ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇レポート──隊士や鬼たちの生き様が胸を打つ「選択」の物語

 女性向け恋愛アドベンチャーゲーム『薄桜鬼』(オトメイト)【※】を原作とした「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇」が4月5日〜11日(東京公演)、4月18日〜21日(京都公演)、桜舞い散る季節に上演された。

【キャスト】風間千景(中河内雅貴)、雪村千鶴(本西彩希帆)/土方歳三(和田雅成)、沖田総司(山﨑晶吾)、斎藤 一(赤澤 燈)、藤堂平助(樋口裕太)、原田左之助(水石亜飛夢)、近藤 勇(井俣太良)、山南敬助(輝馬)、永倉新八(岸本勇太)、山崎 烝(椎名鯛造)/天霧九寿(兼崎健太郎)、不知火 匡(末野卓磨)、雪村綱道(川本裕之)ほか
【原作】オトメイト(アイディアファクトリー・デザインファクトリー)【演出】西田大輔【脚本】毛利亘宏

※『薄桜鬼』
……2008年にアイディアファクトリーのオトメイトから発売された、女性向け恋愛アドベンチャーゲームシリーズ。江戸時代末期の文久3年、蘭方医の娘・雪村千鶴は行方不明の父を捜しに、男の身なりをして江戸から京の街を訪ねる。“新選組”をモチーフとしながら“羅刹”と名付けられた鬼や吸血鬼の要素が組み込まれている。
 ミュージカル『薄桜鬼』は“薄ミュ”と略されて呼ばれており、殺陣×ダンス×歌で新選組を表現するという斬新な演出で観客を魅了している。

 ミュージカル『薄桜鬼』は、2012年に上演された「ミュージカル『薄桜鬼』斎藤 一 篇」が初演。以降、ライブ公演を含めた2017年上演のシリーズ第10弾「ミュージカル『薄桜鬼』原田左之助 篇 」までの一連の作品を経て、昨年からミュージカル『薄桜鬼 志譚』と名付けられた第2シリーズが幕を開けている。

 今回、東京と京都で上演された「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇」は、「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』土方歳三 篇に続く新シリーズ第二弾。
 2014年に上演された「ミュージカル『薄桜鬼』風間千景 篇」の脚本を基に、毛利亘宏氏の脚色に加え、新たな演出が追加。さらに、新キャストが起用されている。

 今回は、新しく生まれ変わった「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇」をリポートしたい。

文/おーちようこ
撮影/かなぺん


幕末という時代、命を賭して守るべきものとは

 舞台は幕末、1863年(文久3年)12月の京都。
 ある夜、雪村千鶴(本西彩希帆)は白髪の異形の者たちに襲われる。男の身なりながらも女性である千鶴は、新選組隊士の斎藤 一(赤澤 燈)らに命を救われ、ことなきを得た。

 千鶴は新選組の隊士たちに、行方知れずとなった父である雪村綱道(川本裕之)を探していたことを明かす。その言葉に驚く土方歳三(和田雅成)たちだが、じつは彼らも、ある理由から綱道を探していた。
 こうして近藤 勇(井俣太良)のはからいで新選組に一時身を寄せることとなった千鶴だが、彼女には自身も知らない秘密があった──それは、彼女が東の鬼・雪村家の血を引く純血の女鬼であるということ。

 今作では、鬼の血を守るため千鶴に近づく、薩摩藩に属する西の鬼の頭領・風間千景(中河内雅貴)を主人公に、彼と千鶴との縁(えにし)がつづられている。
 新選組、人間に一族を滅ぼされた鬼、幕末という動乱の時代。そこに描かれているのは「選択」の物語。登場するすべての者たちが、鬼であろうと、人であろうと、自身の生き様を選ぶ権利があり、選んでしまう瞬間があるのだ、とこの物語は叫んでいるようだった。

 主演の風間千景を演じる中河内雅貴は、これまでにミュージカル作品に数多く出演していることもあり、歌声の迫力がすばらしい。

 ミュージカルの魅力のひとつは披露される曲に歌う者の軌跡や感情が凝縮されていることだ。だからこそ、その一曲に込められた熱量が観る者の心に刺さる。

服用することで身体能力と回復力が劇的に上がる「変若水(おちみず)」の改良を続ける雪村綱道(左)と風間千景(右)。変若水を服用した人間は“羅刹(らせつ)”と称される。

