GMOゲームポットが運営するオンラインゴルフゲーム『スカッとゴルフ パンヤ』(以下、『パンヤ』)のサービス終了が2017年8月に発表され、大きな話題になった。
【重要】『スカッとゴルフ パンヤ』サービスに関するお知らせを掲載いたしました。ご一読お願い致します。
— パンヤ公式ツイッター (@pangya_staff) August 9, 2017
https://t.co/p5QfEt31Li #pangya
理由は開発会社の開発終了により、社内での開発を継続していくことが困難となり「現状の体制ではお客さまにご満足いただけるサービスを提供し続けることが困難と判断いたしました。」とされている。
そして2017年11月10日12時2分、『パンヤ』はサービスを終了し13年の歴史に幕を下ろした。
本作はオンラインゲームの黄金期に登場し、サービス開始から1年弱で累計会員数を100万人にまで増やした人気タイトルだが、サービスが終了してしまった今、実際にゲームをプレイすることは叶わなくなってしまった。
2017年11月10日(金)12:00、『スカッとゴルフ パンヤ』は約13年間続いたサービスを終了いたしました。全てのお客様と、携わった全ての方に心よりお礼申し上げます。今まで本当にありがとうございました。また会えるその日まで、さようなら #pangya pic.twitter.com/isPm6AM7WR
— パンヤ公式ツイッター (@pangya_staff) November 10, 2017
そこで、『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』の原作者であり、自身も『パンヤ』プレイヤーであった、ブロガーのマイディー氏(@Maidy_Maidy)に本作の追悼記事を依頼。長年オンラインゲームをプレイしているマイディー氏ならではの視点、そしてエピソードから、『パンヤ』という作品について、今改めて振り返ろうと思う。(編集部)
ふと疲れた瞬間に
オンラインゲームを遊ぶ中で、毎日毎日同じ事をしていると、疲れのようなものがでてくる事がある。
もちろん楽しむためにオンラインゲームをプレイしているんですが、必要な装備を買うための金策、いつかは倒してみたい強敵、そこでの人間関係などなど……毎日同じオンラインゲームで遊んでいると、ふと「疲れたな……」と思うことがあるのだ。
そんな時、僕はいつも『スカッとゴルフ パンヤ』に友達を誘って一緒にプレイしていた。
『パンヤ』をプレイしていると、なんだか癒される……。
僕にとってのパンヤは、日々の戦いに疲れた心を癒してくれる……オンラインゲーム世界の「別荘」のような存在だったのだ――。
『パンヤ』はゴルフではなく、「パンヤ」というファンタジースポーツだった
2017年11月10日12時2分、『スカっとゴルフ パンヤ』が惜しまれつつもその長い歴史に終止符を打った。このゲームは、13年間サービスを続けてきた歴史あるオンラインゴルフゲームだ。
とは言うものの、『パンヤ』って単純な「ゴルフ」のオンラインゲームとは少し空気が違ってたような……。
まず、公式ページに載っているストーリーが少しおもしろい。
遥か昔、魔王の邪悪な力によって自然の生命力を奪われ、朽ち果てる寸前の島「パンヤ島」という島があった。
パンヤ島の住民たちは、島の生命力を回復させようと、魔法の力で自然の気を詰め込んだ神秘のボール「アズテック」を完成させる。
もうここまで読んだだけで、少し様子がおかしい。
魔王とか、魔法とか言う言葉がでてきちゃってる。
純粋にゴルフゲームを望んでやってきた人は「あんれー?」って思うに違いない。
しかし、ここから先が重要。
どうやらパンヤ島の住民たちは、神秘のボール「アズテック」を自然の力が流れ出てしまう「穴」に入れることで、島に自然の生命力を注ぎ込もうという考えだ。
だが、アズテックは強力な魔法で作られたボールで、素手で触ることができないという問題が発覚。この問題を解決すべく、アズテックを安全に運ぶことが出来る「エアーナイト」という魔法の棒を開発する。
異界から来たとある青年がこの「エアーナイト」を使い、「アズテック」を叩いて運搬し、自然の生命力が吹き出る「穴」に入れて回った。
異界から来た名も無き青年の活躍により、パンヤ島は滅びの危機を脱した。
その後パンヤ島では、これを記念して祭を開催、彼の活躍を真似るゲームが島の行事として行われる事になった。
「エアーナイト」という棒で、「アズテック」というボールを、「穴」に入れるゲーム。
それが「パンヤ」である!!
