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導入部分に「革新」を、ゲームを進めれば「伝統」を。『あつまれ どうぶつの森』はシリーズの伝統をいかに見極め、恐れずに変化を遂げたのか【CEDEC2020レポート】

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 2020年9月2日(水)~9月4日(金)、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC」がオンラインにて開催された。本稿で紹介する講演は、最終日の9月4日(金)に行われた「『あつまれ どうぶつの森』~シリーズにおける伝統と革新の両立を目指すゲームデザイン~」だ。

 登壇者は、シリーズ1作目からディレクターやプロデューサーとして携わってきた野上恒氏と、『街へいこうよ どうぶつの森』(2008)からシリーズに携わり『あつまれ どうぶつの森』(2020)ではディレクターを務めた京極あや氏。来年で20周年を迎える『どうぶつの森』シリーズが、いかにして伝統と革新を両立させ、持続的成長を果たせたかが語られた。

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 講演は以下の3つの構成で行われた。本稿では、その内容をレポートする。

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取材・文/ゆき


『どうぶつの森』の伝統は「人と人とのコミュニケーション」

 1部の冒頭では、『どうぶつの森』シリーズの歴史をおさらいするために、15周年記念時の特別映像が公開された。過去のタイトルが紹介され、コメント欄が「懐かしい」という声で溢れていたことが印象的だった。

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 聴講者が思い出に浸っていると、野上氏から「どうぶつの森ってどんなゲームだと思いますか?」と質問が。野上氏は「かわいいどうぶつたちとのんびり気軽に暮らす」「小さな女の子向けのゲーム」と答えを予想したうえで、日本国内ユーザーの性別・年齢別グラフを紹介した。グラフを見ると男女比はほぼ同じで、女の子以外の幅広いユーザーに受け入れられていることが分かる。

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 『どうぶつの森』シリーズのおさらいが終わると、シリーズのゲームデザインの核となる「伝統」について語られた。野上氏は、『どうぶつの森』シリーズのジャンルは「コミュニケーションゲーム」であると説明したうえで、住人であるどうぶつたちとのコミュニケーションではなく、「人と人とのコミュニケーション」を最終的なゴールにしてゲームを作っていると語った。

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 初代『どうぶつの森』(2001)から存在していたコミュニケーションの仕組みは、交換日記のような非同期のものだった。それぞれのセーブデータは独立していても、物理メディアを介した「おでかけ」により、2つの村でアイテムや住民のどうぶつが移動し合うという仕組みだった。

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 『どうぶつの森』シリーズでは、どうぶつはプレイヤーについての記憶を持っており、別の村に行っても覚えていてくれている。たとえば、どうぶつの挨拶は合う頻度や回数によって変わり、別の村に行ったどうぶつは、プレイヤーについての噂話をしたりする。

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 野上氏によると、「しずえ」や「たぬきち」など役割のあるどうぶつは固有の人格を持ち、住民のどうぶつはそれぞれの村やプレイヤーとの記憶を人格として持っているという。別々の村で生まれた住民はそれぞれ違う人格(=プレイヤーの記憶)を持っており、同じ種類のどうぶつでも話しかけると違う反応をする。仲の良かった住民と同じ見た目をしていても、違う村で生まれていればプレイヤーのことをまったく知らないという。

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 続いて、少し話が逸れると前置きしたうえで、野上氏は『どうぶつの森』の住民数が多い理由について語った。なんと初代『どうぶつの森』では200種類以上、最新作『あつまれ どうぶつの森』では400種類以上の住民がいるという。
 膨大な住民の数の理由は「友達の村におでかけしたときに、自分の村に住んでいるどうぶつと見た目がかぶらないため」だという。野上氏は「同じ見た目なのに、別の記憶を持っているとやはり違和感がある」とし、「いっしょに長く時間を過ごしていて、思い出を共有しているどうぶつがそれぞれのプレイヤーにとっての一番なのではないか」と続けた。

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 ここで野上氏は話を戻し、「おでかけ」によるデータ交換をまとめた。詰まるところ、「おでかけ」とは、2つの村でデータの一部を交換し、2つのデータが繋がっていくことだ。その連鎖がどんどん広がっていくと、不特定多数の人が繋がりあうインターネットのようなものが形成されることになる。野上氏はこれを「インターネットを使わないオンラインゲーム」と呼んだ。