 原作のゲーム『薄桜鬼』には、千鶴と結ばれる恋愛対象キャラクターごとにルートがあり、物語の結末が異なるのが特徴。ミュージカル『薄桜鬼』もまた、土方歳三、斎藤 一、沖田総司など主演キャラクターごとに上演されており、演出や結末もさまざまだ。

 今回の「風間千景 篇」では、風間と千鶴の出会いに印象的な演出がなされていた。
 はからずも負った刀傷があっという間に治ってしまう千鶴を前に、風間は彼女が同族の鬼だと気付く。風間は、その事実を隠そうとする千鶴に興味を持つ。そして、千鶴の怪我の治癒を見て見ぬふりをする土方。

 戦いに明け暮れる新選組に和気あいあいとした明るさをもたらすのが、藤堂平助(樋口裕太)、原田左之助(水石亜飛夢)、永倉新八(岸本勇太)の三人組だ。
 にぎやかに繰り広げられる酒席を真っ先に盛り上げる彼らにも、のちに選択する瞬間が訪れる。けれど、その掛け合いと喧騒にしばしその場の全員が酔いしれる──。

 そして、土方が静かな微笑みとともに口にする「長くて幸せな夢を見ているんじゃないか」という人知れぬつぶやきは、程なく、彼らを襲う悲哀をより強く際立たせる。

 しだいに明かされていく変若水(おちみず)の謎。力を求めて変若水を飲んだ者は、劇的な力を得る代わりに、ともすれば理性を失い、狂気にとらわれ、血を求める羅刹(らせつ)になるという……。
 そして、その薬を作り出したのは、千鶴の父・雪村綱道だった。千鶴や風間と同じく鬼である綱道には、一族を滅ぼした人間への復讐という目的があった。

 一方、新選組を取り巻く情勢は日に日に変化し、幕府軍に与する新選組は、錦の御旗を掲げる官軍の朝敵とみなされていった。
 そしてついに、隊士たちは自身の道を選び別れる瞬間が訪れる。己の信念を貫くために隊を離れることを選ぶ者、羅刹になろうとも変若水を飲むことを選ぶ者──それぞれが信じた道を征く。

 風間と行動をともにしていた鬼の天霧九寿(兼崎健太郎)、不知火 匡(末野卓磨)、雪村綱道(川本裕之)もその在りようを変えていく。彼らが馴れ合うこともなく、それぞれが孤高の存在として描かれることが心地よい。

 また、千鶴を守るために命を落す者もいた。山崎 烝(椎名鯛造)の忍者たる動きは俊敏で、舞台奥から自身の身長ほどもある段差を軽々と飛び越え、ひらりと舞い降りる。激しい殺陣のなかにあって、その身のこなしはよりいっそう際立つ。

 土方は、山崎の死を知り慟哭する。だが、さらに辛い別離が待ち受けていた。それは近藤との別れだ。
 近藤は追い詰められた新選組を逃すため、出頭することを選ぶ。近藤と土方のふたりが視線を交わし、「ネバー・セイ・グッバイ(絶対にさよならは言うな)」と歌い上げるミュージカルナンバーはとてつもなく切ない。

 一方、近藤の最期を知った沖田総司(山﨑晶吾)もまた、病に伏した身体に鞭打ち、戦い続けることを誓う。

 そのころ、戦いの渦中に新選組とはぐれ、風間と行動をともにしていた千鶴は、ようやく父・綱道と再会する。しかし、そこで語られたのは東の鬼を襲った悲劇。千鶴は人間に利用されることを拒み、その結果人間に殺戮された一族の最後の生き残りだと知らされる。

