氏:
ひとつは、当時の西洋の子ども向け番組と比べて『NARUTO』はアクション要素がとても大きかったことだと思います。
戦闘シーンや、そこで流れる音楽。ただ単にアクションがあるというだけでなく「見せ方(描き方)」が格別だったんです。
これは僕たちもよく議論するテーマなのですが、キャラクターがパンチを繰り出すときに、しっかりと大きな「タメ」があり、インパクトの瞬間のフレームが挟まる。とにかく、それが強烈にかっこよく感じられました。
いまでもそうなのですが、観ていて「かっこいい!」、「ワクワクする!」と感じた瞬間に一気に好きになってしまう。それが惹かれた理由のひとつですね。
もうひとつは、感情的な場面がたくさんあったことです。つい最近、第1話を見返す機会があったのですが、本作はかなり悲しいストーリーなんですよね。「この部分は覚えていなかったけどちゃんと描かれていて、しかもその描写がすごく効いているな」と思いながら観ていました。
すごくいいキャラクターと場面があって、同時にかっこいいアクションもある。その組み合わせが、当時の西洋の番組からは得られなかったものだったと思います。

マルコス氏:
僕がアニメを見始めたのは7歳ぐらいです。いまでも、人生で最初に観たアニメをはっきり覚えています。それが『聖闘士星矢』【※】でした。
当時観ていたどの作品とも、違う感じがしたんです。まずアクションがあって、そして何より、あのメロドラマ的なところが大好きでした。細身で、とても感情豊かで、お互いをすごく大事にしている男たちのグループですよね。
そして、「ヒーローというのは筋骨隆々で、あたりを歩き回って人を殴るような存在でなくてもいいんだ」と気づかされました。物理的に威圧的である必要はなく、泣いてもいいし、仲間を大切にする良き友人であってもいい。それでいて、同時に戦士でもある。その考え方に「うわ、これはすごい」と思ったんです。
※『聖闘士星矢』……車田正美によるギリシア神話をモチーフとしたバトルマンガ。1985年から『週刊少年ジャンプ』で連載された。女神アテナを守る「聖闘士(セイント)」たちの熱い戦いを描く。星座を模した防具「聖衣(クロス)」や、体内のエネルギー「小宇宙(コスモ)」を高めて放つ必殺技など独特の世界観が特徴。

ジェイコブ氏:
当時、僕たちが観ていた日本以外のアニメーション番組といえば『ヒーマン(He-Man)』【※1】や『ヘラクレス』【※2】のような作品で、登場人物がみんなムキムキだったんですよね。
マルコス氏:
『G.I.ジョー』【※3】とかね。
※『ヒーマン』……1980年代にアメリカのマテル社が発売した玩具シリーズ『マスターズ・オブ・ユニバース』の主人公。巨体と超人的な力を持つ戦士で、魔法の剣を用いて邪悪な敵スケルターから惑星エターニアを守るために戦う。
※2『ヘラクレス』………1997年に公開されたディズニーの長編アニメーション映画。ギリシア神話の英雄ヘラクレスをモチーフに、神の子でありながら人間界で育った青年が、本当のヒーローを目指して成長していく姿を描く。
※3『G.I.ジョー』……1964年にアメリカのハズブロ社が発売した男児向けアクションフィギュア、およびそれを原点とするメディアミックス作品。ミリタリー要素をベースに、国際特殊部隊「G.I.ジョー」と悪の組織「コブラ」の戦いを描く。
亀山監督:
「男らしさ」だけがキャラクターのすべてではない、ということですね。
マルコス氏:
まさに、まさにその通りです。『聖闘士星矢』にはとくに「男がこういうことをしてもいいんだ」と感じる瞬間がたくさんありました。
当時はこの作品からなにかを学んでいるという意識すらなく、無意識のうちにいろんなことを吸収していたんです。
「かっこいいな」と思って観ていただけだったのですが、あとになって「ああ、あの作品が自分の人格や、自分が描きたい、作りたいキャラクター像を形作っていたんだ」と気づきました。
間違いなく、『聖闘士星矢』は自分にとっての大きなインスピレーション源ですね。
亀山監督:
『オービタルズ』のタイトルロゴの見せ方で、真っ先に『聖闘士星矢』を思い出しました。
マルコス氏:
そうそう、まさにそれです!