そう、これはたしかにゴルフに似ているが、「パンヤ」というファンタジースポーツなのだ。
『パンヤ』がサービス開始したオンラインゲームの黄金期を振り返る
そんなちょっと変わったゴルフゲーム『パンヤ』がオンラインゲーム業界に残した業績も実は大きかったりする。
日本でサービスが開始されたのは2004年の11月。当時は『ラグナロクオンライン』の日本サービス開始から2年が過ぎ、当時は雨後の竹の子のように数々のオンラインゲームがスタートした黄金期だった。
また、『パンヤ』と同期のオンラインゲームといえば、Windows版『信長の野望Online』や『リネージュⅡ』、その翌年には『エバークエストⅡ』『マビノギ』『エミルクロニクルオンライン』等がスタートする。
オンラインゲームプレイヤーとしては嬉しい限りの毎日で、自分の好みの世界を選んで遊べるという夢のような時代だった。
言い換えれば、各社ライバルも多かった時代なわけだ。
そんな黄金期に、パンヤは次々とオンラインゲーム業界に新しい風を吹き込んでいく!
・2004年の8月に無料のオープンβテストをスタート。
・わずか半月で会員数が5万人を突破しその後も順調に推移。
・10月に入り、正式サービスが始まるよという時に、「500円/30日+アイテム課金あり」という月額料金を発表!
・そしたら、順調に伸びていた会員数がピタリと止まり、同時接続までガタガタと下がってしまったから、さあ大変!
・でも、そこからの対応が素早く、発表からわずか10日で当時は珍しかった、「基本無料のアイテム課金あり」というスタイルに変更!!
・迅速な決断を下した結果、「無料で遊べるぞ!」とユーザーをひきつけ、正式サービス開始から1年弱で累計会員数を100万人にまで増やした――
っていうからすごい。
この数字は当時大盛況だった『ラグナロクオンライン』についで2位という好成績を残し、当時のオンラインゲーム業界に、基本無料、「Free to Play」の仕組みの強さを知らしめた。
これは、オンラインゲーム黄金期に……数々の新風を巻きおこした男たちのドラマである――。
と、このまま田口トモロヲ氏のナレーションで「プロジェクトX」が始まってもおかしくないくらいの熱いドラマですよね! 見たい。
僕らにとって『パンヤ』はなぜ癒しで別荘だったのか
そんな『パンヤ』を僕が始めたのは、2009年――丁度パンヤがサービス開始5周年を迎えた頃だった。
当時、いろんなオンラインゲームを渡り歩いていた僕は、前述した通り「たたかい」というコンテンツに疲れてきていたんですよね。
何かこう、「たたかい」の無い平和的に遊べるオンラインゲームは無いものかと探していた時にみつけたのが『パンヤ』だった。
僕は特別ゴルフに興味があったわけではなかったんですが、ゴルフ+ファンタジーという組み合わせが、どことなく楽しそうに思えたので、別のオンラインゲームで知り合った友人と一緒にパンヤを始めてみた。
そしたらこれがかなりハートに響いたんですよ!
いろんな仕掛けが満載のコースや、かわいらしいキャラクターたち。
課金して買う洋服の出来も良く、お洒落も楽しめるという贅沢なゴルフゲーム!
しかも、基本無料なので、遊びたい時だけ遊べる!
