天下統一の志を掲げ、さまざまな武将が勢力争いを繰り広げた戦国時代。なかでも天下人を目前としながら本能寺で討たれた“織田信長”【※】は、老若男女を問わず大人気です。
“上司にしたい戦国武将ランキング”などでは、各サイトとも不動のナンバーワンに君臨し、NHK大河ドラマでも、舞台が戦国物となると“本能寺の変の描かれかた”が話題となり、「『真田丸』信長死す(2年ぶり14回目) 歴代大河ドラマ、この「本能寺の変」が凄い」とニュースになるほどの盛り上がりをみせました。
さらに、テレビや映画の世界では、その時代の“人気俳優”が演じることもお決まりとなっています。
『国盗り物語』(1973年)では高橋英樹、『織田信長』(1998年)では木村拓哉、『利家とまつ~加賀百万石物語~』(2002年)では反町隆史、『信長のシェフ』(2013年)では及川光博、『軍師官兵衛』(2014年)では江口洋介、そして『信長協奏曲』(2014年)では小栗旬が演じるなど、錚々たる顔ぶれがそのときどきの信長役を務めています。
こうした信長人気は、女性向けゲームも例外ではありません。とりわけ恋愛シミュレーション要素を備えた戦国時代物の乙女ゲーム【※】において、世の女性を虜にしています。
つまるところ、乙女ゲーマーの中には、強引だけど天下一頼れる男の信長に“一度は恋したことがある”人も多く、そう……“織田信長の恋人”だった経験を持つ女性が数多くいるのです。
そこで、今回の記事では“織田信長との恋”について注目してみました。
乙女ゲームをはじめ女性向けゲームを嗜む女性にとって、信長はいったいどのような存在なのか、どんな点に魅力を感じるのかについて迫ってみたいと思います!
なお、説明のために扱うタイトルのネタバレが含まれますので、未プレイの女性はご注意あれ!
戦国物ゲームにおける一般的な信長のイメージは?
男性向け、女性向けを問わず、織田信長が登場するゲームと言ってまず思い浮かぶのは、1983年3月に光栄(現・コーエーテクモゲームス)から発売され、今なお多くのファンを持つ『信長の野望』シリーズではないでしょうか。
同社のゲームには、ほかにも『戦国無双』シリーズや『仁王』など「戦国武将といえばやっぱり信長」という日本人のメンタリティそのままに信長が登場します。
作品によって傾向の違いはあるものの、信長の“顔”は面長、目の険しさなど全作品にそれとなく統一感が感じられ、有無を言わせぬ天下人オーラが漂っています。
これは有名な長興寺の肖像画に見られるシャープな輪郭に、三宝寺に伝わるイエズス会の画家ジョバンニ・ニコラオが描いた信長の男らしさを加え、コーエー(当時)で『信長の野望・戦国群雄伝』以降のパッケージイラストを手掛けた生頼範義【※】氏の解釈によるところが、現在に至るイメージの固定に大きく寄与していると思われます。
※生瀬範義(おおらいのりよし)……油絵の画風を得意とするイラストレーター。『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』国際版ポスターイラスト、や映画『ゴジラ』シリーズのポスターを担当している。
一方、カプコンから発売されている『戦国BASARA』シリーズや『鬼武者』に登場する織田信長は、コーエー系の精悍な顔つき以上に、やや恐ろしい顔立ちをしています。
これはコーエーのゲームではシンボリックでありながらプレイアブルな一大名(とはいえ強力な勢力ですが)として扱われることが多いのと異なり、カプコン作品では、天下を焼き尽くす情け容赦ない“魔王”の名に相応しいボス級のキャラクターとして登場することが多いからとも想像されます。
事実、ゲーム内では圧倒的な強さを秘めており、画面に登場すると、風貌と相まって禍々しさまでも漂ってきます。
なお『戦国BASARA』では深紅のマントをはじめ、西洋甲冑を着込むという一般的な織田信長のイメージとは少し離れたデザインになっています。
もともとは壮年のイメージを払拭するため若めの設定も検討されていましたが、主役の伊達政宗・真田幸村と対峙する圧倒的な悪役という存在感を考慮して壮年に決定。絶対悪としての立場を確立しつつ、西洋風でも織田信長として違和感のない絶妙なバランスへと落とし込まれていきました。
このデザインは『戦国BASARA2』で登場した豊臣秀吉、『戦国BASARA4』で登場した足利義輝といったラスボス格のキャラクターのデザインにも影響。
キャラクターそのものだけでなく、織田信長と比肩した際のインパクトも重視して描かれたことが「第三十八回 戦国BASARAの刻む10年 その弐」で語られています。
ほかにもスマートフォン向けアプリが盛んになってからは、『パズル&ドラゴンズ』(ガンホー)、『白猫プロジェクト』(コロプラ)などにも信長は登場し、これらのタイトルでは、定番の“強面で壮年の男性”というビジュアルとなっています。
このように、信長は“キレ者”のイメージそのままに、精悍さや力強さが優先されることがほとんどですが、中には信長が女性となって登場する『Fate/Grand Order』(TYPE-MOON)などもあります。
女性向けゲームの信長は、とにかく“オシャレで顔がイイ!”