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 「非同期的な人と人とのコミュニケーション」では、自分のペースでゲームを楽しむことができ、好きなことをしていると、自然と情報が貯まっていく。そして、買い物・釣り・会話などさまざまな種類の遊びを楽しめる。以上が「『どうぶつの森』シリーズのアイデンティティだ」と野上氏は述べた。

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 同期通信が導入された『おいでよ どうぶつの森』(2005)からも非同期型のコミュニケーションは健在で、むしろ加速したという。年越しに合わせた「カウントダウン」というイベントでは、新年を迎えた瞬間にある掲示板が「明けましておめでとう」というあいさつで埋め尽くされたという。そのスレッドを見ていた野上氏は、「直接通信していなくても、同じ時間を共有できた経験がとても新鮮だった」と語った。

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 一方で、同期型通信がさらに充実したはずの『街へ行こうよ どうぶつの森』(2008)では、「WiiConnect24」などの新機能の魅力が十分伝わらず、表面的な遊びの変化の無さが目立ってしまったという。

 シリーズ経験者層の飽きが発生し、目に見える遊びの変化が必要になった中で、心機一転開発されたタイトルが『とびだせ どうぶつの森』(2012)だ。

伝統を見極め、恐れずに変化を遂げた『とびだせ どうぶつの森』以降

 『とびだせ どうぶつの森』のディレクターを担当した京極氏は、「とにかく変化を求めると同時に、シリーズが過去に大切にしてきたものをまず見つめなおした」と語った。
 その結果、シリーズの核となる要素はやはり「コミュニケーション」であり、「時代やハードに合わせたコミュニケーションが必要」ということに気づいた。また、飽きかけたシリーズ経験者にも再び遊んでもらえるような「遊ぶ前から伝わる新しさ」も軸にしたという。

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 「遊ぶ前から伝わる新しさ」として採用された施策は、「プレイヤー自身が村長になる」という設定だ。前作まではプレイヤーが住人として村に引っ越し、ローンを返すためにたぬきちの店で働くという定番の設定を変化させたわけである。

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 「時代やハードに合わせたコミュニケーション」としては、他の村に手軽に遊びに行ける「夢見の館」、ミニゲームが複数のプレイヤーと楽しめる「南の島」、さまざまなプレイヤーの家の内装を見られる「ハッピーホーム展示場」などの機能が挙げられた。

 以上の施策を行った結果、『とびだせ どうぶつの森』はここまでのシリーズで最も多くの売り上げを記録したという。

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 最新作『あつまれ どうぶつの森』(2020)では「時代やハードに合わせたコミュニケーション」「経験者にも分かりやすく伝わる新しさ」はもちろん、シリーズ初経験者のハードルを下げることも重要視されているという。それは『とびだせ どうぶつの森』でシリーズ経験者のみを意識しすぎたことの反省でもあった、と京極氏は語る。

 たとえば、「パーティモード」では同じハードの1つの島で同時に複数人が遊べるようになり、世界中のマイデザインをオンライン上で共有できるようになった。

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 また、序盤から新しい印象与え、間口を広げるための施策として、「フェーズ変化する目標&達成ポイント」、「垂直ではなく、水平方向の進化」、「目標設定のサポート」という3つの取り組みが挙げられた。

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 「フェーズ変化する目標&達成ポイント」とは、プレイヤーが目標を見つけられなかったり、飽きたときのための施策だという。ゲームの流れの中にいくつかの目標を仕込むことで、定期的にゲームクリアの達成感を得られるようにしているそうだ。その例として『あつまれ どうぶつの森』の「無人島生活」「島おこし」という2つの目標が説明された。

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 次は「垂直ではなく、水平方向の進化」について。垂直進化とは、時間経過により新しい体験が解禁される仕組みのことで、水平進化はひとつの要素から発展する体験の幅を指している。水平進化により、新しい体験との出会いを早められる、と京極氏は述べる。
 シリーズ経験者にとっても序盤で新鮮さを感じてもらうため、意識的に水平進化が導入されているとのことで、その好例となるのが『あつまれ どうぶつの森』における新機能「DIY」だ。

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 たとえば、「植物」というひとつの要素から、ガーデニングや交配だけではなく、DIYによって道具や家具を作れるようになった。また家具をお店で買って手に入れるのか、自分でDIYで作るのかなど、さまざまな選択肢が増えている。

 3つ目の「目標設定のサポート」は、「自分で目標を見つけることがこのゲーム、ということに気づくのが難しい」というシリーズの課題に対しての施策として紹介された。暮らし方・遊びの選択肢を効果的に紹介するために「たぬきマイレージ」が設けられている。
 「虫を3匹捕まえる」といったミッションを成功させるとマイルが貰える仕組みで、シリーズ経験者にとっては新しい遊び方の提案にもなっているそうだ。

