ドラマは「見てみたかった」(マイディー氏)
――ここからはドラマの話に移らせて頂きます。
マイディー氏:
『光のぴぃさん』でも書いてますが、ドラマ化の前に怪しい書籍の話が何回か来てまして(笑)。その後、急に「テレビドラマにしたいんです!」とぴぃさんが来られたんです。
――『光のぴぃさん』でその出来事が綴られてますが、事実そのままなんでしょうか。
マイディー氏:
そのままですよ(笑)。本当に「200万でどうですか」という提案がありましたから。ただ、お金はそんなに問題じゃなかったんです。ドラマ化に関しても、儲かる儲からないではなく、単純に観てみたいなと思ったんです。だから断る理由はなかった。もちろん、ドラマ化のためにこれだけの資金を用意してくださいとか言われたら「いやいやいや」ってなりますが、「それに挑戦してもいいですか」という内容だったんで、僕にできることがあるなら協力しますと返事しました。
そうしたらぴぃさんが非常に驚かれまして……。元々は映画業界の方なんで、キャストや監督は誰なのか、ギャラはいくらなのか、権利はどうなるのか――そういう質問が来ると思ってらっしゃったようで、純粋に「観たいです」という返事を受けて、むしろこれは頑張らなくてはと思ったそうです。
――それでぴぃさんがスクエニさんに話を持って行ったわけですが、吉田さんは、なんでも即決でOKを出されたとか。
吉田氏:
最初は大代表に電話があり、『FFXIV』の宣伝担当に話が行きました。その担当者から僕に「こういう話が来ています。そんなに大きな会社ではないですが……熱意は凄いです」という連絡を受けました(笑)。当然、僕自身はブログを読んでいるわけですから、「世の中には、この良さと凄さをわかる人がいるんだな」と、素直に感心していました。
ただ、僕はテレビ業界がニガテでして……。失望が強いというか、バブルのあの感じを今も引きずっている感覚がある。自分がプロデューサーをやるようになってから、余計にそう思う部分もありました。また、スクウェア・エニックスのライセンス許諾についても、過去にいろいろあったこともあり、かなり慎重ですし交渉まで時間がかかります。
しかし、この「ぴぃさん」という方の情熱の高さと、『光のお父さん』という素材の良さは素晴らしい。しかしスクエニの「進めていいです」という一言がないと、「営業にすら行けないかもしれない」と思ったのです。ぴぃさんが出資を募るために営業しても、「スクエニさんとはまだ話してないんです」と言った瞬間に、「じゃまずはスクエニさんへ」となる(笑)。権利がどうこうという話の前に、「とりあえず進めるのはいいんじゃない」「やれるもんならやってみてもらおうよ」という思いで即決の旨を担当に伝えたんです。
そこでぴぃさんにお越しいただき、担当が「進めていいです」と伝えようとしたんですが……混乱して再びプレゼンをされたようで(笑)。「もういいんで! 大丈夫ですから! 進めてください!」とお返事させて頂きました。
マイディー氏:
本当に分かってくれたのか? と混乱してましたよ、ぴぃさん(笑)。
吉田氏:
実は『FFXIV』の映像化の提案は、海外含めていくつも来ているんです。でも映像化を最後まで着地させる、というのは本当に大変なのです。死ぬ気でありとあらゆることをやらないと、絶対に実現しない。ぴぃさんに関しては凄い熱意を感じました。だから「進めてください」と言えたんです。
マイディー氏:
逆に熱意しかなかったというか。
吉田氏:
でも僕らだって熱意と根性で『FFXIV』を何とかしたんで(笑)。やれる人がいるなら、やるんでしょうよと。
ドラマのエオルゼアパートはゲーム内で撮影
――ドラマ版のエオルゼア【※1】パートは実際のゲーム内で撮影されていますが、これっていわゆるマシニマ【※2】ですよね。それを説明するために、マイディーさんと「じょび」の皆さんが「こういうことがしたいんです」というパイロット版を作り上げ、それをぴぃさんが吉田さんに見せに行ったという話を伺いました。ご覧になった最初の印象はいかがでしたか?
