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『リゼロス』はただの追体験ゲームではない ― “死に戻り”により物語が複数ルートに分岐し、見たことのない“IF”が紡がれていく【プレイレポ】

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 原点となった小説をはじめ、TVアニメにWebラジオなど多方面での活躍が続く「Re:ゼロから始める異世界生活」(以下、リゼロ)。

 そこに加わる新たな展開として、iOS/Androidアプリ『Re:ゼロから始める異世界生活 Lost in Memories』(以下、リゼロス)が、2020年9月9日より正式サービスを開始した。本作は、原作の人気キャラクターなどを自分好みに編成・育成して戦いに挑むRPGと、原作再現に加えて新たな物語も味わえるADVの2パートで構成されており、“追体験”“新体験”の2本柱を軸とする作品だ。

 また「リゼロ」と言えば、キャラクター陣の魅力はもちろんのこと、異世界に召喚された主人公・スバルが命を落とすことで時間が戻り、やり直すことができる「死に戻り」による物語の展開も大きな見所だ。これらの要素も『リゼロス』は意欲的に盛り込んでいるため、本作が気になっている読者も多いことと思う。

 今回は本作で味わえる“追体験”と“新体験”について迫るプレイレポートを今回お届けする。プレイするか悩んでいる方や、本作について知りたい人は、参考にして欲しい。

文/臥待弦


主人公「スバル」と進行役のオリキャラ「シオン」の二人三脚が、「リゼロ」らしさを醸し出す

 『リゼロス』は「リゼロ」と同様に、「ナツキ・スバル」が主人公を担当する。プレイヤー名の変更自体は可能だが、主人公のビジュアルはもちろん、「失われた記憶を取り戻すため、過去の出来事を追体験する」といったシチュエーションを鑑みても、主人公=スバルに他ならない。

 軽快なスタンスや切れ味のあるツッコミ、そして情に厚く優しい一面を持つスバル自身の存在は、「リゼロ」にとって欠かせない重要な要素のひとつだ。その魅力を手放さないために、ゲームでもスバルを主人公に据えるのは適切な判断だと言える。

 ちなみに、スバルの記憶を取り戻す鍵を握る人物であり、ゲームのナビゲートも務める「シオン」は、本作独自のオリジナルキャラクター。彼女と対話する形で記憶を取り戻す物語が進行していくため、“オリジナルのキャラ&原作主人公”という組み合わせも実にしっくりと来る。

 余談だがこのシオン、天然なのか率直すぎるのか、ツッコミどころのある発言が随所に見られる。例えば、スバルがどれだけ記憶を失っているかを確認するために名前を訪ねた際、スバルが「フランシスコ・ザビエルだ」と答えると、「わかりました、ザビエルさん! 今後はそれでいきましょう」と即答。

 初対面の時点で彼女はスバルの名前を認識していたので、スバルがわざとボケているのは明白──なのに、“ザビエル呼び”をすんなり受け入れてしまうシオン。スバルのツッコミも自然と頻度が増すため、オリジナルキャラ相手ながら「リゼロ」らしい会話劇を繰り広げてくれる。

 原作が持つ雰囲気に近い空気感を演出しながら、主人公・スバルの記憶を取り戻す旅がこうして幕を開ける。そして記憶を取り戻す歩みは、バトルが中心の「クエスト」で描かれ、思い出す鍵となる“追体験”は、ADV中心の「ストーリー」で紡がれていく。

多岐に渡る育成とタップ少な目なバトルで、記憶を取り戻す「クエスト」に挑め!

 スバルとシオンが、失った記憶の断片を辿っていく物語は、「クエスト」の方で描かれる。「クエスト」の大半はターン制バトルが待ち受けており、いくつものバトルを勝利していくと、物語が進展する仕組みになっている。そのためプレイヤーは、手持ちの戦力でパーティを編成し、時には育成もこなしながら、数多くの敵に挑んでいく。

 ゲームを開始するとチュートリアルでガチャが回せるので、最低限の戦力はすぐに集まる。また、事前登録達成報酬やスタートダッシュキャンペーンでもらえるアイテムなども合わせれば、序盤の足固めはそう難しくない印象を受けた。

 しかしそれは、あくまでゲーム開始時点の話だ。「クエスト」で出会う最初の敵の戦力は2200程度(本作では敵やパーティの強さが戦闘力という数値で示される)だが、3つ目の物語が展開する「1-11」では、敵戦力は10000の大台に。戦力の数字はあくまで目安に過ぎないが、多少なりとも育成をしないと厳しい戦いなのはお察しの通りだ。

 本作における育成手段は多岐に渡っており、最も基本的なキャラクターのレベルアップやレベル上限の開放、所持スキルのレベルアップ、「覚醒」やメモリーボードの開放によるステータス向上など、枚挙に暇がないほどだ。一般的なRPGと同じく、育成を進めるには相応の時間がかかるため、全体的なバランスに言及するのは現時点では難しいが、遊べば遊ぶだけ戦力強化に繋がるのは間違いない。