 一方、新政府が誕生し、新選組が北へと追われた終盤。独り、冷静に変若水と向き合っていた者がいた。それが山南敬助(輝馬)だ。誰よりも変若水に執着し、心酔し、羅刹隊なる軍団を創り上げ、君臨しようとした……しかし、その本心は仲間を道連れにした責任を取り、志を同じくした藤堂平助とともに彼らを集めて始末することだった。刀を手に躍り出て、壮絶に散る──その姿は潔く、隊への深い愛にみちていた。

 やがて、千鶴は己の運命と対峙する。人間への憎しみのあまりに鬼としての道を踏み外した父・綱道を前に、風間は「斬らねばならぬ」と宣言する──。
 千鶴は父に刀を突きつける風間に向け、告げる。「東の鬼の頭領として自らが責任をとる」と。その言葉に目を見張る風間。
 
 そして、風間は千鶴に新選組を最期まで見届るため、行動をともにすること求め、新選組の後を追っていく。

 ともに生きた仲間たちが、己の道を貫き次々と命を落としていくなか、五稜郭へと落ち延びた土方は、最期まで戦おうと、とうとう変若水を飲むことを選択する。
 羅刹となり、最期まで戦おうとするその姿を見届け、相対した風間は土方に鬼の名を与える──「薄桜鬼」と。

 ここで、タイトルに付けられた『薄桜鬼』とは、鬼となってまで己の道を歩んだ土方のことだと明かされる。原作のゲームでこのシーンが描かれるのは特定のキャラクターのルートのみ。こうして『薄桜鬼』とはなんたるか……を考えると、この場面が描くものの重要性と、そこに秘められた奥深い意味を思い知ることができた。

 その最期を見届けたからこそ、千鶴は自身の内にひとつの答えを見出す。
 「二度と人の欲にまみれた世の中と関わることがないように」と千鶴に手を差し伸べる風間。父を探し京へと訪れた1863年(文久3年)から1869年(明治2年)、約5年半にも続いた旅路の終わり、少女から女性へと成長し、千鶴自身がその生き方を選択する姿が物語の最後を飾る。

 初日当日、ゲネプロ(公開稽古)とともに開かれた会見で、主演の中河内は語った。
 「歴史ある舞台に新シリーズで主演という立場をいただいたこともあり、とにかく舞台上でやることの分量がとてつもなく多かった。けれど、限られたスケジュールの中でみんなで手をつなぎ力をあわせてここまできました。あとは毎公演、お客様に喜んでいただけるよう『風間として生き続けるのみ』と思っています。『薄桜鬼』はそれぞれが信念を持って生きている人物が最大の魅力です。これまでの『薄桜鬼』にはない結末が待っていると思いますので、この桜の季節に駆け抜けるように上演されるこの作品を楽しみにしていてください」と。

 その言葉通り、原作のゲームでは、キャラクターごとにさまざまなルートを味わう『薄桜鬼』だが、この「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇」は、人が苛烈に生き死へと至るなか、生き続ける運命を課せられた鬼の覚悟と挟持ともに、すべての登場人物に光を宛て、すべての選択を描ききった傑作ではないだろうか。

© アイディアファクトリー・デザインファクトリー/ミュージカル『薄桜鬼』製作委員会

 4月5日。ゲネプロ公演を観終え、帰路についていると……ふと桜の木が目に入った。はらりと舞う薄紅色の花……。大輪の花を咲かせたあと、散り際まで人を魅了する桜。この季節にミュージカル『薄桜鬼』を観たことで、「新選組には散り桜がよく似合う」と感慨にふけることができた。

 ゲームの発売から11年。ミュージカル初演から7年。ミュージカル『薄桜鬼』は第2シーズンになり、新たな演出で再び作品の魅力が紡がれている。
 長きにわたりファンたちからも愛され続けるミュージカル『薄桜鬼』はまさに、2.5次元舞台を代表する和製ミュージカルとして、確固たる地位を築いているのだろう。

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著者
おーちようこ
ライター・インタビュアー。著書に『2.5次元舞台へようこそ ミュージカル『テニスの王子様』から『刀剣乱舞』へ』(星海社新書)、若手俳優のロングインタビュー連載『舞台男子』シリーズ(一迅社・KADOKAWA)など。似顔絵は漫画家の雁須磨子さん画。Twitter:@yoko_oochi
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