※1 エオルゼア
『FFXIV』の世界にある地域のひとつ。『光のお父さん』のゲームパートのロケ地となった。
※2 マシニマ
マシンとシネマ(あるいはアニメーション)を合わせた造語で、主に人物や物の動きをゲーム内で撮影し、それを編集した映像のこと。海外では、マイクロソフトのFPS『HALO』で撮影された『Red vs Blue』などが有名で、同映像を手掛けたRooster Teeth Productionsは、そのノウハウを活かしてCGアニメ『RWBY』を制作する。日本では『モンスターハンター』の『ハンター日誌』などがそれにあたる。
吉田氏:
ぴぃさんとお会いした時に、「現実パート・回想パート・ゲームパートの3構成になり、ゲームパートはエオルゼア内で撮影します」と伺っていたんですが、その段階では「へぇー」としか思っていなかったんです。でも後日パイロット版を拝見させてもらったら、その出来が凄まじくて……なるほど、百聞は一見にしかずという単語はこういう時のためにあるのかとビックリしました。
――それだけ完成度が高かったと。
吉田氏:
「確かに『FFXIV』ならできるけど……普通やるか!?」って(笑)。もちろん我々は作っている側なので、やろうと思えばやれることは頭では理解できます。ですが、それを実現させる人たちがいるなんて思っていませんでした。それぐらい衝撃的なパイロット版だったので、これを見せて「こういう企画です」って説明したら、新しいことをやろうとしているテレビ業界の人間は絶対動くし、堅いおじさん連中も「なんだこれ!?」となるぞと。だからぴぃさんには、「全然凄いんでやってください」と伝えました。
そうそうパイロット版といえば、明らかにプロの方が「じょび」にいらっしゃいましたよね。いやぁ、マイディーさん持ってるな(笑)。あのパイロット版はものづくりをしている僕から見ても凄くて、これはお世辞でもなんでもなく、観た瞬間に大丈夫だと確信したんです。
――映像化の話は開発チームには共有したんでしょうか?
吉田氏:
開発チームには、ドラマ化のことは伝えませんでした。どっから漏れるか分かりませんし、それを聞きつけて何かが起こってしまったら、マイディーさんやぴぃさんを邪魔することになってしまう。それだけは絶対にやってはならないと。だから撮影機能のアップデートは偶然なんですよ……まぁ「ここはもう少しだけこうしたら?」ぐらいは言いましたけどね(笑)。
マイディー氏:
そうだったんですね! ありがとうございます(笑)。
――そしてドラマ本編用の映像の撮影に進むわけですが、かなりの出来栄えですよね。
吉田氏:
あれは……凄いことやっているのはどなたが見てもわかると思うのですが、より凄いと感心するのは、我々が何も手伝っていないことです(笑)。撮影に際しても「専用サーバーを貸しましょうか? 天候も時間も自由に変更できますよ」と言ったんですが、そうしたら山本さん【※】が「いやぁ……いいです」って言うんですよ!
「ロケハンをして、天候・時間待ちをすることで、そこでしか撮れない絵が撮れる。そして全て実際のサーバーで撮りきることにより、プレイヤーの皆さんに『自分たちにも撮れる』ということを伝えたかった」と。確かに同じ環境がプレイヤーの皆さんにも与えられていますからね。さらに「これは作り手のエゴかもしれませんが、『撮れるもんなら撮ってみろ』と言いたい。僕はそういう作品にしたいんです」とまで言われ、この人たち頭おかしいんじゃないかと……(笑)。いやー、でも寂しかったですね……。協力できることが何もないんで(苦笑)。
※山本さん
山本清史氏。1978年生まれ。2003年、「ほんとうにあった怖い話 怨霊 劇場版」でデビューした日本の映画監督。『光のお父さん』ではエオルゼアパートの監督を務める。過去に、『ドラゴンズドグマ』や『真・三國無双 MULTI RAID 2』のカットシーンを手掛けたこともある。
マイディー氏:
混ぜてもらえないというか(笑)。
吉田氏:
そうそうそう!(笑)。脚本と仕上げのところでアドバイスはさせて頂きましたが、集中してアドバイスをして脚本を戻したのは最初の1、2話ぐらいです。あとはもう「PRをどうしよう」だとか、いざとなれば交渉時には自分が名刺を切ろうとか、そんなことばかりで。だから、せめて「サーバーだけでも!」と思ったんですけどね(笑)。
マイディー氏:
これは山本監督も言われてましたが、神様の手を借りてしまったら、プレイヤーと地続きの物語じゃなくなってしまうんです。僕らはエオルゼアを撮っているんで、意味合いが変わってしまう。まるでPVのような、プレイヤーが絶対に使えないアングルから撮ったら、それは確かにカッコイイでしょうし、自分のキャラクターが活躍すること自体は嬉しいことなんですが、リアリティがないんです。
僕らはグングニル【※】という地続きの場所でやることに意味を見出していたので。サーバーに関しても、マイディーというキャラクターはグングニルの住人なので、それを別のサーバーにコピーしてしまったら、それはもうマイディーじゃないんです。
僕らがやる限りは、そういうユーザー視点を強く持とうという話をみんなでよくしていました。
※グングニル
『FFXIV』のワールド(サーバー)の一つで、マイディー氏や「じょびネッツア」の活動拠点。
吉田氏:
そのこだわりの結果、凄いものが撮れたわけですよね。僕は1話のじょびハウスの天井からのカットを見た瞬間、これは勝ったなと確信しました。
完全にドラマなんです、あれ。『FFXIV』ならあのアングルで撮影できる――それを分かっている人が監督なら安心だと。しかも1カット目に持ってきてるんですよ、説得力が半端じゃなかった。皆さん無意識に「エオルゼアパートすげー!」って感じてると思うんですが、1話のあのカットが感覚的に凄いと感じさせたんだと思います。
あと、1話の“こんこん→マイディー振り向く→千葉くん振り向く”の絵合わせも凄まじいですよね。あそこでさらに「このドラマすげー!」って感じたと思います。
マイディー氏:
主人公の光生は男で、マイディーは女性キャラクター ――これがゲームをまったくやらない人からすれば、なんでそうなってるのか分からないんですよ。「なんで女のキャラ使うの?」て。それを説明するために僕らは1話をやってました。その必死さが伝わったのかもしれませんね。
ドラマ放送後、周囲の反響は……?
――そうやって作られたドラマですが、お二人の周囲では放送後の反響はどうですか?
吉田氏:
先日、エレベーターで青木さん【※1】と一緒になったんですが、開口一番に「光のお父さん……1時間尺で観たかったなぁ……!!」と言われまして。青木さんは『EverQuest』【※2】にドハマりして、5アカウントで同時プレイしていたような人なんです。坂口さん【※3】とNorrathに行ったきり帰ってこない――というか会社に全然いなかった、という伝説があるくらい。だから二人を捕まえたかったらNorrathに行かなくちゃいけない。でも青木さんは5アカだから「どれが本体なんだ!?」ってなるんです(笑)。
それぐらいMMOが好きな青木さんが観て、「面白い、感動した」と言ってくださったので、とても嬉しかったです。ただ、今回のドラマは、少し物足りないぐらいがいいと感じました。もしあれが1時間だったら、今のようになっていなかったと思います。深夜の30分枠だから好きにやれたんじゃないかなと。
※1 青木さん
青木和彦氏。1961年生まれ。スクウェア・エニックス所属の日本のゲームクリエイター。『FFIII』『FFIV』のゲームデザインなどを担当。また『クロノ・トリガー』ではプロデューサーを務めた。
※2 EverQuest
Sony Online EntertainmentのMMORPG。1999年にアメリカでリリースされ、『Ultima Online』と共に、MMORPGというジャンルを広く世に知らしめる。日本に上陸したのは2002年10月。Norrathという名の地が舞台となっている。
※3 坂口さん
坂口博信氏。1962年生まれ。日本のゲームクリエイター、 シナリオライター、映画監督。ゲーム制作会社ミストウォーカーCEO。「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親として知られている。