そういう意味では、亀山監督の『ミルキー☆ハイウェイ』も『ミルキー☆サブウェイ』も、オープニングショットなどにレトロアニメのニュアンスが効いていますよね。
亀山監督:
レトロアニメといっても、いろいろありますよね。なにか特定の作品をそのまま元ネタにしているわけではないのですが、タイトルを立体的に光らせる演出や、『美少女戦士セーラームーン』2期のタイトルの出し方など、いろいろ参照しながら取り入れています。
マルコス氏:
私がスタジオに関わり始めた当初も30名ほどの規模だったのですが、その30名全員が入社して最初に出される宿題が「ひたすら昭和のアニメを観まくること」だったんです。
それぞれが好きなタイトルからインスピレーションを受け、自分たちのスタイルとして飲み込めるまでちゃんと観続けさせるという。そこは強くこだわりました。
ただの模倣やなぞりで終わらせないことをすごく意識しています。そういった部分は、亀山監督の作品作りの感覚とも通ずるのではないかと思います。
亀山監督:
つまり、ひとつの特定のタイトルをインスピレーション源としてアイディアを持ってきてしまうと、単なるオマージュや模倣にとどまってしまう、というわけですね。
そうではなくて、あの時代全体やさまざまな作品から受け取ったものが、本当におもしろいものを生むと。
マルコス氏:
まったくそのとおりです。僕たちにもさまざまなリファレンスがありますが、大きな部分は「自分たちが何者であり、何を大切にしているか」なんです。
ジョークやシーンを思いついたとき、それは特定のアニメの参照などではなく、純粋に「これ、めちゃくちゃおもしろいよね!」というノリ、自己投影が重要なんですよね。それが、『オービタルズ』をユニークな作品に仕上げている理由だと思います。
ほかの誰かがアニメ風のゲームを作ることはできるかもしれませんが、それは『オービタルズ』にはなり得ません。『オービタルズ』はShapefarmのゲームであり、それはShapefarmのクリエイターたちが作っているからこそです。それが、この作品のユニークさなんです。
ジェイコブ氏:
いまマルコスが話したことが、アートを作ること、ゲームを作ることに対する僕たちの基本的な哲学です。
よくチームで話しているのは「自分たちが個人的に大切だと思えないもの、好きになれないものは絶対に作らない」ということです。
ゲーム業界では、自分たちが本当にプレイしたいわけでも好きでもないけれど、「いまヒットして流行っているジャンルだから」という理由でゲームが作られるケースもありますよね。
でも、僕たちは違います。ゲームがチャーミングでおもしろいものになるためには、作る側の僕たち自身がワクワクして、本当に楽しめるものでなければならない。それが僕たちにとって、とても重要なことなんです。
『メタルスラッグ』は、史上もっとも美しいゲーム
──3DCG制作という視点での質問となりますが、亀山監督はゲームクリエイターの道を選ぼうと思ったことはなかったのでしょうか。
亀山監督:
ゲームはほとんどやらなかったんですね。小さいころ、実家にプレイステーションがあったのですが、4歳上の兄がプレイしているのを自分は横から眺めているだけというのがほとんどでした。
── 幼少期、駄菓子屋に置いてあった『メタルスラッグ』や『ファイナルファイト』を遊ばれていた、というインタビュー記事を拝見しました。
亀山監督:
『メタルスラッグ』だけはひたすら遊んでいたんです。
なぜあの作品がそこまで好きだったのかというと……アートがとにかくすばらしかったからなんです。絵作りだったり、小ネタみたいな遊び心がいっぱいあった。
ですから、ゲームとしてのおもしろさというよりは、絵的な魅力にハマっていたんですよね。ゲームだから好きというより、「絵が好きだった」という感覚に近いです。
ゲームを主体的にプレイするというよりも、人がプレイしているのを横で眺めたり、もしくは映画を観たりするような、わりと受動的な楽しみ方が多いタイプだったので、クリエイターとして「ゲームを作ろう」と考えたことはあまりなかったですね。

マルコス氏:
じつは去年、まさにチームで『メタルスラッグ』の話題があったんです。
「史上もっとも美しいゲームは何か」という議論がチーム内であったのですが、そのときの僕の答えが『メタルスラッグ』だったんです。本当に美しいゲームですよね。
亀山監督:
『メタルスラッグ』が、日本の外でそんなに人気があるとは知りませんでした……。
マルコス氏:
友だちといっしょにゲームセンターに行って『メタルスラッグ』、『メタルスラッグ2』、『メタルスラッグ3』、そして『メタルスラッグX』をよく遊んだのを覚えています。
──『メタルスラッグ』のように、亀山監督にとって印象深いアニメは?