あれから8年たった今も、オンラインゲームの「たたかい」に疲れたら、僕は友達を誘ってパンヤ島へとでかけている。つい先日もそうでした。
フレンド:
パンヤもそろそろ終わっちゃうし、久しぶりにどう?
マイディー:
いいですね!行きましょう。
僕は久しぶりにオンラインゲーム仲間を誘って、二人でコースを回ってみる事にした。こんな風に気軽に誘えるのもパンヤのいいところ。基本無料万歳!
フレンド:
コースどこにします?
マイディー:
とりあえず、ブルーラグーン。
僕がパンヤを始めて一番最初に驚いたのは……BlueLagoonというコースの空の青さだった。
パンヤッ! という掛け声と共にスコーンと青い空の下を飛んでいくアズテック! これがたまらなく気持ちがいい。
最も難易度が低く、あまり深く考えずに回れるコース、それがBlueLagoon。
居酒屋に入ったときの、とりあえずビール! に近いものを感じる。
マイディー:
ああ……癒される……。
耳障りの良いBGMも相まってこれがなんとも清々しい気分になる……。
自分はPCの前にいるのに、まるで心地よい日差しを浴びてるような気さえしてくる。
僕のプレイスタイルは、各コースギリギリしながらスコアを縮めるような楽しみ方ではなく、ただ単純にパンヤ島でパンヤをする事だけを楽しむ感じだった。
気を張って仲間と戦う世界が多いオンラインゲームの中で、自分にとってそれは「癒し」の時間だったように思う。
フレンド:
前にやった「煽りパンヤ」おもしろかったですよねw
マイディー:
あーあれねw
「煽りパンヤ」は僕らが編み出した遊びで、相手がショットしようとしている時に、チャットで煽りに煽ってミスショットを誘うという仁義無き戦い。
ものすごくくだらない遊び方だったけど、煽りのボキャブラリーも小学生並みに少ないため、夜中のテンションでやるとこれが異様に面白かった。
その他にも「英語縛り」や「関西弁縛り」などなど、ゴルフにチャットがくっ付いてるだけでこんなにおもしろいのか!と思えるほどだった。
『パンヤ』は、オンラインゲームなので基本的には誰かと一緒に楽しむもの。
マイディー:
ボールがO.Bギリギリの所で止まったりした時、「あぶねー!」っていう気持ちをその場で共感できたりするのも楽しい。
フレンド:
それって、パンヤだからできる楽しみなんだと思うんですよ。
コンシューマー版の『ゴルフ』って、一人でやっても黙々とした作業になりがちだけど、友達や家族と遊ぶとこれが化ける。
一人でプレイしてて仮にホールインワンを決めて「よっしゃ!」とガッツポーズをとっても誰も褒めてくれない。
でも、友達や家族と一緒にプレイすると、その瞬間瞬間の喜びや悔しさが共感できて盛り上がる。
パンヤはオンラインゲームという特性を活かし、いつでもオンライン上でワイワイとたわいもない話で盛り上がる事ができたのも、大きな魅力だったように思える。
フレンド:
結構今までたくさんの人と遊んだなぁ……『パンヤ』。
マイディー:
友達とか誘いやすいですよね。
フレンド:
たしかにそれはあった!
オンラインゲームはどちらかと言えば友人に勧めにくかったりする。
オンラインゲームの多くはRPG方式になっているので、1年やっているプレイヤーと今日から始めたプレイヤーには大きなレベルの開きがあり、遊ぶコンテンツも異なる事が多い。
マイディー:
オンラインゲームって友達を誘っても、その友達が自分のレベルに達するまでは、自分のプレイを維持しつつ見守ってあげないといけないしお互いに気を使ったりしてモヤモヤする事も多いじゃないですか。
フレンド:
パンヤってゴルフのルールさえなんとなくでもいいのでわかっていれば、誰とでもすぐに遊べるもんね。
マイディー:
そうなんです! もちろんプレイヤースキルという部分では大きな開きがありますが、基本的には自分との戦いなので楽しさの共有がしやすいっていう面もありました。
僕は、この8年間他のオンラインゲームで遊びながら、「たたかい」に疲れてくると癒しを求めて「そうだ、パンヤに行こう」となってた。
そして他のゲームで知り合った友人に『パンヤ』の楽しさを伝え、始めてもらう……。
僕にとってのパンヤは、毎日必ずログインするゲームではなかった。
冒頭に書いたように、いろんなオンラインゲームを遊ぶ上での「別荘」のような感覚に近かったように思う。
基本無料で遊びやすく、会話も盛り上がる。
たまに遊ぶからこそ、毎日新鮮で、毎回毎回「BlueLagoon」の青空に感動する。
そして毎回毎回久しぶりなので、下手になっていてリハビリのような時間があるっ!