マイディー氏:
嬉しいですね……。僕の周りでもあらかた好評なんで、頑張っていいものを作れたんだなとしみじみしてます。ただ自分で観直すと、粗が見えてしまうんですよね。「もっとこうしたらいいよな」とか。
僕らは発表するまで凄い不安で、引きが弱いとかテンポが悪いとかいろいろ考えていたんです。でも感想を読むと全然そういうところに触れられてなくて、逆に僕らが意図してなかった、ある意味当たり前だと思ってた部分で感動されていて、そういうところが凄く新鮮でしたね。特に4話は全員で心配してたんですが、いちばん面白かったという声もあり、「分からんもんやな」と。
吉田氏:
みんなドラマとして観ているんだと思います。ゲームのドラマ化、ゲームの宣伝ドラマではなく、単純にドラマとして。だから4話はめちゃくちゃ面白かったですよ。コントローラーや電源ケーブルを隠されるという、誰しも子供の頃に経験したことを、お父さんがされるという(笑)。演技も素晴らしかった……あのお父さんがお母さんに、若干抵抗する感じ、最高です。
たまに「エオルゼアパートが少ない、実写パートはいらない」という意見を耳にしますが、今のバランスじゃなかったらそんなに観てくれてないと思うんです。『ヨシヒコ』【※】ともまた違っていて、ゲームを取り巻く人々の日常ドラマとして受け入れられているんです。
だから、ドラマを作り上げたあのメンバーは、本当に奇跡的な組み合わせだと思います。ぴぃさんも、じょびの皆さんも、出資側の方も、監督やキャストも。あんな現場なかなか……いや、二度とないくらいのメンバーになったと思います。
※ヨシヒコ
福田雄一氏が監督を務めるTVドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズのことで、「ドラゴンクエスト」風の世界で展開される冒険活劇である。主演は山田孝之。
――マイディーさんのご家族の反応はいかがでしょうか。
マイディー氏:
父は「あーこうなったんや」「ここはもっとこうした方がええな」とか言うんですが、母は笑いながら観てくれてます。親戚に「見た!?」とLINEもしていて、母にも親孝行できたかなと。ただ4話は気まずかったですね。最後のあのシーンなんですが、まるで僕が「そうしろ」と希望しているみたいな感じになって(笑)。すっごい恥ずかしかったです。
吉田氏:
それでもまだお母様は“光のお母さん”にならないんですよね?
マイディー氏:
ならないですね(笑)。文句ばっかりいってますよ。
吉田氏:
そうだそうだ、ブログの連載でもお父様に誘われたとき、「なんでゲームの中でもアンタの世話しなあかんの!」って言われてましたね(笑)。あれがめっちゃ面白くて、「そりゃそうか」と……。
マイディー氏:
とはいえいちばん喜んでたのは母でしたね。あの人だけが、僕と父の距離が近づくさまを直接見ていたので、ドラマを観ながら当時のことを思い出していたのかもしれません。
吉田氏:
それに、やっぱり息子が何かをやり遂げたってのが嬉しいんだと思いますよ。マイディーさんのお母さんは、マイディーさんが書籍やドラマ化、制作にも関わって、そういう「成し遂げたこと」が、嬉しいし誇らしいんだと思います。僕の母もそうでしたもん。タイム誌にインタビューされた時は、どこから拾ってきたのか、大騒ぎしていましたね。
光のお父さんからの手紙を全文公開
――ここまで沢山面白いお話を伺ってきましたが、残念ながら時間が迫ってきました。実は、お父様からお手紙を預かってますので、そちらをマイディーさんに読んで頂きたいな……と。
マイディー氏:
これね、あまり良いことが書いてないんですが(笑)。それでは読ませて頂きます。
吉田様・マイディー様・読者のみなさまへ。
『FFXIV』をやり始めてほぼ4年目に入りますが、最近では書籍やテレビのドラマになり、『光のお父さん』も全国区になった事と思います。偏に吉田氏・及び読者・視聴者の皆様のお蔭と心より感謝いたしております。特に書籍の方はマイディーブログに忠実に再現されており、息子の父への想いが、笑いと涙で上手く表現されている事が、特に女性(母親)に人気があったように思えます。