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 京極氏によれば、以上の施策によって『あつまれ どうぶつの森』(2020)では過去作とゲームシーケンス(ゲームデザインの流れ)が異なり、導入部分からいち早く新要素が楽しめるようになったという。
 導入部分が新要素を含む「革新」を担い、しばらくゲームを進めるといつも通りの『どうぶつの森』が楽しめる「伝統」の部分にたどり着くという構造だ。

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人が変わっても伝統と革新を両立するために

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 続く2部では、人・組織という視点でシリーズの持続的成長の為に必要なことが述べられた。まず野上氏が、シリーズにおける開発体制の変遷から説明。人の変化だけではなく、ゲーム内の要素が増え、開発に関わる人数が増えたと語った。

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 続いて京極氏は、「開発体制は変化したものの、プレイヤーにとって重要なことはゲームが面白いかどうかだけだ」と指摘する。同じものばかり作らず、人が変わってもシリーズの「らしさ」を継承し、適切な変化を与え、持続的成長を実現させることが重要だと述べた。

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 まず個人における重要点としては、「シリーズ経験の浅いうちから、どれだけ経験の長い人と同じ目線に近づけるか」が大事なのだという。「意外とシリーズ経験者よりも、未経験者の方が変化に慎重」な傾向があるからだ。経験が浅いと商品知識が不足しているため、シリーズを変える重要性に気づきづらいそうだ。

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 ゲームの仕様は制約によって意図したものと変わってしまうため、プレイヤーとして遊んだだけではその仕様の本来の意図は分からないのだという。仕様の本来の意図を見誤ると、商品の本質を見誤り、何をどう変えるべきかも間違ってしまう。だからこそ、開発の経緯や仕様まで理解することで経験不足を補い、シリーズに対して判断できる自信をつけることが重要だ、と京極氏は続けた。

 具体的な施策としては、社内サイトにおける開発経緯・方針・心得の共有が挙げられた。
ミーティングなどでも、前作までの開発の経緯を共有しており、このような啓蒙を繰り返すことに意義があるのだという。

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 続いて開発チームにおける重要点として「所属している組織や役割の外に目を向けること」が挙げられた。組織が複雑化・細分化するほど、共通の認識を持ちづらくなり、商品理解が妨げられる。個人の専門性が高まったとしても、限られたセクションで結果の良し悪しを判断するのではなく、チームで一つの商品を作る意識を持つことが大事なのだという。

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 最後に、アウトプットにおける重要点について語られた。京極氏によると、正しい「トライ&エラー」が大切であり、無難な過去作の仕様踏襲にこそリスクが潜んでいるという。ひとつの要素が変わっただけで、掛け算式にすべての仕様が変わってしまう可能性があるからだ。『どうぶつの森』シリーズは要素ごとの結びつきが特に強いため、その危険性も上がる。

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 京極氏は無駄な失敗が起こらないようにすることも大事としたうえで、「トライ&エラー」でもし失敗しても、その結果で課題を明確にしながらプロジェクト進めることが大事と述べた。個々の仕様やデータだけでゲームの良し悪しを判断せず、ゲーム全体の完成度を俯瞰して見極めることも必要だ。「私たちが作っているのはデータではなくゲームである」という京極氏の言葉が印象的であった。

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変化なくして持続的な成長なし

 終わりに、京極氏は『どうぶつの森』シリーズを育てていくうえで気づいたことを「変化なくして持続させることはできない」とまとめた。「IPを守ることと、商品仕様をマニュアル化して守ることは同義ではありません」と語り、娯楽としてIPを長生きさせるために、時代によって変化させることは欠かせないと説明した。

 また、シリーズの持続的な成長に必要な要素の共通点として、「①俯瞰した視点での相互理解」「②部分最適に陥らない」という2点が挙げられた。

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 京極氏は『どうぶつの森』という同じシリーズの仕事であっても、2つとして同じプロジェクトはなく、前より簡単な仕事になることも決してないと続けた。しかし、その「しんどさ」こそがゲーム開発の楽しさだと語り、講演をしめくくった。

ライター
『Halo』シリーズを推していたらライターになっていた。ゲームレビュー・eスポーツ・ガジェットなどの記事を執筆。人文学とゲーム、ゲームと他メディアの関わりについて興味あり。

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