では、女性向けゲームに登場する織田信長はどのような風貌をしているのでしょうか。実際に見てみましょう。
とくに乙女ゲームとなると、その目的は恋愛を楽しむことですから、信長の顔がイイのは“当然”として、それを引き立てるように、かなり“オシャレ”であることが特徴となっています。
そんな信長たちの衣装は、おもに“天下人たる武将風”、“うつけ時代の着崩し系”、“オシャレな南蛮風”の3種類に分類されており、オシャレ度アップのポイントとして“マント【※】”や“陣羽織”などを着用しています。
では、上記の要件を満たした、女性向けゲームの信長たちを少し見てみましょう。
※マント
ポルトガルからやってきた宣教師のルイス・フロイスが著書『日本史』の中で、信長に「緋色の合羽を渡した」と記述している。後世に信長の肖像を描くにあたり、その記述が採用され、今日も踏襲されていると考えられている。
天下人たる武将風信長
まずは正統派とも言える、武将然とした信長3名を紹介します。
『イケメン同棲☆ただいま、戦国武将さま!』(現在は『ただいま、戦国武将さま!』としてCiagramが配信中)では、袴姿に陣羽織+総髪とスタンダード。
『下天の華』(コーエーテクモゲームス)でも天下人の武将らしく袴姿で総髪。ナポレオンジャケット風のマントとブーツで粋な装いをプラスしています。
『イケメン戦国』(サイバード)では、戦国時代を象徴する甲冑姿と雄々しさ満点です。さらにこの信長は、甲冑、着流しと羽織など、シチュエーションごとに衣装をチェンジ!
うつけ時代の着崩し系
次は“うつけ時代の着崩し系”の信長です。
『天下統一 恋の乱 Love Ballad~華の章~』(Voltage)では、上質そうな着物を着流し、赤い羽織を肩にかけているだけ、と一見ラフさが強く打ち出されていますが、甲冑姿になると、緋色に金縁のマントを羽織るなどオシャレ力を発揮してくれます。
『花朧 ~戦国伝乱奇~』(オトメイト)では、平時は着流しをベースに羽織を羽織っていますが、その衿は非対称の南蛮風。さらに、髪の毛の結びかたにも相当なこだわりを持っていそうです。甲冑もイメージカラーの紫と黒、そしてアクセントに山吹色を配したシックかつ高貴な仕上がり。顔のよさが引き立ちます。
【花朧 ~戦国伝乱奇~】◆登場人物紹介◆
— 【公式】花朧 ~戦国伝乱奇~ (@hana_otomate) July 26, 2016
織田信長(演者:谷山紀章)のキャッチコピーは【宵闇を突き進む傲の兄】。力に固執し、戦いという暗い道を振り返ることなく突き進む武将・織田信長をあらわしています。 #ハナオボロ pic.twitter.com/StF8qtYeri
『茜さすセカイでキミと詠う』(ジークレスト)では、紅い着流しの下に南蛮風のスリムなパンツルックと編み上げのブーツ、そして毛皮を崩してまとうといった大胆なビジュアル! さらに赤髪の長髪が不敵さを倍増させています。
オシャレな南蛮風信長
最後は、“南蛮風”の服を着用している信長たち。
『ラヴヘブン』(アンビション)では、猫耳帽子を被り、ワンポイントでスカルの装飾を着けています。髪型はロングのメッシュ。
全身洋装なのですが、肌の露出部分もひときわ多く、ビジュアル系バンドのボーカルのような粋な出で立ちです。
『戦刻ナイトブラッド』(オトメイト、KADOKAWA、マーベラス)では、胸元に大きな品のいいフリルを配した洋装に全身を包み、右の手には愛刀とピストルを携えています。
さらに、ロングマントを羽織った上にたなびく長髪。これでもか感の強いオシャレさ満点です。
いかがでしたか? 女性向けゲームに登場する信長たちはとにかく“見た目がめちゃくちゃカッコいい”のです。そこに、見つめられればハートが射抜かれてしまう圧倒的な目力……もう落ちるしかありません。
女を落とす信長流“キメゼリフ”と“ギャップ萌え”
非道な男として語られることも多い信長。反目した弟の織田信行を討ち、比叡山相手には、神仏をも畏れず寺域を焼き払い、僧侶らの首を撥ね、妹お市の方の嫁ぎ先である浅井家ですら滅亡に追い込むなど、史実からも冷酷さが垣間見えます。
さらにはみずから “第六天魔王”とも名乗り、“魔王”という表現のインパクトの強さが相まって、「何者も恐れない強さを冷たさを兼ね備えた武将」というイメージが現在も根付いています。