亀山監督:
ハリウッドのカルチャーに結構大きな影響を受けています。最近になって「日本のアニメは楽しむのに教養が求められるな」と感じるようになったんです。
海外のアニメーションに比べて日本のアニメはヌルヌル動かない。ですので、フレーム数の少ない作画を、観る側が補完しなければならない。それが小さいころの自分には少ししんどい部分があって……じつはあまりテレビアニメは観ていませんでした。
『遊☆戯☆王』や『ポケモン』などは兄が観ていたので、とりあえず横でいっしょに眺めてはいましたが、ストーリーはぜんぜん理解していなかったんです。だから、日本の作品で観ていたものといえば、ジブリ作品のようなフレーム数の多いアニメーションが多かったですね。
──ディズニーやピクサーからの影響が大きかったのでしょうか?
亀山監督:
そうですね。むしろ20歳になって留学から戻ってきてから「もう少し日本のコンテンツを履修してみよう」という気持ちでいろいろと観始めたところがあります。
ですから、幼少期にすごくハマったアニメというのはあまりなくて……。20歳を超えてから観て、いちばんハマった90年代のアニメは『機動警察パトレイバー』【※】です。
※『機動警察パトレイバー』……ゆうきまさみや押井守らで構成されたクリエイター集団「ヘッドギア」原案によるメディアミックス作品。1988年よりアニメや漫画で展開された。作業用ロボット「レイバー」の普及に伴う犯罪に対処するため、警視庁に新設された「特車二課」の日常と活躍を描く。
「人がとても自然に喋る」をアニメに持ち込む。共感を生むのはキャラクター同士のやりとり
マルコス氏:
まさに『ミルキー☆サブウェイ』を観ながら、「撮影方法にハリウッド映画的なセンスがすごく表れているね」と話していました。カメラワークはもちろん、とくにタイミングはハリウッド的ですよね。
とてもリズミカルな作品で「これはタランティーノ的だな、1970年代映画的だな」と感じていました。
ジェイコブ氏:
とくに、オチの持っていき方というか、ジョークの見せ方にハリウッドらしさを感じました。
亀山監督:
そこは間違いなく、ハリウッドのコメディ番組などの影響です。
ハリウッド映画を原語で観ていたときに「登場人物がすごく自然な会話をする」と気づいたんですね。子どものころは吹き替え版で観ることが多かったので不自然さを感じていたのですが、オリジナルの言語で観たときに「こんなにも自然にしゃべるのか」と驚きました。
そして、日本のアニメや番組でもこういう会話劇をやるべきだと感じたんです。そのほうが視聴者がキャラクターにより共感しやすくなりますよね。そこは、意識して作品に取り入れた部分です。
ジェイコブ氏:
その試みは、本当に成功しているように感じます。
第1話を観終わって最初に気づいたことのひとつが、会話劇の自然さでした。キャラクターのしゃべり方がとても自然でライブ感がある。お互いの会話を遮ったり、相手の言葉に乗っかったりしている。個人的には、『ミルキー☆サブウェイ』でいちばん楽しんだのはキャラクターどうしのそういったやりとりです。
マルコス氏:
共感できるように作られているからこそ、観客が作品の中に自分自身を見い出せるんですよね。「ああ、自分も友だちとこんな風にしゃべるな」と思えるし、共感できる。相手はサイボーグだったりするのに、なんだか自分の友だちみたいに感じるというか。
ジェイコブ氏:
あの場面もそうですよね。「よし、私がここにいて、お前がここにいて、警備ロボがこう進んで……」と、マキナが拳をつかって説明しているシーン。
まさに、誰もが共感できる瞬間になっていて。まったく同じ体験をしたことがなくても、「ちょっとまって、どれがどうだっけ?」というリアルな空気感は、誰にでも心当たりがあるはずです。
亀山監督:
そこは実際、自分がつねに意識しているとても重要な部分です。
キャラクターは共感できるものであるべきですし、とくに相手がエイリアンやロボット、サイボーグだと、視聴者はどうしても遠くに感じてしまいがちです。
異なる存在であっても、観客が「自分と同じだ」と感じられる人間味がそこになければいけない。ましてや舞台が宇宙や銀河で、登場するのが人間ではないキャラクターたちであれば、なおさらです。
ジェイコブ氏:
『ミルキー☆サブウェイ』の会話劇についてもうひとつ挙げると、しゃべり方ひとつで誰と誰が良い関係にあるかが見えてくる点もすばらしいですよね。