 ガチャからは、原作でもお馴染みのキャラクターが多数登場するほか、キャラクターが装備できる「記憶結晶」も手に入る。「記憶結晶」は、多くのRPGにおける装備品のような役割を持っており、HPや攻撃、防御のステータスを上げるほか、特別な効果も付属する。そのため、パーティ編成と合致する「記憶結晶」を入手すれば戦力も自ずと強化される。

 手持ちの戦力を編成して向かう先は、手強い敵とのバトルだ。記憶を巡る「クエスト」や、後述で詳しく触れる「ストーリー」、更に育成素材の収集でも、ターン制バトルが待ち受けている。そのため、『リゼロス』を遊び続ける上で、戦力の増強は決して欠かせない。

 そして本作のバトルは、ターン制だが一度にコマンドを入力するタイプではなく、素早さに応じて「行動ゲージ」が溜まり、溜まりきった順に行動するスタイルとなる。直近で行動順が回ってくる上位3キャラ(敵含む)は表示が出るので、その行動順を参考にしながら戦うのがお勧めだ。

 また、各キャラクターは属性を持っており、「赤→緑→青→赤」もしくは「黄←→紫」といった相性関係にある。相性のいい相手だと「強打」が発生し、与えるダメージが上昇。逆の場合は、ダメージが減ってしまうなどのデメリットがある。

 行動順と属性を見極め、「敵の順番が回る前に倒して、受けるダメージを減らそう」や「与えるダメージの大きさを重視して、属性重視で攻めよう」といった判断を交えて戦うRPGの基本は、本作でも健在だ。

 順番が回ってきたキャラクターが選べる行動は、スキルと対象を選択するのみ。各キャラがスキルを3つずつ所持しており、常に使用できる基本的なスキル1と、発動した後にクールタイムが必要なスキル2とスキル3がある。中には、発動前のクールタイムが必要(=1ターン目では使用できない)なスキルも存在し、各スキルの組み合わせや発動させる順番も、勝利に近づく重要な要素となる。

 ちなみに行動順が回ってきた段階で、クールタイムがないスキル1がデフォルトで選択されている。このスキルで問題がなければ、狙う敵を1回タップするだけで行動が終了するので、戦闘はかなりサクサクと進む。一見すると地味な点だが、継続してプレイすることを考えると、不要な煩わしさをしっかり排除してくれる仕組みが実に有り難い。

 ここまで取り上げたRPG部分を簡単にまとめると、「育成を中心とした戦力の増強は多項目に渡っており、費やした時間に応じた手応えがある」「ターン制のバトルは、行動順や属性の相性、スキル発動のタイミングなどが鍵となる」「戦闘におけるタップ数は少な目で、ストレスを感じさせない意味でシンプルな作り」などの点が本作の特徴と言えるだろう。

 動作も全体的に軽快で、必要なスペックを満たしていれば問題なく遊べそうだ。オプションで「品質設定」を選べるので、所持しているスマホの性能面に不安がある方は、こちらの変更も一考して欲しい。

 ゲーム構成はシンプルながら、スキル3を使用した際はカットインが加わるなど、演出面の華やかさもしっかりとある。しかし繰り返して遊んでいると、このカットインを煩わしく思う方もいるだろう。そんな人のために、カットイン演出は「常に再生」「各キャラ最初の一度だけ再生」「常に再生しない」の3パターンから選べる。演出重視か、快適性に重きを置くか、幅広く対応してくれる姿勢も有り難い。

“追体験”から始まる“新体験”生活! 長月達平氏による完全監修の「IFルート」を満喫せよ

 『リゼロス』は一見すると、RPG要素が大きいため、育成とバトルが中心のゲームと思われやすいかもしれない。だが実際にプレイしてみると、本作の魅力はバトルだけではなく、物語面の比重も大きいことが分かる。しかも本作で描かれるのは、前述した“スバルとシオンによる失われた記憶を取り戻す”旅路だけではない。

 「クエスト」と二分する本作の柱となるのが、「ストーリー」だ。しかも「クエスト」で記憶を取り戻す旅路を進めるには、「ストーリー」の攻略も必要不可欠。スバルが体験したかつての日々を、この「ストーリー」で今一度歩み直すことで、失われた記憶を思い出すことができるのだ。プレイヤーの立場からすれば、スバルが過ごしたかつての時間を“追体験”する形となる。

 本作における「ストーリー」の基本的な要素を分かりやすく表現すると、“TVアニメのADV化”だ。コンビニで買い物をしたスバルが、奇妙な感覚に襲われた後に異世界へ召喚され、裏路地でトラブルに巻き込まれながら、そこで出会った少女の手助けを始める。そんな「リゼロ」の幕開けから、「死に戻り」による繰り返しを経て、徽章を無事取り戻すまでの下りを、本作では第1章として描いている。