しかし、言い換えてみれば……“冷酷な人物”ではなく、必要とあらば犠牲も厭わない“冷徹な見かたのできる人”ということであり、確固たる信念を曲げない潔さ、意志を貫く強さの現れと言えるでしょう。
さらに、城下の商業を発展させる政策の数々を施したり、人種を問わない交易やポルトガル人との交流などは、広い視野で先を見据える、配下を導く“理想の上司”ともいうべき振る舞い。
つまり「ちょっと厳しいけど、この人にずっと付いていきたい!!」と思わせる魅力が、老若男女を虜にする信長の人気の真髄と言えます。
そんな神をも畏れぬ信長と甘く激しい恋に落ちることができるのが乙女ゲームのよいところ。もちろん、女性向けゲームの世界でも信長は“天下統一のためなら犠牲を厭わない”、“俺様気質”を携えている「俺様の中の俺様」です。
『イケメン戦国』シリーズの信長のセリフを見てみると、「貴様、天下人の女になる気はないか?」、「貴様にわからせてやろう 俺が貴様を愛したことを」、「くだらん文句をつけるより、まずは貴様の唇で酌でもしろ」と強気の一本勝負です。人のことを“貴様”呼びするあたり……さすが信長様!!!!
『戦国◆恋華ノ舞 ~千夜ノ契リ~』シリーズ(NiNO)に登場する信長も……「構わん、我のものとなれ」「我を狂わせる罪を、その身に受けよ」とやはり俺様です。
強引なキスが許されちゃうのも……天下人の全能感の現れでしょう。そう、信長様だから“あり”なのです。
このように女性向けゲームの信長は“俺様”であり、逆らうことのできない圧倒的オーラを携えた“強引さ”を見せます。そこで、信長のキメゼリフをみてみましょう。
【女性向けゲームにおける信長のキメゼリフ一覧】
『天下統一 恋の乱 Love Ballad』(ボルテージ):
「死ぬまで俺に仕えろ」「必ず生きて帰る、帰ったら覚悟しておけ」『いざ、出陣!恋戦』(aura):
「我に見とれていたのだろう?」「今宵は、お前に夜伽を命ずるぞ」
『戦国下剋上 我焦がせ恋の炎』(アリスマティック):
「お前が俺の女とは、なかなかおもしろい方便であろう」
『下天の華』(コーエーテクモゲームス):
「隠すことはない 欲しいのだろう? この信長が」
『Shall we date? 恋忍者戦国絵巻+』(NTTソルマーレ):
「俺の嫁になる女がいつまでも山猿では末代までの恥だろう?」
『ラヴヘブン』(アンビション):
「女……我を欲するか。ならば、我のために何を差し出すか、申してみよ」
『戦国◆恋華ノ舞 ~千夜ノ契リ~』(NiNO):
「構わん、我のものとなれ」
『イケメン戦国』(サイバード):
「貴様、天下人の女になる気はないか?」
『戦国姫歌~時果の契り~』(ディースリー・パブリッシャー):
「お転婆が急におなごになりおったな。…しおらしい顔をしおって」
『茜さすセカイでキミと詠う』(ジークレスト):
「自信を持て。お前は、この俺がみとめた女だからな」
『花朧 ~戦国伝乱奇~』(オトメイト):
「俺はお前が愛おしい。だが、これも全てまやかしなんだろうな」
『戦刻ナイトブラッド』(オトメイト KADOKAWA マーベラス):
「来るがいい。この信長が自ら狩りつくしてやろう」
『ただいま、戦国武将さま!』(Ciagram):
「いいか、お前も俺を愛さねばならぬ」
このように“唯我独尊”まっしぐらの信長ですが、女性向けゲームのなかでも乙女ゲームは“両想い”が基本。結ばれるには“ヒロインも心から信長を愛する”必要があります。
では、ヒロインたちは信長のどこに魅力を感じ、愛するようになるのでしょうか。
まず信長には“ブレない”という魅力が上げられます。ゲーム内でも信長は天下統一や恋愛などの目的に向かってひたすら勇往邁進し、滅多なことでは弱音や迷いを見せません。
きちんと先を見据え、理想を実現にするために合理的な言動をするという、史実のプラス面を集めたイメージが多くみられます。
もちろん、プレイヤーは強気の姿勢を崩さない信長に対し、「怖い」、「何を考えているのか解らない」という印象になりがちですが、少しずつ信長の本意を理解して「そういう意図だったのね……」と噛み締めるにつれ、もともと持ち合わせている格好良さに惚れてしまう……といったケースも少なくないようです。