全員に対して同じしゃべり方をするのではなく、メインのふたりが話すときはものすごくテンポが速くて、別のふたりが話すときは彼らなりの空気感や掛け合いがある。それだけで、キャラクターの人格が立体的に伝わってきます。
マルコス氏:
まったく同感です。じつは『オービタルズ』でも似たようなことをしているんですね。主人公であるマキとオムラは生まれてからずっといっしょに暮らしてきた、ほとんど兄妹のような関係なんです。
だから「おいマキ、あれを見ろよ」、「何?」、「あれだよ」、「ああ、なんだあれ」といった説明的なやりとりは一切描いていません。
「あれ、どう思う?」、「わかってる」で済んでしまうんですね。お互いを完璧に理解し合っているからこそ、そうした余分なコミュニケーションを省けるんです。
『ミルキー☆サブウェイ』を観たときに、その関係性を感じました。「ああ、このふたりは本当に幼いころから長くいっしょに時間を過ごしてきたんだな」と。
『オービタルズ』の褪せた色と強い白黒というカラーパレットがつくるのは、「夢のようなノスタルジー」
亀山監督:
いまおふたりがお話ししていたパートは、けっこう重要なポイントです。
レトロな作品、昭和のアニメには、いま話題にあげていただいたような、説明的でわざとらしいセリフがたくさんあったと思うんです。
でも、それをそのまま現代で再現してしまうと、観客は作品として素直に楽しめなくなってしまう可能性があります。
ですから、部分的には「あえて引き継がない」ようなところもあったりします。現代の視聴者に向けて、変えるべき部分は変えていくという選択こそが、いまの時代にあえてレトロなコンテンツを作るうえで重要な部分なのではないかと思います。
マルコス氏:
僕たちも似たようなアプローチをしています。1980年代のヒーロー像にはステレオタイプがあって、大抵決まったセリフ回しや特徴を持っているんですよね。
僕たちはそれを意図的に踏襲したくなかったんです。ステレオタイプに強い思い入れを持っていたわけでもないですし、何よりそれが現代の感覚に響くとも思えませんでした。
だからこそ、主人公のマキからはお色気要素のようなものを意図的に外し、プレイヤーが共感できる「ふたりのキャラクター」を描くことに集中しました。1980年代的なテイストを持ちつつも、共感できるキャラクターがふたりいるということ……それこそが僕たちの作品の核なんです。
亀山監督:
『オービタルズ』のトレーラーを観ていて気づいたのですが、『オービタルズ』らしい配色がありますよね。色の選び方が明確で、作品全体のトーンが統一されている。
実際のレトロアニメだと、そうした統一感がない場合もあって、色彩が少しカオスになりがちなんです。当時のものをそのまま再現すれば完璧というわけではなく、作品をより美しく見せるための現代的なアプローチが必要になってくる。
『オービタルズ』はそれができていると感じましたし、それこそが、いまの時代にあえてレトロなコンテンツを手がける際のポイントだと思います。
マルコス氏:
すばらしい観察眼ですね! その点を直接指摘されたのは初めてです。おっしゃるとおり、そこは意図的な判断でした。
やろうと思えば、赤い服の女の子に青い服の男の子、ポップで鮮やかなオレンジを使うような、派手で主張の激しい配色にすることもできたわけです。でも、色味を検討する際に日本の名作アニメのような少しパステル寄りの心地よく感じられる色合いを参考にしたんです。
それと同時に、力強い黒と白を取り入れてコントラストを生むことも意識しました。『オービタルズ』のカラーパレットは、色数は多くてもどこかノスタルジックに褪せていて、目に優しく心地よい。そこに締まった黒が入ることで全体に歯応えをくわえているんです。
まさに亀山監督の仰る通り、それが独特の感触を生み出しています。僕のイメージでは、顔に向かって叫んでくるようなポップな冒険譚ではなく、「夢のようなノスタルジー」なんです。
ジェイコブ氏:
これもマルコスが日頃から言っていることですが、僕たちがやろうとしているのはアニメの完全な模倣ではありません。
目指しているのは、あのころに感じた「感触」を与えることであり、そのためにはすべての要素を当時と寸分違わず同じにする必要はないんです。要点を正しく押さえつつ、それ以外の部分は現代に合わせてアレンジしたり、自分たちらしさを加えていいと思っています。
マルコス氏:
あのころの「感触」を捉えることが重要であって、単なる再現ではないんです。
亀山監督:
レトロなコンテンツのいい部分を取り出しつつ、いまの時代でも楽しめるものにしていく、ということですね。
