バブル期に成長を作り上げた我々企業戦士の次世代の息子が丁度マイディーの年頃になり、父に対する想いが共感を得たのかもしれません。そもそも、『FFXIV』は、家族・チームの調和と価値観の共有だと思っています。吉田氏の『FFXIV』のコンセプトとマイディーの価値観の共有により、今の流れが作られたのだと思います。書籍に関しても、今までとは違った価値観で発行されており、購読者との共有が計られています。大変すばらしいことだと思います。
今では『FFXIV』が私の生活の一部となり、習慣づいてしまいました。マイディーは、毎日多忙で私とはゲームで一緒になる事も少なくなりましたが、マイディーの素晴らしい仲間が私のアシストをしてくれています。いまやプレイヤースキルは、マイディーを超えているかもしれません。
それとフレンド申請が増えてきています。私も様子を伺い慎重にフレンドになりますが、不思議な事に一切『光のお父さん』の話はでません。とても真摯的に会話を進めています。これがゲーマーの鉄則なのかも知れませんが楽しい日々です。こんな私との会話に、感動してくれています。これからもエオルゼアで新たな目標を定めて進めていくつもりです。
ある人の話ですが「親は子供の記憶の中で生きる」ですです!光のお父さん
マイディー氏:
この「ですです」は恥ずかしいですね(笑)。父がよく言ってるのは、僕のブログからキャラクターを割り出して、父のもとを訪ねてくる人が最近増えてきているんですが、からかったりする人は全然いないと。いちプレイヤーとして友達になろうとして来てくれていて、たまにお話をして、一緒に釣りをして、帰っていくと。そういうふわっとした出会いが増えたらしいです。
吉田氏:
それって凄いことですよね。そもそも「光のお父さん計画」が進んでいる段階でキャラクターって割り出されていたわけじゃないですか。それなのに、誰もお父様に「マイディーはあなたの息子ですよ」と言わなかった。誰一人として愉快犯になる人がいなかったんです。本当に……本当に、僕はプレイヤーの皆さんのことが誇らしいです。
今後のオンラインゲームはどうなる?
――いやあなかなか、感動的な終わり方になっていますが……最後に一つアバウトな、主語の大きい質問をしてもよいでしょうか。ずばり、沢山のオンラインゲームで遊び、沢山の楽しい経験をしてきたお二人は、今後オンラインゲームとはどうなっていくと思いますか?
吉田氏:
なるほど(笑)。日本に限って言えば、もう少し一般化してほしいですね。日本だけですよ、これだけメジャーになってないのは。もったいないんです。原因としてはPCという存在が日本のデバイスの発展の中で特殊すぎたんです。ありとあらゆるオンラインエンターテイメントってPCで発展してきたのに、PCがある家庭が少なかった。海外では、子供のころから家にPCにあって、お父さんが何か面白いことをやってる――という家庭がほとんどだったんです。
さらにPCはスペックが青天井だから、最新のエンタメはPCに集まっていた。でも日本はPCが広がりきる前にスマートフォンが来てしまいましたよね。もうここからPCに戻ることはありませんよ。
そう考えると、スマートフォンのスペックがもっと上がれば、MMORPGに触れる機会がぐんと増えると考えています。あと9、10年ぐらいすれば、現行の7掛けぐらいのスペックになるはずなので、そこまで行けば『FFXIV』のクライアントが動きますよね。そうなってようやく普及するのかなと。まぁそうなった時に、日本でMMORPGを作ろうとする会社や人間がいるかは分かりませんが。
――吉田さんご自身が作られることは?
吉田氏:
うーん、そもそも『FFXIV』がどうなっているか分からないですし、もしかしたらその頃僕は死んでるかもしれませんからね(笑)。そんな先までは分からないですが、機会があれば、死ぬまでにもう1本全然切り口の違うオンラインゲームを作ってみたい、とは思っています。
いつかは決めていませんが、その時その時代に合ったもので、かつ尖ったものを。
――本気で楽しみにしています。マイディーさんは?