 「ストーリー」の本編は、TVアニメの展開を踏襲しており、文字通りの意味で追体験が味わえる。ADVという形で昇華しているものの、基本となる流れは押さえているので、「リゼロ」を知らないユーザーでも問題なくこの世界に馴染めるだろう。その意味では、「リゼロ」の入門用としても向いている。

 しかし、展開を熟知しているファンにとっては“おさらい”でしかないのか──そんな不安を抱く方もいることだろう。だが、本作の「ストーリー」は、追体験だけではない。ADVゆえに用意された選択肢から、まったく異なる展開を辿ることもある。

 例えば、一度「死に戻り」を行い、頼もしい助っ人が必要だと考えた場合、選択次第では「ユリウス」を引き連れていくことが可能だ。一度目は為す術もなく倒されてしまった脅威に対して、ユリウスは見事に互角の戦いを見せてくれる。これは原作やTVアニメにはなかった展開なので、ファンにとっても刺激的な要素となるだろう。

 しかもこの場面の広がりはユリウスだけに留まらず、今回プレイした範囲では「ヴィルヘルム」が同行するルートにも進むことができた。1度目の同行は、いずれのルートも2回目の死を迎える結果となるが、後の展開次第では再びユリウスやヴィルヘルムのルートを辿ることもでき、そのまま徽章の奪回も成功した。追体験の本編ルートと同様に、それらも章ごとに用意されたENDのひとつとして、結末を迎えられる。

 あくまで主軸は、追体験が味わえる「本編ルート」だが、条件の達成と選択肢次第で、前述のようなTVアニメにはなかった新たなシチュエーションを味わうこともできる。しかも、ただ状況が違う展開を紡ぐだけでなく、全く異なる物語を描く「IFルート」も「ストーリー」内に存在するのだ。

 これも実際にプレイしたルートだが、スバルが勇気と機転によって危機を回避し、徽章を無事回収──した後、この異世界で生き抜くため「オットー」と手を組んで商売を始める「IFルート:オットー」を確認した。このルートでは、スバルがこの世界で過ごした数ヶ月間の出来事が描かれており、「あの時、別の道を歩んでいたら……」というIFが展開する。

 この「IFルート:オットー」では、マヨネーズが成功のカギを握っていたり、マヨネーズ風呂が登場するなど、新展開ながらも「リゼロ」愛を感じさせるネタやモチーフが詰まっていた。ちなみに本作のストーリー全般は、「リゼロ」著者の長月達平氏が完全監修しているので、クオリティについても安心していいだろう。

 記憶を取り戻すため、過去の物語を振り返る。その追体験が「IF」という可能性を拡げ、新たな展開──“新体験”を生み出していく。ただの“原作振り返り”に留まらないADVパートは、自分好みの編成・育成が楽しめるRPGパートと並び、『リゼロス』に欠かせない要素だと強く感じさせるプレイ体験となった。

 TVアニメなどの原作がある作品のゲーム化は、ストーリー展開の難しさが常に伴う。原作と同じだと繰り返しにしかならず、かといってオリジナルの物語にすればファンの目も厳しくなり、超えるべきハードルが自然と高くなる。

 そうした問題について『リゼロス』は、本編をADVに落とし込み、未体験の方でもしっかり理解できるように作り込んだ。一方で、新たな展開やIFルートを用意し、既存のファンにも刺激を提供する。この幅広さをどこまで維持できるかは今後の課題でもあるが、期待したい気持ちに駆られる魅力は十分に備えていた。

 RPGパートは、いい意味でのシンプルさも手伝って、継続を阻害する煩わしさを極力省いている印象を受けた。本格的な戦闘を楽しみたい方には物足りないだろうが、長期間に渡るプレイを考慮すると、複雑過ぎるのも考え物だ。「リゼロ」に初めて触れるユーザーの受け皿にもなり得る点を踏まえると、適度なゲーム性と言えるだろう。

 「リゼロ」初心者には、追体験ならぬ“初体験”を提供し、熱心なファンには追体験から生まれる“新体験”を贈る『Re:ゼロから始める異世界生活 Lost in Memories』。「リゼロ」の新たな物語の扉を開きたい方には、うってつけの1本だ。

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ライター
『リゼロス』はただの追体験ゲームではない ― “死に戻り”により物語が複数ルートに分岐し、見たことのない“IF”が紡がれていく【プレイレポ】_044
学生時代にTRPGにハマり、「プロのゲームマスターになりたい!」と思うも、そんな仕事はなく、役者とシナリオライターの双方を経験。その後、ゲーム好きが高じてゲーム関連のフリーライターとしてINSIDEなどで現在活動中。コンピュータゲームを好む一方で、ゲームブックなども楽しむ雑食派。プロのゲームマスターへの道はいまだ遠

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