でもそれもみんな同じで、感覚を取り戻した人からスコアが伸びていく……それが楽しい!!
ずっと変わらない絵文字の安心感。
愛らしいキャラクターたち。
そして何より美しい空を気持ちよく飛ぶアズテックの軌跡……。
それら全てが愛おしく、楽しい時間を作ってくれる。
パンヤ島はオンラインゲームの世界で生きる僕らにとって、万人に癒しを与えてくれる大切な空間だったのだ。
友達と行くパンヤは毎回必ず楽しかった。
それはいつも裏切らない「癒し」の時間が必ずそこにあったからなのだと思う。
フレンド:
また勝ってしまった……。
マイディー:
だめだ……結局ぜんぜんうまくなれなかった……。
フレンド:
でも楽しかったですねw もう遅い時間ですしお開きにしますか。
マイディー:
そうだね、また…….。
「またやろう!」という言葉を、僕は飲み込んだ。
いつもそれがパンヤでの時間を締めくくる言葉だったのに……。
『パンヤ』がくれたもの、残したもの
オンラインゲームには、どこかの誰かと同じ時間を共有するという特徴がある。
自宅にいながらにして、遠くの友人と世界を守ったり、釣り糸を垂らしたり、時には競い合ったりする事ができる。
友人達と同じ時間を共有する事で、たくさんの「思い出」が生まれてくる。
オンラインゲームは長く続けば続くほど、数え切れない「思い出」が積み重なっていく。
13年間、友人たちとのたくさんの思い出を作ってくれた癒しの場所『パンヤ』が終了するというのはとても悲しい事ではある。
現実社会で言えば、友達と毎日一緒に遊んでいる公園が取り壊しにあうようなもので、仕方ないという諦めと、寂しい気持ちが胸を締め付けてくる。
オンラインゲームのサービス終了はいつも、そんな気持ちになってしまう。
BlueLagoonの青い空も、心地よいBGMも、かわいらしいキャラクター達ともお別れしなければならない。
PSPのソフトや、フィギュアと手元に残るパンヤはあるけど、一人でやる『パンヤ』と友達とやる『パンヤ』は全く別物ですもんね。
13年間毎日のように『パンヤ』で過ごした人も数多くいると思う。
そういった人たちには遠く及ばない数の思い出かもしれませんが、それは僕にとってとても大切な時間であり、パンヤのおかげで友達とさらに仲良くなれたような気もする。
僕らが何より悲しいのは、「友達とパンヤ島で過ごす時間」を失ってしまう事なのだろう。
でも……。
13年間と長い歴史……そこで生まれた多くの友情はオンラインゲームがある限り、また別のどこかで繋がっていくと思う。
パンヤ島での日々は、友人たちとの間にそれだけの深い絆を築き上げるのに充分な楽しい時間を与えてくれた。
青い青い空の下でアズテックを追いかけた日々は、無駄ではない。
僕らの人生をこれからもっと楽しくしてくれる大切なものを作ってくれたのだと僕は思う。
「またやろうね!」とは、もう言えないけど……。
「また遊ぼうね!」とは言えるんだ。
『スカっとゴルフ パンヤ』は、誰とでも遊べる、よく出来た楽しいオンラインゲームでした。
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