マイディー氏:
僕はブロガーとして、そしてプレイヤーとして、オンラインゲームが知られてないことが悔しくて、もっと多くの人にオンラインゲームのことを知ってほしいと思ってます。とはいえ、スマホでみんながMMOをやるってほど高望みはしてなくて、もう少し「オンラインゲームって楽しいよね」という空気になってほしいなと。
それと、どうしてもオンラインゲームって煙たがられますよね。廃人になってしまうとか、学校に行かなくなるとか。いまだにそういう誤解が先行してしまっているんです。たしかに世界的に見たら数人いらっしゃるかもしれませんが、僕の周りにはいません。みんな普通に働いて、学校に行って、趣味でやってる。そして自分にとってプラスになっている。これは現役プレイヤーとして実感していることなんで、マスメディアによって面白おかしく報じられてるのが悔しいですし、覆したいです。
この前、あるTV局から出演依頼があったんです。匿名でオンラインゲームの体験を語ってほしいって言うんですが、アンケートを見たら「いくら使ってますか」「失ったものは何ですか」といったネガティブな項目ばっかりで。答えてほしい例文まで添えてある。それを見てもううんざりして、こうやってイメージは作られていくのかと思いました。繰り返しになりますが、悔しかったですね。
でも『光のお父さん』では、テレビをプラスに使うことができました。
これで少しでも「オンラインゲームっていいよね」と思う人が増え、『光のお父さん』がドラマ化したように、別の方が僕の後に続いてくれると嬉しいですね。
――運営側で数字が出てると思うんですが、年配のプレイヤーさんは一定数いらっしゃるんでしょうか。
吉田氏:
比率でいえば多くはないですが、結構いらっしゃいますよ。実際にお会いした方だと……87歳の方がいらっしゃいましたね。イベントまで来ていただきまして。
ご年配のプレイヤーは、これから増えていくと思います。ゲームが子供から取り上げるものではなく、エンタメの一つ、生活の周りにあるものの一つになっているのが僕の世代やもう少し上の世代の方々なので、その人たちが今後楽しむ趣味には間違いなくなるはずです。ご夫婦で一緒に楽しめる趣味でもありますしね。
――そういう意味では、このドラマがプレイヤー数の増大に繋がってるといいなと思います。私の周りでも新規プレイヤーが増えたと耳にするんですが、吉田さんの方で手応えは感じてらっしゃいますか?
吉田氏:
着実に増えてはいますが、この波がどれぐらい定着するのかですね。数字は結構冷静に分析しているので、単純に手放しで喜ぶという感覚はあまりないです。でもプレイ感覚としても、若葉【※1】の方がかなり増え、ビギナーチャンネル【※2】の賑やかさも凄いですね。ワールドによっては、まるでワールドが最近オープンしたかのような盛り上がりです。
既に新しい出会いやコミュニティが生まれ始めていて、『光のお父さん』をきっかけに始めた方同士で集まって遊ばれてもいるようです。。また、メンター(ビギナーをサポートする一般ユーザー)の方々が若葉の方をサポートするのはもちろんですが、「人数が揃ってるなら、まずはみんなで行ってみてください。もし駄目だったらいつでもお手伝いします!」という雰囲気になっているのがいいですね。単純にゲーマーとして嬉しいですし、楽しいです。仕事が忙しくて中々チャットに参加できていませんが、眺めながらニヤニヤしてます(笑)。
※1 若葉
プレイヤーのオンラインステータスが「ビギナー」だった場合、名前の横に若葉マークが表示される。このことから初心者を「若葉」と呼ぶことがある。
※2 ビギナーチャンネル
ビギナーを支援するための専用チャットルーム。
――『光のお父さん』は、本当にいいきっかけになっていますね。話題がますます盛り上がり、MMORPGがもっと日本で浸透することを願いつつ。本日はありがとうございました。(了)
『光のお父さん』は一見、その話題性から突発的にドラマ化したようにも映る。
だが、今回の取材からわかるのは、それが『旧FFXIV』時代より以前から、マイディー氏が自身のブログで伝え続けてきた「オンラインゲームは面白い」という気持ちが実を結んだ結果だったことだ。インタビューからも伝わる通り、マイディー氏のオンラインゲームに対する情熱は尋常ではなく、それが様々な人の心を動かし、今回の経緯に至っている。
また、今回の取材で強く印象に残ったのは、オンラインゲームに熱意を持ったクリエイターとプレイヤーが、まだまだいることだ。
オンラインゲームは、たしかに面白い。だが、インタビュー中でも語られたように、よくないイメージが独り歩きしていることもまた事実であり、それだけに私も何だか悔しい気持ちになってしまう。もし今回の記事や『光のお父さん』がきっかけとなり、「再びオンラインゲームを始めてみよう」「やったことないけど、とりあえずやってみよう」と思っていただけたのなら幸いだ。
吉田氏も言われていたように、今回のドラマ化は様々な意味で「奇跡的」なのかもしれない。だが、この『光のお父さん』で描かれた物語は、オンラインゲームが持つ魅力そのものだ。そうだとすれば、その奇跡は誰が起こしても、そして誰に起きてもおかしくないはずなのだ――。
(C) 2017 『一撃確殺SS日記』・株式会社スクウェア・エニックス/『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』製作委員会