そして、たまに見せるギャップも重要なポイント。上に立つ者としての責任があり、とことん頼りがいのある信長ですが、往々にして自分の道を突き進むリーダーは、部下に慕われつつも孤高になりやすいもの……。
そんな相手に弱みを見せられ、好意を寄せられたら、「せめて自分だけは良き理解者でいたい!」とか「ずっと側で見守らなきゃ……」なんて気持ちになってしまいます。ギャップ萌えです。
いつもは“俺様”の信長が少しでも陰った表情をしたなら……そのとき恋のゴングが鳴り響くことでしょう。
乙女ゲームの中には、“吸血要素”を携えた信長が登場する『戦刻ナイトブラッド』があります。
この物語ではヒロインの“血”が武将たちに強さと癒やしを与えるため、信長をはじめ天下統一を目指す武将たちがヒロインの血を求めるのです。これは反則級にドキドキポイント。もう惚れちゃうしかありません。
ネックレスのチャーム位置にあたる、“鎖骨付近”から吸血するなんて……もしかして俺の物アピールですか? そう、信長は吸血シーンにおいても俺様的エロさがMAXなのです!
このように、戦に恋と全力モードで突き進む乙女ゲームの信長たち。作品次第では、いざ本格的な恋愛モードになると、天下統一へ向けていた情熱をすべて“恋愛に注ぎ込む”ような熱烈なアプローチを受けるパターンもあったり……。
運命的な出会いを果たし、超イケメンにこれでもかと愛されれば、クラっとこない女性はいませんよね。信長は、やっぱり恋愛対象として文句のつけようもありません。
最大の難所“本能寺の変”は、恋愛のため歴史を改変して乗り切る!
信長を構成する要素にはいろいろありますが、誰もが知る事象といえば、“本能寺の変”の名が挙がります。
史実では、配下の明智光秀の謀反によって、信長は最期を迎えるのですが……気になるのが、乙女ゲームの場合、「“本能寺の変”ってどうなるの? 信長って死んじゃうの?」という点。
結論から言えば、信長が死んでしまってはストーリーが続かないどころか、ヒロインとの恋が成就しないため、“生き延びた”展開になることが多くあります。
史実ベースでストーリーが展開する『下天の華』では、やはり本能寺の変がクライマックスに!
ネタバレになりますが、この本能寺の変では、明智光秀ではなく、生きていた弟の織田信行に反逆されるという超展開はあるものの……信長はみずからの天命を悟った状態でも威風堂々としています。
そして、“ピンチのときこそ愛のパワー”が重要なのは世の常。燃え盛る本能寺の中でこそ、ヒロインとの恋愛も最大の盛り上がりをみせます! ヒロインの大奔走により信長は生き延び、天下人の道を歩みます。
一方、主人公が現代女性の『イケメン戦国』では、タイムスリップした先がまさに本能寺の変の真っ只中という、デンジャラスな状態から物語がスタート! 本能寺で倒れている信長を助けるところから物語が始まります。
したがって信長がここで死ぬことはありませんが、冒頭から歴史が変わっているので、本能寺に明智光秀をはじめ、石田三成や豊臣秀吉が居並ぶなど、ストーリーはやや変化球気味となります。
とはいえ本能寺の変に到る経緯は解決しているため、変が起こるという不安感はゼロ。心穏やかに武将たちとの恋を楽しむことができるのです。
ほかにも“本能寺の変を生き延び、関ヶ原の戦いで西軍の大将を務める”という超設定の『いざ、出陣!恋戦』、史実に似た部分はあれど、まったくの別世界設定の『戦国姫歌~時果の契り~』や『茜さすセカイでキミと詠う』などがあります。
そもそも乙女ゲームで描かれる戦国時代は、その時代の武将をモチーフとしたファンタジー作品としての側面が強く、本来であれば活躍する時期がずれていて信長と出会うことのない真田幸村などが同時に登場することもしばしば。
どちらかといえば、史実に忠実であることより、有名なイケメン武将がたくさん登場することなど、全体的な“カッコよさ”が重視されています。
余談となりますが、TVドラマなどの“本能寺の変”では、織田信長が炎の中で「人間五十年、下天の内を比ぶれば、夢幻の如くなり」と幸若舞の『敦盛』を舞う、散り際の逸話が演出として採用されることがありますが……乙女ゲームではそもそも“信長が死なない”ため、こうした迫力のシーンを目にすることはあまりありません。